人を殺せば強くなる業を背負った暗黒騎士は平穏に暮らしたい

下垣

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プロローグ

第3話 予期せぬ来訪者

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入学式が終わって次の日、新入生たちはそれぞれの教室へ向かう。
姫歌のいる聖歌教育科はBクラスの先輩達が一緒の棟で、階段や廊下で頻繁にすれ違う事が多い。

「ねぇ聞いた?BクラスにもAクラスにも、小6くらいの子がいるって」

廊下にいる女子からヒソヒソ話が聞こえてくる。
本来であれば小学校へ行くはずの年齢であれば、身長差が歴然で話題にもなりやすい。
入試を受ける時に、募集年齢を読んでいれば把握できているはずなのだが、一般学校を通って来てから入学する生徒には物珍しいようだ。
姫歌はSCー4と書かれたクラスに入り、一番窓側の前から3番目に自分の名前の書かれた席を見つけ腰掛けようとする。
それと同時に目に飛び込んで来たのは、隣の席に座っているどうみても小学生の男子。
ゴールドアッシュの少し長めの短髪に、アイリス色の瞳、肌も透き通るように白い。
『本当に…小学生っぽい子いるんだぁ…』
そう思いながらその男子を見つめてしまった。

「あぁ…もしかして桜川さんですか?」
「え?あ、はい」
「高澤 亮っていいます。今日から席隣なので、よろしくお願いしますね」
「こ、こちらこそ……!」

少しオドオドしながら返す姫歌に亮はニコッと微笑んだ。

「おーい、席につけー」

男性教員の声がクラスに響く。
それと同刻にクラスのスピーカーからメロディーがながれた。

『え?これなんのメロディー??』
クラス中が鳴り響くメロディーに戸惑いを隠せない。
それもそのはずだ。
日本で使用されている広く知れ渡ったチャイムではなく、まるで駅の発車メロディーのような音だったからだ。

「最初は慣れないだろうが、今のメロディーが学園のチャイムだ。授業開始と授業終了でチャイムは違う。授業開始の時に現場にいないやつは減点だから気をつけるように」

チャイムの説明をしながら、先生がホワイトボードに名前を書き始めた。

【鈴原 透】

それが先生の名前のようだ。

「今日からこのクラスの担任になる鈴原透だ、みんなよろしく。これから学園生活に必要な事の説明を始める。その後皆には自己紹介をしてもらうから、説明してる間に考えておくように。じゃあ、まずは机の隅にあるスイッチを押してみてほしい」

言われるがまま、クラスの各々が机の隅にあるスイッチを押す。
するとノートが一冊入るだろう隙間が開口し、中からタブレットが出現した。

「それが教科書だ。机に搭載されている機能だから、昔みたいに教科書を忘れましたとはならない。授業が始まるまえに起動しておくように。ちなみに、寮にも同じものが搭載された机がある。勉強には困ることはないだろう。学園周辺から通う人はタブレットが貸し出しされる。扱いには十分気を付けるように」

「先生ー!」

クラスの1人が手を上げる。

「お、なんだ柊」
「寮生活以外の場所で使いたい時はどうしたらいいですか?」
「なるほど、いい質問だ。学校内の場所、例えば図書室や学習室などは備え付けの机に搭載されているが、学校外で使う場合貸し出し制度がある。手続きは事務室だ。貸し出しも返却も事務室へするように。万が一紛失した場合は速やかに学園や事務へ連絡する事。その場合減点されるから注意するんだぞ」

鈴原先生の説明は続く。
学校生活において重要なこと、何が減点対象で加点対象なのか。
昇級試験、授業の流れ、年間スケジュール。
そして一通りの説明の後、昼食をとり、午後は学園内をまわり、各種施設や設備の見学。
学園生活1日目はあっという間に過ぎていった。

