人を殺せば強くなる業を背負った暗黒騎士は平穏に暮らしたい

下垣

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開拓地村編

第5話 開拓地村を目指して

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 荒野の村の盗賊団を倒した日の翌日。村の外れの所に盗賊達が土葬されていた。昨日有志の村人達が集まり、土を掘り起こして彼らの遺体を埋めてくれたのだ。何だか手間を取らせてしまったみたいで申し訳ない。

「おや、旅人さんおはようございます」

「おはようございます村長殿。昨日は泊めて頂きありがとうございました」

「いえ、こちらこそ盗賊を倒してくれてありがとうございます」

 村長に挨拶をした俺はそのまま村を後にしようとした。このままアテのない放浪の旅を再開するかな。

「旅人さん。もし差し支えなければこれからどちらに向かうか教えてもらっても構いませんかな?」

 村長に問いかけられた俺は歩みを止めた。

「どこに行くか。それはまだ決まってません。俺は流浪の旅人。いつか定住できる地を探して旅をする者です」

「そうですか……なら、開拓地村を目指してはどうでしょうか」

 開拓地村。聞いたことがある。かつて魔族が占領していた土地や魔族によって滅ぼされた土地の殆どは未開墾状態になっている。それを人間が住みやすいように開拓する事業が流行っているのだ。開拓に協力した者はその村に永住する権利を得られるという。

「ここから真北に開拓地村があります。そこの領主のボーン様はかなり聡明で心根の優しいお方と評判です」

 そうか。それならこんな俺でも受け入れてくれるかな。

「情報提供ありがとうございます村長」

 俺はそのまま真北を目指すことにした。開拓地村に行き、今度こそ自分の居場所を見つけるんだ。



 荒野を北に進む俺。荒野はどこまでも広がっていて、視界の果てには地平線が見える。俺は枯れた草を踏みしめて前へ前へと進んでいく。

 アテのない旅を三年間続けて来たけど、開拓村という目指すべき場所が出来た。村人生活は産業系のスキルがない俺にとっては馴染むことが出来なかった。だが、開拓事業は今や人手不足の業界。スキルの有無に関わらずに雇ってもらえる確率は高い。

 荒野をひたすら進んでいると一人の女性が仰向けで倒れているのを発見した。ウェーブかかった金髪で、身長が高くて胸もでかくてかなりスタイルがいい。服装は白のタンクトップと青のショートパンツで動きやすそうな格好だ。顔も目を瞑ってはいるが美人であることが予想される。

「あの……どうしたんですか?」

 俺は倒れている女性に声をかけた。胸が上下していることから息はしているようだ。しかし、声をかけても一切の反応はなし。何だろう……何だか嫌な予感がする。俺はこの女性に関わりたくないと思い、スルーしてまた北へと歩いていった。

「ちょっと! 何でスルーすんのよ! 普通こんな美女が倒れていたら、駆け寄って介抱の1つや2つしてくれるでしょ!」

 後方から少しキツめの声が聞こえる。振り返ってみるとそこには先程倒れていた美人が起き上がっていた。何だ生きているじゃないか。健康そうで良かった。

「もう頭来た! 私にスケベ心丸出しで近づいてきたら、持ち物を奪ってやろうと思ったのに……こうなったら力づくであんたの持ち物頂くよ」

 女はナイフを取り出して、俺に斬りかかって来た。おいおい。戦闘かよ。勘弁して欲しい。俺は持っているスキルがスキルだけに出来るだけ戦闘せずにいきたいのに。何で皆俺に戦いを挑むんだ? そんなに死にたいの?

 俺は仕方なく、腰にぶら下げていた剣を鞘から抜き取り女のナイフの攻撃を防いだ。

「剣を持っているってことはアンタは騎士か? その割にはスキルの片鱗を見せないな。まさか護身用で剣を持っているだけの生産系能力者?」

「あんまり戦闘中に喋るなよ。舌噛むぞ」

 俺は攻勢に出た。相手の女が戦闘系のスキルでも、相手が持っているのは所詮ナイフだ。刃渡りが長い剣を持っている俺の方に分がある。

「ふふふ。あんたの自慢の剣いただくよ。武装解除ディスアーマメント!」

 その瞬間、俺の手元から剣がぽろりと落ちた。な、何だ。俺は確かにしっかりと剣を持っていたのに、どうして剣が落ちたんだ。俺は決して手を離していないぞ。

 俺は慌てて剣を拾おうとするが、それより先に女の足が俺の剣を蹴飛ばした。俺は剣が飛ばされた方向に慌てて拾いにいく。しかし女に先回りされてまた剣を蹴飛ばされてしまう。

