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第14話 真実
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「え? どういうことなの……?」
郁人は仁志の質問の意図がわからなかった。希子とデートをしたのは間違いないが、別に一線を越えたわけでも、そういう雰囲気になったわけでもない。
仁志のいきなりの質問に郁人もどう答えていいのかわからなかった。
「お前、希子と付き合っているんだろう。ヤッたのかって訊いてんだよ」
仁志は声を荒げそうになるもをそれを抑えて静かに郁人に訊いてみる。しかし、郁人にも言い分というものがある。
「どうして、それを風見君に言わないといけないの?」
その言葉に仁志はショックを受けた。確かに自分たちは良くて友人程度の関係。恋人同士ではない。
友人が誰と肉体関係を結ぼうと関係のないことではあった。
だが、仁志にはそれを正当化させるだけの理由があった。
「関係ないことあるか……俺は……お前の……」
そこから先の言葉がどうしても出ない。自分の素直な気持ちを伝えれば郁人はわかってくれるのだろうか。
その保証はなかった。引かれるかもしれないし、これ以上の言葉は言えない。
「……? え? なに?」
郁人が煮え切らない仁志を急かしている。仁志はここでごまかすことにした。
「お前の彼女の希子と付き合っていたんだよ! 中学時代からな」
ここで仁志はついに郁人にその事実を言った。こういうことを言うと希子に未練があると思われて正直ダサいと思っていた。
でも、そのダサさを受け入れてでも、仁志は自分の気持ちを隠し通したかったのだ。
「え……えええ! ちょ、ちょっと。いつまで付き合っていたの?」
郁人もまさか希子が仁志の元カノだとは思わなかった。もし、それを知っていたら付き合い方も考えていたかもしれない。
流石に彼女の元カレとこうした付き合いをするのは、郁人も抵抗があったであろう。
「高校入ってから付き合っていたな。お前が希子に告白した時も交際期間中だったよ」
「え……? な、なにを言っているのかわからない。僕は佐倉さんに告白なんてしていない」
「え? でも、希子は別れる時に飯塚に告白されたって言っていたぞ」
郁人も仁志もわけがわからなかった。お互いの言い分に矛盾が生じてしまっている。
その矛盾が発生した理由。それは誰かが嘘をついているということだ。
「落ち着いて聞いて欲しい。僕は佐倉さんに迫られていたんだ」
「は……? ちょ、ちょっと待てよどういうことだよそれ」
仁志の中でなにかが崩れ去った音が聞こえた。仁志は今まで、郁人が希子のことを口説いていたと思っていた。
郁人は恐らく、希子が誰かの彼女だと知らなかったのだろう。知っていたら、横取りするような性格ではない。それは仁志もなんとなくそんな気がしていた。
それが仁志の今までの考えだった。でも、その前提が崩れた時に現れる真実は1つしかなかった。
「もしかして、希子は俺と付き合っている時から……飯塚に乗り換えようとしていたってことか?」
仁志は希子に騙されていた。フラれた時に郁人に告白されたからと言っていたのだ。
そこで気持ちが切り替わったかのように見せかけて、実は希子の方から積極的に郁人に乗り換えようとしていたのだった。
自分を少しでも悪くないようにするために、嘘をついたのだ。それが今の彼氏を貶めるようなことになったとしても。
「なんだよそれ……! なんだよ!」
「ごめん。風見君。佐倉さんが君の彼女だと知っていたら、そんなことはしなかった。告白も断っていたよ」
「い、いや……知らなかったんだったら飯塚は悪くない」
今更になって、もう一度希子に傷つけられるとは思ってなかった仁志。でも、これで1つ気持ちがすっきりしたことがある。
