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第8話 2度目の来店
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「なあ、飯塚。今日の放課後一緒に遊ばないか?」
仁志は郁人を誘ってみる。郁人は肩を落とし寂しそうな表情を見せた。
「ごめん。今日はバイトなんだ」
「そっか。それなら仕方ないか」
仁志も郁人のバイトには理解を示している。だから、それで遊べなくなるのは仕方のないことだと割り切ろうとした。
しかし、郁人もバイトでは“さなえ”となり、他の客のテーブルについたりする。そのことを想像すると仁志はなにかモヤモヤしたものを感じてしまう。
別に郁人が誰と付き合おうと、誰を好きになろうと仁志には関係のないことのはずである。
でも、心のどこかでぶつけようのないもどかしさを感じて仁志は表面上の笑顔を取り繕っていた。
◇
放課後、家に帰った仁志は貯金箱の中身を見た。中学時代からコツコツと貯めていた貯金。
別に使う予定などない。銀行に預けておけば多少なりとも利息はもらえるが、それでも災害時には現金の方が役に立つため、万一の時に備えて貯めていた金である。
仁志は貯金箱の底にあるツマミをひねって、中身を確認する。
ジャラジャラと小銭が大量に出てくる。中には500円玉が結構な枚数入っていた。
この500円玉を数枚取り出して、仁志はサイフの中に入れる。
サイフの中の金額と合わせても「Honey Pot」に行くには十分な金額はある。
「今月……結構出費が痛いな……」
仁志はサイフをポケットに入れて、さなえが待つ店へと歩き出した。
「いらっしゃいませー」
例によって男の娘店員に出迎えられる仁志。席に案内されると仁志は2回目の来店ということで指名ができるようになっていた。
「お客様。本日はキャストのご指名しますか?」
「はい。さなえちゃんでお願いします」
仁志は少し恥ずかしい気持ちがありながらも、さなえを指名した。しかし、店員は眉をひそめた。
「ごめんなさい。さなえちゃんは今、他のテーブルに入っているので少しお待ちいただくと思います。その間は別の子をお呼びしますね」
さなえが他のテーブルについていることに仁志は落ち込んでしまった。しかし、その間に他の子が入ってくれるとのことだった。
仁志が待っていると、これまたかわいい男の娘がやってきた。背は低くて華奢で本当に言われなければ、女子中学生くらいにしか見えないような子である。
それでもこのコンカフェにいるということは働ける年齢ということで、仁志より同年代以上ということである。
「はじめまして。おにいさん。わたしはこまりと言います。よろしくおねがいします」
「あ、どうも……こまりさん」
「あはは。そんな硬くならなくてもいいよ。別にとって食べたりなんてしないんだから。まあ、食べられたいなら話は別だけどねえ」
こまりは小悪魔な笑みを浮かべて仁志を挑発している。その雰囲気に当てられて、仁志も一瞬くらっとする感覚に襲われた。
「ねえねえ、おにいさんって結構若そうだけど、歳はいくつなの? よかったら教えて?」
「えっと……まだ高校生です」
「わー。高校生だって。わかーい。わたしよりも年下じゃん。あ、わたしは一応大学生だよ。あ、でも別にそんなかしこまって敬語とか使わなくても大丈夫。ため口でも全然おっけーだから」
「あ、うんわかった」
こまりに言われて素直にため口になる仁志。こまりは口元に手を当ててくすっと笑う。その手も全然ごついという感じはしなくて、小さくて繊細なものである。
「ねえ。おにいさん。どこで男の娘にハマったりしたの?」
「えっと……」
「2回目の来店ってことは、しっかりと男の娘が好きってことだよね? やっぱり、アニメとか漫画とかの影響?」
こまりは仁志が男の娘にハマっている前提で質問をする。でも、仁志はそういう沼にハマっている自覚のようなものはなかった。
「ああ……その、彼女にフラれて、その寂しさを埋めるためにこの店に来たのがきっかけみたいな」
仁志はこの店に来た経緯を説明した。こまりは「うんうん」とうなずいている。
「そっか。彼女さんにフラれたんだね。なるほど。それで女の子はもう信じないって気持ちになっちゃった?」
それを言われると仁志は否定できない。希子にフラれた直後は、彼女と一緒に買ったおまもりを引きちぎって投げ捨てるくらいには腹が立っていた。
実際に、女子はもう信じないとすら思っていた気持ちもあった。
でも、心が落ち着いた今となっては、別にこれからも女子と付き合うことに全く抵抗がない。むしろ、いくら女装しているとは言え、男子と付き合う方が抵抗があるように思える。
「んー? どうなの? 正直に言ってごらんよ」
「それは……わからない。まだフラれてそんな時間が経ってないし、初めての彼女だったし、次の彼女にもフラれたらそう思っちゃうかも」
「うんうん。若者よ。そうやって恋愛で悩むと良い。若い内に傷つくことは大切なこと。歳を取ってからじゃ遅いこともあるからね」
