上 下
86 / 101

第83話 防具鍛冶の手がかり

しおりを挟む
 その場に膝から崩れ落ちたルーファウスをアルドがなんとか起こして、ひとまず落ち着かせた。

「とりあえず、ボスは倒した。ここのダンジョンはもう解放されて邪霊の危険は去った」

「よ、良かった……」

 アルドの説明を受けてルーファウスはホッと胸をなでおろした。その間にミラたちがこのダンジョンに封印されていた精霊と話をつけていた。

「お。おお! な、なんだこれは……!」

 ルーファウスの体の底から急激に力がみなぎってくる。それに驚いて気持ちを高揚させる。

「精霊はもう行ったみたい。とりあえず、アルドさんの武器とルーファウスのマナの底上げもしてくれたみたい」

「ありがとうミラ」

 一応はボス戦に参加していたルーファウスも精霊にとってはマナを底上げする報酬を与える対象であった。ダンジョンをクリアしたアルドたちはディガー協会へ事の顛末を報告して、ダンジョンの攻略は完了した。

「それじゃあ……オレはこれにて失礼する」

「待ってくれ。ルーファウス。まだキミの分の報酬を分け与えていない」

 その場から立ち去ろうとするルーファウスをミラが呼び止める。

「報酬もなにも、あれだけ迷惑をかけて醜態を晒したオレに報酬を受け取る資格なんてないですよ」

 ルーファウスは自嘲気味に言葉を吐く。アルドはそんなルーファウスを心配そうに見ていた。

「しかし、僕はルーファウス君から盾を譲り受けている。これだって手に入れるのにタダだったってわけではないはずだ。せめてその分の代金でも受け取ってくれないか?」

 結局、ルーファウスの持っている盾はアルドが引き取ることにした。この盾は処分するか、手にしても問題ないアルドが引き取るかの2択しかない状態であったために、自然な流れで手に入ったのだ。

「いえいえ。むしろそんないわくつきの盾をタダで引き取ってもらえるのはこちらとしてもありがたいです。装備を廃棄するのにも処分費用がかかりますからね」

 初めて会った時の高慢な態度とはうって変わってすっかり腰が低くなってしまったルーファウスに4人は調子を狂わされてしまっている。

「しかし、それではキミが今後ディガーとして活動していくのにも困るだろう。代わりの防具を作るための素材くらいは渡しておく」

 今回はアルドが素材の採掘に大幅に時間をかけたことで、かなりの量の素材を集めることができた。ミラ、クララ、イーリスの分の装備を一新してもお釣りが出るほどの量は十分すぎるほどある。

「そのことなんですけど……オレ、ディガーを続けようかどうか迷っているんです」

 ルーファウスの言葉に4人が言葉を失った。諸事情で引退するディガーは多いが、ルーファウスは本人の精神性はともかく、パーティの盾役として機能するほどのポテンシャルは十分に秘めている。盾役はパーティの要なので、それなりに需要はある。ここで引退するのは非常にもったいないことである。

「そうか。それも1つの人生だな。でも、迷っているだけでまだ確定でやめるというわけではないんだよね?」

 アルドがルーファウスに問いかける。ルーファウスはコクリとうなずいた。

「それならば、一応素材だけは持っていくと良い。もし、続ける気があればそれで新しい装備を作ればいいし、続ける意思がないのであればその素材を売って新しい生活の足しにすればいい。どっちにしろ持っていて損はないはずだ」

 アルドの言葉に強情であったルーファウスもついに折れてしまい、アルドが差し出した素材を手に取る。

「そうですよね。わかりました。この素材はまた1から再出発するのに使います。それとアルドさん。あの防具鍛冶の話をしてもいいですか?」

 ルーファウスは、かつて防具鍛冶について語ろうとしていた。その時に出た情報として有用なものは、その防具鍛冶はハワード領という場所にいたこと。それと、女性であるという2つの情報だ。

「ああ、詳しく聞かせてくれ」

 アルドとしても、これ以上の犠牲者を出したくないと思っている。もし、防具鍛冶を見つけることができたのならば、防具の製造をやめさせなければならない。

「その防具鍛冶は場所を点々としているみたいで、過去にはこの近辺の街にいたそうです。そして、最近では防具の素材が良く取れるという理由でハワード領にあるダンジョン近くに拠点を構えているんです」

