人を殺せば強くなる業を背負った暗黒騎士は平穏に暮らしたい

下垣

文字の大きさ
上 下
36 / 40
暗黒教団編

第37話 暗黒教団への勧誘

しおりを挟む
 教団に迎え入れる? なにがなんだかわからない。俺はそんなことを望んでないのに勝手に決められても困る。

「ちょ、ちょっと! あんた何様のつもりなの! リックの意思は無視して、勝手に話を進めて」

「部外者は黙っててください」

 ノエルがリーサの額を思いきり指ではじく。リーサはその攻撃を受けて仰け反り倒れてしまった。

「え、ちょ、な、なにこれ。あはは、か、からだがく、くすぐったい……! ひ、ひい。あひぃ。た、たすけて……」

「おい! お前! リーサになにをした!」

 俺はその辺で拾った長い木の棒をノエルに向ける。剣と呼べる代物ではないが、こんなものでもないよりはマシだ。

「私が用があるのはリック様。あなただけなのです。そこの浅ましい体型をした金髪ビッチはどうでもいいのです」

「警告1、リーサを元に戻せ。警告2、これ以上、リーサの侮辱はするな。警告はした。それを破れば、俺はお前になにをするかわからない。暗黒騎士は1度力を解放したら、誰かを殺すまでは解除することができない。死にたくないんだったら、弁えろ!」

 ノエルは黙って指パッチンをした。次の瞬間、床に転がって悶えていたリーサが元に戻り、息を整えた後に起き上がりノエルを睨みつけた。

「リック。私、こいつ嫌い」

「リック様。私はあなたには敵意はありません。それどころかあなたに忠誠を誓いたい所存です。あなたが死ねとおっしゃるなら私は喜んで自らの首を刎ねましょう」

 ノエルはその場で跪いた。俺が「死ね」と言われたら自分の首を刎ねる? 冗談じゃない。誰が「死ね」だなんて言うか。

「俺はあんたらみたいな怪しい教団に関わる気など一切ない。俺はただ平穏に暮らしたいだけなんだ」

「平穏? ご冗談を。暗黒騎士のスキルに目覚めただけで理不尽に殺される。そんな腐った世の中でどうして平穏に過ごせると言うのですか?」

 ノエルの言葉が俺に突き刺さる。確かにノエルの言っていることには一理あるのだ。俺はアルバートのように快楽殺人者ではない。ただ、自分の身を守るため、誰かを助けるために自身の力を使うことはあったが、自らが強くなるために他者を殺す気などない。もちろん、殺しで快楽を得る嗜好もないのだ。それなのに、世間は俺を危険分子だと決めつけて殺そうとしてくる。

「それに処刑の対象になっているのは暗黒騎士だけではありません。表立ってはいませんが、私と同じ悪霊憑きも国から命を狙われる存在なのですよ」

「な、なんだって」

 ノエルから聞かされる衝撃的な事実だ。悪霊憑きは発現数が少ない。なのに、どうしてそんな扱いを受けるんだ。

「実はですね……悪霊憑きの発現確率は思ったより低くないのですよ。それなのに、なぜ低いとされているのか。このスキルに目覚めた者は秘密裏で暗殺されているのです。だから、悪霊憑きが発現したという記録が極端に少ないのです」

「そ、そんな……どうして」

「理由は1つ。このスキルが聖騎士を殺しえるスキルだからですよ。この世界はどうしても聖騎士が最強だということにしたいのです。そして、聖騎士を崇めるように国民を洗脳している。事実、騎士を目指す者の中でも聖騎士に憧れる者が多いでしょう」

 確かに。俺も騎士学校に通っていた時代は聖騎士に憧れていた。最も強くて高貴で神聖な存在。みんなは彼らに憧れを抱いていた。

「なぜだ! なぜそんなことをする必要がある!」

「それは力をつけた暗黒騎士を殺せるのが聖騎士だけだからですよ。国は暗黒騎士の存在を認めていない。だから、万一、力を付けた暗黒騎士が暴走した時に備えて、聖騎士の軍団を結成したのです。そして、悪霊憑きはその聖騎士の天敵だという理由で殺されてしまうのです。そうすることで騎士系最強が聖騎士になる。天敵がいない聖騎士は個体数を増やしていき、暗黒騎士をより始末しやすくなる。それが、各国の方針なのです」

 暗黒騎士が狙われるのはアルバートのせいだと言うことがわかる。だけど、悪霊憑きまで狙われるのは完全にとばっちりではないか。

「ノエル。良かったのか? 俺たちにスキルをバラして。悪霊憑きも狙われている存在なんだろ?」

「ええ。その点は問題ありません。私たちの教団に記憶を消すスキルを持つ者がいます。あなた方から情報を得たら、私のスキルに関する記憶を全て消すつもりでした。だけど、私とリック様は正に一蓮托生の身。同士なのです。記憶を消す必要はもうありません」

 なんなんだこいつは。俺は教団に入るとは一言も言ってないのに勝手に同士にして。ついていけない。

「ノエル。俺は教団に入るつもりはない。国に反逆したいのなら勝手にやってくれ。俺は戦争がしたいわけじゃない。戦いたいわけじゃない。ただ、平穏に暮らしたいだけなんだ」

 俺の発言を受けてノエルは黙ってしまった。そして、一呼吸置いた後に口を開く。

「果たして、血を流さないで平穏な日常は手に入るのでしょうか?」

 俺はその言葉にハッとした。何気なく真理を突いたかのようなその物言いに一瞬納得しかける。

「現在、平穏な暮らしをしている人は確かにいます。ですが、彼らがどうして平穏に暮らせるのかと言うと答えは1つ。戦争に勝ったからです。魔族との戦争に勝ち、地上の支配権を人類が得た。そして、次は人類同士での争い。負けた国は理不尽に殺され、嬲られ、弱体化する。植民地にされて、祖国の言葉や文化も奪われる。敵性の国の領土になったらと言って、その国の国民と同等の扱いを受けるわけではない。あいつは元敵国の民だ。その子孫だ。そうした差別が国レベルで行われる。彼らに平穏はありません。なぜならば、争いに負けたからです。そして争いから避け続けた者も領土や資源が他国に比べて少なくて、苦しい生活を強いられる。争いに勝った者だけが豊かな生活をしているのですよ」

 ノエルの言っていることは確かに間違ってはいない。それは歴史が証明している。魔族は負けたから滅んだ。人類間の争いになっても、負ければ国が滅ぶ。そんな戦いばかりだ。俺が帝都ロルバリアや故郷のフローレス村で平穏に暮らせていたのも、そこが勝った国の領土だからだ。俺が勝った国の国民だからだ。

「リック様。目を覚ましてください。あなたが平穏に暮らすために必要なこと……それは。暗黒騎士に仇なす国を全て滅ぼすことです。そして、あなたが世界の支配者になるのです。そうすれば、誰もあなたに逆らうものはいなくなる。約束された平穏な日常が待っているのです」

 ノエルが俺に向かって手を差し出す。この手を取れば、俺はノエルの側につくことになる。それは俺の日常が戦いになることを意味する。俺はただ、平穏な世界でスローライフな日常を送りたかっただけなんだ。

「俺に全世界を敵に回せと言うのか?」

「いいえ。リック様、あなたを受け入れてくれる国はあります。私の祖国にて、アルバート教の本部がある【クリスリッカの国】その国は暗黒騎士の存在を容認している唯一の国。そこがあなたの目指す真の平穏がある世界です」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

処理中です...