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「その顔ムカつくんだけど。」
「良いでしょ。相手に敵意が無いことが分かったんだし。アンタが、頑張ってたのは知ってるから。」
どうやら俺は気難しい顔をしていたらしい。
「ねえどうして距離を取るの? 」
そんなもん恥ずかしくて言える訳がねえ。
俺にだってプライドがある。
「ねえ。なんであの時も、黙ってラストプリズンになんて行っちゃったの? 」
「私のこと嫌い? そりゃ短期だし、すぐ力のことを叩くしさ。」
そんな訳がない。
だけど、誤解を生んでいるのも、俺がちゃんと面と向かって彼女と話をしないせいなのだ。
「こんな手錠つけた男と歩いていたら、お前の顔が立たないだろ? だから気が引けるんだよ。それにさ。罪人と……その恋人関係だとか。お前のキャリアに傷が付くし、お前のお家にも悪いじゃん。」
彼女は一瞬口をポカンと開けた。
それから口で手を押さえて、
「ぷっふふ。」
と堪えきれずに笑い出した。
「馬鹿らしい理由。力らしいね。」
俺らしいってなんだよ。馬鹿にしてんだろ。
「馬鹿にしてんのよ。」
彼女は跳躍すると、俺の眉間にデコピンをかました。
「イッつ。」
「なんだよ。急に。心を読んでくんな。」
「心なんて読んでないよ。力、顔に出やすいからね。」
「そりゃどーも。」
彼女は地面に着地すると、両腕を身体の後ろに組み、前屈みになると、俺の前で後ろ歩きを始めた。
その仕草に俺は、思わず目を背けてしまう。
「ちょっと訂正。力はさぁ。私とアンタが対等な関係だと思っている見たいだけど。鵞利場家の人間は代々、女当主だから。」
「私が主人で、貴方が伴侶。分かった? 」
多分嘘だ。あの大麻野郎にシャブ漬けされてた時は、アイツに言いくるめられて、うっとりしていたくせに。
「ハイハイご主人。ところで。婚姻とかそういうの当人だけで勝手に決めて良いのかよ? 」
「両親には承諾貰えたわよ。私は両親から信頼されているからね。」
「いちいち、俺にマウント取ってきてさぁ。どうせ縁談も全部断られて来たんだろ? そんなんだから2…… 」
「断ったの全部私だよ。」
彼女は真顔になって食い入るように答えた。
「誰と? 」
しまったと思った時には遅かった。
「全部嘘に決まっているでしょ。両親も、思い人がいる子供に、そんなことさせないわよ。それどころか。相手方の家に挨拶しに行きなさいって。」
北条家に……
いや、本家にも?
実家とは散々迷惑事を起こした末に勘当された仲だ。
彼女に知られたくないわけではない。
彼女が俺のことを嫌いになるわけでもないんだけど。
「行ったのか? 北条の分家に? 」
「ダメだった? 本家にも挨拶しに行ったわよ。力の許嫁ですって。」
何やってくれてんだよ。
「お父様も、当主様もとても気の良い人だったよ。『ウチの力をお願いします。』『あの放蕩少年が随分大きくなったな』って。昔はヤンチャしてたらしいじゃないの。」
「昔も何も、小子と仕事をする前は、アウトローだっただろ。俺。」
「良かったね。認めてもらえて。」
「そうだな。コレでお前を避ける理由が無くなったってわけだ。」
彼女は首を振った。
「うんうん? 君のことだよ。北条家で君の名前を聞いて、嫌な顔をする人は一人も居なかった。君の公安での活躍は当然、あの人たちの耳にも入っているはずだし。」
「そんなもん。他所の家の人間……それも鵞利場家の人間が来れば、他所行きの顔にもなるさ。」
「くらーい。こんなのがパートナーだなんて嫌だなぁ。」
そうだ。彼らに許されようとだなんて思わない。
だけど。俺のやって来たことを彼らはちゃんと見てくれている。
それだけで充分ではないのか?
