二重NTR‐TRAP

下垣

文字の大きさ
上 下
13 / 37

第13話 他に好きな女の子はいない

しおりを挟む
 中間試験も終わって自由に身になった仁志は、放課後にコンビニでバイトをしていた。

 学校近くのコンビニということもあり、仁志の学校の生徒もたまに来ることもある。そんな時、郁人と希子が仁志が働いているコンビニに入店した。

「いらっしゃいませー……」

 仁志は2人に気づく。妙にそわそわと胸騒ぎがする。この2人は付き合っている関係。こうして2人で一緒にいることはなんら珍しいことではない。

 それでも仁志は希子と郁人が一緒にいるのを見るのが嫌だった。

「佐倉さん。ちょっと先に会計済ませちゃうね」

 郁人が仁志のレジに向かう。仁志はつまらなさそうにレジ打ちを始めた。

「飯塚……デートかよ」

 仁志は無意識の内にそう言っていた。郁人はそれにハッとした表情をする。

「ごめん。その……」

「なんで謝るんだよ。別にいいだろ。お前らは付き合っているんだから」

「うん……」

 郁人も仁志に気を遣っていた。郁人がさなえになっている時、その時のボーイフレンドは間違いなく仁志なのである。郁人もそれは思っていた。

 今は女装していないとは言え、希子と一緒にいるところを見せつけるのは少し不親切だったと郁人は反省をした。

「その……ここのコンビニだったんだね。風見君が働いていたの」

「ああ、まあな」

 そんな会話をしながら会計を済ませた。そして、郁人は店から出ていく。

 続いて希子が会計しにやってきた。その商品はお菓子やら飲み物が主であるが、その中にコンドームが混ざっていた。

 仁志はそれを見た瞬間に顔面が青くなった。そんな仁志の様子を見て、希子はにやつく。

「今日ね。飯塚君の家に遊びにいくんだ」

 希子は自慢するように言ってきた。

「そ、そうなのか……」

「うん。付き合っているんだから当然だよね」

 希子はそれ以上は多く語らなかった。郁人の家に行きたいと駄々をこねていた希子。郁人は仕方なく希子を家へと招くことにした。

 そして、希子はコンドームを購入して、それを仁志に見せつける。

 希子は仁志に対して不思議とライバル意識を感じていた。元カノのことを忘れて早々とかわいい女の子とデートをしたり、郁人の家に遊びに行ったりする仁志を快く思っていなかった。