この別れ話は郁人に非があったわけではなかった。心のどこかで、もしかしたら、郁人に悪意があったのかもしれないとほんの少しだけ思わないこともなかった。
でも、郁人は迫られた女子に彼氏がいるとは思わずに付き合っただけなのだった。
仁志は郁人は無罪であることを確信した。それだけが救いだった。
「……ごめん。そういう事情があったんだね。さっきの質問の答えを言うよ。僕は佐倉さんに手を出していない。もちろん、出されてもいない。そこは信じて欲しい」
「本当か? あいつ、コンビニでコンドーム買っていたぞ」
「え……? それって風見君のレジでってことだよね? ちょっと神経図太くない?」
「ああ。今になってあいつのヤバさを痛感していたぞ」
郁人は血の気が引いていた。仁志の話を信じると自分は希子の毒牙にかかるところだったのかもしれない。
「その……こういうことを訊くのも失礼かもしれないけど、風見君はまだ佐倉さんに未練があるの?」
郁人の言葉を仁志は飲み込んだ。そして、よくよく考えてから答えを出す。
「いや、ない。俺にはもう……好きなやつがいるからな」
「そっか。それなら良かった。でも、僕も佐倉さんとは別れようかなと思っている」
郁人の思わぬ発言に仁志は驚いた。喜んでいいのかどうか微妙なラインの状況に複雑な気持ちが揺れ動く。
「え? いや、別に俺に気を遣う必要なんてないぞ」
「うーんと……まあ、気を遣うとかそういう前に、なんというか……こういうことを元カレの前で言うのも失礼なことかもしれないけど……」
郁人は言葉を詰まらせながらも語る。
「僕はただ佐倉さんと流されるまま付き合っただけだと思う。本当にそこまで好きだったかと言われると自信がないというか……付き合っていく内に良さが見つかればいいかなって程度だったかな」
「そうか」
「だから、その……今の話を聞いて、やっぱりないなって僕の中で思うんだ。付き合っている彼氏がいるのに、他の男子に迫って告白するのは僕的には誠意に欠けているような気がして」
「……まあ、そういう考えもあるな」
仁志は複雑な気持ちになった。郁人だって希子と付き合っているのに、さなえとして仁志とデートをしていた。でも、それをデートと思っていたのは仁志だけかもしれない。郁人がデートだと思っていないかもしれないことが、その発言でなんとなく察してしまう。
付き合っている彼女がいるのに他の相手とデートをするのは誠意に欠けることなのだろうか。
「その……飯塚。別れた後はどうするんだ? 他の女子とかと付き合ったりするのか?」
「……どうだろうね。しばらく女子と付き合うのは良いかな。別に今は好きな女の子がいるわけじゃないし」
「そうか」
これで仁志と郁人。お互いにフリーとなるわけである。これから先は何の気兼ねもなくデートできるようになるけれど、仁志はそんな未来も少し物足りないと感じてしまう。
仁志の目的である郁人と希子の関係を滅茶苦茶にするということは達成できた。でも、どこか心が晴れなかった。
本当にこれで良かったのだろうか。自分が黙っていれば、郁人は希子と付き合ったままだったかもしれない。
希子は確かにちょっと誠実さに欠けているところはあったかもしれないけれど、一応は女子であり、郁人に彼女持ちというステータスを与えることができた。
だから、郁人は希子と付き合ったままの方が幸せだったかもしれない。それに、希子だって郁人と付き合っている内に改心することもあったかもしれない。
そう考えると、自分はいたずらに郁人の幸せを壊しただけかもしれないと仁志は自己嫌悪をしてしまった。
「その……ごめん。飯塚。俺、別れさせるつもりなんてなかったんだ」
「いいよ。僕の意思で別れたわけだし、風見君は悪くない。むしろ、重要なことを教えてくれてありがとう。実際に別れるかどうかは話し合いで決まると思うけど……どっちにしろ、佐倉さんとは話をしないといけないと思っていたからね」
「そうなんだ……」
「そろそろ遅くなってきたし、僕はここで失礼してもいいかな?」