「分かった。俺、明るい人間になれるように頑張るわ。」
「素直でよろしい。」
俺は不審な動きをする能力者を片目で追った。
「良いところなのに。」
「そんなこと言うなよ。倫に命じられたのはパトロールなんだからさ。久しぶりのバディーでの仕事。楽しまなきゃだろ? 」
「アンタにしては生意気だけど。それもそうね。最近書類関係ばっかりだったから。」
「ブランクで足引っ張るなよ。」
「そっくりそのまま返すわよ。」
俺は不審者の後ろ、彼女は前方向から、彼を囲い込もうとした。
俺たちに気づいた不審な男は、かがみ、両腕を地面に近づけると、跳躍の姿勢を見せた。
周りの人間たちが危ない。
俺は慌てて世界境界を展開して、彼らを守る。
俺の魔法の技量はここ数年で飛躍的に伸びた。
蝠岡に教えてもらった、卵を上から投げて、魔法で割れないように受け取る方法だ。
コツを掴めば簡単だった。
落とした卵の衝撃を吸収するように次元の壁を調整するだけだ。
と言っても、目の前で危険に晒されているのは、生卵ではなく、生身の人間だ。
俺は瞬時に物理法則を計算してから、人間を守るより、能力者の両手から出る噴射口を覆った方が効率的だと考え、彼の両手の周りに、魔法を張る。
「シャボン玉……シャボン玉……」
『ポヨン』
奇怪な音を立てながら、人々が俺の能力で弾かれる。
急な出来事だったので、彼らは悲鳴……を上げていたけど。まぁ大丈夫だろう。
圧死も雑踏もない。
尻餅をついた女性も、魔法で受け止めた。
能力者はと言うと、俺の作った空間で推進力を殺され、地に落ちる。
すかさずそこへ小子がやって来て、能力者に手錠をかけた。
「ちょっと手錠は不味いんじゃね? 」
「この男のせいで負傷者が出そうになったのは確かよ。」
事件は解決した。
問題は、その男が、ビックファーザーの賛同を呼びかける封書を持っていたということだ。
「良いでしょ。相手に敵意が無いことが分かったんだし。アンタが、頑張ってたのは知ってるから。」
どうやら俺は気難しい顔をしていたらしい。
「ねえどうして距離を取るの? 」
そんなもん恥ずかしくて言える訳がねえ。
俺にだってプライドがある。
「ねえ。なんであの時も、黙ってラストプリズンになんて行っちゃったの? 」
「私のこと嫌い? そりゃ短期だし、すぐ力のことを叩くしさ。」
そんな訳がない。
だけど、誤解を生んでいるのも、俺がちゃんと面と向かって彼女と話をしないせいなのだ。
「こんな手錠つけた男と歩いていたら、お前の顔が立たないだろ? だから気が引けるんだよ。それにさ。罪人と……その恋人関係だとか。お前のキャリアに傷が付くし、お前のお家にも悪いじゃん。」
彼女は一瞬口をポカンと開けた。
それから口で手を押さえて、
「ぷっふふ。」
と堪えきれずに笑い出した。
「馬鹿らしい理由。力らしいね。」
俺らしいってなんだよ。馬鹿にしてんだろ。
「馬鹿にしてんのよ。」
彼女は跳躍すると、俺の眉間にデコピンをかました。
「イッつ。」
「なんだよ。急に。心を読んでくんな。」
「心なんて読んでないよ。力、顔に出やすいからね。」
「そりゃどーも。」
彼女は地面に着地すると、両腕を身体の後ろに組み、前屈みになると、俺の前で後ろ歩きを始めた。
その仕草に俺は、思わず目を背けてしまう。
「ちょっと訂正。力はさぁ。私とアンタが対等な関係だと思っている見たいだけど。鵞利場家の人間は代々、女当主だから。」
「私が主人で、貴方が伴侶。分かった? 」
多分嘘だ。あの大麻野郎にシャブ漬けされてた時は、アイツに言いくるめられて、うっとりしていたくせに。
「ハイハイご主人。ところで。婚姻とかそういうの当人だけで勝手に決めて良いのかよ? 」
「両親には承諾貰えたわよ。私は両親から信頼されているからね。」
「いちいち、俺にマウント取ってきてさぁ。どうせ縁談も全部断られて来たんだろ? そんなんだから2…… 」
「断ったの全部私だよ。」
彼女は真顔になって食い入るように答えた。
「誰と? 」
しまったと思った時には遅かった。
「全部嘘に決まっているでしょ。両親も、思い人がいる子供に、そんなことさせないわよ。それどころか。相手方の家に挨拶しに行きなさいって。」
北条家に……
いや、本家にも?
