人を殺せば強くなる業を背負った暗黒騎士は平穏に暮らしたい

下垣

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開拓地村編

第28話 誰のための剣

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「リーサ。逃げろ」

「え? なに言ってるのリック! 暗黒騎士を相手に1人で戦うつもり? そりゃ、リックが実は暗黒騎士でしたーってなったら、私より強いんだろうけど……それでも私も頭数くらいには入るはずでしょ!」

 ありがたいことにリーサは、相手が暗黒騎士だと知っていても戦ってくれれうようだ。一緒に戦ってくれるという気持ちだけで本当に嬉しい。

「悪いなリーサ。そこまで気を遣わせてしまって。でも。リーサ。俺がジェノサイドモードになると、最悪リーサを殺してしまうかもしれない」

「え?」

「一応、攻撃対象は変身前に俺が攻撃しようとしていた対象に絞られる。だが、万一その相手に勝てないとなると周囲の人間を無差別に殺してしまうんだ。自らの力を高めるためにな。それが暗黒騎士の本能なんだ。だから、リーサ。逃げろ。俺はお前を殺したくない!」

 俺の言葉を聞いてリーサは固まっている。

「そんな一緒に戦うことも叶わないの? 私はリックになにもしてあげられない……」

 リーサは唇を噛んでいる。俺のためを想ってくれるのは本当に嬉しい。だけど、気持ちだけじゃあの暗黒騎士には勝てない。

「しばしの別れの挨拶は済んだか? 死んであの世で再開するまでのしばしの別れをよ!」

 アルバートが剣をこちらに向けてニヤリと笑った。敵はこれ以上は待ってくれないようだ。

「リーサ。キミは盗賊なんだ。どうやって逃げるかは俺が指示しなくても自力で判断できるだろ。というか、そっちの判断の方が正確か」

「ええ。そうね。盗賊の勘を舐めないで」

「盗賊だかなんだか知らないが! 逃がすわけないだろうが!」

 アルバートが走り出したリーサに向かって斬りかかる。リーサはそれを紙一重でするりと躱した。そして、アルバートに蹴りを入れようとする。

「はん! バカか! 暗黒騎士は防御力、再生力。共に優れている! 生半可な攻撃などダメージに入らんわ!」

 しかし、リーサのアルバートへの蹴りを辞めて、地面を思いきり蹴った。その反動で思いきり跳躍して、アルバートとすれ違い、出入り口の方に向かう。すれ違いざま、リーサはアルバートの方を向き、不敵な笑みを浮かべた。

「な!」

「ごめんねえ。私、盗賊だから人を騙すのは得意なの。じゃあね。純情な暗黒騎士様」

 リーサは扉を開けて酒場の外に出て行った。これでいい。これで心置きなく戦える。暴走してリーサを殺す心配がなくなったから。

「逃がすか!」

 アルバートはリーサを追おうとした。しかし、なにかを察知したのか振り返り俺の方を見た。

「暗黒の瘴気を纏ってる……まさかお前」

「力を解放させてもらう。俺にはみんなを守るための剣が必要なんだ。貴様ら悪党からこの開拓地を村を取り戻すだけの力が。そのためだったら。悪魔にだって魂を売ってやる。呪われた力だって活用してやる。もう後戻りはできんぞアルバート。ジェノサイドモードになったら、誰かを殺すまで解除できない。俺かお前、どちらかが滅びるんだ」

 俺の意識は揺らいでいく。アルバートがなにか喋っているようだが、まるで水中にいるかのように声がゆらゆらと聞こえて聞き取れない。奴がなんて言っているのか最早気にはならなかった。遺言はもう聞き飽きた。なあ、そうだろ。俺の相棒よぉ!



