毒親転生~後にラスボスになる運命の娘を溺愛したら異常すぎるほど好かれてしまった~

下垣

文字の大きさ
上 下
80 / 101

第77話 嫌な前兆

しおりを挟む
「それで……えーと、オレ様になにか話があるんじゃなかったのかな?」

「そうだった。一応、自己紹介しておくか。僕の名前はアルド。本業の傍らディガーをやっている。ルーファウス君。その盾は一体どこで手に入れたんだ?」

「ん? ああ、この盾ね。良いところに目をつけたねー。アルドさん。このオレ様に相応しい盾。それを特別に作ってもらったのさ!」

 ルーファウスは盾を前に突き出してアルドに自慢げに見せつけた。

「特別に作ってもらった? 誰に?」

「ハワード領に防具鍛冶がいてね。それがまた良い女なんだよ……胸も尻もデカくてね。アルドさんもそういうのは好きかな?」

 後半の部分もこっそりアルドだけに耳打ちする。しかし、ルーファウスの声は大きくて、ヒソヒソ声でも女性陣3人に聞こえてしまっていた。

「ルーファウス君。その盾は危険な盾だ」

「危険? なに言っているんだ? こんな硬くて強い盾なんて中々存在しないぜぇー? 危険どころか、むしろ安全」

「違う。そうじゃないんだ。その防具は使用するとマナの器を壊してしまう。邪霊の武具は普通はその害がないように無害化されている。けれど、その盾には無害化の措置がされていないんだ」

「へぇー」

 ルーファウスはマジマジと自分の盾を見ている。

「だから。すぐにその盾を放棄するんだ」

「それ本当か? オレ様に嘘を言ってないか?」

 ルーファウスは目を細めてアルドに懐疑的な目を向ける。

「嘘……?」

「ああ。オレ様を騙そうたってそうはいかねえぞ! オレ様のこの最強の盾を狙っているんだろ?」

「え? そんなつもりはない」

「アルドさんもこの盾が欲しければ、例の防具鍛冶に頼むんだな」

 ルーファウスはまるでアルドの言うことに耳を貸さなかった。初対面のアルドの言うことを素直に信じるわけがなかった。今まで自分の身を守ってきた盾の方が信頼できるということだ。

「まあ、このダンジョンをクリアするのはこのオレ様だ。なんだったら、一緒のパーティを組んでやってもいいぞ。まあ、4人で相談して決めてくれ」

 アルドたち4人は集まってヒソヒソ声で会議を始める。

「お父さん。どうする? あの人、あのままだと大変なことになるんじゃない?」

「そうだな。どうにかして、防具の危険性が伝わってくれればいいんだけど」

「放っておけばいいんじゃないのかな。こっちは忠告したんだからさ」

「そういうわけにもいかないさ、クララ。アタシもルーファウスはあんまり好かないタイプだけど、アイツが精神に異常をきたしたら周囲に迷惑がかかるかもしれないだろ」

 1年前の子供たちの誘拐事件。イーリスも誘拐されたその事件で邪霊に利用されていた女。彼女も無害化されていない邪霊の防具を身に着けていて、それでマナの器が壊れた。その結果、精神に異常をきたして、あのような事件が起きてしまったのだ。

「まあ、確かに……大人しく盾をこっちに渡してくれればいいのに……どっちにしろ、迷惑なやつ」

「そう言ってやるなクララ。気持ちはわかるけどな。アルドさん。アタシは一時的にでもルーファウスと組むべきだと思う。監視するためにもな」

「うん。そうだな。もし、そこでなにかしらの異常が起きても、僕たちがいればカバーすることができるかもしれない」

 4人はルーファウスと同行することを決定し、それを彼に伝えた。

「よし、それじゃあ前衛はオレ様に任せてくれ! この最強の盾があれば邪霊の攻撃なんて鳥のフンみたいなもんさ」

「それはそれで当たったら嫌だなあ……」

 イーリスがルーファウスの物の喩えに純粋な反応を示す。

「よーし、それじゃあ、みんな! オレ様についてこい!」

 ルーファウスが意気揚々と進んでいく。それに続く、クララとミラ。

「イーリス。僕が最後尾を務める。幸いにも前線は彼が張ってくれるからね。僕は背後から不意打ちされても良いようにね」

「うん。わかった」

 今までは、アルドがメインで盾を張っていて、それに次ぐ形でクララも攻撃を引き受けることも多かった。しかし、現在はルーファウスも敵の攻撃を積極的に引き付けてくれるので、アルドにかかっていた負担も減ることになる。



