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暗黒教団編
第39話 香りの罠
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昨夜、襲撃されたと言うのに俺の目覚めはそれなりに良かった。テントから出ると目の前にローブを来た教団の姿があって、俺は思わず「うわ」と情けない声をあげてしまった。
「おはようございます。リック様」
よく見るとこの教団員はノエルだった。
「あ、ああ。おはよう……じゃなくて! お前、なんで俺のテントの前にじっと立っているんだよ」
「ええ、昨夜リック様が襲撃されたので、2度と同じ間違いが起こってはならないと思い、寝ずに警備をしておりました。安心してください。私の目の黒い内は絶対にリック様に手出しをさせませんから!」
両手を握りしめてぐっとガッツポーズをとるノエル。こいつ一晩中俺のテントの前にいたのか。なんというか暗黒騎士を守るという病的な執念を感じる。俺はこいつらに手を貸さないと言っているのにも関わらず、この待遇である。なんだか妙な気分になってくるな。
「リーサの方はまだ起きてませんね。そろそろ出発の時間ですから起きてこないと困るのですが」
「そうか。なら、ノエルが起こして来てくれ」
「ええ、わかりました……この悪霊に憑かれた者はトラウマレベルの悪夢を見てしまいます。それはもう、怖すぎて怖すぎて、思わず飛び起きてしまうほどです。情けない失禁と共にですが」
「おい! 待て、それをリーサに使うつもりか!」
俺は思わずノエルの肩を掴んで静止した。冗談じゃない。リーサは俺の大切な仲間だ。そんな仲間に悪夢を見させてたまるか。
「では、リック様が起こして来て下さい。私はこれ以外に人を起こす方法を知らないものですから」
「え、いや。そんなことできるわけないだろ。だってリーサは女の子だし……」
「では、やはり私が」
「ああ、ちょっと待て。俺が行くからその悪霊をしまえ!」
ノエルに任せることができない以上俺が行くしかない。俺は恐る恐るリーサのテントの前に立った。
「おい、リーサ! 起きろ!」
大声でテントに向かって叫ぶ。しかし、リーサは起きない。
「リーサ! 朝だぞー! 起きないとおいていくぞー!」
それでもリーサは起きない。
「出てきませんね。やはり、中に直接入るのがよろしいかと」
「く……仕方ないか」
俺はリーサに殺されるのを覚悟してテントに中に入った。テントの中は暗くて、すーすーとした可愛らしい寝息が聞こえる。どことなく泥臭さの中に甘酸っぱいような香りが漂っている。テントの隙間からわずかに入ってくる光を頼りに俺はリーサの位置を特定した。
リーサはエビのように丸まって寝ていた。自分の豊満な胸部をふとももにむにゅっと押し付けている。どっちも柔らかそうで、この間に挟まれたら気持ちよさそうだ……って、いかん。俺は何を考えているんだ。大切な仲間相手にそんな下衆い欲望を抱くんじゃない。とにかく、そっと起こすか。
「リーサ。朝だぞ」
俺はリーサの耳元で囁き、彼女の方をそっと揺らした。しかし、リーサは寝息を立てるだけで何の反応も示さない。
「どうなってんだ……?」
俺もまだ覚醒してから時間が経ってないから再び眠くなってきた。昨夜は襲撃されたせいで緊張状態のままで寝てしまったから眠りが浅かったのかもしれない。それにしてもなんか段々と加速度的に眠くなってきたな。いかん、リーサのテントで寝てしまったら、俺はそれこそ完全に変態になってしまう。1度テントから出よう。
俺は中腰の姿勢から立ち上がってテントの出口に向かおうとした。その時だった、俺は背後からガバっと何者かに引っ張られた。そしてその何者かは俺の体に組み付き、口元に布状のものを当てた。体の感触から推察するにこの人物は、俺より背が低い。そして、女性特有の柔らかさが伝わってくるから恐らく女。リーサか? いや、リーサにしては背が低い。
布から漂ってくる泥臭さに甘い香りが混ざったようなものが俺の鼻を通って脳を侵していく。だんだんと俺の意識が遠のいていく―—
「けけけ、全く。バカだよねえ。わざわざ自分から無警戒に私の香りが充満している領域に入ってくるなんてさあ」
女は高笑いをしている。
「本当は昨夜、暗黒騎士のテントに罠を仕掛ける予定だってけれど、ノエルの奴がずっと見張っていたからそれは出来なかった。だから、隣のテントに罠を仕掛けて、それにかかる可能性を期待したら……正にこんな簡単に引っ掛かってくれるとは」
女はリーサに近づく。そして、ローブからナイフを取り出して、リーサに刃先を向ける。
「盗賊女はもう用済み。死ね!」
女はリーサにナイフを突き立てようとした。しかし、そんなことは……俺がさせない!
