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第36話 アホな友人
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「はぁ~……マジか~」
仁志の友人である水野谷。彼は教室にていきなりおおきなため息をついてこの世の全ての絶望を味わったような表情をしていた。
「なんだよ。どうしたんだよ。水野谷」
「仁志。お前にわかるか? この俺の悩みが!」
「いや、知らんが」
悩みなどおおよそなさそうなアホ面の水野谷。テニス部に所属していて彼女はなし。定期的に女子テニス部員をナンパしているも実った経験はない。それでもめげない水野谷が抱えている悩みとは一体なんなのか。仁志は別に興味があるわけでもないので適当に流そうとする。
「ほら、俺ってバカだろ?」
「知ってる」
「それでさ、次に成績が下がったら塾に行かせるって親に言われててさ。部活の後に塾に行くんだぜ? やってらんねえよな」
「ふーん。大変そうだなあ」
部活もやっていないし、塾にも通っていない仁志にはおおよそ関係のない話である。
「大体にして部活の後に勉強とか頭おかしすぎるだろ。疲れて勉強する気力がわかねえっての。しかも、塾に行くとなると金を捻出するために小遣い減らすとか言い出してさ」
水野谷は文句ばかり言っている。仁志はそんな水野谷に対して興味なさそうに返答する。
「じゃあ、真面目に授業受けてれば成績上げればいいだろ」
「それができれば苦労はしねえ!」
そんなアホくさいやりとりをしていると水野谷が本題を出してくる。
「仁志。お前、最近成績上がってるよな? どんなチートを使ったんだ?」
「真面目に勉強した。以上」
「いやいや。お前バイトしてんだろ? バイトの後にそんなやる気出るのか?」
「別に毎日バイトしているわけじゃないし」
郁人もバイトと勉強を両立している。バイト程度で泣きごとを言っていたら、郁人に笑われてしまうと仁志は感じていた。
「仁志。頼む。勉強を教えてくれ。俺の青春の時間のために、そして小遣いのために」
「なんで俺がお前の勉強見ないといけないんだよ。俺じゃなくて他のやつに言えばいいだろ」
仁志はまだ成績が上がっていることを自覚していなかった。人に勉強を教えるという領域にまだ至っていないとすら思っている。
「そっか。仁志がダメなら、飯塚のところに行くしかねえな」
「ま、待て。どうしてそこで郁人の名前が出るんだよ」
「ん? だって、あいつ頭いいじゃん。あんまり話したことなかったけど、すんなりと教えてくれるかも」
仁志は水野谷の肩をぐっと掴んだ。
「わかった。俺がお前の勉強をみてやる。だから、郁人には迷惑かけるな」
「え? お、おう。どうしたんだ急に」
なんとなく、郁人が他の人に勉強を教えるのが嫌な仁志であった。郁人との時間を独占したいがために、そのためなら自分の時間を削っても良いとすら思っていた。
そんな仁志の覚悟を無に帰すできごとがこれから始まってしまう。
「仁志。今日は時間あるから一緒に僕の家で勉強しよう」
郁人が会話に入ってきて、水野谷の前で仁志を勉強に誘ったのだ。
「お、いいな。それ! 俺も一緒に参加させてくれよ」
水野谷が急に2人の間に割って入ってきた。
「え? 水野谷君も勉強するの?」
「おう。成績下がったらそろそろやばいんだよ。小遣い没収された上に強制入塾とかきついって」
仁志と2人きりで勉強をしたかった郁人であるが、困っているクラスメイトを見過ごすこともできない。
それに断る理由も思い浮かばなかった。仁志は良くてどうして水野谷はダメなのか。変に断ったら2人の関係性がバレてしまうかもしれない。
「え、えっと……仁志が良ければ僕はいいけど」
「まあ、仕方ないな」