「ルーファウス君、ちょっと待ってくれ」

 前へ前へと進むルーファウスをアルドが止めた。

「ん? どうした? アルドさん」

「ちょっと進むペースが速すぎる」

「はぁはぁ……」

 イーリスが肩で息をしている。足場が悪い森の中だけにまだ子供のイーリスにとってはルーファウスの動きについていくのがやっとである。

「あ、ごめん。イーリスちゃん」

 ルーファウスはイーリスに頭を下げて謝った。一応は女性に対しては優しくあろうとしている彼だけにこれは失態として猛省している。

「先頭に立つ者は前だけを見るのではない。後ろの者にも気を配りながら進む。これがパーティでの鉄則だ」

 ミラがルーファウスに釘を刺した。実際、アルドは前衛に立つことが多いが、味方に女子が多いということもあって、きちんと背後には気を配っている。

「ごめんごめん。ミラさん。今までずっと1人で行動することが多かったからさ。こういう女子を連れての冒険は初めてなんだよ」

 ルーファウスは歩く速度を緩めて先へと進む。その時、人間ほどの大きさの巨大な蜂の邪霊が現れた。

「キシャアアア!」

「お! 早速、邪霊がきたな! みんな、オレ様の後ろに隠れろ!」

 ルーファウスが盾を展開して蜂の邪霊に迎え撃つ。蜂の邪霊が尻にある針を飛ばす。ビュンと飛んできたそれをルーファウスは盾に当てて弾いた。

「よし!」

 蜂の邪霊の尻からポコっと新たな針が出て来る。そして、もう1度、角度を変えてルーファウスに向かって針を飛ばした。

「ほいさ!」

 キンと針を弾く。

「へいへーい! どうした? そんな攻撃じゃオレ様の盾に傷1つすらつけることができないぜ? さあ、ミラさん! クララさん! やっちゃってください」

 自分はあくまでも防御に専念するということで、後衛に攻撃を委ねることにしたルーファウス。だが、既にミラとクララは魔法を撃つ準備をしていた。

「アイシー!」

「エレキウェーブ!」

 クララが氷魔法で蜂を冷やした後に、ミラが雷魔法で痺れさせる。その連携攻撃により、邪霊はあっと言う間に倒れてしまった。

 先のダンジョンにて、硬い邪霊を相手にしていた彼女たちにとっては、最早耐久性に劣っている邪霊など相手にならない。

「お、おお! すげえ! あんなでかい蜂を倒すなんて。流石っすねえ!」

 ルーファウスが拍手をして2人を褒めた。

「まあ、これくらいの邪霊ならば、この程度の魔法で十分だ」

 ミラはさらりと言ってのける。ルーファウスはそれに対してひたすら拍手をして持ち上げていた。

「いやー、流石ですねー。お美しい上に強い。もう完璧。言うことなし!」

 攻撃を防いだだけのルーファウスは、さらに調子づいた。

 それから、前に進み、邪霊と幾度か交戦をした一同。

「ハァハァ……そ、そろそろ休憩しない?」

 ルーファウスが息を切らしている。自分が前衛に立って攻撃を防いでいるだけ。しかし、それでも異様に疲労が溜まってる。最初の方にどんどん前に進むほどあったバイタリティがまるで感じられない。

「大丈夫か? ルーファウス君。顔色が悪いけど?」

「だ、大丈夫だ。アルドさん。大丈夫……全然、うっ……」

 ルーファウスが左胸を抑えた。そして、その場に片膝をついた。

「お、おい……!」

 アルドがルーファウスに向かって駆け寄った。

「回復魔法! 回復魔法を……!」

「いや、アルドさん。これは、邪霊による霊障じゃない。だから、アタシたちの魔法じゃ治せないかもしれない」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界から帰れない

菜花
ファンタジー
ある日、次元移動する魔物に遭遇して異世界に落とされた少女。幸い魔力チートだったので何とかして元の世界へ帰ろうとするが……。カクヨムにも同じ話があります。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

平安☆セブン!!

若松だんご
ファンタジー
 今は昔。竹取の翁というものあらずとも、六位蔵人、藤原成海なるものありけり。この男、時に怠惰で、時にモノグサ、時にめんどくさがり。  いづれの御時っつーか今、女御、更衣あまた候ひ給わず、すぐれて時めき給ふ者もなし。女御なるは二人だけ。主上が御位にお就きあそばした際に入内した先の関白の娘、承香殿女御と、今関白の娘で、新たに入内した藤壷女御のみ。他はナシ。    承香殿女御は、かつてともに入内した麗景殿女御を呪殺(もしくは毒殺)した。麗景殿女御は帝に寵愛され、子を宿したことで、承香殿女御の悋気に触れ殺された。帝は、承香殿女御の罪を追求できず、かわりに女御を蛇蝎のごとく嫌い、近づくことを厭われていた。    そんな悋気満々、おっそろしい噂つき女御のもとに、才媛として名高い(?)成海の妹、藤原彩子が女房として出仕することになるが――。  「ねえ、兄さま。本当に帝は女御さまのこと、嫌っておいでなのかしら?」  そんな疑問から始まる平安王朝っぽい世界の物語。  滝口武士・源 忠高、頭中将・藤原雅顕、陰陽師・安倍晴継、検非違使・坂上史人。雑色・隼男。そして承香殿女房・藤原彩子。身分もさまざま、立場もさまざま六人衆。  そんな彼らは、帝と女御を守るため、今日もドタバタ京の都を駆け巡り、怠惰な成海を振り回す!!  「もうイヤだぁぁっ!! 勘弁してくれぇぇっ!!」  成海の叫びがこだまする?

処理中です...