俺は素早き起き上がり、ローブを纏った女の膝に思いきり蹴りを入れてやった。
「あぎゃ! き、貴様! なぜ……」
俺は喋らなかった。今は息を止めている状態だ。早くここから出て新鮮な酸素を吸いたい。しかし、リーサも放っておけない。俺は女からナイフを強奪して、それを構えた。
俺は女から視線をそらさないようにして、ナイフを女に突きつけたままリーサに近づく。そして、リーサの尻を思いきり蹴飛ばした。
「ひゃん! あ、あれー……あれあれ?」
リーサは起きたようだけど、状況を把握してない。俺は素早くナイフを地面におき、リーサの鼻と口を抑えて抱きかかえ、外へとダッシュした。
「うぐう」
喋れなくなったリーサは特に抵抗するでもなく。俺に身をゆだねている。
「ぷはー! はーはー」
「どうしたのですか。リック様」
テントから飛び出た俺を心配そうな表情で見るノエル。
「ローブを持った女! そいつが中にいて罠をしかけていた。あいつの出す香りを嗅ぐと眠くなってしまう」
俺は息を整えながらノエルに簡潔に説明した。一方でリーサは半覚醒状態と言ったところで、なんかボーっとしている。無理もない。ずっとあの香りを嗅ぎ続けたんだ。きちんと目覚められなくても仕方ない。
「なんですって。まさかベラドンナ。彼女が裏切ったんですか?」
「ベラドンナ?」
ノエルが気になる名前を出したところで俺は気づいてしまった。俺たちの四方八方をローブを着た教団員が取り囲んでいることに。
「な、なんだこいつらは……」
「みなさん! ベラドンナが裏切って我らが暗黒騎士様に危害を加えようと……」
「ノエル。裏切ったのはベラドンナだけじゃない。俺たちもだ!」
教団員たちが俺たちに一斉に襲い掛かって来た。まずい。俺は武器を持ってない。それにリーサはおねむな状態だから。使い物にならない。
「我らが暗黒騎士リック様に仇なす者は例え教団員であっても容赦しません! 百鬼夜行!」
ノエルの手から無数の悪霊が飛び出てきた。その悪霊は教団員たちの体の中にスーっと入っていく。悪霊が入った教団員たちは首元を抑えて苦しんでいる素振りを見せた。
「リック様。早くここから離れましょう。私の悪霊にも限りがあります。教団員全員に憑かせることは不可能です」
「わかった。リーサ行くぞ!」
俺はリーサを抱きかかえて、ノエルがダッシュする方に向かって走っていった。丁度ノエルが集中的に悪霊を送りこんで戦闘不能にした地点だ。苦しんでいる教団員たちを素通りして逃げ出す。
「暗黒騎士が逃げたぞ! 追えー!」
教団員たちが俺たちを追いかけてくる。
「なあ、ノエル。あいつらはどうして急に俺たちを襲ったんだ」
「いえ、私にはわかりません。共に暗黒騎士様を崇拝する同士だと思っていたのですが……」
事情はわからないが、ひとまずはノエルと行動を共にして教団員たちから逃げた方が良さそうだ。全く、次から次へと襲撃を受けてしまって……俺の平穏はいつになったらやってくるんだよ。
「おはようございます。リック様」
よく見るとこの教団員はノエルだった。
「あ、ああ。おはよう……じゃなくて! お前、なんで俺のテントの前にじっと立っているんだよ」
「ええ、昨夜リック様が襲撃されたので、2度と同じ間違いが起こってはならないと思い、寝ずに警備をしておりました。安心してください。私の目の黒い内は絶対にリック様に手出しをさせませんから!」
両手を握りしめてぐっとガッツポーズをとるノエル。こいつ一晩中俺のテントの前にいたのか。なんというか暗黒騎士を守るという病的な執念を感じる。俺はこいつらに手を貸さないと言っているのにも関わらず、この待遇である。なんだか妙な気分になってくるな。
