人を殺せば強くなる業を背負った暗黒騎士は平穏に暮らしたい

下垣

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暗黒教団編

第41話 教団の設立理由

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 スキルアブソーバーに能力を吸われたら、最悪スキルなしで生きなければならない。それはとても辛いことだ。俺も暗黒騎士であることを隠すためにスキルなしを装ったことがある。その周りの軽蔑とも哀れみにも似た視線は経験したものにしかわからない辛さがある。

「なるほど。スキルなしにさせられる危険があるから、その危険分子を始末したり管理したりしようとしたわけか」

「しかし、なぜグレイス王がカゲロウ族にしか扱えないスキルを……?」

「その答えは簡単。グレイス王が嬰児えいじだった頃、カゲロウ族の嬰児とすり替えたから。生まれて間もなければ入れ替わったことには気づかれにくい。これがカゲロウ族が打った革命の一手なのです」

 悪霊が憑りついたベラドンナは淡々と語る。彼女に憑りついた悪霊も自分が助かりたい一心で真実を語るはず。だから、これは真実なのだろう。

「なるほど……では、グレイス王は暗黒騎士の力を手に入れるために暗黒教団を作ったと言うことですか?」

「ええ。暗黒教団は表向きの姿。その真の姿はグレイス王の私設軍隊。教団の上に行けば行くほど戦闘能力が高くグレイス王の息がかかった兵がいる。彼らの目的は、暗黒騎士を捕らえてグレイス王に差し出すこと。そして、グレイス王が暗黒騎士になり、世界の支配者になる。我らが崇拝するのは、暗黒騎士にあらず、いずれ暗黒騎士になるグレイス王こそ主なのだ」

「なんてことだ……では、なぜ私はこの地位を手に入れることが……私はグレイス王の思惑は全く知らなかった」

「それはノエルが純粋な信者の中でも戦闘能力が高く、悪霊憑きのスキルを有していたから。暗黒騎士となったグレイス王にノエルは仕える予定だったのだ。そうすることで、暗黒騎士唯一の弱点である聖騎士に対抗する切り札カードとして機能する。だから、後に懐柔するために今の内に高い地位を与えていたのだ」

 ベラドンナが淡々と語る真実を耳にしてノエルは拳を握りしめている。自分が信じていたものに裏切られた気分なのだろうか。ノエルからしたら、純粋に暗黒騎士やアルバートを崇拝していたのに、それがグレイス王に利用されていただけだなんて。

 俺も開拓地村ではエドガー達に裏切られた。だから、その悔しさはある程度は理解できるつもりだ。

「わかりました。ベラドンナ。もう貴女から聞く情報はありません。消えなさい。ソウルクラッシュ!」

 ノエルが手を開き、そして拳を握ると次の瞬間、ベラドンナの口から血が噴き出てバタっと倒れた。

「がは……」

「お、おい。ノエル。お前何をした……」

「ソウルクラッシュ。悪霊を憑けた相手の魂を砕く技。心配しないで下さい。命までは取ってません。彼女ほどの生命力があれば、まあ一命はとりとめるでしょう。その後の後遺症は知りませんが……」

「そ、そうか……」

「私の主たるリック様の前で殺生を行うわけにはいきませんからね」

 ノエルはニコっと笑った。この笑顔はどういう感情で出たものなのか。それがわからない。どことなく薄気味悪い笑顔を見て、俺はあることを思い出した。

「あ! リーサはどうなってるんだ!」

 ベラドンナに夢中ですっかりリーサのことを忘れていた。



「なあ、リーサ。機嫌直せよ」

「リックもノエルも嫌い。私、ミミズが苦手って言ったのに! ずっと私をあんな目に遭わせて放置するなんてサイテー! 変態! 悪趣味! サディスト!」

 俺たちがベラドンナから尋問している間、ずっとリーサはミミズと戯れていた。まあ、その様は見ているこっちも身の毛もよだつ光景だったわけで、ミミズ嫌いからしたら本当に拷問のような仕打ちだったと思う。

「リック様はこれからどうするおつもりですか?」

「ああ……恐らく、俺のことはグレイス王とやらに筒抜けなんだろ?」

「ええ。教団員を取り逃がしてしまいましたからね。彼らが国に帰りグレイス王に報告するとなると……グレイス王は必ずリック様を捕まえようと躍起になるでしょう」

「なら事情が変わった。俺たちは近場の村に行き、そこで生活するつもりだったけれど……身に降りかかる火の粉は払わなければならない。グレイス王を倒して教団を解体する。でなければ、俺に平穏はやってこないだろう」

「リック様。私もお供してもよろしいでしょうか?」

 ノエルは膝をつき俺にそう問いただした。ノエルの能力は確かに強力だ。物理攻撃しか択がない俺やリーサと違って、搦め手で敵を追いつめることができる。仲間としては強力だけど、信用していいものなのか。

「ノエル。お前の祖国を裏切ることになるんだぞ」

「ええ。構いません。私がお仕えするのは王に非ず、暗黒騎士たるリック様なのです」

「あ! そうだ。リック。グレイス王とやらにスキルを吸収してもらえばいいんじゃないかな? そうすれば、リックは暗黒騎士じゃなくなって平穏な日常が……」

「リーサ。それはできない」

「え? なんで?」

 首を傾げるリーサ。

「私から説明しましょう。グレイス王は世界を支配するために暗黒騎士の力を欲している。そのためにリック様を捕まえようとしている。グレイス王に暗黒騎士のスキルが渡ると、彼は間違いなくその力を私利私欲のために使うでしょう。誰にも止められない暴君の誕生です。そして……暗黒騎士の力を手に入れればリック様は用済み。グレイス王の手によって、処刑されてもおかしくありません。だから、リック様の視点ではグレイス王に能力を渡すわけにはいかないのです」

「あ、そっか」

 リーサが手をポンと叩いて納得した素振りを見せる。

「全く、こんな単純なこともわからないのですか? 頭に栄養が言ってないようですね。まあ、無駄な栄養が詰まってそうな袋が2つほどありますが」

「セクハラ!」

 リーサが両手で胸を隠してノエルに軽蔑の視線を送る。

「私から提案よろしいでしょうか。まずは予定通り、近くの村に行きます。そこで、体勢を立て直してクリスリッカの国に行く準備をする。そこでなんやかんやと行動しながら、グレイス王を討つ! その流れが妥当かと思います」

「ああ。そうだな。ずっと野宿しっぱなしだったし、たまには宿に泊まりたい。なんやかんやの部分は宿でゆっくりと考えるとして、まずは村を目指さないとな」

 結局、俺はノエルと共に行動をすることとなった。グレイス王。俺の平穏を邪魔する敵だ。こいつをなんとか懲らしめてやらないといけない。でないと、俺は奴の追手からずっと逃げ惑う生活を送らなければならない。そんな生活は平穏とは呼ばない。

 俺は覚悟を決めて、1歩を踏み出した。
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