黒の信仰

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
上 下
4 / 30
共存

君のことを教えてよ

しおりを挟む
 酒場の騒音は、外からでも分かるほどで、女が扉を開けると、耳をロウするように、さらに大きくなった。
 ねえ、耳を塞ぎたくなるでしょ。
「アンタは大丈夫なのか? 」
「うん、もう慣れたからね。」
 俺は女の後に付いて、空いているテーブルを目指した。
「なんだ、見ねえ顔だな。」
「なんだよアンちゃん、は? 」
「何もなくちゃ寂しいだろ。俺がフックを付けてやるよ。」
「やめろッ。」
 男が酔って絡んできたので、ソレを振り払う。
「ごめんねショーン。私の連れなんだ。コイツ陰気でね。こう言うのに慣れてないんだよ。」
 コイツ。
___ね、ここは話を合わせて。
 彼女が耳打ちしてきた。
 こういうのには慣れている。
 ソレより鼻につくのは、彼女の対応だ。
「そうか、悪かったな。悪気はないんだ。コイツ酒癖が悪くてな。」
「良い、。」
 俺はやっとの思いで椅子に座ると、一息付いた。
「ふふふ。」
「なんだよ。」
「貴方みたいなのだと、酒場に入るのにも一苦労ね。」
 それだけじゃない。
 街で賊たちに襲われたのと、ソレをってのもあるけど。
 確かにそうだ。先述した様に、こんな身なりだから目立つし、絡まれたことも一度や二度じゃない。
 中には、おっ始めなきゃ行けない時もあった。
 ソレもアンチマテリアとの戦いで疲弊した後に……だ。
「あっカシスさーん。焼酎ちょうだい。ロックで。」
「あっ、ヨーコちゃん久しぶりね。最近見なかったけど。何していたの? 」
 まざか、ずっとあそこから離れずに張ってたんじゃないだろうな。
 カシスというウェイトレスは、俺の存在に気づくと、彼女へ何やらコソコソ話した。 
「私のフィアンセ。砂漠で依頼を受けている時に、行き倒れちゃってね。」
「サソリにも刺されて死にそうになったところに颯爽と現れて。ソレからソレから意識が朦朧とした私の口に、調合薬を口移しで…… 」
「「キャー。」」
 そんな漫画みたいなこと、起こるはずがない。
 というか、機械人間に毒が効くはずないだろ。
 傭兵時代は炭疽菌をばら撒かれてもピンピンしていた奴らに度肝を抜かれた。
 今なお、その場所は、豚一匹近づくことができない禁止区域となっている。
 話を戻そう。
 彼女はなぜ、恋人のフリをしてまで、俺を引き連れようとしているのか?
 本当に掴みどころがない女だ。
「ねえねえ貴方は? 何を飲むの? 」
 俺は酒が飲めない。
 というか、飲む習慣がなかった。
 前の仕事はシフト制だったし、その前は傭兵をやっていたから、酒なんて飲めなかった。
「ミルクでも貰おうか。」
「プッププ。」
「何ソレ。君の故郷で流行ってんの? 」
 そこに女が割って入った。
「そうそう。この人の故郷の言葉で、『ウォッカロックで下さい。』って言ってるの。」
 余計なことを言わなくて良かった。
 今からでも遅く無い。オレンジジュースに。
 俺がカシスさんに話しかけようとしたが、既に彼女はカウンターのマスターに注文を出していた。
「君。面白いね。」
 『私が上手く話を合わせてやってるんだから、余計なことをするな。』というぐらいの笑顔で、彼女は頬をついている。
「こうやって、アンタを困らせようとすると、こうなるのね。」
「どうしたの? そんな不安そうな顔をして。」
「……飲んだことがない。」
「なんて? 」
「飲んだことがないんだ。酒。」
「じゃあ。そう言えばいいのにさ。」
 彼女は腹を抱えて笑い出した。
「何笑ってんの? はい。焼酎のロックね。」
「で、そちらのお連れさんにはウォッカーね。」
 恐る恐る彼女からグラスを受け取る。
「姉ちゃん。注文頼むよ。」
 彼女は少し首を傾げてから、俺たちのテーブルを離れた。
「ねえそんな顔しないの。ウォッカーってね。身体に凄くいいのよ。」
 嫌いな食べ物を子供に食べさせる母親の様な物言いだな。
 俺は孤児だったから、母親がどのようなモノかは知らないけど。
 俺はここぞとばかりに反撃した。
「アンタは? 酒で酔えるようにプログラムされているのか? 」
 彼女は少し複雑な顔をした。
 効果はテキメンだったけど、『してやった』を通り過ぎて、申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
 女はこういう複雑なところがある。
 さっきは『抱いてみる?』なんて言ってたくせによ。
 キスとか、髪を触るのはダメみたいな?
 っと。
 とにかく彼女は、自分の体のことを気にしているみたいだし(というか、気にしていない方がおかしかったよな。)これからは気をつけて行こうと思う。
