21 / 37
第21話 夏休み開始
しおりを挟む
期末試験が終わって学期末となり、もうすぐ夏休みが近づいてきた。
学生にとっての一大イベントである夏休み。仁志と郁人も当然楽しみにしていたのであるが……
「うへえ……店長にバイト多く入れないか頼まれてしまった」
「それは大変だね」
教室にて郁人は仁志の席の前に立ち、愚痴を聞いている。
「夏休みということで大学生バイトが実家に帰省するということで、結構な数の穴が開いちゃってなあ。それでその穴埋めとして、高校生の俺がこき使われるはめになってしまったんだ」
仁志は机に突っ伏しながら愚痴っている。
「まあ、でも良いじゃない。稼げるチャンスだし」
「金が稼げるのは良いけど、飯塚と遊べる時間が減るのがどうしてもな」
夏休みの時期というのは特に忙しいので、仁志のバイト先も新たに人員を募集している。
しかし、それでも穴は埋まりきらないので元からいた仁志にそのしわ寄せがきているのである。
「飯塚のところはどうよ。夏休みは忙しくなったりするだろ?」
「うん。接客業はどうしてもね。ウチは結構大学生の人も来るから」
「高校生は?」
「高校生で来ているのは風見君くらいなものだよ」
意外とレアな高校生の客として仁志はなんとなく勝った気になった。
「まあ、でもお互いの休みが合う日は遊べるといいな」
「そうだね」
仁志と郁人が夏休みに遊びに行く計画を立てていた。幸いにして2人は働いていて高校生ながらにしてそれなりの金額は持っているのである。遊びに行くお金は十分にある。
後は時間の調整さえできればの話である。
「それじゃあ。夏休みのシフトがわかったら、予定送るから」
「うん。僕もシフトがわかり次第送るね」
仁志と郁人がお互いに楽しい会話をしている一方で、希子も友人と会話をしていた。
「ねえ。希子。夏休みどこか遊びに行く?」
「んー。どうだろうねえ。最近、結構金欠でやばいんだよね」
希子はメイクやらファッションやらにお金を使いすぎていて、それで金欠になってしまったのだ。お小遣いだけでは足りない状態に希子は頭を悩ませていた。
「それじゃあ、夏休みはバイトとかするの?」
「うーん。バイトとかも考えないといけないのかなあ。めんどくさいなあ」
希子はネイルをいじりながら気だるそうに話している。友人も希子の最近の変わりように少し心配になっている。
「希子。夏休みだからってハメを外しすぎないでね」
「え? 何々? どういうこと?」
「最近の希子を見ているとなんか心配でね。夏休みが終わると結構変わっちゃう子とかいるじゃない?」
高校生にとっての夏休みというのは短いようで案外長いものである。学校から解放されたこの時期、色々な誘惑も多くてそこで人生を狂わされてしまうような生徒も中にはいるのである。
「心配ないって。私は別にそんなにねえ。ハメを外すようなお金もないし」
「う、うーん。まあ、程ほどに楽しんでね」
友人に心配されるほどに見た目も性格が変わってしまった希子。
「ねえ、希子。夏休みどーする?」
クラスのギャルが希子に話しかけてきた。少し前の希子ならば縁もないような相手である。
「んー。わかんない。バイトとか考えているけど」
「えー。バイトとか真面目かよ」
「しょうがないじゃない。お金ないんだから」
ギャルと楽しそうに話し始める希子。元々の友人を置いて盛り上がってしまう。希子の友人は寂しそうに自分の席へと戻っていった。
そして、終業式が終わり夏休みが始まった。
今日から自由だと多くの生徒たちが羽を伸ばす。だが、仁志はコンビニバイトで朝から晩まで働くことになってしまう。
「いらっしゃいませー」
コンビニに女性客が入ってきた。仁志はその女性客を目で追ってしまう。
前までは女性を見てなんとなく、かわいいとかキレイとか思うことはあったが、それ以上特に観察するところなんてなかった。
でも、今の仁志は女性が付けている服装にも注目してしまう。本物の女性のコーデを見ていて、それが男性にも適応できるのかどうかを脳内でシミュレーションしてしまう。
今回の女性は体型が出やすいファッションをしていたので、男性が女装するとしたら結構厳しいものがある。やはり男女で骨格が違うので女性のファッショんをそのまま使えるというわけでもない。
そうしたことも頭に入れるようになったのは、仁志の人生に大きく影響を与えたことだと言える。
そして、女装しているさなえでも結局のところ、骨格は男子のものである。いくら顔が中性的と言っても骨の成長までは止めることができない。
さなえにも似合う女装と似合わない女装があって、そういう部分ではやはり、さなえも男子なのであると認識せざるを得ない。
改めて、自分は男子を好きになってしまったことを認識する仁志。昨今ではLGBTに理解を示す人も増えてきてはいるが、それでもやはりマイノリティであることは事実である。
希子と付き合い始めた時、自分は女子が好きだと信じて疑わなかった仁志であるが、さなえと出会ってからは恋愛観もがっつりと変わってしまった。
かわいければそこに性別は関係ないとすら思ってしまう。
