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第13話 他に好きな女の子はいない
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中間試験も終わって自由に身になった仁志は、放課後にコンビニでバイトをしていた。
学校近くのコンビニということもあり、仁志の学校の生徒もたまに来ることもある。そんな時、郁人と希子が仁志が働いているコンビニに入店した。
「いらっしゃいませー……」
仁志は2人に気づく。妙にそわそわと胸騒ぎがする。この2人は付き合っている関係。こうして2人で一緒にいることはなんら珍しいことではない。
それでも仁志は希子と郁人が一緒にいるのを見るのが嫌だった。
「佐倉さん。ちょっと先に会計済ませちゃうね」
郁人が仁志のレジに向かう。仁志はつまらなさそうにレジ打ちを始めた。
「飯塚……デートかよ」
仁志は無意識の内にそう言っていた。郁人はそれにハッとした表情をする。
「ごめん。その……」
「なんで謝るんだよ。別にいいだろ。お前らは付き合っているんだから」
「うん……」
郁人も仁志に気を遣っていた。郁人がさなえになっている時、その時のボーイフレンドは間違いなく仁志なのである。郁人もそれは思っていた。
今は女装していないとは言え、希子と一緒にいるところを見せつけるのは少し不親切だったと郁人は反省をした。
「その……ここのコンビニだったんだね。風見君が働いていたの」
「ああ、まあな」
そんな会話をしながら会計を済ませた。そして、郁人は店から出ていく。
続いて希子が会計しにやってきた。その商品はお菓子やら飲み物が主であるが、その中にコンドームが混ざっていた。
仁志はそれを見た瞬間に顔面が青くなった。そんな仁志の様子を見て、希子はにやつく。
「今日ね。飯塚君の家に遊びにいくんだ」
希子は自慢するように言ってきた。
「そ、そうなのか……」
「うん。付き合っているんだから当然だよね」
希子はそれ以上は多く語らなかった。郁人の家に行きたいと駄々をこねていた希子。郁人は仕方なく希子を家へと招くことにした。
そして、希子はコンドームを購入して、それを仁志に見せつける。
希子は仁志に対して不思議とライバル意識を感じていた。元カノのことを忘れて早々とかわいい女の子とデートをしたり、郁人の家に遊びに行ったりする仁志を快く思っていなかった。
流石に元カノがこれから、そういう性的なことをするとにおわせるようなことをすれば、仁志にダメージを与えられるのではないかと思ってのことだった。
それに、もしかしたら、本当にそういう雰囲気になるかもしれない。その時のお守りとして希子はコンドームを購入することにしたのだった。
仁志は本音を言えば希子にコンドームなど売りたくなかった。しかし、仁志に販売を拒否するような権限はない。震える手で仁志はコンドームをレジに通すしかなかった。
「うん。ありがとう」
希子は仁志が渡したレジ袋を受けとり余裕の笑みを浮かべていた。希子が退店して、店の外で待っていた郁人と合流する。
仁志はその後、バイトが終わった後も気が気でなかった。郁人と希子の関係がこのまま進んでしまうのではないかと不安になる。
バイト中、集中できなくてミスをして怒られたりもした。今頃、郁人たちはどうしているのだろうか。仁志は不安な気持ちでいっぱいになった。
◇
郁人の家に着いた希子は緊張していた。
希子ももう高校生である。大人の階段上っても良い頃だと思い、今日で決める覚悟でいた。
「ねえ。その……飯塚君。いいえ、郁人君」
「ん?」
テーブルの目の前に座っている郁人。その隣に希子が座って、希子が郁人の手の甲の上に手を重ねた。
「今日はその……郁人君に甘えたい気分かな」
希子は猫なで声で郁人に迫ってくる。普通の男子高校生ならドキドキとするシチュエーションである。少し前までの郁人もそっち側の人間であったであろう。
しかし、郁人はそんな風に言われてもどこか冷めていた。目の前の女子がまるで魅力的に感じない。
「そうなんだ……」
郁人はその一言しか言わなかった。希子は郁人のツレない態度に焦りを感じていた。
「ちょ、ちょっと。郁人君! 彼女が甘えているのにその態度はないんじゃないの?」
希子は自分が本当に郁人に愛されているのかどうかわからなくなってきた。
一応は付き合っているものの、最近の郁人はどこか希子には冷たくて、この関係が早くも終わるんじゃないかと危惧しているのだ。
「ねえ。郁人君。もしかして、他に好きな人ができたの?」
希子はありえない仮定を口に出したつもりだった。しかし、いざ口に出してみれば、その仮定が本当にありえないものだったのか。自信がなくなってくる。
本当に郁人に好きな人ができて、自分が蔑ろにされているのではないかと思い始める。
「ねえ、郁人君! 答えてよ!」
希子は郁人に詰め寄った。郁人は希子の言葉に対してなにも答えることができなかった。
「どうして答えないの?」