「なるほど。ハワード領にあるダンジョンか。どのダンジョンだとかそういう情報はあるのか?」

「さあ、あそこはダンジョンの激戦区ですからね。なにせ、あそこには辺境伯リナルドがいますから。彼の武芸は右に出るものはいないと評されているほど。弱い邪霊が寄り付かないからこそ、質の高い素材が手に入るというわけです」

 そこにいるディガーが強ければダンジョンの難易度が上がってしまう。それはアルドたちも経験したことである。強いダンジョンが多くある地域というのはそれだけの猛者がいる証拠なのだ。

「辺境伯リナルド。確か、彼にはご子息がいたな。まだ6歳と幼いながらも大人顔負けの剣術の腕を持っている。名前は……確かエミリオと言ったかな」

 ミラの言葉にイーリスの表情が暗くなった。エミリオ。その名が出た瞬間にイーリスは全身を針で刺されたような感覚に陥る。

「イーリス?」

 アルドはすぐにイーリスの表情の変化に気づいた。イーリスはすぐに平静を取り戻そうと首を横に振った。

「ううん、お父さん。なんでもないの」

「そうか。それならいいんだ」

 娘のことが心配ではあるが、本人がなんでもないと言っている以上は、それ以上深入りしすぎるのもよくない。父親と娘の距離感というのは案外難しいもので、アルドは歯痒い思いをしてしまう。

「それじゃあ、そろそろオレは行きます。またどこかで会えると良いですね」

「ああ。またな。ルーファウス君」

 ルーファウスは別れを告げて、その場を去った。残されたアルドたちは今後の方針を決めることにした。

「アルドさんはハワード領にいくつもりか?」

 ミラの問いかけにアルドはうなずいた。

「正直言って僕は防具の製造はやめさせるべきだと思う。ルーファウス君もたまたま間に合ったからよかったけれど、もし、僕たちと出会わなかったらどんな末路になっていたかわからない」

 クララとミラもうなずいた。

「その防具鍛冶の目的もわからないからね。もし、知らず知らずの内に防具を作って売っているんだとしたら、事情を話せば止めてもらえるかもしれない」

「まあ、クララの仮説は希望的観測だな。事情を知らずに邪霊装備を無毒化させないのはありえない。でなければ、防具を作っている当人が防具に触ってマナの器を壊しているはずだ。恐らく防具鍛冶の女とやらは知っていて防具をバラまいているんだ」

 ミラが現実的な話をする。知っていて防具をバラまいているとするならば、真実を話して止めさせるという解決方法は使えない。となると――

「力づくで解決するしかないか」

 アルドの言葉に一同は真剣な表情をする。人と争ってでも止めなくてはならないことがある。その覚悟を“3人”はしていた。ただ“1人”を除いて。

「お父さん。私……ハワード領に行きたくない」

「え?」

 いつもはアルドが向かう先に率先してついていくイーリスではあるが、今回に限って行きたくないと言い始めたのだ。かつては戦う力も持たずにダンジョンに同行したいと我を通そうとしたイーリスらしくないその発言にアルドは驚いてしまう。

「イーリス。それはどうしてだ?」

「なんかうまく言えないけれど……私がハワード領に行くと悪い予感がするの」

 本来の歴史であれば、イーリスは魔女になり勇者に討伐される。その歴史はアルドが記憶を失い別の人格が入ることで修正された。だが、変わったのはイーリスが魔女になる運命だけで、勇者の誕生という運命は変わってはいない。

 邪霊の力を得た魔女を打ち払うべく存在の勇者。それはこの世のどこかで確実に生まれているのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を奪われた少女は、敵国の王を守る剣となる。

さとう
恋愛
ラスタリア王国の田舎男爵長女ラプンツェルは、妹のリリアンヌに婚約者を奪われ失意のどん底に落ちてしまう。さらに、リリアンヌの策略で戦地に送られたラプンツェルは、敵国であるラグナ帝国の皇子カドゥケウスが率いる『狂犬部隊』に襲撃される。 命の危機を感じたラプンツェルは、自分に問う。 このままでいいのか。なぜ、こんな目に合うのか。 ラプンツェルは、カドゥケウスに願う。 「お願い、ラスタリア王国を滅ぼして……」 煌めく銀髪、燃えるような灼眼に興味を持ったカドゥケウスは告げる。 「気に入った。お前、俺の傍にいろ」 ラスタリア王国を捨て、ラグナ帝国の皇子の傍で、ラプンツェルは変わっていく。 これは、敵兵の少女と、次期皇帝の青年との物語。

