毒親転生~後にラスボスになる運命の娘を溺愛したら異常すぎるほど好かれてしまった~

下垣

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第31話 魔法が効かない?

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 鼻がむずむずする。そんな感覚でアルドは目が覚めた。ちょうど、イーリスの髪の毛がアルドの顔についていて、それが鼻孔を物理的に刺激をしていたのだ。

「すーすー……」

 可愛らしい寝息を立てるイーリス。アルドの体を抱き枕のようにがっしりと掴んでいる。アルドはほんのりと子供特有の高い体温を感じる。

 顔がむず痒いが、イーリスを起こすわけにはいかない。しかし、イーリスの体から離れようにも、そこそこの力で抱き着かれている。振りほどいてしまえばイーリスは起きてしまう。

 どうしたものだと悩んでいると、イーリスが「んん……」と声をあげる。そして、顔を上げてアルドと視線があう。

「あ、お父さん……おはよう」

「ああ、おはよう。イーリス。ちょっとどいてくれないかな?」

 アルドはそれとなくイーリスにお願いする。顔がむず痒いし、ちょっとイーリスの体温が暑苦しくなってきた。

「ふあ? あーあ……」

 イーリスは眠気眼のままアクビをする。寝ぼけていてアルドの言っていることがあまり理解できないのか、もっとギューとしてしまう。

「イーリス……」

 アルドは諦めてイーリスの頭を撫でた。



 再び、裏山のダンジョンにやってきたアルドたち。それぞれがダンジョン用の装備を手にして、前へと進む。山を登り、敵と遭遇して、ちぎっては投げ、ちぎっては投げの快進撃。しかし、人間というものには体力の限界がある。

「それにしても……どこにいるんだろうね。精霊」

 クララがうんざりしたような感じでぼやく。

「確かにダンジョンと違って、山はルートがたくさんあってどこが奥とかそういうのはないな」

「ごめんね。アルドさん。イーリスちゃん。私たちのためにこんな大変なダンジョンに来ちゃって」

 ただでさえ、山というものは時に人に牙を剥く地形である。そこがダンジョン化するとなるとかなりの難易度となる。

「ふう。疲れちゃった」

 イーリスが切り株の上にぴょこっと座った。イーリスは確かに魔法が強い少女ではあるが、体はちょっと発育が遅れがちな9歳で体力もそれ相応でしかない。

「大丈夫か? イーリス。ここで休むか?」

「うーん。お父さんがおんぶしてくれるならいけそうな気がする」

 イーリスはまたしてもアルドに甘える。アルドはクララと目を合わせた。

「わかったよ。イーリス。でも、体力が回復したら自分で歩くんだぞ」

「わーい。ありがとうお父さん! 好きー!」

 こうして、アルドはイーリスを背負いながら登山をすることになった。

「アルドさん。とりあえず山頂を目指そうよ」

「ああ。そうだね。もし、精霊がいるとしたら、そこにいる可能性があるかもしれないし」

 何の根拠もないけれど、とりあえず山頂を目指したアルドとクララ……とアルドの背に乗っているイーリス。

「うわ、邪霊が出た」

「ガロウ!」

 イーリスが強力な邪霊魔法を放って邪霊を先制攻撃で倒す。アルドにおんぶになっている状態でも魔法の強さは健在である。

「すごい、イーリスちゃん。一撃じゃない」

「まあね」

「イーリス。そんな魔法を撃てるってことは、そろそろ体力が回復してきたころじゃないのか?」

「うん!」

 イーリスはアルドの背から降りて自力で歩き始める。そして、山頂へと辿り着いた。

 山頂にいたのは、ヤギのような角を生やした女性の姿をした邪霊だった。灰色の髪、褐色の素肌。服装もボンテージと色々と目の毒になるような邪霊だ。

「あらあら。ここまで来たの? こんな田舎の山に来るなんてディガーもヒマなのね。それとも層が厚いのかしら? くすくす」

 邪霊は口元に手を当てて笑う。そして、すぐに拳法のような構えをして、戦闘体勢に入る。

「来るぞ!」

「うん! 多分、あいつがボスの邪霊だね。結構、高度な知能を持っているっぽいし」

 邪霊が跳躍して近づいてくる。その素早さは疾風の刃で素早くなっているアルドにも匹敵するほどだ。邪霊の狙いはイーリスだった。

「させるか!」

 イーリスにターゲットが向かっていることに気づいたアルドはすぐにイーリスを守るように邪霊と対峙する。邪霊の移動先を潰して、剣で攻撃を仕掛けた。

「おっと」

 邪霊は後方に避けて、アルドの攻撃をかわした。そして、すかさず、態勢を低くしてアルドの懐に潜り込む。

「うわ……!」

 体格ではアルドの方が勝っている。まともに戦えばアルドの方が物理方面は強い。体格に劣るものができることは、相手の懐に入って不意を突くこと。それをこの邪霊は理解していた。

