毒親転生~後にラスボスになる運命の娘を溺愛したら異常すぎるほど好かれてしまった~

下垣

文字の大きさ
上 下
63 / 101

第61話 地下室

しおりを挟む
 ミラとクララは少年を連れて、部屋の外に出た。外には見張りに立っているアルドがいて、部屋から出た三人を見る。

「もういいのか……って、誰だ? その子は?」

「この子も誘拐されていたみたいなの。運よく途中で逃げ出せたけれど、ダンジョンと化した屋敷から出ることができなくて隠れていたみたい」

 少年はクララの後ろに隠れてしまっている。さっきまでは部屋の中に邪霊の気配はなかったけれど、今は違う。いつ邪霊に襲われてもおかしくない状況にビクビクしている。

「確かにここにいる邪霊は子供にとっては脅威だな。一旦、その子を家に帰そう。攫われた他の子たちも心配だけれど、連れていくわけにもいかないだろう」

 少年はアルドに向かって身を乗り出す。

「な、ぼ、僕は平気だ!」

「平気って言ったって、足が震えているぞ。無理しなくても大丈夫。後は僕たちに任せてくれ」

「アルドさん。この子はアタシたちを誘拐犯のところまで連れていってくれるみたいなんだ」

「なんだって? それは本当か?」

 少年がコクリと頷く。その足は震えているもののアルドを真っすぐと見据えている。

「僕は助けたい友達がいるんだ!」

 少年の真剣な眼差しを見ていると、アルドも断ることができなかった。いっぱしの男には勇気を出して立ち向かわなければならない時がある。アルドは少年の気持ちを汲むことにした。

「わかった。キミのことは僕が全力で守る。だから案内してくれ」

「うん!」

 少年が大きく頷いた。

 アルドを先頭にその後ろをクララと少年。ミラが最後尾を務めることで屋敷を進んでいく。

 途中で邪霊が現れて、ミラとクララが魔法で蹴散らす。

「エレキウェーブ!」

「ウィンド!」

 弱い邪霊だったので初級の魔法でなんとか対処することができた。その鮮やかな魔法に少年が目を輝かせる。

「す、すげえ! お姉ちゃんたち、魔法使えるんだ!」

「まあね。ふふん」

 クララが鼻高々に胸を張る。

「すごいな。僕も魔法使えるかな」

「魔法が扱えるようになるにはそれなりの練習が必要だ」

 イーリスのようにすぐに魔法を習得してしまう例が稀なだけで、普通は実戦に耐えられるほどの魔法を使えるようになるには遅い場合だと年単位の時間が必要な場合もある。

「そうなんだ……なんかめんどくさそう」

 少年の魔法への憧れは面倒。その一言で片づけられてしまった。

 少年が案内した先にあるのは一つの赤い木製の扉。きっちりと密閉されているというわけではなくて、その下にはわすかながらに隙間がある。

「この扉の先に入っていったんだ」

「なるほど。みんな下がってて」

 アルドが扉のドアノブに手をかける。ガチャガチャとノブを回すも扉には鍵がかかっていて開かない。

「ダメだ。鍵がかかっている」

「え……そうなの? それじゃあこの先には行けないの?」

 少年が残念そうにつぶやく。アルドもどうしようかと頭を悩ませていた。

「ここは僕がこの疾風の刃で……」

「ストップ! アルドさん。そんな扉を無理矢理壊して、この先に誰かいたらどうするの?」

 クララが冷静につっこむ。確かに、この扉のすぐ近くに誘拐された子供がいれば、その子を巻き込むことになる。扉の先が見えない以上は無茶なことはできない。

「しかし、それじゃあ、どうするんだ」

「ここは私に任せて! アイビーテンタクルス!」

 クララは緑の植物属性の魔法を唱えた。ツタが触手上に伸びる。ツタは丁度扉の隙間を通れるくらいに細くてその中をスルスルと入っていく。

「多分、この辺に……あった」

 カチっと音がした。それから数秒後に、扉が開いた。扉を開けたのはツタの触手だった。触手を器用に動かしたクララは扉の内側にあるツマミを回して開錠したのだ。その後触手でドアノブを回してドアを開けた。

「お姉ちゃんすごい!」

「へへ、まあね。もしかしたら、内側からなら錠を操作できるツマミがあるかなって思ったら予想通りだった」

「助かったよ。クララ」

 結局、扉の付近には誰もいなくてアルドが扉を壊して進むという方法を取っても特に問題はなかった……が、それは結果論だし、この方が幾分かスマートである。

 クララが触手魔法を解除して、少年の方に近づく。

「それじゃあ、屋敷の外に出よっか」

「う、うん……」

 クララと少年が手を繋ぐ。

「アルドさん。ミラ。私はこの子を屋敷の外まで送っていくよ」

「ああ、その方がいいだろう。ミラ、僕たちは先に行こうか」

「そうだな。こうしている間にも子供たちがどんな目に遭わされているのかわからない。クララ、その子を送り届けたら、ここに戻ってくるんだぞ」

「うん」

 クララと少年と別れた後に、アルドとミラはクララが開けた扉の奥へと進む。すぐ近くには地下へと進む階段があり、石の段が重苦しい雰囲気を放っている。その石畳を一歩一歩下がっていく。音を立てないように慎重に歩いていく。

