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第22話 娘は天才です
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アルドは夢を見ていた。ある少年がゲームをプレイしている。そのゲームで主人公である勇者がラスボスである魔女イーリスを倒した。
だが、それでこのゲームが完全に終わったわけではなかった。魔女イーリス撃破後のストーリー。1000年前に封印された精霊王を救出するために最強の邪霊を倒すという裏ボスがいた。
ラスボスよりも強い裏ボス。それに挑むも少年は裏ボスを倒せなかった。それ程までに裏ボスは強かった。いつしか少年はゲームをクリアすることを諦めた。
そこでアルドは目を覚ました。夢の内容を思い出そうとするが……ぼんやりと覚えているのは、精霊王を救出しようとして失敗したという内容くらいなものである。それ以外のことは、脳にかすみがかかったように思い出せない。
夢は記憶の整理とも言われている。アルドはそれで、寝る前に読んだ歴史書の影響で精霊王の夢を見たと認識した。
「さて……今日もがんばるか!」
アルドは起床して朝の準備を始めた。今日はクララと一緒にダンジョンに潜る日である。仕事場から直接向かうために、武器である疾風の刃を荷物の中に入れておく。
「お父さん。おはよー」
「ああ、イーリスおはよう」
目をこすりながら、イーリスが目覚めた。イーリスはアルドが疾風の刃を持ち出そうとしているのを見て。ちょっと切なげな顔をした。
「お父さん、またダンジョンに行くの?」
「ん? ああ。そうだな、もう少しで攻略できそうな気配があるんだ」
「ふーん……それってクララさんも一緒なの?」
「もちろんだ」
「そっか……」
イーリスはそれ以上なにも言わなかった。だが、アルドはすぐに真意を理解した。アルドが仕事をしている時は、イーリスの面倒をクララが見てくれる。しかし、クララが一緒にダンジョンに潜っている間は、イーリスは1人になってしまうのだ。
クララと仲良くなったが故にイーリスは自分だけダンジョンに潜れないことに寂しさを覚えているのだ。
「大丈夫。イーリス。すぐに帰ってくる。約束だ」
アルドはイーリスをぎゅっと抱きしめた。イーリスはアルドの温もりを必死で感じようとする。1人でいる時に寂しくなりすぎないように。
「うん。ありがとう。お父さん。私は大丈夫だから無理はしないでね」
その朝、イーリスは笑顔でアルドを送り出した。寂しいものはやっぱり寂しい。そう思っていると、入れ違いでクララがやってきた。
「おはよー。イーリスちゃん!」
「おはようございます」
イーリスはペコリとクララに挨拶をした。
「それじゃあ、今日もイーリスちゃんのマナ酔いが克服できるようにがんばろうか!」
「はい! クララ師匠!」
イーリスはいつものようにマナの力の流れを感じる。全身にマナを巡らせてその状態を維持。人や体質によっては、マナ酔いを起こしてしまう。
実のところ、クララが言っていた「マナ酔いを起こす方が才能がある」その話は半分本当で、半分が嘘である。
マナ酔いを起こすとその分、魔法の習得が遅れてしまう。だから、マナ酔いを起こす落ちこぼれを励ますためにそう言った。その説は確かにある。
マナ酔いはマナに耐性がないからこそ起こる。だから、基本的に耐性も才能の一部。伸ばすことはできるものの、これがないと才能がないと言える。
では、イーリスはどうだろうか。彼女には……人並以上の耐性があったのだ。だから、本来ならマナ酔いを起こすことなんてない。
しかし、現実ではマナ酔いは起きている。その理由は……
「あっ……!」
イーリスが声を漏らす。次の瞬間、イーリスのマナの量が一気に跳ねあがった。
「え!?」
クララが目を丸くして驚いた。なにせ、自分よりも圧倒的に多いマナの量を感じ取ったからである。イーリスは片膝をついてその場に崩れた。
「イーリスちゃん! 大丈夫?」
クララはすぐにイーリスに駆け寄った。だけど、イーリスは涼しい顔をして起き上がった。
