人を殺せば強くなる業を背負った暗黒騎士は平穏に暮らしたい

下垣

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プロローグ

第1話 その名はリック

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 南から吹く熱風が吹きすさぶ荒野を俺ことリックは歩いていた。この旅を始めてからどれだけの時間が経っただろう。そろそろ野宿じゃなくて宿に泊まりたい。そう思っていたその時、小さな村が見えた。今日はそこで泊まることにしようか。

 村に辿り着くとタンブルウィードが風に飛ばされて転がっていた。中々荒野の雰囲気が出て良い感じだな。と思っていたら、家から村の住人が出てきた。住人はやせ細った男性で身なりもみすぼらしい恰好をしていてお世辞にも裕福とは言えそうにない。

「あんた。冒険者かい? 悪いことは言わない。早くこの村から立ち去った方がいい」

「立ち去る? 冗談じゃないぜ。ったくよ。こちとら、もう一週間は野宿をしているんだ。久しぶりに暖かいベッドに眠らせてくれ」

 折角見つけた村なんだ。どうしてもここで寝泊まりしたい。寝袋で寝るのはもうごめんだ。昨日だって、サソリに刺されて起こされたくらいだ。もう虫にビクつきながら寝る生活は沢山だ。

「あんた知らないのかい? 今この村はワイルドシャーク盗賊団に占領されているんだ」

「盗賊団だって? お前それを早く言えよ」

 盗賊団と来れば当然捕まえれば賞金がガッポガッポ貰えるだろう。だとすると俺の取る行動は一つだ。

 逃げる。面倒事や厄介事はごめんだ。金よりも平穏の方が大事だ。いくら金があっても波瀾万丈の人生はノーセンキューだぜ。

 俺は荒野の村を後にしようとしたら、馬に乗った集団がやってきた。革ジャンにモヒカンとか言う明らかにアウトローな出で立ち。こいつらは明らかに盗賊団だろう。

「ひ、ひい。来た。ワイルドシャーク盗賊団だ。お、俺は家の中に籠らせてもらう。あんたも早く逃げな」

 村民は家の中に入って籠ってしまった。盗賊団に目を付けられたくなかったのだろう。

「に、逃げなっつっても……」

 俺は後ろを振り返った。その時には身の丈2メートル程ある大男に見下ろされて恐怖を覚える。

「よお、兄ちゃん。おめえ、この村の住人じゃねえな? 冒険者か?」

「は、はい。私はしがない冒険者です」

「だったら、有り金全部置いてけ。死にたくなかったらな」

 や、やべえ。カツアゲされてる。こ、こええ……こ、このお金は大切なものだ。そう簡単に渡すわけには……

「ど、どうぞお納めください」

 秒で渡した。だって怖いもん。こいつ明らかにやべえ奴だもん。だって盗賊団だぜ? こんなやべえ奴が何人もいるんだぜ? 勝てるわけないぜ?

「や、やめろ!」

 ふと背後から子供の声が聞こえてきた。振り返ると10歳くらいの男の子が立っていた。ははは、子供は怖いもの知らずだな。

「そ、その人からお金を返せ! ぶっ殺すぞ!」

 おいおい。子供がぶっ殺すとか不穏な単語を使っちゃいけません。親からどういう教育を受けてるんだい?

「チッ。またこのガキか……いいか! いくら俺達が子供が好きな盗賊団だからと言って、あんまり舐めてんじゃねえぞ! 世の中には限度ってもんがあんだよ!」

 えー。こいつらモヒカンとかいう風貌なのに子供好きなの……ギャップ凄すぎだろ。

「これ以上お前らの好き勝手にさせないぞ!」

 少年が棒切れを持ってモヒカン男に向かっていった。まずい。このままだとこの男の子が逆に危ない。相手は盗賊団だ。逆上したら何するかわからない。俺は少年を抱きかかえて制止した。

「な、何するんだ放せ!」

「そうだぞ! 放してやれよ!」

 え? これ俺が悪者の流れなの?

