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第三章 街に潜む蜘蛛

第32話 強引なセオドア

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 セオドアの圧に押されたのかアレフレドとリカはそそくさと退散してしまった。まあ奴らもEランク冒険者だ。引く手あまたというわけにはいかないが、パーティを組むには十分すぎるほどの箔は問題なくあるだろう。ただ、当人が求めている相手が見つかるかどうかは別問題ではあるが。

 俺とアベルとセオドアは同じ席に座り、それぞれホットコーヒーを注文した。コーヒーの熱が冷めるまでの間話すことにする。

「単刀直入に言う。リオンの旦那。あんた、俺様のモノになれ」

 セオドアは俺に顔を近づけてそう言った。有無を言わさないほどの圧を感じる。眼力だけで相手を威圧できるのは流石現役のBランク冒険者と言える。

「ちょっとなに言ってるんですか!」

 アベルが席を立ち、顔を真っ赤にしてセオドアを睨みつける。

「んー。おまけの坊やは確かレンジャーだったな。そいつはいいや。俺様と役割が被っていない。あんたもついでに仲間に入れてやるよ」

「そういう問題じゃないです。後、坊やはやめてください。僕にはアベルって名前があるんですから!」

 セオドアは帽子のツバを指で押し上げてため息をついた。この仕草はセオドアの癖なのだろう。頻繁に行っている。

「ああ。悪かったな。アベルの坊や」

「リオンさん。僕この人嫌いです」

 アベルは腕組みをした。セオドアを拒絶する意思表示でもしているのだろうか。

「ああ。俺も同意見だな。誰が、得体のしれない野郎の物になるかってんだ。俺を飼いならしたかったら、金持ち貴族の淑女に転生して出直してきな」

 俺の発言にセオドアは「かっかっか」と上機嫌に高笑いをした。

「どうせ、どれだけ金持ちの美人でも飼いならせないじゃじゃ馬の癖によく言うぜ。あんたの手綱を握れるのは冒険だけだろ」

 わかったような口をきく男だ。非常に不愉快である。

「リオンの旦那。俺様はバッファーだ。評価軸はどれだけバフ魔法をかけて味方をサポートしたかによる。つまりだ。最初からパーティメンバーが強くて、バフをかけなくても敵を倒せるとギルドが判断した場合。俺様たちはいらない存在になる。それはわかるか?」

「ああ」

 それはヒーラーとて同じことだ。回復の必要がない状態が続けば、このパーティにヒーラーは不要と判断されてランクは下降する一方だ。これは、本当に必要なパーティにバッファーとヒーラーを行き渡らせるためのギルドのシステムなのだ。雑魚狩りを続ける冒険者たちにはバッファーとヒーラーは不要。その反面強敵に挑む者にはバッファーとヒーラーの存在が必要不可欠。つまり、バッファーとヒーラーは、そのロールを割り当てられた時から、強敵と戦うことを宿命づけられているのだ。

 だから、俺の存在はバッファーにも嫌われている。俺は自身でバフをかけることもできるし、大抵の敵はバフなしでも仕留めることができる。つまり、俺と組んだバッファーは大抵の場合、バフが必要なしの状態になる。それは、俺と組んでいる限りはランクが下降の一途をたどることを意味する。

「なあ。リオンの旦那よぉ。俺様がどうして、あんたを勧誘したいのかわかるかい?」

「強敵と戦いたい。だろ?」

 バッファーランクを上げる最も効率的な方法は、弱い冒険者(特にアタッカーやタンク)と組むことだ。弱い冒険者は弱いモンスター相手でもバフ魔法が必要とギルドが判断することがある。だから、それなりに自身の戦闘能力が高いバッファーなら、危険を冒さずバッファーのロールを全うできる。いざとなれば、自分が前線に立てばいいだけの話だから。

 セオドアもBランクにまで上り詰めた実力者。自身の戦闘能力もそれなりにあるだろう。Bランクバッファーがランクを維持したい場合。ロールの貢献値溜めに必要なことは、弱小パーティに取り入ることである。弱小パーティも高いレベルのバッファーを期間限定とは言え雇えるし、バッファーもバフが必要な冒険者をサポートできてお互いにメリットがある。