仁志と郁人はお互いに顔を見合わせて、少し表情が陰る。せっかくの2人きりの勉強会に思わぬ邪魔が入ってしまった。
「やったあ! ありがとうなお前ら!」
仁志と郁人とは対照的にテンションが上がる水野谷。彼はアホ。故に空気が読めない。
◇
放課後、仁志、郁人、水野谷の3人は郁人の家に集まった。そして、勉強会をすることにした。
「まあ、とりあえず、水野谷。まずは今の授業でわからないところを教えてくれ」
「仁志。俺がわからないところをわかっていると思うか?」
「じゃあ、逆にわかっているところを教えてくれ。そっちの方が数が少なそうだ」
そんな意味のない問答をしているところに救済の手が差し伸べられる。
「とりあえず水野谷君。この問題集を解いてみて。そうすれば、どこで躓いているのかわかるから」
「おお。飯塚! お前頭いいな」
口で訊いてもどこで躓いているのか理解できない水野谷のために問題集にその答えを教えてもらうという理にかなった考え。
水野谷が問題集を解いている間に仁志と郁人はそれぞれの勉強を始めた。
「なあ、郁人。この公式覚えるの面倒じゃないか?」
「ああ、それは公式で覚えるより、理屈で覚えた方が早いよ」
「そういうものなのか」
「うん。僕はそうしている」
一生懸命問題を解いている水野谷であるが、どうしてもわからない問題にぶち当たる。
「なあ、仁志。この問題の答えを教えてくれ」
「お前はバカか。実力をはかるための問題集で俺が教えたら意味ないだろ」
「あ、そっか。仁志。お前頭いいな!」
お前がバカなだけだろと仁志は心の中でツッコミを入れる。
そうして、水野谷はなんとか問題を解いてみた。
「できあがりました。先生!」
「はい、それじゃあ採点するね」
郁人が問題集の採点をする。そのほとんどがバツであるが、ところどころ正解もある。
「なるほど。大体どこを理解していないのかわかった気がする。まずは基礎的な部分の苦手から直していこうか」
「うへえ。なんで苦手なことをしなきゃいけないんだよ。得意なところで点数伸ばせばいいだろ」
水野谷は苦い表情をする。しかし、郁人はそんな水野谷に嫌な顔をせずに冷静になる。
「学校のテストは加点式じゃなくて減点式だからね。例えば数学で200点の頭を持っていても、テストで取れる点数は100点までしか取れない。それだったら点数を伸ばすには、得意の数学を勉強するんじゃなくて、他の苦手な教科の方をした方が効率良いでしょ」
「そうかな……そうかも」
郁人は基本的に英語のテストは100点を取れるのであるが、同じ100点を取れる生徒の中でもずば抜けて英語の能力が高い。同じ評価をされることに歯がゆさを感じているからこそ減点式だということに気づく。
「とりあえず成績を伸ばしたいんでしょ? だったら、苦手なところを潰して減点される要素をなくさないといけないんだ」
「わかりました先生! 先生の言うことを聞きます」
水野谷は郁人の説明に納得がいったのか大人しく勉強を受ける気になった。
そして、郁人は自分の勉強の手を止めて水野谷の勉強を見始める。仁志は郁人に付きっ切りで勉強を見てもらえる水野谷に嫉妬しながらも、勉強を続けた。
「ふー。よし、なんか頭良くなった気がする……すまねえ。飯塚。ちょっとトイレ借りていいか?」
「うん。いいよ。この部屋を出て右に進んだところにあるから」
水野谷は郁人の部屋を出る。そして、廊下に出てみると美しい女性とばったり出会った。
「あ、こ、こんにちは!」
「あ、郁人君のお友達? こんにちは。ゆっくりしてね」
郁人の姉の茉莉香。水野谷は彼女と出会ったことで心拍数が上がり、出そうになっていたものも思わず引っ込みそうになった。
水野谷は郁人の部屋に戻った後、頬を赤らめていた。
「あれ? 水野谷君。顔赤いね。もしかして風邪気味だったりする?」
「いや、風邪じゃない。でも、恋の病には患ったかもしれない」
