上 下
60 / 101

第58話 イーリス救出作戦

しおりを挟む
「というわけで、イーリスちゃんたちは多分、あのダンジョンと化した屋敷にいると思う」

 ミラは昨夜のことをアルドとクララに話した。アルドはそれを聞いていてもたってもいられなくなり、屋敷がある方向に体を向けた。

「すぐに行こう」

「うん。そうだな。ただ、その前にアタシはディガー協会を訪ねてみる。そこで、一応は今回の件を報告しようと思っている。相手がダンジョンにいる以上は衛兵ではなくて、ディガーの出番だ」

 ダンジョンに入るにはディガー資格が必要である。衛兵も街を守る職務から、戦闘力も高い方ではあるが、ダンジョンに潜るようなことはしないのだ。衛兵レベルの戦闘力があれば簡単にディガー資格を得ることも可能ではあるが、そうすると街の守りが手薄になってしまう。だから、きちんとディガーと分業しているというわけだ。

 そうしたこともあり、今回は衛兵というよりかはディガー協会に話を通すことにした。ただ、ディガーを集めるのにも時間がかかる。それまでの間にアルドたちが第一陣として屋敷に乗り込むこととなった。

「こんなところにダンジョンができていたなんてね。街から外れたところにあるし気づかなかったよ」

「ああ、そうだな。アタシも近づいて初めて気づいたことだ。他人の家なんてジロジロ観察したりしないからこそ、ダンジョン化していることに気づかなかった」

 もし、ここの屋敷がダンジョン化していることにいち早く気づいたのなれば、クララの性格上、すぐに攻略しようとしていた。だが、誰にも未発見のダンジョンはいくら近くにあったとしても攻略の対象にはなりえない。

「いくぞ!」

 アルドを先頭にして、ミラとクララが続く。屋敷の赤さびがついた鉄製の門扉を開けて庭へと入り込んだ。その瞬間、邪霊の気が満ち溢れる。ダンジョンに突入した証拠だ。ここから先はいつ、どこから邪霊が襲ってくるのかはわからない。

「今回は悠長に素材を取っている場合ではない。だから、僕も素材を感知しないですぐに子供たちを助ける」

「確認するまでもないことだな」

「うん。誘拐された子供たちが無事だといいけれど……イーリスちゃん。お腹空かせてないかな」

 クララは子供たちの心配をする。子供たちが誘拐されて既に数日が経っている。まともに食事を与えられてなければそろそろ危険な状態だ。

「さあ、入るぞ」

 アルドたちは屋敷の中に入る。重苦しいドアを開けると中は左右対称の構造になっていた。目の前にはレッドカーペットが敷かれていて階段が見える。左右にも同じ位置にドアが設置されていて、どこから調べていいのかわからない状況である。

「この広さでは手分けして探したいところだけれど、はぐれるのは危険だ。ここは邪霊がいるから付かず離れずの距離を保とう」

 距離が近すぎると邪霊が放つ魔法による攻撃にお互いを巻き込んでしまう可能性がある。かと言って離れすぎてしまうとお互いのサポートが効かなくなるというジレンマ。適切な距離を保ちながらの探索をする。

 階段の左右の手すりの前には甲冑が設置されていた。その甲冑は存在感を放っていて、今にも動き出しそうで――本当に動き出した。

「ミラ! クララ! いきなり邪霊だ!」

「うん! 甲冑は金属製だから、雷魔法が効きやすい。ミラお願い」

「任せてくれ。エレキウェーブ!」

 ジグザグとした波形の電気がミラの杖から放たれる。甲冑の内の1体はその攻撃を食らってカラカラと崩れ落ちた。

「なるほど。雷なら僕も使える。雷神の槍、展開! 行くぞ! 雷突らいとつ!」

 アルドは雷神の槍で甲冑を突いた。雷を纏った刃先により貫かれた甲冑はその場でバラバラに吹き飛んで二度と再生することはなかった。

「なんだ。見掛け倒しだな……初級のエレキウェーブで倒せてしまうとは」

「今のが初級の魔法なのか?」

「そうだな。凪の谷の時に使ったライメイは天空から雷を落とす魔法だから屋外でないと使えない。ここは屋内。遮蔽物があるからな。威力が高い魔法でも初同情条件があったりして使い勝手が悪いこともある」

「そうなんだ」

 魔法が使えないアルドにはあまり関係のない話ではあった。だが、イーリスは違う。

「イーリスちゃんはこの話をすると目を輝かせていた。彼女は黄の魔法の素質がないから雷の魔法は使えないのにな。自分が使えない魔法でも興味を持つ、あの子は本当に魔法が好きな子だ」