大学生のこまりが語っている。たしかに仁志よりも年上ではあるが、こまりもまだまだ若い年齢である。
「あ、ちょっと待ってね」
こまりは装着しているインカムに手を当ててその内容を聞いている。
「もうすぐ、さなえちゃんが空くみたい。それじゃあ、わたしは一旦退散するね。じゃあね~」
「あ、はい。じゃあ、また」
こまりは手を振りながら去っていった。こまりが去って十秒も経たない内にさなえが仁志のテーブルへとやってきた。
「風見君。お待たせ。来てくれたんだ」
「あ、うん。どうしても、さなえちゃんに会いたくて」
「そっか……まあ、来てくれたんだから、いっぱいお話しようね」
さなえは仁志のテーブルに付いた。そこで会話を始める。
「ねえ、風見君。お金とか大丈夫なの? この店って結構高いよ。高校生のお小遣いで何度も通えるようなところじゃないし」
「あーそうだなあ。貯金を切り崩してきた」
さなえは手で口元を抑えて目を見開いて驚く。
「そ、そんなに!? すごいね。でも無理はしないでね」
「うーん……俺もバイトしようかな」
「ここで?」
「いやいや。俺はさなえちゃんと違って女装はできないよ。顔見てみろ。別に中性的でもないし」
郁人は中性的で元々の素材が良かったからすぐに女装に適応することができた。しかし、仁志は普通に誰がどう見ても男子という顔をしているので女装には向いてないと思った。
「うーん。そうかな。風見君は結構メイクしたら化けると思うけどな。ふふ。わたしがやってあげようか?」
「い、いいよ。別に。そんな女装に興味があるわけじゃ……」
「えーいいじゃん。わたしも同じ学校に女装仲間は欲しいし、一緒に働けたら楽しいと思うよ」
さなえは仁志もこの店で働くように勧めてくる。しかし、仁志はそれを断固として拒否したい。
「俺はこういう特殊なバイトじゃなくて、普通のコンビニとかファミレスとかでバイトしたいの」
「ふーん。そっか。まあ、無理にとは言わないよ。でも、女装に興味があったら言ってね」
「なんでだよ」
「わたしだって、普通の男の子を女装させてかわいくしたいって思う時だってあるし」
さなえはけらけらと笑いながら語る。これでもプライベートでは女装する機会がなかったのである。
でも、心は女装に対する適正は既にあった。仁志がきっかけを与えたことで、さなえも気兼ねなくプライベートで女装ができるようになったのだ。
「別にかわいくするだけだったら、女子相手にメイクやるでもいいだろ」
仁志は心の中で「希子もいることだし」と付け加えた。
「うーん。でも、女の子のメイクと女装メイクはやっぱり違うし、女装コーデだって女の子の服をまるまる着れるわけじゃないからね。かわいいと思った服でも体型が出ちゃうような服は着れないし。どうしても女子とは骨格が違うし」
仁志も実際に経験したわけではないから、よくわからないが、女装子も大変だなと思うのであった。
仁志は郁人を誘ってみる。郁人は肩を落とし寂しそうな表情を見せた。
「ごめん。今日はバイトなんだ」
「そっか。それなら仕方ないか」
仁志も郁人のバイトには理解を示している。だから、それで遊べなくなるのは仕方のないことだと割り切ろうとした。
しかし、郁人もバイトでは“さなえ”となり、他の客のテーブルについたりする。そのことを想像すると仁志はなにかモヤモヤしたものを感じてしまう。
別に郁人が誰と付き合おうと、誰を好きになろうと仁志には関係のないことのはずである。
でも、心のどこかでぶつけようのないもどかしさを感じて仁志は表面上の笑顔を取り繕っていた。
◇
放課後、家に帰った仁志は貯金箱の中身を見た。中学時代からコツコツと貯めていた貯金。
別に使う予定などない。銀行に預けておけば多少なりとも利息はもらえるが、それでも災害時には現金の方が役に立つため、万一の時に備えて貯めていた金である。
仁志は貯金箱の底にあるツマミをひねって、中身を確認する。
ジャラジャラと小銭が大量に出てくる。中には500円玉が結構な枚数入っていた。
この500円玉を数枚取り出して、仁志はサイフの中に入れる。
サイフの中の金額と合わせても「Honey Pot」に行くには十分な金額はある。
「今月……結構出費が痛いな……」
仁志はサイフをポケットに入れて、さなえが待つ店へと歩き出した。
「いらっしゃいませー」
例によって男の娘店員に出迎えられる仁志。席に案内されると仁志は2回目の来店ということで指名ができるようになっていた。
「お客様。本日はキャストのご指名しますか?」
「はい。さなえちゃんでお願いします」
仁志は少し恥ずかしい気持ちがありながらも、さなえを指名した。しかし、店員は眉をひそめた。
「ごめんなさい。さなえちゃんは今、他のテーブルに入っているので少しお待ちいただくと思います。その間は別の子をお呼びしますね」
さなえが他のテーブルについていることに仁志は落ち込んでしまった。しかし、その間に他の子が入ってくれるとのことだった。
