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第79話 信頼を勝ち取る方法
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「ミラさん、クララさん。あんたらの仲間は人のものを盗むようなやつなのか?」
盾を盗まれたことで腹を立てているルーファウスがその怒りをミラとクララにぶつけようとしていた。
「待ってくれ。アルドさんも事情があって盾を盗んだんだ」
「事情? 人のものを盗むのに何の事情があるって言うんだ? 国によっては盗人は死罪になるんだぞ」
ルーファウスは盾を盗まれた怒りで全く聞く耳を持たないという感じで、ミラの話を聞こうともしない。この状態で事情を話しても逆効果だとミラは判断した。
「……わかった。ルーファウスの怒りも尤もだ。とりあえず、一先ずはアルドさんを追おう」
「ああ、オレ様が先頭に……」
ルーファウスが前に出ようとしたときに、膝から崩れ落ちて震えだした。
「ど、どうしたの?」
クララが心配そうにルーファウスに駆け寄った。また、なにか精神に異常をきたしたのではないかと嫌な予感がしてしまう。
「あ、あの盾がない……敵の攻撃を受けたらオレは……」
盾がなくなったせいで、敵の攻撃を防ぐ手立てがなくなってしまったルーファウスは今までのような強気な態度が取れなくなってしまった。こうなってしまっては、戦力に数えるのも難しい状態である。
クララがルーファウスを落ち着けている間に、ミラとイーリスが作戦会議を始めた。
「ミラさん。あの状態のルーファウスさんを連れまわすの? 一旦、このダンジョンがから抜け出して街に帰した方が良くない?」
「いや、このまま進もう。これは逆に好都合かもしれない。彼は今、精神的に弱っている。それをアルドさんへの怒りを強めることでごまかしているに過ぎない。こんなダンジョンの真ん中で身を守るすべを失ったから無理もない」
「そんな状態じゃあ余計に街に帰した方が良いと思う」
イーリスはルーファウスを心配そうに横目で見た。だが、ミラは少し辛そうな表情もするも話を続ける。
「精神的に弱っている人間は周囲の誰かをどうしても頼ってしまう。そして、頼った相手のことをどうしても信用してしまう。アタシたちはルーファウスを全力で護衛する。そうすれば、きっと彼も心を開いてくれる。そうしたら、アタシたちの話をまともに聞いてくれるかもしれない」
イーリスもそういう気持ちはどうしてもわかる。彼女もまた精神的に弱っていた時期があり、そこでアルドの性格が変わったことで救われたのだ。そして、今ではアルドとはべったりとくっつく甘えん坊になってしまっている。
「まあ、人の弱みにつけこむ形になるのは気分があまりいい話ではない。でも、彼を救うにはこの方法しかない。どうにかして、アタシたちの話を聞いてもらわないといけないからな」
「うん、そうだね」
考えがまとまり、このままルーファウスを連れて進むことになった。先頭をクララが歩き、その後ろをイーリスとルーファウス。背後の警戒はミラが行う隊列となる。
「た、盾がなくてもやってやる。オレは……やれるんだ」
手にしている剣を震わせながらもルーファウスは口では強気を装っている。自分よりも年下の女の子がいる状態で、守られている状況ではある。でも、ルーファウスはそれを認める気はない。
ガサゴソと茂みが動く。
「ひっ」
ルーファウスが小さく悲鳴をあげると茂みから蛇の邪霊が飛び出てきた。
「やぁ!」
クララが邪霊に思い切り蹴りを入れる。邪霊はその攻撃に怯んで、逃げ出してしまった。
「は、はは……なんだ。もう逃げだしやがったのか。オレ様の一撃で倒してやろうと思ったのにな! まあ、深追いは危険だし逃がしてやるとするか」
内心ではクララが一撃で倒してくれたことに安堵しつつもまだまだ強気を保っている。だが――
「うわあ!」
次々と邪霊が襲い掛かってくる。その度に、イーリス、クララ。ミラの3人が邪霊を撃退してルーファウスを護衛している。それが続いたころだった。
「ふう……イーリスちゃん。大丈夫? 疲れていない?」
クララがイーリスに目配せをする。イーリスは多少疲れてはいるものの、まだ余力は残している状態である。だが、クララの意図をくみ取った。
「ちょっと休憩が欲しいかも」
「わかった。それじゃあ休憩しようか」
イーリスが疲れたことを口実に休憩をすることとなった。実のところはこれ以上はルーファウスが精神的に持ちそうもないというのが本当の休憩の理由だったりする。しかし、それを口に出してしまってはルーファウスのプライドを傷つけて反感を買ってしまう可能性がある。話を円滑に進めるためにも、ここは一旦はルーファウスを立てると判断したのだ。
「ふっ、オレ様が見張りをしてやる。その間にみんなは休んでいてくれ」
自分が役立っていないことを内心わかっているルーファウスはここで少しでも役立とうと見張りを買って出る。しかし、ミラはここでルーファウスと話をするべきだと思い、引き止めようとする。
