上 下
22 / 40
開拓地村編

第22話 魔族の血統

しおりを挟む
 スキルを手にすることができるのは何も人間に限ったことではない。かつて、この世界には魔族と呼ばれる存在がいた。その魔族も人間と同様にスキルを扱うことができた。それ故に、人類と魔族は拮抗した力を持ち長きに渡り争いを続けていた。

 基本的に人類も魔族も得られるスキルは共通している。だが、人類には人類の。魔族には魔族にしか発現しないレアスキルというのも存在していた。魔族専用のスキルの1つ。それが死霊術師ネクロマンサーだ。だが、それを持つ者は既にこの世に存在してはいないはずだった。

 魔族の長たる魔王。それを暗黒騎士アルバートが討伐したことにより、数十年に及ぶ戦いは人類の勝利に終わった。

 魔王が敗れた後の魔族は、アルバートを主軸にした人類が根絶やしにした。アルバートは魔族を次々に拷問にかけて、仲間の居場所を喋らせて戦う意思がない者や嬰児えいじすらも残虐な方法で殺していた。

 アルバートは自身の手間を省くために、実力が拮抗している魔族たちを密室に閉じ込めて殺し合いをさせたりもしていた。最後の1人は解放するという条件を提示して。だが、魔族が根絶やしにされたことからもわかる通り、その約束が果たされることはなかった。

 そんな非道な行いに民衆はアルバートに対して良くない感情を抱いていた。政府連合の方針も降伏した魔族は見逃すように伝えていたはずだ。しかし、人類最強の暗黒騎士たるアルバートに誰もが逆らえなかった。

 魔族しか発現しないスキル『ネクロマンサー』。絶滅したスキルのはずが、それを持っているエドガー。そのことが指し示すのは1つしかない。魔族の生き残りが存在している。

 ネクロマンサーは死者の魂を物体に憑依させることできる。スキルは肉体ではなく、魂に宿るもの。それは死後も変わらない法則だ。魂を宿せる物体には色々と制約があり、低位のネクロマンサーは生前の姿を模した物体……人間なら人形の。犬なら四足歩行で可動する玩具など無生物にしか憑依することができない。

 だが、高位のネクロマンサーにもなれば、依り代にする物体の範囲を生物にまで広げることができる。そして魂が宿った生物は、その魂の能力を引き出すことができる。犬の魂を入れられたら嗅覚が犬並なるし、スキル持ちの人間の魂と共鳴すればその人物のスキルを扱うことができる。

「とんでもないバッドニュースが飛び込んできたな。魔族の生き残りがいたなんてな」

「残念ながらそのバッドニュースは誰の耳にも届かない。民衆に届く悲報は、開拓村が占領されて住民が全員死亡するニュースだ。キミ含めてね!」

 エドガーの背後に新たな背後霊のように立つ。その霊には見覚えがあった。俺がついさっきまで戦っていた聖騎士ラッド。自害したはずの彼だが、エドガーのスキルにより呼び出されたのだ。

「ラッド……!」

 俺は戦慄した。聖騎士と暗黒騎士は相性が悪い。辛うじてラッドに勝つことはできたが、ラッドの強さは戦った俺が知っている。もう1度戦って勝てる保証はどこにもないのだ。

「どういうわけかラッドの魂が見つかった。まあ、死んだんだろうね。本来なら死者の魂と交渉、契約をしなくちゃいけない。だけど、ラッドとは生前に契約を交わしていた。『もし、私が死ぬようなことがあればキミにその力を託す』とね」

 仲間が死んだ事実がわかったのに、まるで意を介さない反応。やはり、こいつは魔族だけに人間とは少しかけ離れた感性の持ち主なのだろうか。

「気を付けなさいエドガー」

 ラッドの霊がエドガーに語り掛けてきた。

「やつのスキルは暗黒騎士です。殺した相手の魂を自身に取り込み肉体を強化するスキルを持つ。私は奴に殺される前に自害したから取り込まれずに済みました。だから、こうしてキミの力になることができます」

