毒親転生~後にラスボスになる運命の娘を溺愛したら異常すぎるほど好かれてしまった~

下垣

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第98話 拗ねるイーリス

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 アルドたちが道なりに歩いていくと、行き止まりにぶち当たった。

「行き止まり? 他に道はわかれていたっけ?」

 イーリスがきょろきょろと周囲を見回している。一方でミラは上を見上げる。

「イーリスちゃん。道は続いているみたいだ。上を見て」

 ミラの言葉に一同が上を見上げる。そうすると行き止まり地点の上には天井がなかった。ここから先は上へと向かっていくようである。

「なるほど。水中だからこそ、発想を三次元的にして進まないといけないってことか。ちょっとこの先の様子を僕が見てくる」

 アルドは水中で上昇をして上へと向かって行く。すると上の方に水面が見えた。アルドは水面に顔を出してみた。

「ぷはあ! ここは……」

 地中の中にある空洞。水が全て入ってるわけではない箇所でここでなら、魔法を使わずとも息をすることができる。周囲に邪霊の気配を感じていないアルドはここを安全地帯としてイーリスたちを呼びに戻る。

「みんな! 上は安全みたいだ」

 アルドにうながされて、みんなが上へと向かって行く。ミラの光源魔法で水面より上が映し出されると、陸地が見えた。

「一旦、この陸地に腰を下ろして休憩しよう。マナの消耗を抑えつつ、体力の回復をはかろう」

 ミラの言葉に一同が賛成して水からあがる。ざばぁんと水音を立てて全員が陸地へと腰かけた。

 陸地と言っても地面は湿っていて、滑りやすくなっていて危ない。

「イーリス。滑らないように気を付けて」

「はーい」

 アルドの注意を素直に聞いてイーリスはその場にちょこんと座った。この陸地を一旦休憩地点として体力が回復したら一同はまたダンジョンの奥地へと進もうとした。その時だった。

「うぅ……」

 どこからともなく女性の声が聞こえてきた。その声は洞窟内に響き渡っているが、声の感じからして近くにいると予想できる。

「誰かいるのか?」

 女の声。その声の主に会ったことはないが心当たりはある。ハワード領のダンジョンは基本的にリナルドしか攻略をしない。だから、ディガーがここに入りこむことはありえないことだった。

 この女がディガーでないとするのであれば、手持ちの情報で考えると答えは明白であった。

「もしかして防具鍛冶の女?」

 イーリスの発言にみんながうなずく。

「この近くを探そう。クララとイーリスちゃんはここで待っていてくれ。アタシとアルドさんで探す」

 ミラが動き出す。アルドもそれに続いた。

 湿っていて滑りやすくなっている岩。ところどころコケも生えていて、足場がとても悪い。そんな状態をアルドとミラが進んでいく。

「ミラ。足元に気を付けてな」

「うん……うわ……」

 ミラが足を滑らせる。すかさず、近くにいたアルドがミラの体を抱き支えた。

「ミラ。大丈夫か?」

「ああ。すまない。アルドさん。ちょっと油断した」

 そんなアルドとミラの様子をクララとイーリスが遠目で見ていた。

「あーあ。ミラったら、転んで怪我しても知らないんだから。邪霊からの霊障じゃなければ、魔法で治せないのに」

「むー……」

 イーリスはアルドの抱き支えられたミラを見て頬を膨らませた。ミラもわざとやったわけじゃないことはわかっているものの、大好きなアルドに支えられているミラを見ると心がもやもやとする。