転生王女は世界ランキング1位の元廃ゲーマー ~一生Lv1固定が確定しちゃってても、チート級な知識の前にはそんなの関係(ヾノ・∀・`)ニャイ

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 先日15歳を迎えたファンダール王国の第18王女アイラ。彼女の母は平民であったがために、ほとんどの血縁者だけでなく王家に関わる者たちから疎まれ続けていた。  そのアイラは15歳を迎えた者が挑まなければならない『王家の試練』に挑む。が、崩落事故に巻き込まれダンジョンの最奥でたった一人となってしまう。だがその事故の衝撃で前世を思い出した。  と同時に、今自身の生きている世界が、前世でやり込んでいたゲームである『ルナティック・サーガ』シリーズの世界だと気づく。そして同時にアイラは転生時に女神から与えられたとある効果により、Lvを1から上げることが出来ないことも気がつく。  Lvは1固定、ダンジョンの奥底でたった1人、しかもそこは全滅必至なダンジョンだと知ってもいる。どう考えても絶望的な状況……  そう、それはアイラが普通の人間であったのでなら、の話である。 「なんだ、低レベルソロ縛りの真似事をすればいいだけね。そんな縛りじゃ目を瞑ってもクリア出来るわよ。しかもレギュレーション違反もない、裏技もバグ技も何でも使い放題、経験値分配も気にする必要なし……って、やりたい放題じゃん!」  しかし、そんな絶望的と思われる状況もアイラにとっては、10万を軽く超える時間プレイし、何京回と経験済みで何万回とクリアした制限プレイの中の一つのようなものでしかなかった。  これは普通にゲームを楽しむことに飽き足らず、極限の状況まで自らを追い込むことで、よりゲームを楽しんでいた世界ランキング1位の廃ゲーマーが、そのチートと呼ばれても遜色のない極悪な知識を惜しげも無く使い、異世界生活を悠々自適に過ごす物語である。

【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが

Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした─── 伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。 しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、 さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。 どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。 そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、 シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。 身勝手に消えた姉の代わりとして、 セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。 そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。 二人の思惑は───……

【R18】「お前を必ず迎えに行く」と言って旅立った幼馴染が騎士団長になって王女の婚約者になっていた件

望月 或
恋愛
辺境の村に住む少女リュシルカは、幼馴染のホークレイとは友情以上恋人未満だが、恋人のように仲睦まじく過ごしていた。 ある日、ホークレイが「為すべきことがある」と告げ、遥か遠くの城下町に旅立ってしまう。 「必ず迎えに行く。待っていてくれ」の言葉を残して。 六年後、リュシルカの出生に関して王に登城命令をされてしまった彼女は、王城へと向かう。 そこにいたのは、六年前に別れた、国の騎士団長となったホークレイだった。 すぐ隣には、仲睦まじそうに腕を組んで寄り添う王女の姿が。彼女とホークレイは“婚約者”となっていたのだ。 そしてホークレイは、憎しみの込めた目をリュシルカに向けた―― ※Rシーンには、タイトルの後ろに「*」をつけています。 ※タグを御確認頂き、注意してお読み下さいませ。少しでも不快に感じましたら、どうかそっと回れ右をお願い致します。

潰れかけの商店街は、異世界の力で大復活!の予定でしたが...復活が遅れています!欠損奴隷や娼館落ちのエルフに出会ったら、先に助けますよね?

たけ
ファンタジー
 突然亡くなった親父が残した錆びれた精肉店。このまんま継いでも余計、借金が増えるだけ。ならいっそ建物をつぶして、その土地を売ろうとえ考える。  だが地下室の壊れた保冷庫から聞こえる謎の音。ひかれるように壊れた保冷庫の扉を開けると、そこは異世界につながっていた。  これは異世界から魅力あふれる品物や食品を持ち込み、異世界で知り合った仲間と共に、自分のお店や商店街全体を立て直していく物語。  物語の序盤は、違法奴隷や欠損奴隷、無理やり娼館で働かせられているエルフや人族、AV出演を迫られている女性などを助けていく話がメインです。中盤(100話以降)ぐらいからやっと、商店街を立て直していきます。長い目でお付き合いして頂けるとありがたいです。  また、この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、企業、地名などとは一切関係ありません。また、物語の中で描かれる行為や状況は、著者の想像によるもので、実際の法律、倫理、社会常識とは異なる場合があります。読者の皆様には、これらをご理解の上、物語としてお楽しみいただけますと幸いです。