「あは、あはは。楽しくなってきたなリック! 暗黒騎士対決なんて、俺が生きてきた戦乱の時代にすらなかったものだ」

 漆黒の鎧に身を包んだリックを見てアルバートはひどく興奮している。自分も暗黒騎士ではあるが、アルバート自身も鎧を纏った暗黒騎士を見たことがないのだ。なぜなら、世界に暗黒騎士は自分だけだったし、力を解放すると暴走状態で意識がなくなるから鏡を見たところで記憶に残らない。

「なあ、リック。俺の夢を語ってもいいか?」

 アルバートの問いかけにリックはピタリと止まった。殺人衝動を抑えられない兵器ではあるものの人に対する情けは持ち合わせている。待てと言われたら待ってしまうのだ。相手が会話を始めたらそれに乗ってしまうのだ。

「俺の夢はな! 折角人類を平和にしてやったんだ。この暗黒騎士の剣で魔王軍を打ち破ってな! その自分たちが剣で自らが命を落とす。最高のシナリオさあ」

 アルバートは天井を見上げて高笑いをする。

「リック。今の俺の発言が遺言になるのか。それともてめえへの冥途の土産になるのかどっちだと思う?」

 アルバートは剣を構えてリックに向かって突撃した。

「土産なんぞいくらでもくれてやる!」

 リックは自身のブラッドブリンガーでアルバートの剣を防いだ。ブラッドブリンガー同士の対決。刀身がぶつかる度に2本の剣はバチバチっとスパークする。強大な力を抑え込むことができずに溢れ出てしまう。その溢れ出た2つの力ぶつかり合い、まざりあい、喧嘩をしたのでこのようなスペークが発生したのだ。

「実力はほぼ互角ってところか。足りない殺害数は暴走することで補ったか。くっくっく。嬉しいねえリック! 魔王ですら相手にならなかった俺だけど、本当に50年ぶりに強敵に出会えた。それが自分と同じ暗黒騎士だって言うのは少し捻りが少ないが、同じスキル同士の対決っていうのは燃えるよなァ!?」

 その後も剣劇は続く。剣同士がぶつかる音だけでなく、スパークが破裂する音も混ざり、非常に騒がしい場になっている。剣同士がぶつかる衝撃の余波は、酒場の倉庫を傷つけていく。倉庫に保管してあった食料や酒類も衝撃波で次々に破壊されていく。

「あーあ。年代物のワインもあるかもしれないって言うのに派手に壊しやがって。まあ、俺様もその片棒を担いでるんだけどな!」

 パワー。テクニック。そのどちらを取っても2人の実力は互角だった。お互い決定的な決め手に欠ける戦い。アルバートはこの戦いの本質を悟ってしまった。この戦いは先に疲労してパフォーマンスが落下した方が負ける。そういう戦いなのだ。

 相手の実力を削ぐのは肉体的な疲労。精神的な消耗。そのどちらでも構わない。剣の腕が少しでも鈍れば、そこを突ける。もちろん暗黒騎士は強いため、一突きで倒せるほど甘くいない。だが、最初に攻撃を入れれば有利になるのは間違いない。アルバートは耐えた。ひたすらに耐えて耐えて耐えた。リックの一瞬の隙をつくために。

 だが、意外にもすぐにリックの速度が鈍くなってきている。それもそのはず、アルバートは平常時にも関わらずにリックは自身の力を最大限に開放している状態である。使用するエネルギーはリックの方が断然に高い。こうなることは自明の理だった。

「ほらほら。どうした? リック! 圧されてるな!」

 リックは完全に防戦一方になってしまった。アルバートの攻撃1つ1つをいなすことに精一杯。そして、すぐに時は来た。

 一閃。それが、リックの鎧に命中して、鎧を割いた。最初の一太刀を与えたのはアルバートだ。

「ふ……」

 アルバートは完全に良い気になっていた。図に乗っている正にそういう状況。それが彼の命運を分けた。

 リックはアルバートの腕を掴んだ。攻撃の際に隙が出来てしまった。

「あ!」

 そして、掴んでいる方の反対の手でアルバートの腕に斬りかかる。

「あぎゃ!」

 アルバートの腕の肉が裂けた。骨にも若干ヒビが入っている。丈夫な暗黒騎士の体ではなかったら……常人の体であったのならば、その腕は間違いなく斬り落とされていた。それくらい強烈な一撃をリックは与えたのだ。

「肉を斬らせて骨を断つ……意識が失っている状態でもそれをやるとは恐ろしい奴め!」
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