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第76話 無敵の盾使い
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ダンジョンに封印されていた精霊が出現した。緑髪で白いワンピースを着た少女があくびをする。
「ふあーあ。ああ、おはよう。やっと封印を解いてくれたんね。ありがとう」
精霊がペコリと頭を下げる。
「それじゃあ、ちゃっちゃとお礼を済ませちゃおうか」
精霊は、女性陣3人を強化して、アルドの武器も強化した。
「それじゃあね。あー忙しい、忙しい」
精霊の少女はそそくさとその場を立ち去って行った。
「なんかせわしない精霊だったね」
イーリスがぽつりとつぶやく。
「まあ、なんにせよダンジョンがクリアできて良かった。イーリスもがんばってくれたし、本当によくやってくれた。それじゃあ、ディガー協会に報告しにいこうか」
「うん!」
アルドに褒めれられてイーリスは満面の笑みを浮かべる。4人は、ダンジョンクリア報酬を受け取り、それの配分について話し合っていた頃だった。
「な、なんだって! オレ様が狙っていたダンジョンがもう解放されてしまったのかぁー!」
赤いバンダナをした黒髪の青年がダンジョンの情報誌を見てうな垂れている。
「そこそこな難易度のダンジョンだから、オレ様の出番が来たと思ったのによぉー!」
「なにあの人……」
イーリスがバンダナの青年を見て、ひそひそと話す。
「イーリス、絡まれると面倒なタイプだから、目をそらすといいぞ」
「あの高難易度のダンジョンをクリアできるのは……まさかヴァンか? アイツならクリアできたとしてもおかしくないな」
ヴァン。アルドたちが凪の谷で出会った青年である。実力者であるが故の慢心のせいでボスに敗北した苦い過去を持っている。
その後、アルドはこの青年に構うことなく、きちんと報酬を分けてそれぞれ帰宅した。
◇
ダンジョンをクリアしてから数日が経過した。修理に出していたアルドの雷神の槍も戻って来て、戦力としては万全の状態になった。
また近場にダンジョンが出来たということで、アルド、イーリス、ミラ、クララのいつもの4人がそのダンジョンに向かった。
朝霧の大森林。朝になると深い霧が出る大きな森林地帯。そこの一部がダンジョンと化したのだ。
朝霧の大森林はペガサス馬車の進路になっているが、ダンジョン化した部分は運用その進路に含まれていない。幸いにも交通には影響しなくて、進路が完全に塞がれていた凪の谷の時とは違って、そこまでクリアが急務というわけではない。
4人は朝霧の大森林の前で最終準備をしていた。所持品、武具に不備はないか、心身共に万全か。少しでも不調があれば、自分だけではなく仲間の命にも関わる。ダンジョンに入ってからでは手遅れになりかねないから重要な確認である。
「よし、みんな。準備はいいか? ここの森は深くて迷いやすい。案内板があるから、それに従って進もう」
アルドの呼びかけに3人が頷く。そして、一同は朝霧の大森林へと入っていった。
森林の中は木のせいで視界が塞がれている。物陰が多くて、どこになにが潜んでいるのか全くわからない油断ができない状況だ。
いつものようにアルドが戦闘に立つ。そして、最後尾にいるのはクララで、その間をイーリスとミラが挟む。
背後から奇襲されても良いように、信仰がアルドに次いで低いクララの出番である。
「誰かいる!」
アルドが後ろの3人に止まれとハンドサインを送る。3人はそれに従い、戦闘準備を整えた。
目の前にいたのは先日、ディガー協会にて大騒ぎをしていたバンダナの青年だった。彼の目の前には、地面から生えている植物のツタの邪霊がいる。
「戦闘中か……ちょっとだけ見守ろう」
アルドたちは様子を見ることにした。基本的に他のパーティが戦闘中はそこに割り込むのはしない方が良いとされている。邪霊を倒せば、素材となる石片が落ちる。その石片の所有権を巡って、加勢したパーティと争うことになるからである。
それは、通常時の話で、もし邪霊にやられそうであれば人命優先で救助をするのが慣例とされている。例え、後で争うことになろうとも、人が死ぬよりかはマシである。
「へへーん。こんな邪霊。オレ様のメイスで一撃で粉砕してやるぜ」
青年が独り言を言っている。そのまま青年は宣言通りに邪霊にメイスを叩きこもうとする。だが、植物のツタはくねくねと器用に動いて、青年の攻撃をかわした。
「んな!」
植物のツタは青年にカウンターをしかける。このままでは青年に攻撃がぶつかる。そう思った瞬間――
「無敵の盾!」
青年の左手に金属製の盾が出現した。その盾が植物の攻撃を弾く。
「今だ! 食らえ!」
青年が再びメイスで邪霊に攻撃を叩きこむ。強烈なその一撃で邪霊は消滅して石片を残した。
青年の左手の盾は消え去り、メイスは普通に納める。青年は石片を拾い、それを眺めている。
「この盾つええな! ははは! 特別性だかなんだか知らねえけど、最強のオレ様に相応しい盾ってことだな」