「うん、私は大丈夫だよ。ちょっとなんていうのかな。マナを引き出すコツみたいなのがわかってビックリしちゃった」
「コツって……すごい。イーリスちゃん」
クララはそれしか言えなかった。イーリスの膨大なマナ。その一旦に触れて、クララはゾクゾクとしてしまった。
そう。イーリスはマナに対する耐性はあったのだ。しかし、それ以上にマナの潜在的な量が多すぎた。だからこそ、耐性があったのにも関わらずにマナ酔いを起こしてしまったのだ。
グラス1杯のお酒で酔えない人も、その量が多ければ酔ってしまう。理屈としてはそれと一緒である。
そう、これこそが、「マナ酔い起こした方が才能がある」ということの根拠の1つである。落ちこぼれに対する慰みもあるが、本来はこっちの方が理屈としては正しいのだ。
「イーリスちゃん。さっきの力を引きだすやつ。それは一旦使うのをやめようか」
「え? どうして?」
イーリスは驚いた。せっかく、見つけたコツ。それの使用を禁じられてしまうのは、相応の理由がなければ納得できない。
「イーリスちゃんはまだマナに対する耐性が完全ではない。その状態で、さっきの力を使ったらイーリスちゃんの体が耐えられなくなると思うの」
「でも、クララさん。マナ酔いは人体にそこまで大きな害はないって言わなかったっけ?」
「本来ならそうだけど……イーリスちゃんのマナがすごすぎるの。私もこんなマナを持つ人は見たことがない。だから……なにかあったら、私責任が取れない。アルドさんに合わす顔がなくなるよ」
イーリスもアルドの名前を出されて納得してしまった。もし、自分の身になにかがあれば、アルドがものすごく心配するはずであると。アルドに余計な心配をかけたくないと思ったイーリスはクララの言うことに従うことにした。
「うん、わかった。さっきのやらないことにするよ」
「うん、ごめんね。折角、力を引き出せて嬉しい気持ちはわかる。でも、イーリスちゃんがきちんとマナの耐性を高めてくれれば、また使ってもいいから」
クララはイーリスの気持ちに寄り添う。頭ごなしでダメと言うのではなく、理由を説明して、それでもイーリスの気持ちに共感してあげることで、彼女の溜飲を下げようとした。
「大丈夫。イーリスちゃん。あなたは才能がある。それだけは間違いない。だから、そう気を落とさないで」
「え? 私、才能があるの? えへへへ。それは嬉しいな」
イーリスが頭をかいて照れている。実のところ、イーリスはクララに力を使うように注意されたことで自分にはなにか魔法を使う上で問題があるのではないかと内心思っていたのだ。才能があると教えられたことでイーリスは安心した。
イーリスはその後も修行を続けた。その結果——
「うん、普通の状態を維持するだけなら、マナ酔いの心配はないね」
「本当? やったー」
地道な努力を継続することで、イーリスはついに自分のマナに耐えられるだけの耐性を身に付けることができた。
「それじゃあ、イーリスちゃん。緑の魔法と精霊魔法どっちを使ってみたい?」
「んーと……緑かな」
イーリスに適正があるのは赤の魔法と緑の魔法である。クララは青と緑の適性を持っているので、赤は教えることができない。
「そっか。それじゃあ、早速使ってみようか。緑の魔法で最も簡単だけど低い威力のウィンド!」
クララは手に意識を集中する。そして、右手から風を出した。
そよ風程度の風がイーリスの髪をなびかせた。
「おおー! 私もやってみるね。ウィンド!」
イーリスが見よう見真似で魔法を放つ。次の瞬間、クララに強めの風が吹く。その風は、クララの髪型を崩すほどであった。
「イ、イーリスちゃん! ストップ! ストップ!」
イーリスは魔法を解除した。
「もうちょっとマナを抑えようか。流石に家の中でその威力は強すぎる」
確かに外でならともかく家でこれを使ったら部屋中が荒れ放題になってしまう。
「うう……ごめんなさい」
「だ、大丈夫だよ。イーリスちゃんは悪くない。先に威力の調整を説明しなかった私が悪いんだから」
