黒の信仰

ぼっち・ちぇりー

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成り行き

襲撃

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 男は引き出しから昨日買って来たコーヒー豆を、コーヒーミルにそっと流すと、慣れた手つきで取っ手をゆっくりと回し始めた。
 男は豆を粗めに挽くと、コーヒードリッパーへと流し込んだ。
 男は細挽きが好みであるが、長年の習慣で粗めに引いてしまったことに気づくが、既に遅し。
 男が意識を戻すとほぼ同時にヤカンの湯が沸き、ソレをゆっくりと回すようにドリッパーへと注ぎ始めた。
 少しずつ、ゆっくりと。
 男はコップを癖で三つ揃える。
 今度は間違えていない。
 男はたびに、過去のがフラッシュバックし、醜悪な復讐鬼へと引き戻されるのだった。
「エンジュ……ちんちくりん。」
           ・
           ・
           ・
「あら、モーニングティー? 気がきくわね。」
 寝癖の残る彼女が乱れたパジャマ姿でできた。
「俺が昨日言ったのはそういうことだよ。もう忘れたのか? 」
「あ・ん・た・は私の何なのよ。」
「悪いな、俺の悪い癖だよ。忘れてくれ。」
「むにゃー。」
 開かない瞼を煩わしそうにしながら、エーコは大きな欠伸をした。
「ジェブ。ご飯。」
 俺は彼女にを与えるべく、自分の相棒を探すが、どこにも見当たらない。
 そして、ファンタズマはジジイに預けていたことを、ようやく思い出した。
「すまない。剣は今ジジイに出してるから、終わったら……な。」
 彼女は少し不機嫌になりながら、俺の作ったコーヒーカップを手に取り、口の中に流し込んだ。
「甘い。」
 コレは驚いた。
 彼女は人間と同じ味覚を持っている。
 というか、当然といえば当然だ。
 彼女は少し他の人間たちとは変わっているが歴とした人間である。
 彼女は俺の作ったカプチーノを飲んで白い髭を作っている。
 その姿が、と重なり……
 彼女は死んだ、アンチマテリアに殺された。
 だからもう居ない。
 俺は現実を再定義すると、再びこちらに戻って来た。
 最近、幻想に囚われることが多い。
 コレもファンタズマの影響なのか、ハタマタ、俺が過去を捨てきれずにいるのか。
 いや、この旅こそ過去を捨てるための闘いなのだ。
 だから俺は進まなくてはならない。
 という間にも、ヨーコが、昨日買って来た食料でサンドウィッチを作っていた。
 彼女が毒味をするために、端の部分を少し切り取って、口に入れてから、ゆっくりと味わうように咀嚼した。
「うん。おk。」
 俺は『やれやれ』と頭を抱える。
 彼女はソレに頬を膨らませた。
「なーに? 機械人間が、サンドウィッチを食べてるとおかしいかしら? 」
「揃いも揃って。流石に俺も動揺を隠せないぜ。電気とオイルやら人肉で動くと思っていた奴らが、俺たちと同じようにメシを食ってるなんてさ。」
「失礼な奴ね。」
 ソレに単純構造が気になる。
 機械を動かすなら、食物からエネルギーを取るより、電気エネルギーを摂取した方が、何十倍も効率が良いはずなのだ。
「お前たちの身体……どーなってるんだよ。」
 ヨーコは指を唇に当てて、しばらく考え込んでから口を開いた。
「私もよく分からないのよ。でもタダの人間であった頃と同じように、ご飯を食べれば、傷が治るし、空腹感も満たされる。だから、私は相も変わらず、食事をしているわ。幸い、味覚も人間のモノをそのままインプットしてくれていたみたいだし。」
 エーコが、ヨーコの作ったサンドウィッチを両手でがっしり掴むと、今にも頬張らんと、大きな口を開ける。
 俺たちはその愛らしい姿に気を取られそうになったその時……
 南の窓が黒く染まり、亀裂が入り、ソレを吹き飛ばすと、がやって来た。
「アンチマテリアッ!! 」
「ハーイ」
 災厄の時に出会ったアンチマテリアたちと同じ、喋る個体。
 しかし、あの時には出会わなかった女声の個体だ。
 俺は本能的に、レーザーブレードを取り出すと、そのスイッチをオンにした。
「うわっ!! 」
 光の刃は、俺の手元で暴れ回ると、弾け飛びそうになった。
 俺は紙一重のところで、レーザーブレードの電源を切ると、シンクの裏に隠れ、台所の収納扉から、包丁を取り出して、一緒に隠れているヨーコたちに放った。
「ありがと。」
「ここは俺が食い止める。ヨーコたちは、ジジイの元へ行ってくれ。」
 彼女たちを襲おうとするアンチマテリアの間へと割り込み、ナイフを突き立てる。
 ナイフはアンチマテリアへと接触すると、即座に凍り始め、俺はその前にナイフを引っこ抜き、ソレを防いだ。
 奴の能力のタネは掴めない。
 だが、急激な温度変化だという点だけは理解できた。
 だからこそ、マギアトスとは、相性が最悪だし、エーコは、やはり空腹が原因で、万全な状態とは言い難い。
 ヨーコもそのことを理解したのか、苦虫を噛み潰し、ジジイの元へと走っていった。
「へぇ。貴方。やるじゃない。」
「私は、ロードマテリア。恒久のフィラメント。」
「能力は熱力学第二法則の操作。」
「宇宙を広げたのも、太陽を産んだのも私。」
 俺は、再びナイフを構え直した。
「その女神様が、くたびれた傭兵になんの用だ。」
 彼女は、足元の空気を膨張させると、放出して、俺との距離を詰めてきた。
「私は世界を創った完璧な存在。」
 耳元に冷たい吐息が走る。
「だからこそ、不完全な貴方に興味を持っちゃった。」
 右脚で、レーザーブレードのスイッチを押すと、彼女の顔面向けて蹴飛ばす。
 同時に彼女と距離を取った。
 レーザーブレードの熱エントロピーが暴走し、俺の右耳を溶かす。
「ほう。オモチャにそのような使い方があったとはな。」
「どうりでお前が好んで使うわけだ。」
 ジジイ。
「手数は多い方が良いだろう? ソレで命拾えたなら儲けもんだぜ。」
「やはりこうなるか。お前はこの街に争いを連れてくる。準備をしておいて良かった。」
「毎度すまねえなジジイ。」
 彼が投げつけた鉄の塊を、翻した右手でガッチリ掴む。
 剣と呼ぶには余りにも大きすぎる鉄塊。
 俺が、を握ると同時に、視界が大きく広がり、左腕に感覚が戻る。
「ジジイ。下がってろ。コイツは俺たちでケジメをつける。」
 


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