青年が高笑いをしている。だが、そんな青年を見てアルドは怪訝な表情を浮かべる。
「ミラ。盾が急に出現したけど、あれは魔法か?」
「いや。アタシはあんな魔法を見たことがない。あれは恐らく、アルドさんの武器と同じものだと思う」
アルドの武器。イノセント・アームズ。通常、邪霊の素材は武具に加工する時に人間に害があるものに変わってしまう。だから、武具の性能を抑える代わりにその害をなくすのが普通の武器であるが、アルドは特異体質であるが故にその害の影響を受けない。だから、無害化の工程を挟まない武器を使っている。それがイノセント・アームズだ。
その性質と全く同じものだと言うことは、青年が持っている盾は使い続けると所有者に害を及ぼすことになる。マナの器を破壊して、人の精神の形を変えかねない危険なもの。
あの青年がアルドと同じマナの器を持たない体質ならば問題はない。だが、もし、マナの器を持っているのであれば、それはとても危険なことである。
「流石に放っておけないか……ちょっと待ってくれ」
アルドは青年に声をかけた。青年はアルドの方を見ると、なぜか笑顔になった。
「お、おお、おおおおお!!!!!!」
わかりやすくテンションをあげて……そして、アルドの後ろに駆け抜けていく。
「やや、美しいお方たち。お名前を伺ってもよろしいですかな?」
「私はイーリスです」
「………ああ、ありがとう。お嬢ちゃん。良い名前だね。そちらのお二方のお名前は?」
クララとミラは露骨に嫌そうな顔をしている。明らかなナンパ。普通に名前を尋ねられれば答えるけれど、下心が透けて見える相手には堪えたくないと2人は思った。
「あ、これは失礼。先にこちらから名乗るのが礼儀でしたな。オレ様……こほん。ボクは、ルーファウス。史上最強のディガーです」
いかにも、キリッと効果音がついてそうなドヤ顔を決めるルーファウス。相手が名乗った以上、こちらも名乗らなければいけない空気になる。2人は渋々名乗ることにした。
「ミラだ」
「クララ……」
「ミラさんにクララさん。ああ、いいお名前だ」
うっとりするルーファウスだが、冷ややかな視線を送る女性陣たち。
「えっと。ルーファウス君だっけ? ちょっと話してもいいかな?」
「ん? ああ。おじさん、この子たちの保護者?」
「お父さんだよ」
イーリスが答える。すると、ルーファウスが急に頭を下げた。
「やや、ミラさんとクララさんのお父様でしたか」
「違うよ。私のお父さん。2人は関係ない」
「あ、なんだ。それならそうと言ってよ、もう」
元からルーファウスの言動は軽そうだと思っていた一同だったが、その軽さは予想以上のものであったと呆れてしまった。
「ふあーあ。ああ、おはよう。やっと封印を解いてくれたんね。ありがとう」
精霊がペコリと頭を下げる。
「それじゃあ、ちゃっちゃとお礼を済ませちゃおうか」
精霊は、女性陣3人を強化して、アルドの武器も強化した。
「それじゃあね。あー忙しい、忙しい」
精霊の少女はそそくさとその場を立ち去って行った。
「なんかせわしない精霊だったね」
イーリスがぽつりとつぶやく。
「まあ、なんにせよダンジョンがクリアできて良かった。イーリスもがんばってくれたし、本当によくやってくれた。それじゃあ、ディガー協会に報告しにいこうか」
「うん!」
アルドに褒めれられてイーリスは満面の笑みを浮かべる。4人は、ダンジョンクリア報酬を受け取り、それの配分について話し合っていた頃だった。
「な、なんだって! オレ様が狙っていたダンジョンがもう解放されてしまったのかぁー!」
赤いバンダナをした黒髪の青年がダンジョンの情報誌を見てうな垂れている。
「そこそこな難易度のダンジョンだから、オレ様の出番が来たと思ったのによぉー!」
「なにあの人……」
イーリスがバンダナの青年を見て、ひそひそと話す。
「イーリス、絡まれると面倒なタイプだから、目をそらすといいぞ」
「あの高難易度のダンジョンをクリアできるのは……まさかヴァンか? アイツならクリアできたとしてもおかしくないな」
ヴァン。アルドたちが凪の谷で出会った青年である。実力者であるが故の慢心のせいでボスに敗北した苦い過去を持っている。
その後、アルドはこの青年に構うことなく、きちんと報酬を分けてそれぞれ帰宅した。
◇
ダンジョンをクリアしてから数日が経過した。修理に出していたアルドの雷神の槍も戻って来て、戦力としては万全の状態になった。
また近場にダンジョンが出来たということで、アルド、イーリス、ミラ、クララのいつもの4人がそのダンジョンに向かった。
朝霧の大森林。朝になると深い霧が出る大きな森林地帯。そこの一部がダンジョンと化したのだ。
朝霧の大森林はペガサス馬車の進路になっているが、ダンジョン化した部分は運用その進路に含まれていない。幸いにも交通には影響しなくて、進路が完全に塞がれていた凪の谷の時とは違って、そこまでクリアが急務というわけではない。