 今、この場にいないイーリスの話をすると、なんだか無性に悲しくなってくる三人。切ない気持ちが押し寄せてきて、早くイーリスを助けないとという想いが強くなる。

「イーリス。待ってろ。必ず僕たちが救ってみせるからな」



 ぶつぶつと呪詛のような言葉を呟いている謎の女。それに黒い影が入り込んだ。すると虚ろな目をしていた女の目が怪しく赤く光り、顔色も良くなる。

「ふう、人間というものは実に愚かであるな。こんなものに頼っているからマナの器を壊してしまう」

 女は自分が着ているディガーウェアを指でつまんで前後に動かした。

「イノセント・プロテクター。人間がそう名付けた防具。武器や防具。いくら、邪霊の力が元になっているとはいえ、その力そのものには罪がない。力は純粋で使う側の問題なのだ……そう言ってはいるが、力に溺れた者の末路がこれだ」

 女は牢屋に閉じ込めている子供たちを見てほくそ笑んだ。子供たちは一様に虚ろな目をしていてそこに彼らの思考、自由意志があるのか、見ただけではうかがえないほどに生気がなかった。たった一人を除いて。

「あ、あなた! 一体何者!」

 牢屋の中にいる金髪の少女が女に向かってそう叫んだ。

「ん? おかしいな。私がかけた幻術は高い魔力と相当なマナの量がないと解除するのが難しいはず。子供にそんな魔力があるとは思えないがな」

 魔力が高くて、相当な量のマナを持っている金髪の少女の正体はイーリスだった。パジャマ姿の彼女は牢屋の檻を掴んでギシギシと揺らす。

「出して、私をお父さんのところに帰して!」

「ふむ……なるほど。筋肉量は正に見た通り。年頃の少女そのもの。檻を壊すパワーなどないか」

「なに言ってるの! そんなの大人でもあるわけないじゃない!」

「筋肉質でかつ、マナのコントロールが上手ければ可能だ。お前は見たところ、マナのコントロールの筋は良い。鍛えれば身体能力にも補正がかけられる。だが、それだけ。元の筋肉量が大したことないから物理攻撃主体には向かない」

 女がローブの中からほら貝を出した。そして、そのほら貝を口に付けて思いきり吹いた。ぶおおおおと低く響き渡る音が響き渡る。そして、口を付けたまま女はこうしゃべった。

「眠れ」

 その言葉を聞いた瞬間、牢屋の中の子供たちは一斉に眠ってしまった。

「な、なにこれ……」

 イーリスも眠気に耐えているが、それでもうとうととしてしまう。目を閉じては開けての繰り返し。目が全開にすることもできずに段々と半目になっていく。でも、結局は睡魔には勝てなくて、そのまま夢の世界に誘われてしまった。

「心配するな。お前たちは私の生贄となって死ぬ。だが、それは名誉なことだ。なにせ、一定量のマナを同時に取り込めば、邪霊はダンジョンから抜け出すことができる。ククク、助かったよ。わざわざ、マナの器を壊したバカがこのダンジョンに入って来てくれてな。マナの器が壊れていれば高位な邪霊なら憑依することができる。そうすれば、その肉体は思いのまま。憑依を解除しても簡単な命令ならあらかじめ仕込んでおくことで実行させることも可能だ。例えば、この笛を吹いて町中の子供を誘拐してこいなんてこともな。ハハハハハハ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を奪われた少女は、敵国の王を守る剣となる。

さとう
恋愛
ラスタリア王国の田舎男爵長女ラプンツェルは、妹のリリアンヌに婚約者を奪われ失意のどん底に落ちてしまう。さらに、リリアンヌの策略で戦地に送られたラプンツェルは、敵国であるラグナ帝国の皇子カドゥケウスが率いる『狂犬部隊』に襲撃される。 命の危機を感じたラプンツェルは、自分に問う。 このままでいいのか。なぜ、こんな目に合うのか。 ラプンツェルは、カドゥケウスに願う。 「お願い、ラスタリア王国を滅ぼして……」 煌めく銀髪、燃えるような灼眼に興味を持ったカドゥケウスは告げる。 「気に入った。お前、俺の傍にいろ」 ラスタリア王国を捨て、ラグナ帝国の皇子の傍で、ラプンツェルは変わっていく。 これは、敵兵の少女と、次期皇帝の青年との物語。