「ああ、おやすみ」
「うん。おやすみ」
仁志は気まずさを感じながら通話を切った。1組のカップルを終わらせてしまった。いざ、実際にやってみると意外と罪悪感を覚えるものであった。
郁人は仁志の質問の意図がわからなかった。希子とデートをしたのは間違いないが、別に一線を越えたわけでも、そういう雰囲気になったわけでもない。
仁志のいきなりの質問に郁人もどう答えていいのかわからなかった。
「お前、希子と付き合っているんだろう。ヤッたのかって訊いてんだよ」
仁志は声を荒げそうになるもをそれを抑えて静かに郁人に訊いてみる。しかし、郁人にも言い分というものがある。
「どうして、それを風見君に言わないといけないの?」
その言葉に仁志はショックを受けた。確かに自分たちは良くて友人程度の関係。恋人同士ではない。
友人が誰と肉体関係を結ぼうと関係のないことではあった。
だが、仁志にはそれを正当化させるだけの理由があった。
「関係ないことあるか……俺は……お前の……」
そこから先の言葉がどうしても出ない。自分の素直な気持ちを伝えれば郁人はわかってくれるのだろうか。
その保証はなかった。引かれるかもしれないし、これ以上の言葉は言えない。
「……? え? なに?」
郁人が煮え切らない仁志を急かしている。仁志はここでごまかすことにした。
「お前の彼女の希子と付き合っていたんだよ! 中学時代からな」
ここで仁志はついに郁人にその事実を言った。こういうことを言うと希子に未練があると思われて正直ダサいと思っていた。
でも、そのダサさを受け入れてでも、仁志は自分の気持ちを隠し通したかったのだ。
「え……えええ! ちょ、ちょっと。いつまで付き合っていたの?」
郁人もまさか希子が仁志の元カノだとは思わなかった。もし、それを知っていたら付き合い方も考えていたかもしれない。
流石に彼女の元カレとこうした付き合いをするのは、郁人も抵抗があったであろう。
「高校入ってから付き合っていたな。お前が希子に告白した時も交際期間中だったよ」
「え……? な、なにを言っているのかわからない。僕は佐倉さんに告白なんてしていない」
「え? でも、希子は別れる時に飯塚に告白されたって言っていたぞ」
郁人も仁志もわけがわからなかった。お互いの言い分に矛盾が生じてしまっている。
その矛盾が発生した理由。それは誰かが嘘をついているということだ。
「落ち着いて聞いて欲しい。僕は佐倉さんに迫られていたんだ」
「は……? ちょ、ちょっと待てよどういうことだよそれ」
仁志の中でなにかが崩れ去った音が聞こえた。仁志は今まで、郁人が希子のことを口説いていたと思っていた。
郁人は恐らく、希子が誰かの彼女だと知らなかったのだろう。知っていたら、横取りするような性格ではない。それは仁志もなんとなくそんな気がしていた。
それが仁志の今までの考えだった。でも、その前提が崩れた時に現れる真実は1つしかなかった。
「もしかして、希子は俺と付き合っている時から……飯塚に乗り換えようとしていたってことか?」
仁志は希子に騙されていた。フラれた時に郁人に告白されたからと言っていたのだ。
そこで気持ちが切り替わったかのように見せかけて、実は希子の方から積極的に郁人に乗り換えようとしていたのだった。
自分を少しでも悪くないようにするために、嘘をついたのだ。それが今の彼氏を貶めるようなことになったとしても。
「なんだよそれ……! なんだよ!」
「ごめん。風見君。佐倉さんが君の彼女だと知っていたら、そんなことはしなかった。告白も断っていたよ」
「い、いや……知らなかったんだったら飯塚は悪くない」
今更になって、もう一度希子に傷つけられるとは思ってなかった仁志。でも、これで1つ気持ちがすっきりしたことがある。
この別れ話は郁人に非があったわけではなかった。心のどこかで、もしかしたら、郁人に悪意があったのかもしれないとほんの少しだけ思わないこともなかった。