「へへ。盗賊のスキルを持っている私より素早く動こうなんて100年早いんだよ!」

「くそ、胸にそんな重そうな重りを2つも付けているのに何て速さなんだ」

「胸は関係ないだろ! 好きで巨乳になった訳じゃないやい!」

 冗談を言っている場合ではない。剣がなければ俺は何も出来ない。しかし、剣を拾おうとすれば、それを察知されて蹴飛ばされてしまう。このいたちごっこだ。どうすることも出来ないな。チクショウ。

 こうなったら、この状況を切り抜ける方法は一つしかない。俺は再び剣に向かって走り出した。

「無駄無駄! 私が先回りしていくらでも蹴飛ばしてやる!」

 女は俺の剣に向かって走り出した。よし、今だ。俺は地面を思いきり蹴り急ブレーキをかけて方向転換をして、北へ向かって走り出した。女は俺が逃げ出したことに気づかずに意気揚々と剣を蹴り飛ばす。俺が剣を見捨てて逃げ出したとも知らずに。

「な!」

 女が気づいた時には既に遅かった。俺は遥か遠くへと逃げていた。俺にはもう剣は必要ないのさ。開拓地村にまで辿り着ければ、もう悪漢に襲われる心配もないだろう。護身用の剣なんかいらねえんだ!

 俺はトカゲの尻尾きりのように自身の剣を生贄にした。あの女も剣を盗めたとあれば満足して引き下がってくれるだろう。

「お、おーい! 忘れ物だぞー!」

 女が俺の剣を持って追いかけて来た。やべえ。流石盗賊。足が速い。胸がでかい癖に足が速い。ってか忘れ物を届けに来るとかどんな親切な盗賊なんだよ。そのまま貰っておけよ。

 結果、10分程度の追いかけっこの末、俺は女に追いつかれてしまい剣を返されてしまった。え? 何この状況。

「ははは。自分の持ち物は大切に扱わないとダメだぞ」

 何で俺女盗賊に説教されてるの? 意味わからないんだけど。

「ってかさ、キミ盗賊ならそのまま俺の剣奪えば良くなかったか?」

 女は数秒の沈黙の後、口を開けてハッとしたような表情を見せる。

「き、気づかなかった」

 わかった。こいつはアホなんだ。盗賊稼業をやっているのに、他人の忘れ物を自分のものに出来ない残念な盗賊なんだ。

「なんかキミから物を奪う気がなくなっちゃった。私の名前はリーサ。盗賊のスキルを持っている女盗賊さ」

 え? 自己紹介する流れなの? 俺達さっきまで普通に戦ってたよね? 何仲良し面してるの? まあいいや。とりあえず自己紹介されたら、自己紹介で返すのが礼儀というものだ。相手が盗賊であっても礼を欠くのはいけないことだ。

「俺はリック。スキルはない。所謂出来損ないだ」

 本当は暗黒騎士のスキルを持っているのだが、正直に話すわけにはいかない。この力は隠しておかなければならないからな。

「ねえ、リックはこれからどこにいくつもりなの?」

「俺は北にある開拓村を目指している」

「ねえ、私も付いていっても「ダメです」

「何でよ!」

 リーサは口を尖らせて拗ねだした。

「盗賊を連れていけるわけないだろ。開拓村には善良な開拓者が集まっているんだぞ。お前、絶対悪さするつもりだろ」

「そ、そんなことないしー」

 リーサは俺から視線を逸らした。ここまでわかりやすい反応をするのか。

「ダメなものはダメ。さあ、とっとと帰った。帰った。」

 荒野の風が吹く。何だろう。また嫌な予感がする。リーサとの会話に夢中で人の気配に気づけなかった。俺が辺りを見回すと数人のモヒカンの男に取り囲まれていた。え? この地域ってモヒカンが流行ってるの?

「ひゃっはー! カップル発見! これより、カップル狩りを行いまーす!」
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