「なるほど……キミにしては上出来だ。ラッド。そこまで考えて動いてくれるとは、流石に学者だけあって聡明だね」

「な……ラッド! お前が自害したのは、まさかエドガーのためだったのか!」

 点と点が線で繋がった。ラッドは自身が敗れたことを悟った。その時、後方にネクロマンサーのエドガーがいることは当然知っていた。そのエドガーに、全てを託すために自ら命を絶ったんだ。暗黒騎士の俺に殺されれば、魂が取り込まれてネクロマンサーのエドガーに助太刀することができなくなるから。

「リック。今度こそ決着をつけましょう。学者生活が長引いていて肉体的に衰えていた私だが、魔法職とはいえエドガーは若い肉体。聖騎士の剣技を扱うなら私より適任だ」

 エドガーの右手に白く輝く聖剣が宿る。その輝きはまるで太陽のように眩しくて直視が出来ない。聖剣にはエドガーの魔力が込められている。魔法系のスキルを得意とするエドガーだけに込められる魔力の量はラッドの比じゃない。

 俺はその光を見て思わず尻込みをしてしまった。だが、ここで退くわけにはいかない。エドガーがラッド以上に聖騎士を使いこなせたとしても、こいつらは絶対に許せない。俺を! 仲間を! 裏切ったんだ。こいつらのせいで、俺の開拓地村での平穏な生活は水泡に帰した。その恨みを剣に託して斬る!

 なんの付与もされていない単なる剣。それを頼りに俺はエドガーに斬りかかる。当然、エドガーもそれに反応する。

「直線的な動き。悪くないが、良くもないね」

 エドガーが聖剣を俺の剣にぶつけて切り結ぼうとする。だが、予想外の事態が発生した。

 カキーンと景気のいい音が鳴り響いて、剣が折れて吹き飛び床へと突き刺さる。俺はその音を聞いて死を覚悟した。だが、俺の手の感覚はここで攻めろと言っていた。

 ザクっとした肉を切る感覚。俺の剣での一撃がエドガーの腹部に命中する。エドガーが咄嗟に仰け反ったせいか傷は浅いが十分すぎるほどのダメージを負わすことが出来た。

「がは……バ、バカな! 僕の魔力が宿っている聖剣だぞ! どうして、スキルを解放していない暗黒騎士の剣に負けるんだ!」

 エドガーは腹部を抑える。聖騎士が扱える簡単な回復魔法で応急処置を施そうとしている。だが、ここで奴を回復させるわけにはいかない。追撃で更に痛手を負わせてやる!

「食らえ!」

 だが、それは迂闊な行動。エドガーは自身の左手を光らせて、俺の目を眩ませた。しまった。奴の剣は弱くても魔力を光に変換すれば、閃光を放つことができる。俺は怯んでしまい、攻撃のチャンスを逃した。

「ぜーはー……とりあえず簡単な治療は終わった。だが、ラッド。どういうことだ。キミの聖騎士のスキル全然役に立たないじゃないか!」

「エドガー。お前は相当悪いことをしたようだな。聖騎士は断罪の力。自身が悪に染まっているのならば、その効力は失う」

「なんだと……」

 なるほど。ラッドは自身のスキルが聖騎士であることを把握していたからこそ、悪事を働く時はスキルの制約に引っかからないように工夫していた。だが、エドガーは聖騎士である前提で動いていない。今までの悪行が積み重なって真の力を発揮できなかったのだ。

「はは。なんだか拍子抜けだな。どうしたエドガー。お前の悪行のせいで、仲間の死が無駄になったぞ」

「ぼ、僕がなんの悪行をしたって言うんだ! 僕は人殺しなんてしていない」

「なにも人を殺すだけが悪行ではない。お前はリーサを連れ去っていやらしいことをしようとしたな」

「それの何が悪いんだ。僕とリーサは相思相愛なんだぞ!」

「相思相愛じゃないから悪行としてカウントされてんだろ。セクハラ野郎が!」

 まあ、それが原因かはわからない。俺はエドガーの過去を知らないし、リーサを監禁した以上の罪があるのかもしれない。だが、とりあえず思いついた罪があったのでそれを指摘しただけだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

処理中です...