 つまりだ。弱小冒険者ではなく、俺と組みたいということはBランク維持が目的ではない。どうしても狩りたいモンスターがいるということだ。

「ああ。話が早いぜ。流石リオンの旦那。強いだけじゃなくて頭もキレる。それじゃあ、早速話を――」

「断る」

「は?」

 俺の返答にセオドアは虚を突かれた表情をする。まさか、断られるとは思ってなかったのだろう。

「へいへい。どうした。ビビっているのか? リオンの旦那。俺様は知ってるんだぜ。あんたがここ数週間の間に新種のモンスターを2体も倒していることを。つまりだ。あんたは生まれついてのモンスターハンター。今回の話もきっと気に入るはず」

「1体を倒したのは俺だが、もう1体を倒したのはマリアンヌというCランクアタッカーだ。俺じゃない」

 モノフォビアはともかく、ガイノフォビアは俺じゃなくても、そこそこの冒険者なら倒せただろう。何だったらマリアンヌ単騎でも勝てたかもしれない。知らんけど。

「なあ、リオンの旦那……」

「はいはい、そこまでそこまで。フラれたらいつまでも執着しない。さっきあなたが言ったことですよ」

 アベルが俺とセオドアの間に割って入る。セオドアは眉を吊り上げ不愉快な表情をする。

「それは女の子に限った話さ。俺様は男だ。獲物が逃げたら追いたくなるのが心情ってもんよ」

「うわあ……そういうのを女性差別って言うんですよ。男だの女だの性別で役割を決めるべきじゃないです」

 アベルが呆れたような顔をする。

「とにかく、俺様の話だけでも聞いてくれよ。俺様が探し求めているモンスター。その名前を聞けばどうしてあんたを頼ったかわかるからさ」

「あ?」

 モンスターの名前で俺の顔色が変わると思っているのか? おめでたい頭だな。俺は単純にこいつとは組みたくないだけだ。初対面の相手に無礼すぎるし、一人称が俺様なのも生理的に受け付けない。なにが、俺様のモノになれだ……俺は心の中でセオドアに悪態をついた。

「俺様の探しているモンスターの名前。それは、ずばりアラクノフォビアだ」

 その言葉を聞いた瞬間、アベルの表情が固まった。

「Bランクモンスターだな。街1つを崩壊させるレベルのモンスター。実際に過去、街1つを破壊している。確か、この大陸にある……名前はなんだっけっか」

「イズマエル……」

 アベルがそう呟いた。

「あ、そうそう。そのイズマエルって街を破壊したんだな。当時は新種のモンスターとして話題になったけれど、誰もやつを討伐できなかった。奴は要注意モンスターとして指定されるも、それ以来街を襲うことはなかったので緊急での討伐対象ではなくなった……っていう話だな」

「そうそう。流石リオンの旦那。長く冒険者をやっているだけのことはあるな。情報もバッチリだ」

 セオドアが身を乗り出してくる。なるほど。フォビアの名を冠するモンスターを倒した俺の力を借りたいということか。俺がこいつらを倒した情報は一般には出回ってない。だが、Bランク冒険者が閲覧できる会報には、その情報が掲載されているだろう。俺も元はBランク冒険者だ。会報にどういうものが掲載されているかは知っている。通常、ギルド職員しか知りえない個人の討伐情報も閲覧できるからな。

「まあ、断るとしか言いようがないな。要注意モンスターに指定されているなら、そいつを狩りたい冒険者は探せばいるだろ。それこそ、高いランクのアタッカーやらタンクやらを数人集めた超攻撃的な編成にした方がいい。あんたのバフなら6~7人くらいいても十分捌けるだろ?」

「チッチッチッ。わかってないなリオンの旦那。これは、勝負なんだ。Aランク冒険者リリスとのな。俺様は彼女と賭けをした。3人以下の人数でアラクノフォビアを倒すことができたら、俺様にAランクの座を譲ってくれるってな。頭数を揃えた方が確かに強いが、それじゃあ俺様の目的が達成できない。だから、個人の力が最強のあんたを頼ってるんだ」

 なんだ。要は俺たちはこいつの賭けを手伝わされるだけか。

「悪いが他を当たってくれ、行くぞアベル」

 俺が席を立とうとした次の瞬間――

「セオドアさん。僕を仲間にして下さい」

「は?」

 アベルがセオドアに頭を下げた。さっきまで、こいつを気に食わないと言っていたアベルなのに。一体どういう風の吹きまわしだ?
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