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16話 【向かい風】

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「昨日…… 帰り道に吹奏楽部の女子が何人かいてさ」

ケンタは必死にペダルを漕ぎながら口を開いた。

「オーディションあるって会話が聞こえたんだ。」

なるほど。

だからケンタは知ってたのか。

「今何時?」

私はケータイの待ち受け画面を見た。

「7時48分。」

「…もうちょいスピード上げるわ。」

ケンタはそう言ってペダルを漕ぐスピードを更に速めた。


そして

自転車は

海沿いの道路に差し掛かった。

それと同時に

磯の香りを含んだ向かい風が強くなって

ケンタのことを邪魔する。

それだけじゃない。

白く輝く朝日が

熱を運んできて

ケンタの額を汗が流れた。

でも

息を切らしながらも

ケンタのペダルを漕ぐスピードは落ちなかった。

「絶対間に合わせっから。」

なんで?

なんでこんなにも頑張ってくれるの?


"小学生の頃、ケンタってアオイのこと好きだったよね。 まだ好きだったりして。"

ふと昨日のサヤの言葉が

脳裏をよぎった。

まさかね。

それはもう何年も前の話でしょ?


学校が見えてきた。

その時

私は

ケンタの背中を見て

なぜだか胸が苦しくなった。


ねぇ

誰か教えて。

この感情は何?
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