クララの想定を超えてイーリスのマナは大きかった。その分、風の大きさも増えてしまったのだ。初めての魔法でここまでの風は出せない。
クララは内心、イーリスの才能の末恐ろしさを感じてしまった。
だが、それでこのゲームが完全に終わったわけではなかった。魔女イーリス撃破後のストーリー。1000年前に封印された精霊王を救出するために最強の邪霊を倒すという裏ボスがいた。
ラスボスよりも強い裏ボス。それに挑むも少年は裏ボスを倒せなかった。それ程までに裏ボスは強かった。いつしか少年はゲームをクリアすることを諦めた。
そこでアルドは目を覚ました。夢の内容を思い出そうとするが……ぼんやりと覚えているのは、精霊王を救出しようとして失敗したという内容くらいなものである。それ以外のことは、脳にかすみがかかったように思い出せない。
夢は記憶の整理とも言われている。アルドはそれで、寝る前に読んだ歴史書の影響で精霊王の夢を見たと認識した。
「さて……今日もがんばるか!」
アルドは起床して朝の準備を始めた。今日はクララと一緒にダンジョンに潜る日である。仕事場から直接向かうために、武器である疾風の刃を荷物の中に入れておく。
「お父さん。おはよー」
「ああ、イーリスおはよう」
目をこすりながら、イーリスが目覚めた。イーリスはアルドが疾風の刃を持ち出そうとしているのを見て。ちょっと切なげな顔をした。
「お父さん、またダンジョンに行くの?」
「ん? ああ。そうだな、もう少しで攻略できそうな気配があるんだ」
「ふーん……それってクララさんも一緒なの?」
「もちろんだ」
「そっか……」
イーリスはそれ以上なにも言わなかった。だが、アルドはすぐに真意を理解した。アルドが仕事をしている時は、イーリスの面倒をクララが見てくれる。しかし、クララが一緒にダンジョンに潜っている間は、イーリスは1人になってしまうのだ。
クララと仲良くなったが故にイーリスは自分だけダンジョンに潜れないことに寂しさを覚えているのだ。
「大丈夫。イーリス。すぐに帰ってくる。約束だ」
アルドはイーリスをぎゅっと抱きしめた。イーリスはアルドの温もりを必死で感じようとする。1人でいる時に寂しくなりすぎないように。
「うん。ありがとう。お父さん。私は大丈夫だから無理はしないでね」
その朝、イーリスは笑顔でアルドを送り出した。寂しいものはやっぱり寂しい。そう思っていると、入れ違いでクララがやってきた。
「おはよー。イーリスちゃん!」
「おはようございます」
イーリスはペコリとクララに挨拶をした。
「それじゃあ、今日もイーリスちゃんのマナ酔いが克服できるようにがんばろうか!」
「はい! クララ師匠!」
イーリスはいつものようにマナの力の流れを感じる。全身にマナを巡らせてその状態を維持。人や体質によっては、マナ酔いを起こしてしまう。
実のところ、クララが言っていた「マナ酔いを起こす方が才能がある」その話は半分本当で、半分が嘘である。
マナ酔いを起こすとその分、魔法の習得が遅れてしまう。だから、マナ酔いを起こす落ちこぼれを励ますためにそう言った。その説は確かにある。
マナ酔いはマナに耐性がないからこそ起こる。だから、基本的に耐性も才能の一部。伸ばすことはできるものの、これがないと才能がないと言える。
では、イーリスはどうだろうか。彼女には……人並以上の耐性があったのだ。だから、本来ならマナ酔いを起こすことなんてない。
しかし、現実ではマナ酔いは起きている。その理由は……
「あっ……!」
イーリスが声を漏らす。次の瞬間、イーリスのマナの量が一気に跳ねあがった。
「え!?」
クララが目を丸くして驚いた。なにせ、自分よりも圧倒的に多いマナの量を感じ取ったからである。イーリスは片膝をついてその場に崩れた。
「イーリスちゃん! 大丈夫?」
クララはすぐにイーリスに駆け寄った。だけど、イーリスは涼しい顔をして起き上がった。
「うん、私は大丈夫だよ。ちょっとなんていうのかな。マナを引き出すコツみたいなのがわかってビックリしちゃった」
「コツって……すごい。イーリスちゃん」
クララはそれしか言えなかった。イーリスの膨大なマナ。その一旦に触れて、クララはゾクゾクとしてしまった。
