ファートゥム・サルウァトル(運命救世主)

ちょちょいのよったろー/羽絶 与鎮果

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第七章 【吟撫】VS【卵】のモンスター

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 【吟撫】、【琴花】、【勇至狼】の三人は巨大化した【卵】の前にやって来た。
 その現場には、一人の男が居た。
 男は、
「ひぃぃぃぃ……
 何だぁ~
 何が起きたんだぁ~?」
 と言ってパニクっていた。
 どうやら、この男が【卵】を持ち帰った【愚か者】だろう。
 見ると、この男の手元には、【卵パック】が何パックかあり、そこには50数個の【卵】があった。
 【琴花】は、
「ちょっとあんた。
 そんなに持ち帰ったの?
 何考えているの?
 バカじゃないの?」
 と言った。
 巨大化した【卵】も合わせて57個の【卵】を確認した。
 どうやら、この男――【卵】を熱した様だ。
 食べるつもりだったのだろう。
 その熱に反応して【卵】が大きくなったのだ。
 【吟撫】は、
「まぁ、良いわ。
 とにかく、巨大化した【卵】を処理しましょ。
 こいつはもう【孵化】するわよ」
 と言った。
 その言葉を証明するかのように、巨大化した【卵】にピシピシピシとヒビが入って来た。
 そして、【卵】ばバリッと割れ、中から、モンスターが飛び出てきた。
 出てきたのは、【虎】に似たモンスターだった。
 【卵】から【虎】?
 通常ならあり得ない設定だが、【六番の界物】/【グエ】の使徒とされる【シックスス・ワールド(第六の世界)】の【入り口】近くに生息しているモンスターの約【2割】は【卵】に入った状態になっている。
 【卵】の状態では無いモンスターもほとんどが元々は【卵】に入っていて【孵化】したモンスターだ。
 それが【卵の世界】と言われる由縁である。
 【13世界】の内、モンスターが【卵】の中に入っているのは【シックスス・ワールド(第六の世界)】の中だけで見られる現象だった。
 【虎型のモンスター】は、
「がるるるるるる……」
 とうなり声を上げる。
 威嚇しているのだ。
 【吟撫】は、
「さてと……
 じゃあ、やりますか……」
 とつぶやいた。
 【虎型のモンスター】は、
「ぐぁうっ……」
 と叫び、青白い炎の塊を吐き出し、【吟撫】の居た所に飛ばした。
 【吟撫】は、
「よっと……」
 と言って避ける。
 【吟撫】の居た場所は、【虎型のモンスター】の炎で燃えている。
 その後も、【虎型のモンスター】は、
「ぐぁうっ、
 ぐぁうっ、ぐぁうっ、
 ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、
 ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、ぐぁうっ、
 ぐぁうっ」
 と叫び、青白い炎を連射した。
 【吟撫】は、それを華麗にかわしていく。
 そして、
「……おっとあぶない。
 でも……
 そろそろ良いかな……」
 と言った。
 その言葉を発した【吟撫】をよく見ると、透明な糸の様なものが彼女の10指からピンと張った状態で伸びていた。
 それぞれの指から出鱈目な方向に伸びている。
 【吟撫】は、
「【モンスター】ちゃん。
 一曲いかが?
 J.S.バッハ フーガ ト短調(小フーガ)BWV578!」
 と叫んだ。
 そして、指を動かした。
 指から出た糸の様なものは複雑に絡まり、音を出す。
 そう。
 宣言通り、荘厳な音が鳴り響く。
 その音に合わせて、何も無い空間から、突然、炎が出現し、【虎型のモンスター】に向かって移動し、命中した。
 【虎型のモンスター】は、
「ぎゃうんっ」
 と悲鳴をあげる。