「みんなお疲れー、今日はこれで終わりだ。気を付けて帰るように」

生徒をねぎらう先生の声。
クラスの皆も顔色に少し疲れが見える。

「桜川さん、部活って決めました?」

隣にいた亮が姫歌に問いかけた。

「うぅん、まだ決めてない。友達と一緒に見て回ろうとは思ってるの。よかったら亮くんも一緒にまわる?」
「あ、是非お願いします」

そう言いながら二人は教室を後にする。

「あ、姫歌!こっちこっち!」

声に反応して見ると、教室を出てすぐのところで空が手を振っていた。

「待ち合わせ場所言わずにいたから、迎えにきたよ。その子は?」
「同じクラスの高澤亮くん、席が隣なの」

姫歌の紹介に合わせて亮が頭をさげる。

「初めまして、高澤亮といいます。よろしくお願いします」
「私鴨頭草 空。よろしくね。好きに呼んでね」

『礼儀正しくて綺麗な子だなぁー』
と空は心の中で思う。

「今日部活見学するときに亮くんも一緒に行けたらって思うんだけど、いいかな」
「もちろんもちろん!」

姫歌の提案に空は快く受け入れた。
そして3人で歩きながら、午前中に配布されていた部活紹介の紙を見つめる。
サッカー、陸上、美術、大抵の学校にはありそうな部活の数々。
それに加えて見慣れないものもちらほら。

「とりあえず、3人ともそれぞれで興味がある部活、第三候補くらいまであげてみるってどうかな」
「いいかもしれません。かぶったら、その順番で見て見たらどうでしょう」
「うんうん、いいと思う!」

姫歌の提案に二人とも乗り気で答えた。
続くように空が自分の候補をあげていく。

「私はー…、創作→手芸→パソコン…だなぁ」
「僕は、読書→創作→手芸…です」
「私は創作→読書→美術…の順番かな」

3人ともかぶったのは創作だった。
満場一致で最初は創作部の見学に行くことになる。

「私と姫歌は勧誘があったからともかく、亮くんも創作に興味あったとは…」
「もともと僕いろいろなものを作るのが好きで、それに関する本を読むのも好きなんです」
「いいねー、私もアクセサリーとか、小物とか作るの大好きなんだ~!」

部活の拠点になっている第三校舎の3階工芸室に向かいながら、3人で情報交換。
実はあの道具は使いやすい、隣町にいい店がある、創作するときのアイデア等、話しているだけでわくわくする。
そうこうしているうちに、第三校舎の3階工芸室の前についた。
空がコンコンとドアをノックし、こんにちはーと言いながら開け、中を覗き込む。

「お、朝の子たち~…と、少年が一人~。早かったね」

中から出てきたのは入学式が始まる前、空を姫歌を勧誘してくれた神谷 徹本人だった。

「どうぞどうぞ~、君たちが最初だよ~」

迎え入れられた3人は中に入る。
大きめの綺麗なテーブルが6卓並び、その周りに6人ずつ座れる椅子がある。

「今日は部活見学の日だから、案内役の俺たち二人しかいないんだ。俺が部長の神谷 徹、入学式の時挨拶したの俺!で、あっちに座ってるのが副部長」

徹が手を差し出した方向、一番奥の窓側の席に、白髪で赤目の男子が座って本を読んでいた。

「白羽~、見学者来たから挨拶してやって」

——ビクッ——
徹が呼んだ名前に、姫歌は身体を震わせた。

『今…白羽…って言った…よね』

10歳の時…、あの2週間の楽しかった思い出…。
友達がいなかったお互いにとって、初めてできた友達。
とても嬉しくて、忘れもしない、ずっとまた会いたかったと。
それはその時姫歌が初めて抱いた感情…、初恋。
そんな人が今目の前にいるのだ。

徹に呼ばれた白羽がこちらへ歩いてくる。
姫歌の心臓の鼓動が早くなる。
他の人に聞こえるんじゃないかと思うくらいのドキドキで、胸が張り裂けそうなくらいに。

「副部長の白羽・クレーエ。あぁ…名前は父がドイツ人なんでハーフ。よろしく」

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