「じゃあ放すけど」

 少年を解放した途端少年は棒切れでモヒカン男の股間部分を思いきり強打した。痛そうだ。

「あひん……ああん」

 何だその声は。何で感じてんだよ。とんでもねえ変態だなこいつ。

「て、てめえ! よくもボスの股間を強打したな!」

「そうだぞ! 俺達ですらボスの股間に触ったことがないのに!」

 後ろのモヒカン達もやいのやいの言い始めた。いや、普通ボスの股間とか触らねえからな!

「よ、よくもやってくれたな! 子供が作れなくなったらどうするんだ! 気持ち良かったけど!」

 やっぱり気持ちよかったんじゃねえか。やべえよこいつ。

「おい、皆! このガキヤッちまおうぜ! 色んな意味で! 裸にひん剥いてやろうぜ!」

「おー!」

 ボスの指示で盗賊団達が沸き立つ。やべえ。何だこいつら。変態しかいねえのか。児童ポルノ法に抵触するだろうが!

「やめろ! 放せ変態! 汚い手で俺に触るな」

「へっへっへ。そう言われるとオジさん達ますますたぎっちゃうよ。ぐへへへ」

 やれやれ……あの力は使いたくなかったけど、目の前で少年が凌辱りょうじょくされるかもしれないのに黙って見てられるような腐った大人にはなりたくないんでね。

 俺は暗黒騎士の力を解放することにした。

 ――我が名はリック。女神より賜った暗黒騎士の恩寵をその身に宿す者



 リックの左胸からどす黒いオーラが漏れだす。オーラは渦状になり、リックの体を包み込む。リックの体が漆黒の全身鎧に包まれていく。全ての光の飲み込む程の純粋な黒さを持つ鎧はリックの体を余すところなく覆い尽くす。

「な、何だ。てめえその格好は……」

 盗賊団のボスがリックの格好を見て恐れ戦いた。生物が本来持っているであろう生存本能が察知したのだろう。こいつはかなり危険な人物であると。しかし、撤退の指示は出せなかった。訳の分からない冒険者相手に逃げたという不名誉な扱いを受けたくないという理性が邪魔をしたのだ。

 リックは少年に近づき、彼を掴んでいる盗賊団の一員の首の骨を何の躊躇いもなくへし折った。絶命した盗賊から解放された少年は恐怖でその場から逃げ出した。盗賊団にすら怯まなかった少年がリックに怯えて逃げ出したのだ。

「ひ、ひい! こ、こいつやりやがった!」

「ぜ、全員でかかればこんなやつ!」

 盗賊団の面々は剣を抜き取り一斉にリックに斬りかかった。剣でリックの鎧に攻撃する。が、金属同士がぶつかる音がして剣が弾かれるだけだった。リックの鎧には擦り傷一つ付いていない。

「な、何だこの堅さは……」

 攻撃が通らないことに絶望した盗賊団は逃げようとする。しかし、リックが彼らを逃がすつもりはなかった。リックが深紅の剣を抜刀し、地面へと突き刺した。そのまま盗賊達の真下から深紅の刃が突き出てきて彼らを串刺しにしたのだ。

「ひ、ひい……」

 あっという間に部下を全滅させられてしまった盗賊団のボスは腰を抜かして恐怖のあまり小便を漏らした。勝てない。こいつは次元が違いすぎる。それが盗賊団のボスが最期に思ったことである。

 気づいたら、暗黒騎士リックの深紅の魔剣ブラッド・ブリンガーの餌食にされていた。ブラッド・ブリンガーは盗賊団達の血を啜り、更に切れ味を増していくであろう。



 俺が意識を取り戻した時には既に盗賊団は全滅していた。死体を見るに子供の死体はなさそうだ。良かった。あの少年を巻き込まずに済んだ。暗黒騎士になった時は意識がないから無関係の民間人も巻き込む可能性があるからな。

 俺が盗賊団を全滅させたと村長に言ったらお礼に今夜はただで泊めてくれることになった。やった。宿泊費が浮いた。

 さて、今日は戦って疲れたし明日に備えて寝るか。
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