「わからない。僕もこの感情の正体がなんなのか……」
「なにそれ……」
希子は郁人の言おうとしていることがわからなかった。でも、郁人だって戸惑っているのである。女装している時に仁志と一緒にいるとどこか心が温まる気分になるのは事実だった。
男子相手にこんな感情を抱くのは正常なのかどうかすらも、郁人にはわからなかった。
そもそも、自分が女装をしているからそういう風に思ってしまうのではないかとか、女装してない時だったら? 色々な疑問が郁人の中にあって、郁人も自分の本当の気持ちがわかっていないのであった。
「ハッキリしてよ! 他に好きな女の子はいるの!?」
「……わかった。ハッキリ言う。好きな女の子はいない」
郁人は正直な自分の気持ちを希子に伝えた。嘘は言っていない。好きな女の子が他にできたわけではなかった。
「そっか。それを聞いて安心したよ。郁人君。最近どこか冷たいように感じたから」
「ごめんごめん。ちょっと最近忙しくて……疲れているみたいだから」
実際のところ、郁人はテストに、バイトに、仁志に勉強を教えたりと忙しかった。
「そうだよね。忙しいから、あまりわたしとデートできなかっただけだもんね」
希子は妙に納得した。その答えが受け取れただけでも希子にとっては十分であった。
しかし、希子は知る由もなかった。本当のライバルは“女の子”の中にいなかったことを。
ここで安心してはいけなかったことを後から気づいたとしても手遅れなのである。
その後、郁人と希子は適当な雑談をした。夕方で遅くなってきて希子は家へと帰った。
結局、希子が購入したコンドームは使われないまま、彼女のカバンの中にひっそりと入っているだけになった。
希子は焦る必要はないと踏んでいた。これからじっくりと郁人と関係を築けばいいと。これの出番はそれからでも遅くないと。
しかし、希子は知らなかった。本当は今日無理矢理にでも既成事実を作っておいた方が良かったということを。
人生の分岐点はどこにあるのかわからない。希子はここで選択を誤ったのだった。
◇
バイトから帰った仁志は自室でベッドの上に倒れ込んだ。
今日はいつもの3倍増しで疲れたような気がした。一体どうしてこんなことになってしまったのか。
全ては希子のせいである。もしかして、もう希子と郁人はそういう関係になってしまったのか。一線を越えてしまったのか。そんな不安が頭の中によぎる。
仁志はいても立ってもいられずに郁人に電話をしようとした。
もう時刻は10時を回っているとかそういうのは関係ない。夜遅くでも関係なく仁志は郁人に電話をした。
「もしもし。どうしたの? 風見君」
「飯塚……お前、希子とヤったのか?」
仁志はストレートに訊いた。なんの前触れもなく……電話口に沈黙が走った。
学校近くのコンビニということもあり、仁志の学校の生徒もたまに来ることもある。そんな時、郁人と希子が仁志が働いているコンビニに入店した。
「いらっしゃいませー……」
仁志は2人に気づく。妙にそわそわと胸騒ぎがする。この2人は付き合っている関係。こうして2人で一緒にいることはなんら珍しいことではない。
それでも仁志は希子と郁人が一緒にいるのを見るのが嫌だった。
「佐倉さん。ちょっと先に会計済ませちゃうね」
郁人が仁志のレジに向かう。仁志はつまらなさそうにレジ打ちを始めた。
「飯塚……デートかよ」
仁志は無意識の内にそう言っていた。郁人はそれにハッとした表情をする。
「ごめん。その……」
「なんで謝るんだよ。別にいいだろ。お前らは付き合っているんだから」
「うん……」
郁人も仁志に気を遣っていた。郁人がさなえになっている時、その時のボーイフレンドは間違いなく仁志なのである。郁人もそれは思っていた。
今は女装していないとは言え、希子と一緒にいるところを見せつけるのは少し不親切だったと郁人は反省をした。
「その……ここのコンビニだったんだね。風見君が働いていたの」
「ああ、まあな」
そんな会話をしながら会計を済ませた。そして、郁人は店から出ていく。
続いて希子が会計しにやってきた。その商品はお菓子やら飲み物が主であるが、その中にコンドームが混ざっていた。
仁志はそれを見た瞬間に顔面が青くなった。そんな仁志の様子を見て、希子はにやつく。
「今日ね。飯塚君の家に遊びにいくんだ」
希子は自慢するように言ってきた。
「そ、そうなのか……」
「うん。付き合っているんだから当然だよね」
希子はそれ以上は多く語らなかった。郁人の家に行きたいと駄々をこねていた希子。郁人は仕方なく希子を家へと招くことにした。
そして、希子はコンドームを購入して、それを仁志に見せつける。
希子は仁志に対して不思議とライバル意識を感じていた。元カノのことを忘れて早々とかわいい女の子とデートをしたり、郁人の家に遊びに行ったりする仁志を快く思っていなかった。
流石に元カノがこれから、そういう性的なことをするとにおわせるようなことをすれば、仁志にダメージを与えられるのではないかと思ってのことだった。
それに、もしかしたら、本当にそういう雰囲気になるかもしれない。その時のお守りとして希子はコンドームを購入することにしたのだった。