「何言ってんだお前。普段しない勉強をして逆に頭がおかしくなったのか?」
水野谷の気取った言い方に仁志が辛辣なツッコミを入れた。
仁志の友人である水野谷。彼は教室にていきなりおおきなため息をついてこの世の全ての絶望を味わったような表情をしていた。
「なんだよ。どうしたんだよ。水野谷」
「仁志。お前にわかるか? この俺の悩みが!」
「いや、知らんが」
悩みなどおおよそなさそうなアホ面の水野谷。テニス部に所属していて彼女はなし。定期的に女子テニス部員をナンパしているも実った経験はない。それでもめげない水野谷が抱えている悩みとは一体なんなのか。仁志は別に興味があるわけでもないので適当に流そうとする。
「ほら、俺ってバカだろ?」
「知ってる」
「それでさ、次に成績が下がったら塾に行かせるって親に言われててさ。部活の後に塾に行くんだぜ? やってらんねえよな」
「ふーん。大変そうだなあ」
部活もやっていないし、塾にも通っていない仁志にはおおよそ関係のない話である。
「大体にして部活の後に勉強とか頭おかしすぎるだろ。疲れて勉強する気力がわかねえっての。しかも、塾に行くとなると金を捻出するために小遣い減らすとか言い出してさ」
水野谷は文句ばかり言っている。仁志はそんな水野谷に対して興味なさそうに返答する。
「じゃあ、真面目に授業受けてれば成績上げればいいだろ」
「それができれば苦労はしねえ!」
そんなアホくさいやりとりをしていると水野谷が本題を出してくる。
「仁志。お前、最近成績上がってるよな? どんなチートを使ったんだ?」
「真面目に勉強した。以上」
「いやいや。お前バイトしてんだろ? バイトの後にそんなやる気出るのか?」
「別に毎日バイトしているわけじゃないし」
郁人もバイトと勉強を両立している。バイト程度で泣きごとを言っていたら、郁人に笑われてしまうと仁志は感じていた。
「仁志。頼む。勉強を教えてくれ。俺の青春の時間のために、そして小遣いのために」
「なんで俺がお前の勉強見ないといけないんだよ。俺じゃなくて他のやつに言えばいいだろ」
仁志はまだ成績が上がっていることを自覚していなかった。人に勉強を教えるという領域にまだ至っていないとすら思っている。
「そっか。仁志がダメなら、飯塚のところに行くしかねえな」
「ま、待て。どうしてそこで郁人の名前が出るんだよ」
「ん? だって、あいつ頭いいじゃん。あんまり話したことなかったけど、すんなりと教えてくれるかも」
仁志は水野谷の肩をぐっと掴んだ。
「わかった。俺がお前の勉強をみてやる。だから、郁人には迷惑かけるな」
「え? お、おう。どうしたんだ急に」
なんとなく、郁人が他の人に勉強を教えるのが嫌な仁志であった。郁人との時間を独占したいがために、そのためなら自分の時間を削っても良いとすら思っていた。
そんな仁志の覚悟を無に帰すできごとがこれから始まってしまう。
「仁志。今日は時間あるから一緒に僕の家で勉強しよう」
郁人が会話に入ってきて、水野谷の前で仁志を勉強に誘ったのだ。
「お、いいな。それ! 俺も一緒に参加させてくれよ」
水野谷が急に2人の間に割って入ってきた。
「え? 水野谷君も勉強するの?」
「おう。成績下がったらそろそろやばいんだよ。小遣い没収された上に強制入塾とかきついって」
仁志と2人きりで勉強をしたかった郁人であるが、困っているクラスメイトを見過ごすこともできない。
それに断る理由も思い浮かばなかった。仁志は良くてどうして水野谷はダメなのか。変に断ったら2人の関係性がバレてしまうかもしれない。
「え、えっと……仁志が良ければ僕はいいけど」
「まあ、仕方ないな」
仁志と郁人はお互いに顔を見合わせて、少し表情が陰る。せっかくの2人きりの勉強会に思わぬ邪魔が入ってしまった。
「やったあ! ありがとうなお前ら!」