転生王女は世界ランキング1位の元廃ゲーマー ~一生Lv1固定が確定しちゃってても、チート級な知識の前にはそんなの関係(ヾノ・∀・`)ニャイ

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 先日15歳を迎えたファンダール王国の第18王女アイラ。彼女の母は平民であったがために、ほとんどの血縁者だけでなく王家に関わる者たちから疎まれ続けていた。  そのアイラは15歳を迎えた者が挑まなければならない『王家の試練』に挑む。が、崩落事故に巻き込まれダンジョンの最奥でたった一人となってしまう。だがその事故の衝撃で前世を思い出した。  と同時に、今自身の生きている世界が、前世でやり込んでいたゲームである『ルナティック・サーガ』シリーズの世界だと気づく。そして同時にアイラは転生時に女神から与えられたとある効果により、Lvを1から上げることが出来ないことも気がつく。  Lvは1固定、ダンジョンの奥底でたった1人、しかもそこは全滅必至なダンジョンだと知ってもいる。どう考えても絶望的な状況……  そう、それはアイラが普通の人間であったのでなら、の話である。 「なんだ、低レベルソロ縛りの真似事をすればいいだけね。そんな縛りじゃ目を瞑ってもクリア出来るわよ。しかもレギュレーション違反もない、裏技もバグ技も何でも使い放題、経験値分配も気にする必要なし……って、やりたい放題じゃん!」  しかし、そんな絶望的と思われる状況もアイラにとっては、10万を軽く超える時間プレイし、何京回と経験済みで何万回とクリアした制限プレイの中の一つのようなものでしかなかった。  これは普通にゲームを楽しむことに飽き足らず、極限の状況まで自らを追い込むことで、よりゲームを楽しんでいた世界ランキング1位の廃ゲーマーが、そのチートと呼ばれても遜色のない極悪な知識を惜しげも無く使い、異世界生活を悠々自適に過ごす物語である。

【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが

Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした─── 伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。 しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、 さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。 どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。 そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、 シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。 身勝手に消えた姉の代わりとして、 セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。 そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。 二人の思惑は───……

【R18】「お前を必ず迎えに行く」と言って旅立った幼馴染が騎士団長になって王女の婚約者になっていた件

望月 或
恋愛
辺境の村に住む少女リュシルカは、幼馴染のホークレイとは友情以上恋人未満だが、恋人のように仲睦まじく過ごしていた。 ある日、ホークレイが「為すべきことがある」と告げ、遥か遠くの城下町に旅立ってしまう。 「必ず迎えに行く。待っていてくれ」の言葉を残して。 六年後、リュシルカの出生に関して王に登城命令をされてしまった彼女は、王城へと向かう。 そこにいたのは、六年前に別れた、国の騎士団長となったホークレイだった。 すぐ隣には、仲睦まじそうに腕を組んで寄り添う王女の姿が。彼女とホークレイは“婚約者”となっていたのだ。 そしてホークレイは、憎しみの込めた目をリュシルカに向けた―― ※Rシーンには、タイトルの後ろに「*」をつけています。 ※タグを御確認頂き、注意してお読み下さいませ。少しでも不快に感じましたら、どうかそっと回れ右をお願い致します。

潰れかけの商店街は、異世界の力で大復活!の予定でしたが...復活が遅れています!欠損奴隷や娼館落ちのエルフに出会ったら、先に助けますよね?

たけ
ファンタジー
 突然亡くなった親父が残した錆びれた精肉店。このまんま継いでも余計、借金が増えるだけ。ならいっそ建物をつぶして、その土地を売ろうとえ考える。  だが地下室の壊れた保冷庫から聞こえる謎の音。ひかれるように壊れた保冷庫の扉を開けると、そこは異世界につながっていた。  これは異世界から魅力あふれる品物や食品を持ち込み、異世界で知り合った仲間と共に、自分のお店や商店街全体を立て直していく物語。  物語の序盤は、違法奴隷や欠損奴隷、無理やり娼館で働かせられているエルフや人族、AV出演を迫られている女性などを助けていく話がメインです。中盤(100話以降)ぐらいからやっと、商店街を立て直していきます。長い目でお付き合いして頂けるとありがたいです。  また、この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、企業、地名などとは一切関係ありません。また、物語の中で描かれる行為や状況は、著者の想像によるもので、実際の法律、倫理、社会常識とは異なる場合があります。読者の皆様には、これらをご理解の上、物語としてお楽しみいただけますと幸いです。

