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開拓地村編
第20話 魔術師エドガー
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俺は酒場の扉を開けた。そこにいたのは酒を飲んで酔いつぶれている野盗たちとグラスを拭いているマスターの姿だった。
「リック! お前生きていたのか」
マスターは俺を見て驚愕している。それはそうか。マークからは俺は死んだと聞かされていたのだろう。
「ああ。地獄から復活してきたぜ。代わりにマークとラッドを地獄に送ってやったがな」
「マークとラッドをだと……」
マスターは俺の目をじっと見た。俺はマスターの表情から感情を読み取ろうとする。マスターの表情はいたって冷静だった。仲間を殺されたことによる怒りや焦りというものが全く感じられなかった。一言で表すなら無機質。生物としての性質が全く読み取れない。
「ほう……嘘を言っている様子ではなさそうだな」
マスターのスキルは竜騎士。戦闘には長けている存在だ。マークやラッド並の苦戦を強いられそうだ。
「ここに来た目的はなんだ? わざわざ理由もなしに敵の巣にやってくるほどお前は間抜けではないだろう?」
「リーサを返せ」
俺は自身の要求をハッキリと付きつけた。俺としてはこれ以上戦いたくない。野盗たちがリーサを返して、この開拓地村から撤退してくれれば他に何も望まない。
「そうか。リーサなら酒場の奥にいる。連れて帰るといい」
「え!?」
俺はマスターと戦闘になるとばかり思っていた。意外にすんなりリーサを返してくれるんだ。いや、戦わないことに越したことはないけれど。
「マークとラッドを倒したお前と戦うほど俺はバカじゃない。勝ち目のない戦いはしない主義なんでね」
「そうか。それはどうも」
俺は酒場の奥へと向かおうとする。
「ただ、気を付けろよ。リーサを解放しようとするとエドガーと激突するだろう。奴はリーサに対して恋愛感情を持っている。取り返そうとすれば確実に戦闘になると思え」
「忠告どうも」
俺はマスターの忠告を受けて、酒場の奥へと向かった。エドガーは単なる魔術師だ。所詮は後衛職。前衛職が距離を詰めて戦えば勝てない相手じゃない。特にこの室内という狭い空間では戦士の方に分があるだろう。
酒場の奥へ進むと、そこには横になっているリーサがいた。それをムカつくほど幸せそうな顔で見つめるエドガー。殴りたいこの顔を。
「エドガー!」
俺は思いきりエドガーの名前を呼んでやった。するとエドガーは俺に気づいたのか体をビクっとさせた。
「な、なんだね! キミは! 僕とリーサの逢引を邪魔するんじゃない!」
「なにが逢引だよ。お前、リーサに変なことしてないだろうな。もし、リーサの身に何かあったら……」
「あったら、どうするんだい?」
「泣くまでぶん殴ってやる! ただし、どうしても泣かなかった場合は吐くまで殴るとする!」
俺は拳を鳴らしてエドガーに対して威嚇する。こいつは恐らく気弱な性格だろう。ちょっと脅せばすぐに屈しそうな雰囲気がある。
「ふん。野蛮な人だな。だが、安心しな。リーサの体には手を出していない。もし、リーサの体に悪戯したら起きちゃうからね。お姫様は王子様のキスで目覚めるもんだからさ」
「は、はあ!?」
なに言ってんだこいつ。意味がわからない。常人には理解しがたいぞ。
「それに……リーサの寝顔を見ているだけで僕は幸せなのさ。キミにわかるかい? 愛しい人の寝顔はなによりも愛しいって」
頭痛が痛いみたいなこと言い出したぞ。だから、お前は三流大学の出なんだよ。まあ、騎士学校中退の俺が言えたことじゃないけど。
「まあいいさ。どうせアレだろ。キミもリーサを狙っているんだろ? そして、僕からリーサを奪いに来た違うかい?」
「いや、別にリーサは狙ってないし。俺はもっとお淑やかな女性が好みだ。ただ、取り返しに来たのは本当だがな!」
俺は剣を抜いた。そして、それをエドガーに向ける。俺の行動を見てエドガーも自身の持っているロッドを俺に向けてきた。お互い敵意剥き出しの状態。いつ戦闘が始まってもおかしくない。