「リーサの方はまだ起きてませんね。そろそろ出発の時間ですから起きてこないと困るのですが」
「そうか。なら、ノエルが起こして来てくれ」
「ええ、わかりました……この悪霊に憑かれた者はトラウマレベルの悪夢を見てしまいます。それはもう、怖すぎて怖すぎて、思わず飛び起きてしまうほどです。情けない失禁と共にですが」
「おい! 待て、それをリーサに使うつもりか!」
俺は思わずノエルの肩を掴んで静止した。冗談じゃない。リーサは俺の大切な仲間だ。そんな仲間に悪夢を見させてたまるか。
「では、リック様が起こして来て下さい。私はこれ以外に人を起こす方法を知らないものですから」
「え、いや。そんなことできるわけないだろ。だってリーサは女の子だし……」
「では、やはり私が」
「ああ、ちょっと待て。俺が行くからその悪霊をしまえ!」
ノエルに任せることができない以上俺が行くしかない。俺は恐る恐るリーサのテントの前に立った。
「おい、リーサ! 起きろ!」
大声でテントに向かって叫ぶ。しかし、リーサは起きない。
「リーサ! 朝だぞー! 起きないとおいていくぞー!」
それでもリーサは起きない。
「出てきませんね。やはり、中に直接入るのがよろしいかと」
「く……仕方ないか」
俺はリーサに殺されるのを覚悟してテントに中に入った。テントの中は暗くて、すーすーとした可愛らしい寝息が聞こえる。どことなく泥臭さの中に甘酸っぱいような香りが漂っている。テントの隙間からわずかに入ってくる光を頼りに俺はリーサの位置を特定した。
リーサはエビのように丸まって寝ていた。自分の豊満な胸部をふとももにむにゅっと押し付けている。どっちも柔らかそうで、この間に挟まれたら気持ちよさそうだ……って、いかん。俺は何を考えているんだ。大切な仲間相手にそんな下衆い欲望を抱くんじゃない。とにかく、そっと起こすか。
「リーサ。朝だぞ」
俺はリーサの耳元で囁き、彼女の方をそっと揺らした。しかし、リーサは寝息を立てるだけで何の反応も示さない。
「どうなってんだ……?」
俺もまだ覚醒してから時間が経ってないから再び眠くなってきた。昨夜は襲撃されたせいで緊張状態のままで寝てしまったから眠りが浅かったのかもしれない。それにしてもなんか段々と加速度的に眠くなってきたな。いかん、リーサのテントで寝てしまったら、俺はそれこそ完全に変態になってしまう。1度テントから出よう。
俺は中腰の姿勢から立ち上がってテントの出口に向かおうとした。その時だった、俺は背後からガバっと何者かに引っ張られた。そしてその何者かは俺の体に組み付き、口元に布状のものを当てた。体の感触から推察するにこの人物は、俺より背が低い。そして、女性特有の柔らかさが伝わってくるから恐らく女。リーサか? いや、リーサにしては背が低い。
布から漂ってくる泥臭さに甘い香りが混ざったようなものが俺の鼻を通って脳を侵していく。だんだんと俺の意識が遠のいていく―—
「けけけ、全く。バカだよねえ。わざわざ自分から無警戒に私の香りが充満している領域に入ってくるなんてさあ」
女は高笑いをしている。
「本当は昨夜、暗黒騎士のテントに罠を仕掛ける予定だってけれど、ノエルの奴がずっと見張っていたからそれは出来なかった。だから、隣のテントに罠を仕掛けて、それにかかる可能性を期待したら……正にこんな簡単に引っ掛かってくれるとは」
女はリーサに近づく。そして、ローブからナイフを取り出して、リーサに刃先を向ける。
「盗賊女はもう用済み。死ね!」
女はリーサにナイフを突き立てようとした。しかし、そんなことは……俺がさせない!