そう。イーリスはマナに対する耐性はあったのだ。しかし、それ以上にマナの潜在的な量が多すぎた。だからこそ、耐性があったのにも関わらずにマナ酔いを起こしてしまったのだ。
グラス1杯のお酒で酔えない人も、その量が多ければ酔ってしまう。理屈としてはそれと一緒である。
そう、これこそが、「マナ酔い起こした方が才能がある」ということの根拠の1つである。落ちこぼれに対する慰みもあるが、本来はこっちの方が理屈としては正しいのだ。
「イーリスちゃん。さっきの力を引きだすやつ。それは一旦使うのをやめようか」
「え? どうして?」
イーリスは驚いた。せっかく、見つけたコツ。それの使用を禁じられてしまうのは、相応の理由がなければ納得できない。
「イーリスちゃんはまだマナに対する耐性が完全ではない。その状態で、さっきの力を使ったらイーリスちゃんの体が耐えられなくなると思うの」
「でも、クララさん。マナ酔いは人体にそこまで大きな害はないって言わなかったっけ?」
「本来ならそうだけど……イーリスちゃんのマナがすごすぎるの。私もこんなマナを持つ人は見たことがない。だから……なにかあったら、私責任が取れない。アルドさんに合わす顔がなくなるよ」
イーリスもアルドの名前を出されて納得してしまった。もし、自分の身になにかがあれば、アルドがものすごく心配するはずであると。アルドに余計な心配をかけたくないと思ったイーリスはクララの言うことに従うことにした。
「うん、わかった。さっきのやらないことにするよ」
「うん、ごめんね。折角、力を引き出せて嬉しい気持ちはわかる。でも、イーリスちゃんがきちんとマナの耐性を高めてくれれば、また使ってもいいから」
クララはイーリスの気持ちに寄り添う。頭ごなしでダメと言うのではなく、理由を説明して、それでもイーリスの気持ちに共感してあげることで、彼女の溜飲を下げようとした。
「大丈夫。イーリスちゃん。あなたは才能がある。それだけは間違いない。だから、そう気を落とさないで」
「え? 私、才能があるの? えへへへ。それは嬉しいな」
イーリスが頭をかいて照れている。実のところ、イーリスはクララに力を使うように注意されたことで自分にはなにか魔法を使う上で問題があるのではないかと内心思っていたのだ。才能があると教えられたことでイーリスは安心した。
イーリスはその後も修行を続けた。その結果——
「うん、普通の状態を維持するだけなら、マナ酔いの心配はないね」
「本当? やったー」
地道な努力を継続することで、イーリスはついに自分のマナに耐えられるだけの耐性を身に付けることができた。
「それじゃあ、イーリスちゃん。緑の魔法と精霊魔法どっちを使ってみたい?」
「んーと……緑かな」
イーリスに適正があるのは赤の魔法と緑の魔法である。クララは青と緑の適性を持っているので、赤は教えることができない。
「そっか。それじゃあ、早速使ってみようか。緑の魔法で最も簡単だけど低い威力のウィンド!」
クララは手に意識を集中する。そして、右手から風を出した。
そよ風程度の風がイーリスの髪をなびかせた。
「おおー! 私もやってみるね。ウィンド!」
イーリスが見よう見真似で魔法を放つ。次の瞬間、クララに強めの風が吹く。その風は、クララの髪型を崩すほどであった。
「イ、イーリスちゃん! ストップ! ストップ!」
イーリスは魔法を解除した。
「もうちょっとマナを抑えようか。流石に家の中でその威力は強すぎる」
確かに外でならともかく家でこれを使ったら部屋中が荒れ放題になってしまう。
「うう……ごめんなさい」
「だ、大丈夫だよ。イーリスちゃんは悪くない。先に威力の調整を説明しなかった私が悪いんだから」
クララの想定を超えてイーリスのマナは大きかった。その分、風の大きさも増えてしまったのだ。初めての魔法でここまでの風は出せない。
クララは内心、イーリスの才能の末恐ろしさを感じてしまった。
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