上 下
40 / 108
ファイル:2幻略結婚

間話

しおりを挟む
「『快楽ボックスを使い、民衆を麻薬中毒に、人々を扇動して国家転覆。』ね。」
 女は長官室に我が者顔で居座ると、ユートピアタイムズを開いている。
 彼女は復讐を成したのだ。
 しかし、今の彼女の態度を見ていると、複雑な気持ちになる。
 本当は全部、俺を唆すための演技だったんじゃ無いかって。
 それぐらい彼女の「底」は見えなかった。
「なぁ、それより鵞利場の姿が見当たらないんだが。」
 安田はユートピアタイムズを閉じると、顔を上げた。
「彼女は事後処理に追われているわ。大麻の件で一家ともに面目丸潰れでね。それにネットじゃぁ(端末を俺に見せてくる。)彼女のことや、鵞利場家の人間への攻撃が絶えないわ。彼女も鵞利場家も、この一連の事件に関わっていたんじゃ無いかってね。」
 彼女は被害者なのに、俺がなんとかしなくては!!
「お~い。ちょっとキミぃ。もうちょっと後先考えてくれるかなぁ。」
「俺が出て行って何か問題でもあるんですか? 」
 安田がため息をついた。
「君は仮にでも北条家の人間。」
「本家なら、オヤジの代から勘当されてますよ。」
「キミはそう思っていても、世間はどう思うかね。批判の矛先は小子ちゃんや鵞利場家だけでなく、条家の人間にも向くよ。事態をさらに深刻化させるだけだ。」
「それなら尚更ですね。彼らには一泡吹かせたいと思っていたので。」
 長官様は、俺の脚にしがみついてくる。
「ちょーっと待った。北条本家からキミに伝言があるんだ。止まって見てはいかがかなぁ? 」
「なんですかぁもう。」
 彼女は立ち上がると、一通の折形を取り出した。
 俺は、それを煩雑に開封すると、中を読み始めた。
「どう? 本家の人間は今回のキミの働きを評価してくれているみたいよ。」
「ふん。あんな差別主義者どもに褒められても嬉しく無いですよ。」
「君は本家に褒められた。その意味が分かるかしら? 」
「盾として認められた。ですが……彼らにとって盾とはなんですか。自分に都合のいいモノだけを守ってくれる存在ですか? 俺はこう言うところが嫌いなんです。」
「私は北条家がどうあるべきかは分からない。だって北条家の人間でも、条家の人間ですら無いし。」
「でもアナタのやったことは、社会的に評価されることよ。コレで能力者の肩身も鉄道で座席に座れるぐらいには広くなったんじゃ無いかしら。」
「そうだと良いですね。」
 俺は照れ臭くなって、長官室を出ようとした。
「ちょっと待って、まだ解決していないことがあるでしょうが。」
「なんなんですか、もう。俺は仕事に戻りますよ。」
「宜野座、例のモノを持ってきて。」
 秘書の宜野座さんが、アタッシュケースを持ってきた。
 安田が、それを開けて、俺に見えるようにする。
「ナニコレ、業務用アンドロイドの破片ですか? 」
「流石に大麻も、一人であんな大それたことは出来ないわ。必ず協力者がいたはずなの。」
「キミ、護衛任務中に、アンドロイドに襲われたってね。」
「いくらなんでも話を飛躍しすぎでしょ。なんでそれが大麻と繋がるんですか? 」
 安田は肘をついた。
「小子ちゃんは会っていたの。大麻と。」
「他の公安の犯罪課の人間ともね。」
 俺はあの時、必死になって糸の大元を探っていた。
 その時都合よく現れるだろうか、大麻が。
「どうやら、その奇妙な事案は、平等社会だけじゃなくて、ワールド221でも発生しているようでね。事実確認をしているところなの。」
 もう彼女が何を言いたいのかは分かった。
 任務だ。俺に新しい仕事が入ったのだ。
「でも鵞利場場いませんよ。俺一人でやるんですか? 」
「そういうと思っていたわ。入ってきてちょうだい。」
 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

建国戦記

ひでかず
SF
全世界規模の軍事衝突の余波によって2062年から、西暦1538年に飛ばされた日本国防軍第3任務艦隊。彼らは自らの手ではなく、織田信秀や織田信長の後押しを行って日本統一を進めつつ、自らは日本の友好国になる国家の建国へと動いていく。史実とは大きく異なった歴史の流れが始まろうとしていた。

遥かなるマインド・ウォー

弓チョコ
SF
西暦201X年。 遥かな宇宙から、ふたつの来訪者がやってきた。 ひとつは侵略者。人間のような知的生命体を主食とする怪人。 もうひとつは、侵略者から人間を守ろうと力を授ける守護者。 戦争が始まる。 ※この物語はフィクションです。実在する、この世のあらゆる全てと一切の関係がありません。物語の展開やキャラクターの主張なども、何かを現実へ影響させるような意図のあるものではありません。

小さいわたしと大きなプリンともっと大きな妹と

穂鈴 えい
SF
姉妹の目の前には高級プリンが1つ。そのまま半分に分けると量が小さすぎるからと、妹が考えた手段は姉を小さくしてしまうこと。100分の1サイズに縮められた姉と普通サイズの妹でプリンを分け合うことに。 だけど、途中で小さな姉が妹を怒らせてしまったせいで、口の中に入れられて歯磨きをさせられたり、プリンと一緒に飲み込まれそうになってしまったり……。

アカネ・パラドックス

雲黒斎草菜
SF
超絶美人なのに男を虫ケラのようにあしらう社長秘書『玲子』。その虫けらよりもひどい扱いを受ける『裕輔』と『田吾』。そんな連中を率いるのはドケチでハゲ散らかした、社長の『芸津』。どこにでもいそうなごく普通の会社員たちが銀河を救う使命を背負わされたのは、一人のアンドロイド少女と出会ったのが始まりでした。 『アカネ・パラドックス』では時系列を複雑に絡めた四次元的ストーリーとなっております。途中まで読み進むと、必ず初めに戻って読み返さざるを得ない状況に陥ります。果たしてエンディングまでたどり着きますでしょうか――。

クロノスの子供達

絃屋さん  
SF
時空調整官ゴーフルは、作業中にクロノスの時空嵐に巻き込まれ若返り退行してしまう。 その日を境に、妹や友人からも子供扱される屈辱の日々を送るはめに……。 さらに、時の砂に関する重要機密を狙う謎の組織に狙われるなど災難が続くのだった。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...