4人は朝霧の大森林の前で最終準備をしていた。所持品、武具に不備はないか、心身共に万全か。少しでも不調があれば、自分だけではなく仲間の命にも関わる。ダンジョンに入ってからでは手遅れになりかねないから重要な確認である。
「よし、みんな。準備はいいか? ここの森は深くて迷いやすい。案内板があるから、それに従って進もう」
アルドの呼びかけに3人が頷く。そして、一同は朝霧の大森林へと入っていった。
森林の中は木のせいで視界が塞がれている。物陰が多くて、どこになにが潜んでいるのか全くわからない油断ができない状況だ。
いつものようにアルドが戦闘に立つ。そして、最後尾にいるのはクララで、その間をイーリスとミラが挟む。
背後から奇襲されても良いように、信仰がアルドに次いで低いクララの出番である。
「誰かいる!」
アルドが後ろの3人に止まれとハンドサインを送る。3人はそれに従い、戦闘準備を整えた。
目の前にいたのは先日、ディガー協会にて大騒ぎをしていたバンダナの青年だった。彼の目の前には、地面から生えている植物のツタの邪霊がいる。
「戦闘中か……ちょっとだけ見守ろう」
アルドたちは様子を見ることにした。基本的に他のパーティが戦闘中はそこに割り込むのはしない方が良いとされている。邪霊を倒せば、素材となる石片が落ちる。その石片の所有権を巡って、加勢したパーティと争うことになるからである。
それは、通常時の話で、もし邪霊にやられそうであれば人命優先で救助をするのが慣例とされている。例え、後で争うことになろうとも、人が死ぬよりかはマシである。
「へへーん。こんな邪霊。オレ様のメイスで一撃で粉砕してやるぜ」
青年が独り言を言っている。そのまま青年は宣言通りに邪霊にメイスを叩きこもうとする。だが、植物のツタはくねくねと器用に動いて、青年の攻撃をかわした。
「んな!」
植物のツタは青年にカウンターをしかける。このままでは青年に攻撃がぶつかる。そう思った瞬間――
「無敵の盾!」
青年の左手に金属製の盾が出現した。その盾が植物の攻撃を弾く。
「今だ! 食らえ!」
青年が再びメイスで邪霊に攻撃を叩きこむ。強烈なその一撃で邪霊は消滅して石片を残した。
青年の左手の盾は消え去り、メイスは普通に納める。青年は石片を拾い、それを眺めている。
「この盾つええな! ははは! 特別性だかなんだか知らねえけど、最強のオレ様に相応しい盾ってことだな」
青年が高笑いをしている。だが、そんな青年を見てアルドは怪訝な表情を浮かべる。
「ミラ。盾が急に出現したけど、あれは魔法か?」
「いや。アタシはあんな魔法を見たことがない。あれは恐らく、アルドさんの武器と同じものだと思う」
アルドの武器。イノセント・アームズ。通常、邪霊の素材は武具に加工する時に人間に害があるものに変わってしまう。だから、武具の性能を抑える代わりにその害をなくすのが普通の武器であるが、アルドは特異体質であるが故にその害の影響を受けない。だから、無害化の工程を挟まない武器を使っている。それがイノセント・アームズだ。
その性質と全く同じものだと言うことは、青年が持っている盾は使い続けると所有者に害を及ぼすことになる。マナの器を破壊して、人の精神の形を変えかねない危険なもの。
あの青年がアルドと同じマナの器を持たない体質ならば問題はない。だが、もし、マナの器を持っているのであれば、それはとても危険なことである。
「流石に放っておけないか……ちょっと待ってくれ」
アルドは青年に声をかけた。青年はアルドの方を見ると、なぜか笑顔になった。
「お、おお、おおおおお!!!!!!」
わかりやすくテンションをあげて……そして、アルドの後ろに駆け抜けていく。
「やや、美しいお方たち。お名前を伺ってもよろしいですかな?」
「私はイーリスです」
「………ああ、ありがとう。お嬢ちゃん。良い名前だね。そちらのお二方のお名前は?」
クララとミラは露骨に嫌そうな顔をしている。明らかなナンパ。普通に名前を尋ねられれば答えるけれど、下心が透けて見える相手には堪えたくないと2人は思った。
「あ、これは失礼。先にこちらから名乗るのが礼儀でしたな。オレ様……こほん。ボクは、ルーファウス。史上最強のディガーです」
いかにも、キリッと効果音がついてそうなドヤ顔を決めるルーファウス。相手が名乗った以上、こちらも名乗らなければいけない空気になる。2人は渋々名乗ることにした。
「ミラだ」
「クララ……」
「ミラさんにクララさん。ああ、いいお名前だ」
うっとりするルーファウスだが、冷ややかな視線を送る女性陣たち。
「えっと。ルーファウス君だっけ? ちょっと話してもいいかな?」
「ん? ああ。おじさん、この子たちの保護者?」
「お父さんだよ」
イーリスが答える。すると、ルーファウスが急に頭を下げた。
「やや、ミラさんとクララさんのお父様でしたか」
「違うよ。私のお父さん。2人は関係ない」
「あ、なんだ。それならそうと言ってよ、もう」
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