ミュージック・アワー～恋するウサギちゃん♡～

30話 【追い風】

お母さんのその一言を聞いた瞬間、  

私のカラダと心は見えない力に突き動かされて

立ち上がった。

「まだ…… 間に合うかな……？」

私が聞くとお母さんは笑って答えた。

「……当たり前じゃない。」

いつものお母さんだ。

力強くて、元気で、誰よりも優しい。

「お母さん、私……」

ゴメンね。

「行ってきなさい！」

お母さんは満面の笑みで私を送り出してくれた。

お母さん

いつもありがとう。

本当にありがとう。


『キミが胸を焦がすから』

『夏が熱を帯びてく』

『そして僕は渚へと』

『誘うナンバーを届けてあげる』


私は新しい自転車に乗って

その向こうに水平線が見える

長くて急な坂道を下る。

大好きな

あの夜キミと見た海は

夏の太陽に照らされて

キラキラと輝いていて

まるで宝石みたい。


『淡い恋の端っこを』

『決して離さなければ』

もう二度と

離さない。

『この夏は例年より』

『騒々しい日が続くはずさ』


T字路に差し掛かる。

"絶対間に合わせっから。"

私が寝坊したあの日、

自転車の後ろに乗せてくれたキミは

優しくて

強くて

カッコよくて。

胸が苦しくなったよ。


ふいに吹いてきた追い風が

私の背中を力強く押す。


……うん

わかってる。

もう逃げたりしない。