仁志と郁人とは対照的にテンションが上がる水野谷。彼はアホ。故に空気が読めない。
◇
放課後、仁志、郁人、水野谷の3人は郁人の家に集まった。そして、勉強会をすることにした。
「まあ、とりあえず、水野谷。まずは今の授業でわからないところを教えてくれ」
「仁志。俺がわからないところをわかっていると思うか?」
「じゃあ、逆にわかっているところを教えてくれ。そっちの方が数が少なそうだ」
そんな意味のない問答をしているところに救済の手が差し伸べられる。
「とりあえず水野谷君。この問題集を解いてみて。そうすれば、どこで躓いているのかわかるから」
「おお。飯塚! お前頭いいな」
口で訊いてもどこで躓いているのか理解できない水野谷のために問題集にその答えを教えてもらうという理にかなった考え。
水野谷が問題集を解いている間に仁志と郁人はそれぞれの勉強を始めた。
「なあ、郁人。この公式覚えるの面倒じゃないか?」
「ああ、それは公式で覚えるより、理屈で覚えた方が早いよ」
「そういうものなのか」
「うん。僕はそうしている」
一生懸命問題を解いている水野谷であるが、どうしてもわからない問題にぶち当たる。
「なあ、仁志。この問題の答えを教えてくれ」
「お前はバカか。実力をはかるための問題集で俺が教えたら意味ないだろ」
「あ、そっか。仁志。お前頭いいな!」
お前がバカなだけだろと仁志は心の中でツッコミを入れる。
そうして、水野谷はなんとか問題を解いてみた。
「できあがりました。先生!」
「はい、それじゃあ採点するね」
郁人が問題集の採点をする。そのほとんどがバツであるが、ところどころ正解もある。
「なるほど。大体どこを理解していないのかわかった気がする。まずは基礎的な部分の苦手から直していこうか」
「うへえ。なんで苦手なことをしなきゃいけないんだよ。得意なところで点数伸ばせばいいだろ」
水野谷は苦い表情をする。しかし、郁人はそんな水野谷に嫌な顔をせずに冷静になる。
「学校のテストは加点式じゃなくて減点式だからね。例えば数学で200点の頭を持っていても、テストで取れる点数は100点までしか取れない。それだったら点数を伸ばすには、得意の数学を勉強するんじゃなくて、他の苦手な教科の方をした方が効率良いでしょ」
「そうかな……そうかも」
郁人は基本的に英語のテストは100点を取れるのであるが、同じ100点を取れる生徒の中でもずば抜けて英語の能力が高い。同じ評価をされることに歯がゆさを感じているからこそ減点式だということに気づく。
「とりあえず成績を伸ばしたいんでしょ? だったら、苦手なところを潰して減点される要素をなくさないといけないんだ」
「わかりました先生! 先生の言うことを聞きます」
水野谷は郁人の説明に納得がいったのか大人しく勉強を受ける気になった。
そして、郁人は自分の勉強の手を止めて水野谷の勉強を見始める。仁志は郁人に付きっ切りで勉強を見てもらえる水野谷に嫉妬しながらも、勉強を続けた。
「ふー。よし、なんか頭良くなった気がする……すまねえ。飯塚。ちょっとトイレ借りていいか?」
「うん。いいよ。この部屋を出て右に進んだところにあるから」
水野谷は郁人の部屋を出る。そして、廊下に出てみると美しい女性とばったり出会った。
「あ、こ、こんにちは!」
「あ、郁人君のお友達? こんにちは。ゆっくりしてね」
郁人の姉の茉莉香。水野谷は彼女と出会ったことで心拍数が上がり、出そうになっていたものも思わず引っ込みそうになった。
水野谷は郁人の部屋に戻った後、頬を赤らめていた。
「あれ? 水野谷君。顔赤いね。もしかして風邪気味だったりする?」
「いや、風邪じゃない。でも、恋の病には患ったかもしれない」
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