「僕の愛しいリーサを奪おうとするなんて万死に値する! 死ね! ナノ・メテオ!」
エドガーが呪文を唱えるとロッドの先から炎に包まれた石が四つほど出てきた。その石の大きさは、成人男性の拳ほどの大きさだ。そして、その四つの石は俺に向かって飛んでくる。
俺はその石を自身が持っている剣で撃ち返した。四つ同時にだ。もの凄い高度なテクニックを披露したと自分でも思う。跳ね返された石はエドガーめがけて飛んでいく。
だが、その石はエドガーにぶつかる寸前で消滅してしまった。
ナノ・メテオ。メテオ系統は上位の魔術だ。術を扱うスキルは数多くあれど、純粋な魔術師以外には使えない魔術である。
「ふふ。バカだね。魔術師が自分の魔術にやられるわけないじゃないか」
「ああ。俺も今ので倒せたとは思ってないさ。ただ、ほんの挨拶代わりだ。俺がどれだけ強いのか示すためにね」
「スキルなしのクソザコがほざくな! 騎士の訓練をしたらしいけれど、キミは所詮スキルなしの落ちこぼれなんだよ!」
エドガーはまだ俺がスキルなしだと勘違いしている。まあ、その方が意表が突けて都合がいいわけだけれど。
「食らえサンドストーム!」
「な!」
エドガーのロッドの先から、砂嵐が発生する。サンドストームは地属性と風属性の合成術である。
合成術。それは、二つの異なる属性を併せ持つ魔術のことである。火と風でフレイムエアー。水と風でメイルシュトローム。と言った具合だ。
俺は完全に意表を突かれた。砂嵐が俺に直撃する。殴りつけるような風と砂の塊が俺の腹部に思いきり命中した。
エドガーのスキルは魔術師のはず。合成術を扱うには合成術士のスキルが必要だ。そして、合成術士のスキルを持つと上位の魔術を使用することができない。つまり、ナノ・メテオとサンドストームを両立できる術使いはこの世に存在するはずがないのだ。
この矛盾が俺の判断を鈍らせた。一体なんなんだこのエドガーというやつは。
「エドガー。お前、ただの魔術師じゃないな」
「さあ。どうかな? 僕は単なる魔術師だよ。でも、合成術が使えるんだ。どうしてだろうね~」
違う。こいつのスキルは魔術師じゃない。こいつのスキルの謎を解かないと俺に勝ち目はない。そんな予感がした。
「リック! お前生きていたのか」
マスターは俺を見て驚愕している。それはそうか。マークからは俺は死んだと聞かされていたのだろう。
「ああ。地獄から復活してきたぜ。代わりにマークとラッドを地獄に送ってやったがな」
「マークとラッドをだと……」
マスターは俺の目をじっと見た。俺はマスターの表情から感情を読み取ろうとする。マスターの表情はいたって冷静だった。仲間を殺されたことによる怒りや焦りというものが全く感じられなかった。一言で表すなら無機質。生物としての性質が全く読み取れない。
「ほう……嘘を言っている様子ではなさそうだな」
マスターのスキルは竜騎士。戦闘には長けている存在だ。マークやラッド並の苦戦を強いられそうだ。
「ここに来た目的はなんだ? わざわざ理由もなしに敵の巣にやってくるほどお前は間抜けではないだろう?」
「リーサを返せ」
俺は自身の要求をハッキリと付きつけた。俺としてはこれ以上戦いたくない。野盗たちがリーサを返して、この開拓地村から撤退してくれれば他に何も望まない。
「そうか。リーサなら酒場の奥にいる。連れて帰るといい」
「え!?」
俺はマスターと戦闘になるとばかり思っていた。意外にすんなりリーサを返してくれるんだ。いや、戦わないことに越したことはないけれど。
「マークとラッドを倒したお前と戦うほど俺はバカじゃない。勝ち目のない戦いはしない主義なんでね」
「そうか。それはどうも」
俺は酒場の奥へと向かおうとする。
「ただ、気を付けろよ。リーサを解放しようとするとエドガーと激突するだろう。奴はリーサに対して恋愛感情を持っている。取り返そうとすれば確実に戦闘になると思え」
「忠告どうも」
俺はマスターの忠告を受けて、酒場の奥へと向かった。エドガーは単なる魔術師だ。所詮は後衛職。前衛職が距離を詰めて戦えば勝てない相手じゃない。特にこの室内という狭い空間では戦士の方に分があるだろう。