仁志が待っていると、これまたかわいい男の娘がやってきた。背は低くて華奢で本当に言われなければ、女子中学生くらいにしか見えないような子である。
それでもこのコンカフェにいるということは働ける年齢ということで、仁志より同年代以上ということである。
「はじめまして。おにいさん。わたしはこまりと言います。よろしくおねがいします」
「あ、どうも……こまりさん」
「あはは。そんな硬くならなくてもいいよ。別にとって食べたりなんてしないんだから。まあ、食べられたいなら話は別だけどねえ」
こまりは小悪魔な笑みを浮かべて仁志を挑発している。その雰囲気に当てられて、仁志も一瞬くらっとする感覚に襲われた。
「ねえねえ、おにいさんって結構若そうだけど、歳はいくつなの? よかったら教えて?」
「えっと……まだ高校生です」
「わー。高校生だって。わかーい。わたしよりも年下じゃん。あ、わたしは一応大学生だよ。あ、でも別にそんなかしこまって敬語とか使わなくても大丈夫。ため口でも全然おっけーだから」
「あ、うんわかった」
こまりに言われて素直にため口になる仁志。こまりは口元に手を当ててくすっと笑う。その手も全然ごついという感じはしなくて、小さくて繊細なものである。
「ねえ。おにいさん。どこで男の娘にハマったりしたの?」
「えっと……」
「2回目の来店ってことは、しっかりと男の娘が好きってことだよね? やっぱり、アニメとか漫画とかの影響?」
こまりは仁志が男の娘にハマっている前提で質問をする。でも、仁志はそういう沼にハマっている自覚のようなものはなかった。
「ああ……その、彼女にフラれて、その寂しさを埋めるためにこの店に来たのがきっかけみたいな」
仁志はこの店に来た経緯を説明した。こまりは「うんうん」とうなずいている。
「そっか。彼女さんにフラれたんだね。なるほど。それで女の子はもう信じないって気持ちになっちゃった?」
それを言われると仁志は否定できない。希子にフラれた直後は、彼女と一緒に買ったおまもりを引きちぎって投げ捨てるくらいには腹が立っていた。
実際に、女子はもう信じないとすら思っていた気持ちもあった。
でも、心が落ち着いた今となっては、別にこれからも女子と付き合うことに全く抵抗がない。むしろ、いくら女装しているとは言え、男子と付き合う方が抵抗があるように思える。
「んー? どうなの? 正直に言ってごらんよ」
「それは……わからない。まだフラれてそんな時間が経ってないし、初めての彼女だったし、次の彼女にもフラれたらそう思っちゃうかも」
「うんうん。若者よ。そうやって恋愛で悩むと良い。若い内に傷つくことは大切なこと。歳を取ってからじゃ遅いこともあるからね」
大学生のこまりが語っている。たしかに仁志よりも年上ではあるが、こまりもまだまだ若い年齢である。
「あ、ちょっと待ってね」
こまりは装着しているインカムに手を当ててその内容を聞いている。
「もうすぐ、さなえちゃんが空くみたい。それじゃあ、わたしは一旦退散するね。じゃあね~」
「あ、はい。じゃあ、また」
こまりは手を振りながら去っていった。こまりが去って十秒も経たない内にさなえが仁志のテーブルへとやってきた。
「風見君。お待たせ。来てくれたんだ」
「あ、うん。どうしても、さなえちゃんに会いたくて」
「そっか……まあ、来てくれたんだから、いっぱいお話しようね」
さなえは仁志のテーブルに付いた。そこで会話を始める。
「ねえ、風見君。お金とか大丈夫なの? この店って結構高いよ。高校生のお小遣いで何度も通えるようなところじゃないし」
「あーそうだなあ。貯金を切り崩してきた」
さなえは手で口元を抑えて目を見開いて驚く。
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「ここで?」
「いやいや。俺はさなえちゃんと違って女装はできないよ。顔見てみろ。別に中性的でもないし」
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「うーん。そうかな。風見君は結構メイクしたら化けると思うけどな。ふふ。わたしがやってあげようか?」
「い、いいよ。別に。そんな女装に興味があるわけじゃ……」
「えーいいじゃん。わたしも同じ学校に女装仲間は欲しいし、一緒に働けたら楽しいと思うよ」
さなえは仁志もこの店で働くように勧めてくる。しかし、仁志はそれを断固として拒否したい。
「俺はこういう特殊なバイトじゃなくて、普通のコンビニとかファミレスとかでバイトしたいの」
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「うーん。でも、女の子のメイクと女装メイクはやっぱり違うし、女装コーデだって女の子の服をまるまる着れるわけじゃないからね。かわいいと思った服でも体型が出ちゃうような服は着れないし。どうしても女子とは骨格が違うし」
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