人を殺せば強くなる業を背負った暗黒騎士は平穏に暮らしたい

下垣

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暗黒教団編

第35話 アルバートを崇拝する者たち

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 開拓地村から逃げ出した俺とリーサ。ひたすらアテもなく彷徨い歩くこと10日。とうとう水と食料が底を尽き、体力も限界になってきた。周囲はなにもない荒野。水場もなければ、動植物もない。このまま俺たちはこの荒野で朽ちていくのか。

「やっぱりアテのない旅をするのは間違いだったな」

「そうだね。せめて村や街があるところをチェックすべきだったかも」

 開拓地村の周囲も未開拓であることから、周囲には村や街がない。ある程度人里近いところなら適当に歩き回っても誰かしら人と遭遇するのだけれど。人の気配が全くない。

 このまま野垂れ死ぬと思って諦めてたその時、前方に黒いローブを被っている人が見えた。

「あ! あそこに人がいるぞリーサ!」

「あ、本当だ。よーし。あいつから必要な物資を奪っちゃえ」

「発想が盗賊なんだよ」

「だって、私盗賊だもん」

 俺たちが人影に近づくと、その人影が1つではなく、何人かいることに気づいた。相手が複数いることに気づいたリーサが露骨につまらなさそうな顔をしている。流石に数的に勝てないと踏んだのだろうか。

「すみません。ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが」

 俺は意を決して声をかけた。全員が全員ローブを纏っている怪しい集団。だけど、現状では彼ら以外に人と出会ってないから藁にもすがる想いだった。

「なんですかな?」

 黒いローブの額の部分に星のマークがついている人物が俺の問いに答えてくれた。他の人物はそういったマークがないので、この人物が特別なのだろうか。この集団のリーダーかなにかなのだろうか? ローブで体型が隠れているし、声も中性的でこの人物が男か女かどうかはわからない。

「この編に村や街はありますか?」

「ふむ。なにやらお疲れの様子。この近くに村や街はありませんが、我らの教団の本部があります。よろしければ、そこでご休憩なされますか? ささやかな食事もご用意できます」

「え? そこまでして頂けるんですか? ちょっと待ってくださいね。仲間と相談しますので」

 俺とリーサは彼らに聞こえないように少し離れたところでヒソヒソ話を始める。

「どうする? リーサ。教団とか言ってるぞこいつら」

「なにか怪しい新興宗教かなにかかな? 正直言って私はあいつらに心を許す気にはなれない」

「ああ。俺も同意見だ。見ず知らずの旅人の俺たちに親切にしようとするのには、なにか裏があるかもしれない。用心して損はなさそうだ」

「ねえ。リック。あなただけがあの教団に潜入してよ。そこで私の分まで食料もらってきて」

「俺を生贄にする気かよ……」

 リーサと相談しても考えはまとまらなかった。本音を言えば寝泊まりできるところと食料が欲しい。けれど、こいつらはいくらなんでも怪しすぎる。

「決まりましたかな?」

「あ、いや……そのまだ……」

「そうですか。ゆっくりとお話を聞きたかったのですが……2人がいらした開拓地村のお話を」

 なんだこいつら。どうして俺たちが開拓地村から来たってことを知っているんだ?

「そう難しい顔をなさらないで下さい。私たちは開拓地村を目指していた。あなたたちはそっちの方向から来た。ただそれだけのことです。あの方向に人が住める場所は開拓地村しかありませんからね」

「なんだ……そういうことだったんですね」

「ええ。私たちは開拓地村で情報収集しようとしていたのです。ですが、開拓地村から来たあなたたちと運よく遭遇できた。これなら、わざわざ開拓地村まで出向く必要がないでしょう? あなた達は情報を提供する。私たちは衣食住を提供する。ギブアンドテイクの関係ではありませんか」

 ギブアンドテイク。そういう風に言われると怪しさが少し減る。相手の下心がわかっている状態ならば、幾分か安心することができる。目的もわからず訳の分からない親切を受けるほど怖いものはないからな。

「まあ、そういうことならお話くらいしますよ。なあ、リーサもそれでいいか?」

「そうね。リックがいいなら」

「決まりですね。それでは私たちの教団に案内します」



 荒野にポツンと立っているテントが密集したキャンプ地。俺たちはそこに案内された。教団の本部ということなのだから、さぞかし立派な建物があるかと思ったら……

「ここが教団の本部……?」

「いえ。本部はもう少し先にあります。ここはあくまでも中継地点。少し休憩してから進んだ方がよろしいと思って」

 俺の疑問に星のローブの人物が答えてくれた。俺たちはとあるテントに案内された。テントの中はそこそこ広かった。雑魚寝をすれば5人くらい寝泊まりできるスペースがある。

「それでは、簡易的な食事を持ってきますので、少しお待ちを」

 星のローブの人は俺たちをテントに残してどこかへと去って行った。

「ねえ。リック。なんか私少し違和感みたいなものを覚えてるんだけど」

「違和感? なんだそれは?」

「私たちが開拓地村を出てから10日が過ぎてる……だとするとあの野盗襲撃事件のことも周囲には知れ渡っていると思う」

「確かに……暗黒騎士の存在を隠す必要がない。その辺の騎士に早馬でも使って連絡を取っている可能性がある」

「そうしたら、あっと言う間に一帯に情報が広がると思うんだ。だって、暗黒騎士だよ。そんな存在が現れたとなったら一大事。周辺の住民に伝わってなきゃおかしい」

「ってことは、あいつらは開拓地村に暗黒騎士が出たことを知っていて、目指そうとしていたってことか?」

「うん。私もそう思う。そして情報収集って言ってたよね? ってことは、奴らが欲している情報は……」

「暗黒騎士についての情報……」

「ねえ。どうするリック。暗黒騎士のことを探っているってことは、その正体を突き詰めてどうこうする連中かもしれないんだよ」

「確かに……下手したら、俺が暗黒騎士だってバレているかもしれない」

 暗黒騎士の存在が公になれば、それに懸賞金がかけられる。と言っても、それは裏の世界での話だ。表の世界では、危険だからという理由で暗黒騎士に懸賞金がかけられていることは公表されない。金に目がくらんだ実力もない一般人が返り討ちにあう可能性があるからだ。つまり、暗黒騎士を狙っているのは、非合法なものでもなんでもありの裏の世界の住人ということになる。

「お待たせしました」

 星のローブの人物が軽食と水を持ってきてくれた。非常にありがたいが、もし俺の正体に気づいているんだとしたら、毒が盛られている可能性がある。

「ふふ、我々を警戒しているようですね。まあ、無理もありません。こんなローブを着ていては怪しいですからね。では、顔を晒しましょうか」

 星のローブを身に付けていた者はローブを手に欠けて頭巾を外して頭部を露わにした。そこにいたのは中性的で美しい人物だった。ただ、残念なことに中性的であるが故に性別がわからない。声でも見た目でも性別がつかないなんて、こいつは何なんだ。

「申し遅れました。私の名前はノエルと申します」

 またもや中性的な名前だな。どっちか判別がつかん。

「どうも俺はリックです」

「私はリーサ。よろしくね」

「さて、私たちの教団ですが、それはアルバート教と言えばわかりますかな?」

「アルバート。かつて、この世界を救った英雄の名前。それを教団の名前にしているということは……」

「ええ。彼を心から崇拝し、暗黒騎士の存在を世界の救世主として祀り上げる教団です。アルバート様はその始祖として、神聖視されています」

 なんだこいつら。あんな暴虐の限りを尽くしたとされるアルバートを崇拝しているだと? 頭がイカれているのか?
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