「うぅ……」

 女の声が近づいてくる。アルドとミラは警戒しながら先へと進んでいく。すると、遠目で岩に隠れている人影が見えた。

「あそこだ! ミラは待っていてくれ」

 アルドが戦闘に立ってゆっくりと人影に向かって忍び寄る。そして、人影が差し込んでいる岩の向こう側を覗いた。

「わ、わあ!」

「どうしたアルドさん!」

 アルドはすぐに引き返した。秒で目を背けて、なにやら慌てた様子で歩き、すってんと転んでしまう。

「あいだ!」

「アルドさん!?」

 転んだアルドを見てミラも驚く。アルドがここまで慌てるなんて岩の奥にはなにがったのか。それは気になるところではあるが、ひとまず転んだアルドの方が心配である。

 ミラは自分も転ばないように慎重に歩きながらアルドの傍まで行く。

「アルドさん。大丈夫?」

「大丈夫。ちょっと膝を擦りむいただけ。血は出ていない」

「そっか。良かった。それより、アルドさん。一体岩の奥でなにを見たんだ?」

 ミラに問いただされてアルドは思わず視線をそらしてしまう。

「そ、その……不可抗力と言うかなんというか……」

「?」

「ミラ。彼女の手当てを頼む」

「あ、ああ。女はとりあえず怪我しているんだな……?」

 アルドはそれ以上なにも言わなかった。ミラは応急手当の道具を持ちながら、岩の奥を覗き込んだ。するとそこにいたのは……

「なるほど……」

 服がビリビリに破けた女の姿があった。辛うじて、センシティブなところは隠れているものの、胸も谷間のあたりが見えるし、スカートも敗れてパンツも見える状態であった。

 少なくとも女性にとっては男性に見られて嬉しい状況ではないことは確かであった。

「これは邪霊による霊障ではないな」

 邪霊による霊障ならば、魔法でなんとかなる。しかし、そうでないのならば、物理的な手当てが必要である。ミラは冷静に応急手当を試みた。打撲の痕はあるが出血まではしていない。女はまだ息をしていている状態であるため死んではいない。

「アルドさん。クララを呼んできて。手伝って欲しい」

「あ、はい」

 女の状況を見るにアルドに手伝えることはない。アルドはクララのいるところに戻った。

「クララ。ミラが呼んでいる。どうやら女は怪我をしているらしい。応急手当を手伝ってくれと」

「わかった。でも、アルドさんは手伝わないの?」

「その……まあ、僕は手伝える状態じゃなかった」

「?」

 クララはアルドの発言に疑問を覚えるも、ミラが呼んでいるとのことでミラのところへと向かった。クララと入れ替わる形でアルドはイーリスの傍に座る。

「イーリス。とりあえず防具鍛冶の女らしき人は見つかった。彼女の状態を見るにこれ以上のダンジョンの探索は無理だ。一旦、地上に戻ることになると思う」

「ふーん。そうなんだ」

 イーリスはアルドを横目て見ている。その目はアルドが今までみたことがないくらいに冷たいものであった。

「イーリス? どうかしたか? 調子でも悪いのか?」

「別に……」

 イーリスの急な冷たい態度にアルドはショックを受けてしまう。もしかして、急に反抗期というものがやってきたのではないかと父親として複雑な気持ちになる。

 娘の反抗期は成長している証でもあるので、喜ばしいことでもあるが、やっぱり父親としては娘にはできるだけ嫌われたくないものである。

「あー。イーリス。なにか悩みがあるんだったら、ミラかクララに言ってみるといい。お父さんには言えないようなこともあるだろ?」

「…………ふーん」

 イーリスはまだすねていてアルドに冷たい態度を取っている。とりつくしまもない状態でアルドは弱ってしまう。

「アルドさん! 女の手当は終わった。とりあえず応急的なものだから、ちゃんとした医者に診てもらう必要はある」

 ミラがアルドにそう語り掛ける。布を被されてボロボロの服と体を隠された女はクララに背負われていた。

「クララ。大丈夫? 僕がその女を運ぼうか?」

 さすがに女子に人体という重いものを背負わせるわけにはいかないとアルドは気を遣った。

「いや、大丈夫。アルドさん。私これでも鍛えているからね」

「そっか」

 クララの身体能力はアルドも知っているところである。でも、女性に重いものを背負わせるのは男性としてどうかと思っての提案であった。

 そして、アルドたち女を担いで運び、一旦ダンジョンから脱出した。
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みんなの感想(3件)

伊予二名
2024.08.09 伊予二名

五話。オリジナル主人公さんは本当はいいヤツだった?だとしたら諸悪の根源は汚嫁と間男か?これはザマァが待たれる

解除
伊予二名
2024.08.09 伊予二名

四話。いや体見たらアザだらけじゃないの?てか衣料店の店員さんどこに目をつけてんのw

解除
まー
2024.08.07 まー

82話が投稿されてませんがミスですかね?

下垣
2024.08.07 下垣

すみません
予約投降の設定がミスってました
ご指摘ありがとうございます

解除

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