 彼女は焼酎を少し飲んで、素面で酔ったフリをしながら、俺に名前を聞いてきた。
「ところでさぁ。君。名前を聞いてなかったよね。」
 俺はソレがカシスに聞かれたのでは? と少し心配になり、辺りを見渡した。
 彼女は向こうで酔った漢に絡まれている。
 楽しそうに談笑していた。
「大丈夫よ。レーダーで全部見えてるから。」
「全く、ロマンスのカケラもない奴だぜ。」
「ソレ、君が言う? 」
 俺は自分のグラスを満たしている液体を一口飲んだ。
 苦味……とは少し違う。
 辛味とも違う、強い刺激が、食道を抜けて、焼けるように熱い。
「紹介が遅れたな。ジョニー・ブラックだ。」
「みんなはジェブって呼んでる。」
「みんなって? 」
 俺の中に刺激が走る。
 頭が燃えるように痛い。
 背中の魔剣が、カタカタと揺れ始めた。
 俺は一度深呼吸をすると、そこに鈍痛が襲ってくる。
 どうやらアルコールが、ファンタズマの能力を押さえ込んでくれたらしい。
「昔一緒に仕事をしていた奴らだ。今は遠い場所で働いている。」
「ふーん。改めてよろしくね。ジェブ。」
「というか、君の方は私の名前を言ってくれないよね。」
「いきなり下の名前で呼び捨てか? 」
「え? あ? 苗字か。アハハハハ。」
 彼女は俺の右腕に巻き付くと、弾力のあるシリコンゴムを当ててきた。
「良いんだよ。下の名前で。」
 俺が振り払おうとすると、彼女が、人差し指を振った。
「カシスが見てる。私に恥をかかせる気? 」
 彼女にされるがままになった。
 はぐらかされたが、呼び名が苗字か、名前かなんては俺にとってはどうでも良いことだ。
「君はなんで旅をしているの? 」
 俺はワスト・ピリオドを殺すために旅をしている。
 だけど、人を殺すことなんて、今の時代でも御法度だし、こんな人前で、堂々と犯罪者予備軍であることを公言したくはない。
 俺は後ろめたい理由で旅をしている。
 だけど、俺には未来がない。
 だから過去にスガって生きなきゃいけないのだ。
「俺はアンタの傭兵だよ。そこまで言う必要はないだろ。仕事の話をしようぜ。」
 彼女は頬を膨らませてみせた。
「もう、イケズな男。」
 彼女は素面になって、仕事の概要を話し始めた。
「実はね、屋敷に潜入するだけなら、私一人で出来るの。なんなら見つかったところで、私一人で制圧できるし。顔は隠せば。」
「ホラ、正体不明の美少女でしょ。」
 彼女は口に布を巻いて、ポンチョを被った。
「まぁそうだろうな。」
 こんな人間兵に寝首をかかれちゃたまったもんじゃないだろう。
 だから、ある程度地位のある人間たちは、一家に一つ、主婦に頼れる味方が置いてある。
「アンタはマギアトスだから、屋敷に侵入した瞬間に、センサーに識別されるのか。」
「この身体になったことで唯一困っていること。動きやすくて良いんだけどね。しんどい日も来ないし。」
「俺の仕事は、識別センサーを落とす、もしくは主電源を切ることだな。」
 彼女は、マドラーを人差し指の上でクルクルと回した。
「主電源は……侵入された痕跡が残るわけじゃない? もっと穏便にやりたいのよ。」
 彼女は他に何か隠している。
 だけど傭兵の俺には関係のない話だった。
「ささっとやってくるよ。警備が薄くなるのは何時だ? 」
「午前零時から、午前二時の間。三時にシフト交代だから、ちょうど傭兵たちやモニター役がウトウトし始める時間よ。」
「あともうひとつ頼まれてくれ。」
 俺は背中の鉄の塊を彼女へと放り投げると、右手で手招いた。
「はいはい。ナイフね。あとサイレンサー付きのハンドガン。」
「大丈夫よ。誰にも見られてないから。」
 俺は武器をコソコソと右手で抱き寄せると、左腰のポンチへとしまった。
「ソレじゃ店が閉まったら行きましょうか。」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

学戦区

鴉ノ原春馬
SF
平和な日常が突然にして崩れるそして、ゲームが、戦争がはじまる

3024年宇宙のスズキ

神谷モロ
SF
 俺の名はイチロー・スズキ。  もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。  21世紀に生きていた普通の日本人。  ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。  今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。 ※この作品はカクヨムでも掲載しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...