 流石に元カノがこれから、そういう性的なことをするとにおわせるようなことをすれば、仁志にダメージを与えられるのではないかと思ってのことだった。

 それに、もしかしたら、本当にそういう雰囲気になるかもしれない。その時のお守りとして希子はコンドームを購入することにしたのだった。

 仁志は本音を言えば希子にコンドームなど売りたくなかった。しかし、仁志に販売を拒否するような権限はない。震える手で仁志はコンドームをレジに通すしかなかった。

「うん。ありがとう」

 希子は仁志が渡したレジ袋を受けとり余裕の笑みを浮かべていた。希子が退店して、店の外で待っていた郁人と合流する。

 仁志はその後、バイトが終わった後も気が気でなかった。郁人と希子の関係がこのまま進んでしまうのではないかと不安になる。

 バイト中、集中できなくてミスをして怒られたりもした。今頃、郁人たちはどうしているのだろうか。仁志は不安な気持ちでいっぱいになった。



 郁人の家に着いた希子は緊張していた。

 希子ももう高校生である。大人の階段上っても良い頃だと思い、今日で決める覚悟でいた。

「ねえ。その……飯塚君。いいえ、郁人君」

「ん?」

 テーブルの目の前に座っている郁人。その隣に希子が座って、希子が郁人の手の甲の上に手を重ねた。

「今日はその……郁人君に甘えたい気分かな」

 希子は猫なで声で郁人に迫ってくる。普通の男子高校生ならドキドキとするシチュエーションである。少し前までの郁人もそっち側の人間であったであろう。

 しかし、郁人はそんな風に言われてもどこか冷めていた。目の前の女子がまるで魅力的に感じない。

「そうなんだ……」

 郁人はその一言しか言わなかった。希子は郁人のツレない態度に焦りを感じていた。

「ちょ、ちょっと。郁人君! 彼女が甘えているのにその態度はないんじゃないの?」

 希子は自分が本当に郁人に愛されているのかどうかわからなくなってきた。

 一応は付き合っているものの、最近の郁人はどこか希子には冷たくて、この関係が早くも終わるんじゃないかと危惧しているのだ。

「ねえ。郁人君。もしかして、他に好きな人ができたの?」

 希子はありえない仮定を口に出したつもりだった。しかし、いざ口に出してみれば、その仮定が本当にありえないものだったのか。自信がなくなってくる。

 本当に郁人に好きな人ができて、自分が蔑ろにされているのではないかと思い始める。

「ねえ、郁人君! 答えてよ!」

 希子は郁人に詰め寄った。郁人は希子の言葉に対してなにも答えることができなかった。

「どうして答えないの?」

「わからない。僕もこの感情の正体がなんなのか……」

「なにそれ……」

 希子は郁人の言おうとしていることがわからなかった。でも、郁人だって戸惑っているのである。女装している時に仁志と一緒にいるとどこか心が温まる気分になるのは事実だった。

 男子相手にこんな感情を抱くのは正常なのかどうかすらも、郁人にはわからなかった。

 そもそも、自分が女装をしているからそういう風に思ってしまうのではないかとか、女装してない時だったら? 色々な疑問が郁人の中にあって、郁人も自分の本当の気持ちがわかっていないのであった。

「ハッキリしてよ! 他に好きな女の子はいるの!?」

「……わかった。ハッキリ言う。好きな女の子はいない」

 郁人は正直な自分の気持ちを希子に伝えた。嘘は言っていない。好きな女の子が他にできたわけではなかった。

「そっか。それを聞いて安心したよ。郁人君。最近どこか冷たいように感じたから」

「ごめんごめん。ちょっと最近忙しくて……疲れているみたいだから」

 実際のところ、郁人はテストに、バイトに、仁志に勉強を教えたりと忙しかった。

「そうだよね。忙しいから、あまりわたしとデートできなかっただけだもんね」

 希子は妙に納得した。その答えが受け取れただけでも希子にとっては十分であった。

 しかし、希子は知る由もなかった。本当のライバルは“女の子”の中にいなかったことを。

 ここで安心してはいけなかったことを後から気づいたとしても手遅れなのである。

 その後、郁人と希子は適当な雑談をした。夕方で遅くなってきて希子は家へと帰った。

 結局、希子が購入したコンドームは使われないまま、彼女のカバンの中にひっそりと入っているだけになった。

 希子は焦る必要はないと踏んでいた。これからじっくりと郁人と関係を築けばいいと。これの出番はそれからでも遅くないと。

 しかし、希子は知らなかった。本当は今日無理矢理にでも既成事実を作っておいた方が良かったということを。

 人生の分岐点はどこにあるのかわからない。希子はここで選択を誤ったのだった。



 バイトから帰った仁志は自室でベッドの上に倒れ込んだ。

 今日はいつもの3倍増しで疲れたような気がした。一体どうしてこんなことになってしまったのか。

 全ては希子のせいである。もしかして、もう希子と郁人はそういう関係になってしまったのか。一線を越えてしまったのか。そんな不安が頭の中によぎる。

 仁志はいても立ってもいられずに郁人に電話をしようとした。

 もう時刻は10時を回っているとかそういうのは関係ない。夜遅くでも関係なく仁志は郁人に電話をした。

「もしもし。どうしたの? 風見君」

「飯塚……お前、希子とヤったのか?」

 仁志はストレートに訊いた。なんの前触れもなく……電話口に沈黙が走った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...