実家とは散々迷惑事を起こした末に勘当された仲だ。
彼女に知られたくないわけではない。
彼女が俺のことを嫌いになるわけでもないんだけど。
「行ったのか? 北条の分家に? 」
「ダメだった? 本家にも挨拶しに行ったわよ。力の許嫁ですって。」
何やってくれてんだよ。
「お父様も、当主様もとても気の良い人だったよ。『ウチの力をお願いします。』『あの放蕩少年が随分大きくなったな』って。昔はヤンチャしてたらしいじゃないの。」
「昔も何も、小子と仕事をする前は、アウトローだっただろ。俺。」
「良かったね。認めてもらえて。」
「そうだな。コレでお前を避ける理由が無くなったってわけだ。」
彼女は首を振った。
「うんうん? 君のことだよ。北条家で君の名前を聞いて、嫌な顔をする人は一人も居なかった。君の公安での活躍は当然、あの人たちの耳にも入っているはずだし。」
「そんなもん。他所の家の人間……それも鵞利場家の人間が来れば、他所行きの顔にもなるさ。」
「くらーい。こんなのがパートナーだなんて嫌だなぁ。」
そうだ。彼らに許されようとだなんて思わない。
だけど。俺のやって来たことを彼らはちゃんと見てくれている。
それだけで充分ではないのか?
「分かった。俺、明るい人間になれるように頑張るわ。」
「素直でよろしい。」
俺は不審な動きをする能力者を片目で追った。
「良いところなのに。」
「そんなこと言うなよ。倫に命じられたのはパトロールなんだからさ。久しぶりのバディーでの仕事。楽しまなきゃだろ? 」
「アンタにしては生意気だけど。それもそうね。最近書類関係ばっかりだったから。」
「ブランクで足引っ張るなよ。」
「そっくりそのまま返すわよ。」
俺は不審者の後ろ、彼女は前方向から、彼を囲い込もうとした。
俺たちに気づいた不審な男は、かがみ、両腕を地面に近づけると、跳躍の姿勢を見せた。
周りの人間たちが危ない。
俺は慌てて世界境界を展開して、彼らを守る。
俺の魔法の技量はここ数年で飛躍的に伸びた。
蝠岡に教えてもらった、卵を上から投げて、魔法で割れないように受け取る方法だ。
コツを掴めば簡単だった。
落とした卵の衝撃を吸収するように次元の壁を調整するだけだ。
と言っても、目の前で危険に晒されているのは、生卵ではなく、生身の人間だ。
俺は瞬時に物理法則を計算してから、人間を守るより、能力者の両手から出る噴射口を覆った方が効率的だと考え、彼の両手の周りに、魔法を張る。
「シャボン玉……シャボン玉……」
『ポヨン』
奇怪な音を立てながら、人々が俺の能力で弾かれる。
急な出来事だったので、彼らは悲鳴……を上げていたけど。まぁ大丈夫だろう。
圧死も雑踏もない。
尻餅をついた女性も、魔法で受け止めた。
能力者はと言うと、俺の作った空間で推進力を殺され、地に落ちる。
すかさずそこへ小子がやって来て、能力者に手錠をかけた。
「ちょっと手錠は不味いんじゃね? 」
「この男のせいで負傷者が出そうになったのは確かよ。」
事件は解決した。
問題は、その男が、ビックファーザーの賛同を呼びかける封書を持っていたということだ。
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