「せいや!」

「ぐふっ……」

 アルドの腹部に邪霊が蹴りを入れる。アルドは吹き飛んでしまう。倒れそうになるも腹部を抑えてなんとか意識を保ち、立ち上がって邪霊を睨む。

「イーリスちゃん。魔法の準備をして」

「はい!」

 クララも邪霊との戦いに参戦した。相手の邪霊もクララと同じく体術を得意とするタイプである。体術対決をしかけようとクララが邪霊にハイキックをかまそうとする。

「ハイアーー!」

 邪霊は腕でクララのハイキックを防いだ。それでもミシっと邪霊の腕に衝撃が響く。

「くっ……やるね。でも、私はもっとやるんだよ! それ!」

 邪霊が回し蹴りをしてアルドとクララに攻撃をする。2人はそれで大きなダメージを受けてしまう。

「ぐあ……!」

「きゃあ!」

 アルドとクララがやられたのを見て、イーリスは邪霊に対して憎しみを抱いた。その憎しみをぶつけるように魔法を放つ。

「ガロウ!」

 イーリスが習得した邪霊魔法。この邪霊魔法で先日ではボスの邪霊を倒している。それほどまでに強烈な威力の魔法を女性型の邪霊に叩きこんだ。

「がは……!」

 クリーンヒット。倒した。そう思っていたイーリス。だが、女性型の邪霊はにやりと笑った。

「ざーんねん! 私にその魔法は効かないの」

「な、なんで……!」

 イーリスは驚いた。自分が使える魔法の中で最も高威力だと思っていた邪霊魔法を受けてほとんど無傷である。この邪霊は強い。自分の実力では勝てない。そう思ってしまって、イーリスは戦意を喪失してしまった。

「あ、ああ……!」

「イーリス!」

 アルドがイーリスに呼びかける。しかし、イーリスは想像以上にメンタルが脆い。今まで自分より大きい存在にしいたげられてきただけあってか、強い敵に対してある種のトラウマを持っている。

「クララ。一旦、僕があいつをひきつける。その隙に、回復を頼む」

「わかった」

 この中で回復魔法を使えるのはクララだけしかいない。それを考慮した場合、クララが潰された場合、全てが終わる。逆にクララさえ再起可能であるならば、回復魔法でいくらでも立て直せる余地はある。

「へえ。やるじゃない。女の子をかばって私につっこむなんてね。ハァ!」

 邪霊がアルドのアゴに蹴りをいれようとする。アルドは剣でガードした。

「っ……!」

 邪霊がつけていた靴がアルドの疾風の刃に傷つけられてしまった。邪霊はそれに顔を歪ませて怒りに任せて拳をぐっと握った。

「お気に入りの靴だったのに。よくも! はぁ!」

 邪霊がアルドにパンチを食らわせようとする。アルドは左腕でガードをした。

「くっ……!」

 じんじんと痺れる。痛い。信仰が低くてダメージ量が少ないアルドでもかなりのダメージだ。この邪霊は相当に強い。だが——

「アパト!」

 クララの精霊魔法でアルドの霊障ダメージがある程度回復する。

「ありがとう。クララ」

「お礼は後。あいつを倒すよ」

「わかった!」

 アルドとクララはお互いに蚊を見合わて頷いた。2人は戦意がまだまだある。しかし、イーリスはまだ心が折れている。

「どうして……私には邪霊魔法しかないのに……」

 自分の長所である邪霊魔法が通用しない相手。それがイーリスの心を折ってしまう。邪霊魔法が役に立たないのであれば、自分の存在価値は……? 存在価値がなくなったら、アルドは自分に見向きをしてくれるのか。具体的にそんな考えが浮かんだわけではない。でも、そういうイーリスの中で言語化できない思いが彼女の心を締め付けた。
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