酒場の奥へ進むと、そこには横になっているリーサがいた。それをムカつくほど幸せそうな顔で見つめるエドガー。殴りたいこの顔を。
「エドガー!」
俺は思いきりエドガーの名前を呼んでやった。するとエドガーは俺に気づいたのか体をビクっとさせた。
「な、なんだね! キミは! 僕とリーサの逢引を邪魔するんじゃない!」
「なにが逢引だよ。お前、リーサに変なことしてないだろうな。もし、リーサの身に何かあったら……」
「あったら、どうするんだい?」
「泣くまでぶん殴ってやる! ただし、どうしても泣かなかった場合は吐くまで殴るとする!」
俺は拳を鳴らしてエドガーに対して威嚇する。こいつは恐らく気弱な性格だろう。ちょっと脅せばすぐに屈しそうな雰囲気がある。
「ふん。野蛮な人だな。だが、安心しな。リーサの体には手を出していない。もし、リーサの体に悪戯したら起きちゃうからね。お姫様は王子様のキスで目覚めるもんだからさ」
「は、はあ!?」
なに言ってんだこいつ。意味がわからない。常人には理解しがたいぞ。
「それに……リーサの寝顔を見ているだけで僕は幸せなのさ。キミにわかるかい? 愛しい人の寝顔はなによりも愛しいって」
頭痛が痛いみたいなこと言い出したぞ。だから、お前は三流大学の出なんだよ。まあ、騎士学校中退の俺が言えたことじゃないけど。
「まあいいさ。どうせアレだろ。キミもリーサを狙っているんだろ? そして、僕からリーサを奪いに来た違うかい?」
「いや、別にリーサは狙ってないし。俺はもっとお淑やかな女性が好みだ。ただ、取り返しに来たのは本当だがな!」
俺は剣を抜いた。そして、それをエドガーに向ける。俺の行動を見てエドガーも自身の持っているロッドを俺に向けてきた。お互い敵意剥き出しの状態。いつ戦闘が始まってもおかしくない。
「僕の愛しいリーサを奪おうとするなんて万死に値する! 死ね! ナノ・メテオ!」
エドガーが呪文を唱えるとロッドの先から炎に包まれた石が四つほど出てきた。その石の大きさは、成人男性の拳ほどの大きさだ。そして、その四つの石は俺に向かって飛んでくる。
俺はその石を自身が持っている剣で撃ち返した。四つ同時にだ。もの凄い高度なテクニックを披露したと自分でも思う。跳ね返された石はエドガーめがけて飛んでいく。
だが、その石はエドガーにぶつかる寸前で消滅してしまった。
ナノ・メテオ。メテオ系統は上位の魔術だ。術を扱うスキルは数多くあれど、純粋な魔術師以外には使えない魔術である。
「ふふ。バカだね。魔術師が自分の魔術にやられるわけないじゃないか」
「ああ。俺も今ので倒せたとは思ってないさ。ただ、ほんの挨拶代わりだ。俺がどれだけ強いのか示すためにね」
「スキルなしのクソザコがほざくな! 騎士の訓練をしたらしいけれど、キミは所詮スキルなしの落ちこぼれなんだよ!」
エドガーはまだ俺がスキルなしだと勘違いしている。まあ、その方が意表が突けて都合がいいわけだけれど。
「食らえサンドストーム!」
「な!」
エドガーのロッドの先から、砂嵐が発生する。サンドストームは地属性と風属性の合成術である。
合成術。それは、二つの異なる属性を併せ持つ魔術のことである。火と風でフレイムエアー。水と風でメイルシュトローム。と言った具合だ。
俺は完全に意表を突かれた。砂嵐が俺に直撃する。殴りつけるような風と砂の塊が俺の腹部に思いきり命中した。
エドガーのスキルは魔術師のはず。合成術を扱うには合成術士のスキルが必要だ。そして、合成術士のスキルを持つと上位の魔術を使用することができない。つまり、ナノ・メテオとサンドストームを両立できる術使いはこの世に存在するはずがないのだ。
この矛盾が俺の判断を鈍らせた。一体なんなんだこのエドガーというやつは。
「エドガー。お前、ただの魔術師じゃないな」
「さあ。どうかな? 僕は単なる魔術師だよ。でも、合成術が使えるんだ。どうしてだろうね~」
違う。こいつのスキルは魔術師じゃない。こいつのスキルの謎を解かないと俺に勝ち目はない。そんな予感がした。
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