でも、郁人はどうだろうか。郁人も一応は仁志のことを好いてくれているみたいではあるが、別に仁志はかわいいとかそういうのではない。
女装は1回だけしてみたけれど、それだけである。郁人は男子のままの自分を好きになってくれている。
そちらの方が女装を好きになるよりもハードルが高いことであり、郁人の方がすごいのではないかと仁志は思った。
それとも、女装をしたことで心が女子になったことで恋愛対象も男子に変わったのだろうか。
でも、そうなると郁人が希子と付き合っていたことについての説明がつかない。
郁人は女子も好きなのか、それとも男子だけを好きになってしまうのか。それもわからない。
自分たちは割とどっちの性別が好きかなんて曖昧な気がしてきて、その辺の感情が仁志自身もわからなかった。
仁志と郁人に限らず、人間が同性を好きになるのか、異性を好きになるのか。その辺のことは割とハッキリしないのかもしれない。
そんなことを考えていると女性客が仁志のレジの前に立った。
仁志はレジを打つ。女性客が買ったものは食料品である。会計が終わったらそれを袋に詰めて渡す。
なんの変哲もない動作である。バイト中はずっとこれの繰り返し。
仁志はあの女性客を見て何を思ったのか自分でも考えてみる。あの女性はどちらかと言うと美人な方である。
しかし、美人だとは感じるものの付き合いたいとは思わない。
郁人の存在があるから? 本当にそうなのだろうか。希子と付き合っている時でも女性に目移りしてしまうことはあった。
あの人はキレイだとか、かわいいとかで、道行く女性の姿が強く印象に残ってしまうこともあった。
でも、仁志はあの女性のことについて、あまり印象に残っていなかった。
今すぐ顔を思い出せと言われれば、顔を思い出せる程度。後、数分もしない内にそれすらもできなくなるかもしれない。
もしかすると、仁志は女性を好きになる感情というものがどんどんと削られていっているのかもしれないと思い始めた。
それほどまでに郁人の存在というものが大きくて、仁志に影響を与えているのだと言う。
「なあ、今のお客さん、結構胸でかかったよな」
仁志の先輩のコンビニバイトがそんなことを話しかけてきた。
「そうですね」
仁志は適当に相槌を打った。でも、仁志はそんなことは特に印象に残ってなかった。だって、仁志は道行く女性がどうでも良くなるくらいに好きな相手がいるのだから。
学生にとっての一大イベントである夏休み。仁志と郁人も当然楽しみにしていたのであるが……
「うへえ……店長にバイト多く入れないか頼まれてしまった」
「それは大変だね」
教室にて郁人は仁志の席の前に立ち、愚痴を聞いている。
「夏休みということで大学生バイトが実家に帰省するということで、結構な数の穴が開いちゃってなあ。それでその穴埋めとして、高校生の俺がこき使われるはめになってしまったんだ」
仁志は机に突っ伏しながら愚痴っている。
「まあ、でも良いじゃない。稼げるチャンスだし」
「金が稼げるのは良いけど、飯塚と遊べる時間が減るのがどうしてもな」
夏休みの時期というのは特に忙しいので、仁志のバイト先も新たに人員を募集している。
しかし、それでも穴は埋まりきらないので元からいた仁志にそのしわ寄せがきているのである。
「飯塚のところはどうよ。夏休みは忙しくなったりするだろ?」
「うん。接客業はどうしてもね。ウチは結構大学生の人も来るから」
「高校生は?」
「高校生で来ているのは風見君くらいなものだよ」
意外とレアな高校生の客として仁志はなんとなく勝った気になった。
「まあ、でもお互いの休みが合う日は遊べるといいな」
「そうだね」
仁志と郁人が夏休みに遊びに行く計画を立てていた。幸いにして2人は働いていて高校生ながらにしてそれなりの金額は持っているのである。遊びに行くお金は十分にある。
後は時間の調整さえできればの話である。
「それじゃあ。夏休みのシフトがわかったら、予定送るから」
「うん。僕もシフトがわかり次第送るね」
仁志と郁人がお互いに楽しい会話をしている一方で、希子も友人と会話をしていた。
「ねえ。希子。夏休みどこか遊びに行く?」
「んー。どうだろうねえ。最近、結構金欠でやばいんだよね」
希子はメイクやらファッションやらにお金を使いすぎていて、それで金欠になってしまったのだ。お小遣いだけでは足りない状態に希子は頭を悩ませていた。
「それじゃあ、夏休みはバイトとかするの?」
「うーん。バイトとかも考えないといけないのかなあ。めんどくさいなあ」
希子はネイルをいじりながら気だるそうに話している。友人も希子の最近の変わりように少し心配になっている。
「希子。夏休みだからってハメを外しすぎないでね」
「え? 何々? どういうこと?」
「最近の希子を見ているとなんか心配でね。夏休みが終わると結構変わっちゃう子とかいるじゃない?」
高校生にとっての夏休みというのは短いようで案外長いものである。学校から解放されたこの時期、色々な誘惑も多くてそこで人生を狂わされてしまうような生徒も中にはいるのである。
「心配ないって。私は別にそんなにねえ。ハメを外すようなお金もないし」
「う、うーん。まあ、程ほどに楽しんでね」
友人に心配されるほどに見た目も性格が変わってしまった希子。