「待て。ルーファウス。見張りはクララにやってもらう。アタシはキミと話がしたい」
「オレ様と話? デートの誘いですか!?」
もう慣れたものでミラはルーファウスのこの軽薄な態度をスルーした。
「ルーファウス。調子はどうだ? さっきは錯乱状態で大変だったみたいだけど」
「あ、ああ。それなら大丈夫。むしろ調子が良すぎるくらい」
「そうか。それなら良かった」
盾を遠ざけた影響でその症状が緩和されている様子である。これならば、盾を返さなければルーファウスを救える可能性がある。
「ルーファウス。1年前にアタシたちがした冒険の話をしよう。とある集団誘拐事件が起きた。さらわれたのは子供ばかり」
イーリスも誘拐された例の事件である。
「ああ。その話ならオレも聞いたことがあります」
「その犯人は邪霊に取りつかれた女だった。女は邪霊を倒した後もまだ心が壊れていて、今でもまともに会話できる状態ではない」
「それは邪霊に取りつかれた影響なんですかね?」
普通に考えればそういう発想になる。だが、真実は違う。
「逆だ。元から心が壊れていたから、そこを邪霊につけこまれた。アタシはその事件はそれだと思っている」
「元から心が壊れていた? なにか辛いことでもあったんですかね?」
「それはわからない。女の身元も不明だ。なにせロクに会話ができてない状態だ。名前もまだわからない。だが、その女はとある防具を身に着けていた。それは危険すぎるという理由で作るのが禁止されていた防具だ」
「身を守るはずの防具が危険? それはまた妙は話ですね?」
ここまではきちんとミラの話を聞いているルーファウス。だが、ここからは言葉を間違えるとルーファウスの心証が悪くなってしまう可能性がある。
「邪霊の武器と防具の作り方を知っているか? 邪霊の素材には邪霊殻と呼ばれる殻で覆われている。その邪霊殻に覆われている内は素材に触れても大丈夫だ。しかし、その殻を壊したら、人間の精神を汚染させる毒のようなものが素材をまとってしまう。武器や防具に加工するためには、その殻を壊す必要があるんだ」
「へー。そんな仕組みになってたんですねえ。まあ、オレ様は職人じゃないから知らんけれども。でも、それじゃあ武器や防具として使えないんじゃ?」
道具を使う人間が必ずその製法や原理を知っているかとそうではない。
「ああ、だからその毒を無毒化させる必要がある。その工程をはさむと武具としての性能は落ちるけれど安全に使えるというわけだ。逆に言えば、性能が高い防具は無毒化されていない可能性がある」
ここでルーファウスの顔色が変わった。ミラが言おうとしていることが理解できたのだ。
「ルーファウス。あの盾を調べさせて欲しい。もしかしたら、あの盾は無毒化されていない可能性がある」
盾を盗まれたことで腹を立てているルーファウスがその怒りをミラとクララにぶつけようとしていた。
「待ってくれ。アルドさんも事情があって盾を盗んだんだ」
「事情? 人のものを盗むのに何の事情があるって言うんだ? 国によっては盗人は死罪になるんだぞ」
ルーファウスは盾を盗まれた怒りで全く聞く耳を持たないという感じで、ミラの話を聞こうともしない。この状態で事情を話しても逆効果だとミラは判断した。
「……わかった。ルーファウスの怒りも尤もだ。とりあえず、一先ずはアルドさんを追おう」
「ああ、オレ様が先頭に……」
ルーファウスが前に出ようとしたときに、膝から崩れ落ちて震えだした。
「ど、どうしたの?」
クララが心配そうにルーファウスに駆け寄った。また、なにか精神に異常をきたしたのではないかと嫌な予感がしてしまう。
「あ、あの盾がない……敵の攻撃を受けたらオレは……」
盾がなくなったせいで、敵の攻撃を防ぐ手立てがなくなってしまったルーファウスは今までのような強気な態度が取れなくなってしまった。こうなってしまっては、戦力に数えるのも難しい状態である。
クララがルーファウスを落ち着けている間に、ミラとイーリスが作戦会議を始めた。
「ミラさん。あの状態のルーファウスさんを連れまわすの? 一旦、このダンジョンがから抜け出して街に帰した方が良くない?」
「いや、このまま進もう。これは逆に好都合かもしれない。彼は今、精神的に弱っている。それをアルドさんへの怒りを強めることでごまかしているに過ぎない。こんなダンジョンの真ん中で身を守るすべを失ったから無理もない」
「そんな状態じゃあ余計に街に帰した方が良いと思う」
イーリスはルーファウスを心配そうに横目で見た。だが、ミラは少し辛そうな表情もするも話を続ける。
「精神的に弱っている人間は周囲の誰かをどうしても頼ってしまう。そして、頼った相手のことをどうしても信用してしまう。アタシたちはルーファウスを全力で護衛する。そうすれば、きっと彼も心を開いてくれる。そうしたら、アタシたちの話をまともに聞いてくれるかもしれない」
イーリスもそういう気持ちはどうしてもわかる。彼女もまた精神的に弱っていた時期があり、そこでアルドの性格が変わったことで救われたのだ。そして、今ではアルドとはべったりとくっつく甘えん坊になってしまっている。