転生先はアクションゲームの悪女先生でした~堅物王太子殿下とは犬猿の仲でしたがうっかり誘惑しちゃってたみたいで溺愛ルートに入ったようです~

Tubling@書籍化&コミカライズ決定
ファンタジー
9/3第一部完結です! ズキン、ズキンと頭が痛い……暗闇から目覚めると、目の前には煌びやかな世界が広がっていた。 そこは大好きなアクションゲーム「ドロテア魔法学園~unlimited~」の世界。 鏡に映っている自分は登場キャラクターの悪女先生、クラウディア・ロヴェーヌ公爵令嬢… うそでしょう?! 中身は運動部に所属していた普通の女子大学生なのに、数々の男性を誘惑してしまうクラウディア先生に転生してしまった私。 お見舞いに来た学園の理事長でもあるシグムント王太子殿下とは犬猿の仲で、顔を合わせれば嫌味の応酬…… でもなんだかお見舞いの日から殿下の様子がおかしい。 堅物で真面目で超がつくほど厳しい人なのに「怪我はないか?」と耳元で囁いてくる声がとても優しい。 てっきり嫌味を言われて嫌悪の目を向けられるのかと思っていたら…仲良くなれそう? 新たな力に目覚めたり、モフモフの可愛い生き物がいたり、こんな設定、ありました? 普通にアクションゲームの世界をクリアすればいいと思っていたのに、私が命を狙われているなんて聞いてません! さらに学園には魔の手が忍び寄ってきていてーーー 可愛い生徒達を守るのは先生の役目。 悪は根絶やしにさせていただきます! 中身は普通の女子大学生、見た目は妖艶な悪女クラウディア先生による ラブコメあり、ラッキーすけべありのファンタジーラブ開幕です こちらの作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 ※R15は保険です。 ※本文は約13万文字程度です。 ※ざまぁはなし。 ※ご都合主義の完全なる創作物なので、ゆるい目で読んでやってください。 ※健気な主人公が大好きな方は応援よろしくお願いします。 ※ラブコメ要素あり、最後はハッピーエンドです。

【完結】転生してどエロく嫁をカスタマイズした結果

そば太郎
BL
『転生してどエロい嫁をカスタマイズした 』 の続編 俺は神様のペットに殺させてしまって、そのお詫びに、どエロい嫁をカスタマイズしたい!と、欲望のままお願いしたら、雄っぱいむちむちのどエロい、嫁が出来た♡ 調教や開発を頑張って今では、雄っぱいからミルクが出るけしからんボディのフェロモンやばすぎな嫁に、なってきた♡ 愛するガチムチの嫁をもっともっと淫乱にさせたい♡ そんな嫁と俺との物語♡ 1章完結済! 章が、追加される事に更にド変態の道になっていきます。2章から注意書きが入る予定なので、キーワード確認してください! ※主人公以外の絡みあり、しかし、嫁は主人公一筋♡ ※文書能力スキルが保持してないため、すみません

【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐
恋愛
 私、リリヴァリルフィラン・フォーフィイは、領主の息子、トレイトライル様に婚約を破棄されてからは、奴隷のように使われていた。  本当は臆病な私ですが、死ぬ気で虚勢を張れば、生きていける!  そんなふうに過ごしていたある日、城で行われた舞踏会で、封印の魔法が暴走するという事件が起こる。  魔法を暴走させたのは、私の元婚約者であるトレイトライル様の新しい婚約者のフィレスレア様。  なぜそんなことをしたのか問われた彼女は、涙を流しながら「私はリリヴァリルフィラン様の我儘に耐えきれず、封印の魔法を用意したのです!」と訴え始めた。  なんの冗談でしょう。私は何も知りません。  そして、元婚約者のトレイトライル様も「その女がフィレスレアを脅したのです!」と喚き出す始末……  おかげで私は皆さんに囲まれて吊し上げ。  こんなのあり得ません……目一杯虚勢を張るのも、そろそろ限界です!  けれど、こんなところでなぶりものになって死ぬなんて嫌だ。せめて最後に復讐してやる……!  そう決意した私の手を、国王陛下の腹心とも言われる公爵家の御令息、イールヴィルイ様が握って抱き寄せた。  なぜそんなことをするのか、たずねる私を閣下は部屋まで連れ去ってしまう。  どういうつもりなのか聞いても閣下は答えてくださらないし、私を離してもくださらない。  閣下。全く怖くはありませんが、そろそろ離してくださいませんか? *ヒロインがヒーローや敵に襲われそうになる場面があります。残酷な表現があります。苦手な方はご注意下さい。R18は保険です。

処理中です...