仁志は本音を言えば希子にコンドームなど売りたくなかった。しかし、仁志に販売を拒否するような権限はない。震える手で仁志はコンドームをレジに通すしかなかった。
「うん。ありがとう」
希子は仁志が渡したレジ袋を受けとり余裕の笑みを浮かべていた。希子が退店して、店の外で待っていた郁人と合流する。
仁志はその後、バイトが終わった後も気が気でなかった。郁人と希子の関係がこのまま進んでしまうのではないかと不安になる。
バイト中、集中できなくてミスをして怒られたりもした。今頃、郁人たちはどうしているのだろうか。仁志は不安な気持ちでいっぱいになった。
◇
郁人の家に着いた希子は緊張していた。
希子ももう高校生である。大人の階段上っても良い頃だと思い、今日で決める覚悟でいた。
「ねえ。その……飯塚君。いいえ、郁人君」
「ん?」
テーブルの目の前に座っている郁人。その隣に希子が座って、希子が郁人の手の甲の上に手を重ねた。
「今日はその……郁人君に甘えたい気分かな」
希子は猫なで声で郁人に迫ってくる。普通の男子高校生ならドキドキとするシチュエーションである。少し前までの郁人もそっち側の人間であったであろう。
しかし、郁人はそんな風に言われてもどこか冷めていた。目の前の女子がまるで魅力的に感じない。
「そうなんだ……」
郁人はその一言しか言わなかった。希子は郁人のツレない態度に焦りを感じていた。
「ちょ、ちょっと。郁人君! 彼女が甘えているのにその態度はないんじゃないの?」
希子は自分が本当に郁人に愛されているのかどうかわからなくなってきた。
一応は付き合っているものの、最近の郁人はどこか希子には冷たくて、この関係が早くも終わるんじゃないかと危惧しているのだ。
「ねえ。郁人君。もしかして、他に好きな人ができたの?」
希子はありえない仮定を口に出したつもりだった。しかし、いざ口に出してみれば、その仮定が本当にありえないものだったのか。自信がなくなってくる。
本当に郁人に好きな人ができて、自分が蔑ろにされているのではないかと思い始める。
「ねえ、郁人君! 答えてよ!」
希子は郁人に詰め寄った。郁人は希子の言葉に対してなにも答えることができなかった。
「どうして答えないの?」
「わからない。僕もこの感情の正体がなんなのか……」
「なにそれ……」
希子は郁人の言おうとしていることがわからなかった。でも、郁人だって戸惑っているのである。女装している時に仁志と一緒にいるとどこか心が温まる気分になるのは事実だった。
男子相手にこんな感情を抱くのは正常なのかどうかすらも、郁人にはわからなかった。
そもそも、自分が女装をしているからそういう風に思ってしまうのではないかとか、女装してない時だったら? 色々な疑問が郁人の中にあって、郁人も自分の本当の気持ちがわかっていないのであった。
「ハッキリしてよ! 他に好きな女の子はいるの!?」
「……わかった。ハッキリ言う。好きな女の子はいない」
郁人は正直な自分の気持ちを希子に伝えた。嘘は言っていない。好きな女の子が他にできたわけではなかった。
「そっか。それを聞いて安心したよ。郁人君。最近どこか冷たいように感じたから」
「ごめんごめん。ちょっと最近忙しくて……疲れているみたいだから」
実際のところ、郁人はテストに、バイトに、仁志に勉強を教えたりと忙しかった。
「そうだよね。忙しいから、あまりわたしとデートできなかっただけだもんね」
希子は妙に納得した。その答えが受け取れただけでも希子にとっては十分であった。
しかし、希子は知る由もなかった。本当のライバルは“女の子”の中にいなかったことを。
ここで安心してはいけなかったことを後から気づいたとしても手遅れなのである。
その後、郁人と希子は適当な雑談をした。夕方で遅くなってきて希子は家へと帰った。
結局、希子が購入したコンドームは使われないまま、彼女のカバンの中にひっそりと入っているだけになった。
希子は焦る必要はないと踏んでいた。これからじっくりと郁人と関係を築けばいいと。これの出番はそれからでも遅くないと。
しかし、希子は知らなかった。本当は今日無理矢理にでも既成事実を作っておいた方が良かったということを。
人生の分岐点はどこにあるのかわからない。希子はここで選択を誤ったのだった。
◇
バイトから帰った仁志は自室でベッドの上に倒れ込んだ。
今日はいつもの3倍増しで疲れたような気がした。一体どうしてこんなことになってしまったのか。
全ては希子のせいである。もしかして、もう希子と郁人はそういう関係になってしまったのか。一線を越えてしまったのか。そんな不安が頭の中によぎる。
仁志はいても立ってもいられずに郁人に電話をしようとした。
もう時刻は10時を回っているとかそういうのは関係ない。夜遅くでも関係なく仁志は郁人に電話をした。
「もしもし。どうしたの? 風見君」
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