でも、郁人は迫られた女子に彼氏がいるとは思わずに付き合っただけなのだった。
仁志は郁人は無罪であることを確信した。それだけが救いだった。
「……ごめん。そういう事情があったんだね。さっきの質問の答えを言うよ。僕は佐倉さんに手を出していない。もちろん、出されてもいない。そこは信じて欲しい」
「本当か? あいつ、コンビニでコンドーム買っていたぞ」
「え……? それって風見君のレジでってことだよね? ちょっと神経図太くない?」
「ああ。今になってあいつのヤバさを痛感していたぞ」
郁人は血の気が引いていた。仁志の話を信じると自分は希子の毒牙にかかるところだったのかもしれない。
「その……こういうことを訊くのも失礼かもしれないけど、風見君はまだ佐倉さんに未練があるの?」
郁人の言葉を仁志は飲み込んだ。そして、よくよく考えてから答えを出す。
「いや、ない。俺にはもう……好きなやつがいるからな」
「そっか。それなら良かった。でも、僕も佐倉さんとは別れようかなと思っている」
郁人の思わぬ発言に仁志は驚いた。喜んでいいのかどうか微妙なラインの状況に複雑な気持ちが揺れ動く。
「え? いや、別に俺に気を遣う必要なんてないぞ」
「うーんと……まあ、気を遣うとかそういう前に、なんというか……こういうことを元カレの前で言うのも失礼なことかもしれないけど……」
郁人は言葉を詰まらせながらも語る。
「僕はただ佐倉さんと流されるまま付き合っただけだと思う。本当にそこまで好きだったかと言われると自信がないというか……付き合っていく内に良さが見つかればいいかなって程度だったかな」
「そうか」
「だから、その……今の話を聞いて、やっぱりないなって僕の中で思うんだ。付き合っている彼氏がいるのに、他の男子に迫って告白するのは僕的には誠意に欠けているような気がして」
「……まあ、そういう考えもあるな」
仁志は複雑な気持ちになった。郁人だって希子と付き合っているのに、さなえとして仁志とデートをしていた。でも、それをデートと思っていたのは仁志だけかもしれない。郁人がデートだと思っていないかもしれないことが、その発言でなんとなく察してしまう。
付き合っている彼女がいるのに他の相手とデートをするのは誠意に欠けることなのだろうか。
「その……飯塚。別れた後はどうするんだ? 他の女子とかと付き合ったりするのか?」
「……どうだろうね。しばらく女子と付き合うのは良いかな。別に今は好きな女の子がいるわけじゃないし」
「そうか」
これで仁志と郁人。お互いにフリーとなるわけである。これから先は何の気兼ねもなくデートできるようになるけれど、仁志はそんな未来も少し物足りないと感じてしまう。
仁志の目的である郁人と希子の関係を滅茶苦茶にするということは達成できた。でも、どこか心が晴れなかった。
本当にこれで良かったのだろうか。自分が黙っていれば、郁人は希子と付き合ったままだったかもしれない。
希子は確かにちょっと誠実さに欠けているところはあったかもしれないけれど、一応は女子であり、郁人に彼女持ちというステータスを与えることができた。
だから、郁人は希子と付き合ったままの方が幸せだったかもしれない。それに、希子だって郁人と付き合っている内に改心することもあったかもしれない。
そう考えると、自分はいたずらに郁人の幸せを壊しただけかもしれないと仁志は自己嫌悪をしてしまった。
「その……ごめん。飯塚。俺、別れさせるつもりなんてなかったんだ」
「いいよ。僕の意思で別れたわけだし、風見君は悪くない。むしろ、重要なことを教えてくれてありがとう。実際に別れるかどうかは話し合いで決まると思うけど……どっちにしろ、佐倉さんとは話をしないといけないと思っていたからね」
「そうなんだ……」
「そろそろ遅くなってきたし、僕はここで失礼してもいいかな?」
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