「まあ、人の弱みにつけこむ形になるのは気分があまりいい話ではない。でも、彼を救うにはこの方法しかない。どうにかして、アタシたちの話を聞いてもらわないといけないからな」
「うん、そうだね」
考えがまとまり、このままルーファウスを連れて進むことになった。先頭をクララが歩き、その後ろをイーリスとルーファウス。背後の警戒はミラが行う隊列となる。
「た、盾がなくてもやってやる。オレは……やれるんだ」
手にしている剣を震わせながらもルーファウスは口では強気を装っている。自分よりも年下の女の子がいる状態で、守られている状況ではある。でも、ルーファウスはそれを認める気はない。
ガサゴソと茂みが動く。
「ひっ」
ルーファウスが小さく悲鳴をあげると茂みから蛇の邪霊が飛び出てきた。
「やぁ!」
クララが邪霊に思い切り蹴りを入れる。邪霊はその攻撃に怯んで、逃げ出してしまった。
「は、はは……なんだ。もう逃げだしやがったのか。オレ様の一撃で倒してやろうと思ったのにな! まあ、深追いは危険だし逃がしてやるとするか」
内心ではクララが一撃で倒してくれたことに安堵しつつもまだまだ強気を保っている。だが――
「うわあ!」
次々と邪霊が襲い掛かってくる。その度に、イーリス、クララ。ミラの3人が邪霊を撃退してルーファウスを護衛している。それが続いたころだった。
「ふう……イーリスちゃん。大丈夫? 疲れていない?」
クララがイーリスに目配せをする。イーリスは多少疲れてはいるものの、まだ余力は残している状態である。だが、クララの意図をくみ取った。
「ちょっと休憩が欲しいかも」
「わかった。それじゃあ休憩しようか」
イーリスが疲れたことを口実に休憩をすることとなった。実のところはこれ以上はルーファウスが精神的に持ちそうもないというのが本当の休憩の理由だったりする。しかし、それを口に出してしまってはルーファウスのプライドを傷つけて反感を買ってしまう可能性がある。話を円滑に進めるためにも、ここは一旦はルーファウスを立てると判断したのだ。
「ふっ、オレ様が見張りをしてやる。その間にみんなは休んでいてくれ」
自分が役立っていないことを内心わかっているルーファウスはここで少しでも役立とうと見張りを買って出る。しかし、ミラはここでルーファウスと話をするべきだと思い、引き止めようとする。
「待て。ルーファウス。見張りはクララにやってもらう。アタシはキミと話がしたい」
「オレ様と話? デートの誘いですか!?」
もう慣れたものでミラはルーファウスのこの軽薄な態度をスルーした。
「ルーファウス。調子はどうだ? さっきは錯乱状態で大変だったみたいだけど」
「あ、ああ。それなら大丈夫。むしろ調子が良すぎるくらい」
「そうか。それなら良かった」
盾を遠ざけた影響でその症状が緩和されている様子である。これならば、盾を返さなければルーファウスを救える可能性がある。
「ルーファウス。1年前にアタシたちがした冒険の話をしよう。とある集団誘拐事件が起きた。さらわれたのは子供ばかり」
イーリスも誘拐された例の事件である。
「ああ。その話ならオレも聞いたことがあります」
「その犯人は邪霊に取りつかれた女だった。女は邪霊を倒した後もまだ心が壊れていて、今でもまともに会話できる状態ではない」
「それは邪霊に取りつかれた影響なんですかね?」
普通に考えればそういう発想になる。だが、真実は違う。
「逆だ。元から心が壊れていたから、そこを邪霊につけこまれた。アタシはその事件はそれだと思っている」
「元から心が壊れていた? なにか辛いことでもあったんですかね?」
「それはわからない。女の身元も不明だ。なにせロクに会話ができてない状態だ。名前もまだわからない。だが、その女はとある防具を身に着けていた。それは危険すぎるという理由で作るのが禁止されていた防具だ」
「身を守るはずの防具が危険? それはまた妙は話ですね?」
ここまではきちんとミラの話を聞いているルーファウス。だが、ここからは言葉を間違えるとルーファウスの心証が悪くなってしまう可能性がある。
「邪霊の武器と防具の作り方を知っているか? 邪霊の素材には邪霊殻と呼ばれる殻で覆われている。その邪霊殻に覆われている内は素材に触れても大丈夫だ。しかし、その殻を壊したら、人間の精神を汚染させる毒のようなものが素材をまとってしまう。武器や防具に加工するためには、その殻を壊す必要があるんだ」
「へー。そんな仕組みになってたんですねえ。まあ、オレ様は職人じゃないから知らんけれども。でも、それじゃあ武器や防具として使えないんじゃ?」
道具を使う人間が必ずその製法や原理を知っているかとそうではない。
「ああ、だからその毒を無毒化させる必要がある。その工程をはさむと武具としての性能は落ちるけれど安全に使えるというわけだ。逆に言えば、性能が高い防具は無毒化されていない可能性がある」
ここでルーファウスの顔色が変わった。ミラが言おうとしていることが理解できたのだ。
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