俺は素早き起き上がり、ローブを纏った女の膝に思いきり蹴りを入れてやった。
「あぎゃ! き、貴様! なぜ……」
俺は喋らなかった。今は息を止めている状態だ。早くここから出て新鮮な酸素を吸いたい。しかし、リーサも放っておけない。俺は女からナイフを強奪して、それを構えた。
俺は女から視線をそらさないようにして、ナイフを女に突きつけたままリーサに近づく。そして、リーサの尻を思いきり蹴飛ばした。
「ひゃん! あ、あれー……あれあれ?」
リーサは起きたようだけど、状況を把握してない。俺は素早くナイフを地面におき、リーサの鼻と口を抑えて抱きかかえ、外へとダッシュした。
「うぐう」
喋れなくなったリーサは特に抵抗するでもなく。俺に身をゆだねている。
「ぷはー! はーはー」
「どうしたのですか。リック様」
テントから飛び出た俺を心配そうな表情で見るノエル。
「ローブを持った女! そいつが中にいて罠をしかけていた。あいつの出す香りを嗅ぐと眠くなってしまう」
俺は息を整えながらノエルに簡潔に説明した。一方でリーサは半覚醒状態と言ったところで、なんかボーっとしている。無理もない。ずっとあの香りを嗅ぎ続けたんだ。きちんと目覚められなくても仕方ない。
「なんですって。まさかベラドンナ。彼女が裏切ったんですか?」
「ベラドンナ?」
ノエルが気になる名前を出したところで俺は気づいてしまった。俺たちの四方八方をローブを着た教団員が取り囲んでいることに。
「な、なんだこいつらは……」
「みなさん! ベラドンナが裏切って我らが暗黒騎士様に危害を加えようと……」
「ノエル。裏切ったのはベラドンナだけじゃない。俺たちもだ!」
教団員たちが俺たちに一斉に襲い掛かって来た。まずい。俺は武器を持ってない。それにリーサはおねむな状態だから。使い物にならない。
「我らが暗黒騎士リック様に仇なす者は例え教団員であっても容赦しません! 百鬼夜行!」
ノエルの手から無数の悪霊が飛び出てきた。その悪霊は教団員たちの体の中にスーっと入っていく。悪霊が入った教団員たちは首元を抑えて苦しんでいる素振りを見せた。
「リック様。早くここから離れましょう。私の悪霊にも限りがあります。教団員全員に憑かせることは不可能です」
「わかった。リーサ行くぞ!」
俺はリーサを抱きかかえて、ノエルがダッシュする方に向かって走っていった。丁度ノエルが集中的に悪霊を送りこんで戦闘不能にした地点だ。苦しんでいる教団員たちを素通りして逃げ出す。
「暗黒騎士が逃げたぞ! 追えー!」
教団員たちが俺たちを追いかけてくる。
「なあ、ノエル。あいつらはどうして急に俺たちを襲ったんだ」
「いえ、私にはわかりません。共に暗黒騎士様を崇拝する同士だと思っていたのですが……」
事情はわからないが、ひとまずはノエルと行動を共にして教団員たちから逃げた方が良さそうだ。全く、次から次へと襲撃を受けてしまって……俺の平穏はいつになったらやってくるんだよ。
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