「イーリスちゃん。無事だといいな」

「うん。でも、あの子の話だとこの先にイーリスがいるはずだ。もう少し、もう少しだけ耐えてくれ……イーリス」

 イーリスが無事であることを祈りつつ、アルドとミラは階段を降りていく。なにか妙に鼻につく臭いがしてくる。その臭いは終点が近づくほどに、鮮明になり、それが鉄のような臭いだと気づいた時にはアルドに嫌な予感がした。

「これは……もしかして血のにおいか?」

 血も鉄も似た臭いがする。アルドの一言にミラもハッとしてしまう。

「……急ごう」

 ミラに促されてアルドは速足になる。警戒されないように音を立てないように、でもできるだけ早く。そうして階段を降りた先にある光景。それは地下牢だった。

「なんだ。この地下牢は……」

 鉄格子の奥を見る。そこには、壁にそなえつけられたX字架に開いた状態の手枷、足枷が設置されている。その周囲には、三角木馬や古びた鞭が床に乱雑に置かれていて、この屋敷の主人の趣味を疑うようなものばかりが置かれている。

「この屋敷の主人は拷問が趣味なのか?」

「……僕にはあまり共感できない趣味だな」

「私も同感だ」

 地下牢の石の壁には赤黒い染みがべったりとついている。この地下に充満している血なまぐさい臭いの出どころは正にここなのだ。

 この血がいつ付着したものなのかはわからない。でも、この屋敷が廃墟になってからそれなりの日が経っている。密室に近い状態だったとはいえ、それでもここまで臭いが籠っているのは以上とも言える。

「嫌なものを見たな……イーリスを探そう」

「ああ」

 アルドとミラは更に奥へと進んでいく。そうしたら、コツコツと何か靴音が聞こえてくる。

「しっ……」

 アルドとミラは丁字路の分かれ道にそっと身を隠した。恐る恐る靴音がする方を見ると、そこにいたのは女だった。

「――! アイツだ! アイツが子供たちを攫った張本人だ」

「でも、見たところ人間みたいだ。人型の邪霊もいるけれど、あんまりそういう感じはしないな」

「うん。それはアタシも同じことを想っていた。なんというか、人型の邪霊って見た目は同じだけれど、どこか異質な感じがする。でも、アレは正真正銘の人間……?」

 女の口角が上がる。ニタァと目を見開いて笑った女。その口から霊魂が出て来て、その霊魂はやがて黒っぽい紫色のローブを被った骸骨の姿へと変えた。その骸骨は大鎌を手にしていて、それをブンブンと振り回している。風切り音と共に、骸骨が鼻唄をうたう。

「そこにいる~侵入者~。出てこ~い。お前たちも~私の偉大なる~生贄にしてやる~」

「気づかれているようだな」

「どうする? アルドさん」

「逃げる選択肢はない。僕たちはアイツをぶっ倒してイーリスを……子供たちを救うためにここにきたんだ」

「ああ、行こう!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

平安☆セブン!!

若松だんご
ファンタジー
 今は昔。竹取の翁というものあらずとも、六位蔵人、藤原成海なるものありけり。この男、時に怠惰で、時にモノグサ、時にめんどくさがり。  いづれの御時っつーか今、女御、更衣あまた候ひ給わず、すぐれて時めき給ふ者もなし。女御なるは二人だけ。主上が御位にお就きあそばした際に入内した先の関白の娘、承香殿女御と、今関白の娘で、新たに入内した藤壷女御のみ。他はナシ。    承香殿女御は、かつてともに入内した麗景殿女御を呪殺(もしくは毒殺)した。麗景殿女御は帝に寵愛され、子を宿したことで、承香殿女御の悋気に触れ殺された。帝は、承香殿女御の罪を追求できず、かわりに女御を蛇蝎のごとく嫌い、近づくことを厭われていた。    そんな悋気満々、おっそろしい噂つき女御のもとに、才媛として名高い(?)成海の妹、藤原彩子が女房として出仕することになるが――。  「ねえ、兄さま。本当に帝は女御さまのこと、嫌っておいでなのかしら?」  そんな疑問から始まる平安王朝っぽい世界の物語。  滝口武士・源 忠高、頭中将・藤原雅顕、陰陽師・安倍晴継、検非違使・坂上史人。雑色・隼男。そして承香殿女房・藤原彩子。身分もさまざま、立場もさまざま六人衆。  そんな彼らは、帝と女御を守るため、今日もドタバタ京の都を駆け巡り、怠惰な成海を振り回す!!  「もうイヤだぁぁっ!! 勘弁してくれぇぇっ!!」  成海の叫びがこだまする?

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...