転生先はアクションゲームの悪女先生でした~堅物王太子殿下とは犬猿の仲でしたがうっかり誘惑しちゃってたみたいで溺愛ルートに入ったようです~

Tubling@書籍化&コミカライズ決定
ファンタジー
9/3第一部完結です! ズキン、ズキンと頭が痛い……暗闇から目覚めると、目の前には煌びやかな世界が広がっていた。 そこは大好きなアクションゲーム「ドロテア魔法学園~unlimited~」の世界。 鏡に映っている自分は登場キャラクターの悪女先生、クラウディア・ロヴェーヌ公爵令嬢… うそでしょう?! 中身は運動部に所属していた普通の女子大学生なのに、数々の男性を誘惑してしまうクラウディア先生に転生してしまった私。 お見舞いに来た学園の理事長でもあるシグムント王太子殿下とは犬猿の仲で、顔を合わせれば嫌味の応酬…… でもなんだかお見舞いの日から殿下の様子がおかしい。 堅物で真面目で超がつくほど厳しい人なのに「怪我はないか?」と耳元で囁いてくる声がとても優しい。 てっきり嫌味を言われて嫌悪の目を向けられるのかと思っていたら…仲良くなれそう? 新たな力に目覚めたり、モフモフの可愛い生き物がいたり、こんな設定、ありました? 普通にアクションゲームの世界をクリアすればいいと思っていたのに、私が命を狙われているなんて聞いてません! さらに学園には魔の手が忍び寄ってきていてーーー 可愛い生徒達を守るのは先生の役目。 悪は根絶やしにさせていただきます! 中身は普通の女子大学生、見た目は妖艶な悪女クラウディア先生による ラブコメあり、ラッキーすけべありのファンタジーラブ開幕です こちらの作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 ※R15は保険です。 ※本文は約13万文字程度です。 ※ざまぁはなし。 ※ご都合主義の完全なる創作物なので、ゆるい目で読んでやってください。 ※健気な主人公が大好きな方は応援よろしくお願いします。 ※ラブコメ要素あり、最後はハッピーエンドです。

【完結】転生してどエロく嫁をカスタマイズした結果

そば太郎
BL
『転生してどエロい嫁をカスタマイズした 』 の続編 俺は神様のペットに殺させてしまって、そのお詫びに、どエロい嫁をカスタマイズしたい!と、欲望のままお願いしたら、雄っぱいむちむちのどエロい、嫁が出来た♡ 調教や開発を頑張って今では、雄っぱいからミルクが出るけしからんボディのフェロモンやばすぎな嫁に、なってきた♡ 愛するガチムチの嫁をもっともっと淫乱にさせたい♡ そんな嫁と俺との物語♡ 1章完結済! 章が、追加される事に更にド変態の道になっていきます。2章から注意書きが入る予定なので、キーワード確認してください! ※主人公以外の絡みあり、しかし、嫁は主人公一筋♡ ※文書能力スキルが保持してないため、すみません

【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐
恋愛
 私、リリヴァリルフィラン・フォーフィイは、領主の息子、トレイトライル様に婚約を破棄されてからは、奴隷のように使われていた。  本当は臆病な私ですが、死ぬ気で虚勢を張れば、生きていける!  そんなふうに過ごしていたある日、城で行われた舞踏会で、封印の魔法が暴走するという事件が起こる。  魔法を暴走させたのは、私の元婚約者であるトレイトライル様の新しい婚約者のフィレスレア様。  なぜそんなことをしたのか問われた彼女は、涙を流しながら「私はリリヴァリルフィラン様の我儘に耐えきれず、封印の魔法を用意したのです!」と訴え始めた。  なんの冗談でしょう。私は何も知りません。  そして、元婚約者のトレイトライル様も「その女がフィレスレアを脅したのです!」と喚き出す始末……  おかげで私は皆さんに囲まれて吊し上げ。  こんなのあり得ません……目一杯虚勢を張るのも、そろそろ限界です!  けれど、こんなところでなぶりものになって死ぬなんて嫌だ。せめて最後に復讐してやる……!  そう決意した私の手を、国王陛下の腹心とも言われる公爵家の御令息、イールヴィルイ様が握って抱き寄せた。  なぜそんなことをするのか、たずねる私を閣下は部屋まで連れ去ってしまう。  どういうつもりなのか聞いても閣下は答えてくださらないし、私を離してもくださらない。  閣下。全く怖くはありませんが、そろそろ離してくださいませんか? *ヒロインがヒーローや敵に襲われそうになる場面があります。残酷な表現があります。苦手な方はご注意下さい。R18は保険です。

処理中です...