 さらに音に合わせて、明後日の方向から、今度は氷の塊が出現し、【虎型のモンスター】に向かって移動し、命中する。
 さらに別の方向から雷が出現し、【虎型のモンスター】に向かっていく。
 【虎型のモンスター】は避けるが、避けた先にはまた【吟撫】の演奏に合わせて、【真空波】、【岩】、【爆発】、【毒】、【麻痺】、【針】~……様々な【効果】が出現する。
 ズガガガドガンボンドンドドドダダダダズン……
 様々な音が響き渡る。
 それと同時に【虎型のモンスター】は一カ所に追い詰められ、そこで四方八方からの集中砲火を浴び、倒された。
 それを確認した【吟撫】は、
「ご静聴ありがとうございます」
 と言った。
 彼女の決め台詞だ。
 それを見た【勇至狼】は、
「す、凄い……」
 とつぶやいた。
 その言葉に反応した訳では無いが、戦闘の熱気で、他の56個の【卵】も温められ、次々と巨大化し孵化して行った。
 【吟撫】は、
「あらやだ……
 ちょっと派手にやり過ぎたかしら……
 まぁ良いわ。
 まとめて、やりますか。
 じゃあ、今度は、パッへルベル カノンでいきますか。
 行くわよ」
 と言って、また、指を動かす。
 【地球】から【惑星ネオ・アース】に伝わった音楽というのは意外に少なく、3000曲ちょっとしか伝わっていない。
 その中でも、【吟撫】は、クラシックの曲を好んで演奏しようと思っていた。
 【カノン】の音楽に合わせて、攻撃が四方八方から孵化したモンスター達を襲う。
 モンスターは次々と沈黙していく。
 【カノン】の演奏が終わった時には14体のモンスターが倒れた。
 【吟撫】は、
「次は三大レクイエム、行ってみようかしら?
 モーツァルト レクイエム、
 ヴェルディ レクイエム、
 フォーレ レクイエム、
 続けて行きましょうか」
 と言って、三種類のレクイエムを演奏した。
 それに合わせて攻撃の雨がモンスター達を襲う。
 気付いた時には全滅していた。
 最後に【怒りの日】の無いフォーレの楽曲を選んだのは彼女なりの優しさだろうか?
 穏やかに【モンスター】を倒す。
 そんな気遣いが感じられた。
 【バッハ】、
 【パッへルベル】、
 【モーツァルト】、
 【ヴェルディ】、
 【フォーレ】、
 いずれの楽曲の攻撃も音楽の音色に合わせて、千変万化した。
 この攻撃は何なのか?
 それは【吟撫】の攻撃バリエーションの1つ、【トラップアートムジカ】と言う【力】だった。
 最初、攻撃などを避けながら、【空間の歪み】に様々な【属性要素】を別々にしまい込む。
 それを【透明な糸】の様な【因子糸(いんしし)】という【エネルギー】で出来た【糸】を複雑につなぎ、自分の【指】にくくりつける。
 それで準備は万全となる。
 後は【因子糸】を使って演奏する事により、引っ張られた【属性要素】が【空間の歪み】から表に出て、目標物を攻撃すると言うものになっている。
 敵からすれば、何もない空間から突然、なんらかの【効果】が出現し、向かってくるので、対処が難しい攻撃と言えるのだ。
 その複雑な【技】を彼女はやって見せたのだった。
 モンスターを全滅させた【吟撫】は、
「どうかしら?
 少しは認めてくださる?」
 と言って【勇至狼】に向かってウインクした。
 【勇至狼】はドキッとする。
 思わず、
(綺麗だ……)
 と思ってしまったのだった。
 【琴花】は、
「わかったでしょ?
 私達は強いの。
 あんたなんかよりずっとね。
 だから、いらない心配なのよ。
 私達が傷つくなんてね」
 と言った。
 【勇至狼】は、
「……わかった。
 とにかく君らが強いのはわかったから……」
 と言った。
 【吟撫】は、
「そう?
 それは良かったわ。
 それじゃあ、証明も出来た事だし、そこの男の始末をどうするかね」
 と言った。
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