「ねえ、希子。夏休みどーする?」
クラスのギャルが希子に話しかけてきた。少し前の希子ならば縁もないような相手である。
「んー。わかんない。バイトとか考えているけど」
「えー。バイトとか真面目かよ」
「しょうがないじゃない。お金ないんだから」
ギャルと楽しそうに話し始める希子。元々の友人を置いて盛り上がってしまう。希子の友人は寂しそうに自分の席へと戻っていった。
そして、終業式が終わり夏休みが始まった。
今日から自由だと多くの生徒たちが羽を伸ばす。だが、仁志はコンビニバイトで朝から晩まで働くことになってしまう。
「いらっしゃいませー」
コンビニに女性客が入ってきた。仁志はその女性客を目で追ってしまう。
前までは女性を見てなんとなく、かわいいとかキレイとか思うことはあったが、それ以上特に観察するところなんてなかった。
でも、今の仁志は女性が付けている服装にも注目してしまう。本物の女性のコーデを見ていて、それが男性にも適応できるのかどうかを脳内でシミュレーションしてしまう。
今回の女性は体型が出やすいファッションをしていたので、男性が女装するとしたら結構厳しいものがある。やはり男女で骨格が違うので女性のファッショんをそのまま使えるというわけでもない。
そうしたことも頭に入れるようになったのは、仁志の人生に大きく影響を与えたことだと言える。
そして、女装しているさなえでも結局のところ、骨格は男子のものである。いくら顔が中性的と言っても骨の成長までは止めることができない。
さなえにも似合う女装と似合わない女装があって、そういう部分ではやはり、さなえも男子なのであると認識せざるを得ない。
改めて、自分は男子を好きになってしまったことを認識する仁志。昨今ではLGBTに理解を示す人も増えてきてはいるが、それでもやはりマイノリティであることは事実である。
希子と付き合い始めた時、自分は女子が好きだと信じて疑わなかった仁志であるが、さなえと出会ってからは恋愛観もがっつりと変わってしまった。
かわいければそこに性別は関係ないとすら思ってしまう。
でも、郁人はどうだろうか。郁人も一応は仁志のことを好いてくれているみたいではあるが、別に仁志はかわいいとかそういうのではない。
女装は1回だけしてみたけれど、それだけである。郁人は男子のままの自分を好きになってくれている。
そちらの方が女装を好きになるよりもハードルが高いことであり、郁人の方がすごいのではないかと仁志は思った。
それとも、女装をしたことで心が女子になったことで恋愛対象も男子に変わったのだろうか。
でも、そうなると郁人が希子と付き合っていたことについての説明がつかない。
郁人は女子も好きなのか、それとも男子だけを好きになってしまうのか。それもわからない。
自分たちは割とどっちの性別が好きかなんて曖昧な気がしてきて、その辺の感情が仁志自身もわからなかった。
仁志と郁人に限らず、人間が同性を好きになるのか、異性を好きになるのか。その辺のことは割とハッキリしないのかもしれない。
そんなことを考えていると女性客が仁志のレジの前に立った。
仁志はレジを打つ。女性客が買ったものは食料品である。会計が終わったらそれを袋に詰めて渡す。
なんの変哲もない動作である。バイト中はずっとこれの繰り返し。
仁志はあの女性客を見て何を思ったのか自分でも考えてみる。あの女性はどちらかと言うと美人な方である。
しかし、美人だとは感じるものの付き合いたいとは思わない。
郁人の存在があるから? 本当にそうなのだろうか。希子と付き合っている時でも女性に目移りしてしまうことはあった。
あの人はキレイだとか、かわいいとかで、道行く女性の姿が強く印象に残ってしまうこともあった。
でも、仁志はあの女性のことについて、あまり印象に残っていなかった。
今すぐ顔を思い出せと言われれば、顔を思い出せる程度。後、数分もしない内にそれすらもできなくなるかもしれない。
もしかすると、仁志は女性を好きになる感情というものがどんどんと削られていっているのかもしれないと思い始めた。
それほどまでに郁人の存在というものが大きくて、仁志に影響を与えているのだと言う。
「なあ、今のお客さん、結構胸でかかったよな」
仁志の先輩のコンビニバイトがそんなことを話しかけてきた。
「そうですね」
仁志は適当に相槌を打った。でも、仁志はそんなことは特に印象に残ってなかった。だって、仁志は道行く女性がどうでも良くなるくらいに好きな相手がいるのだから。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
初恋の幼馴染の女の子の恰好をさせられメス調教もされて「彼女」の代わりをさせられる男の娘シンガー
湊戸アサギリ
BL
またメス調教ものです。今回はエロ無しです。女装で押し倒されいますがエロはありません
女装させられ、女の代わりをさせられる屈辱路線です。メス調教ものは他にも書いていますのでよろしくお願いいたします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる