36 / 108
ファイル:2幻略結婚
一悶着ついた
しおりを挟む
「ったくすまねえ。倫子ちゃんと会話する前までは覚えていたんだけど、その先が思い出せねえんだ。」
ここまで来ればもうホラーだろう。
「ホントに、本当にそうか? お天道様に誓えるか? 」
「そのお天道様って奴。懐かしいな。お前さんは、もしかすれば、俺と遠い親戚だったり? 」
間違ってはいない。
俺には東洋人種の血が流れているし、それは彼も同じだろう。
「さぁどうだか。」
「それより、早く、大麻の情報をくれないかしら? 」
店主は落ち着くと、ゆっくりと話し出した。
「一ヶ月ほど前だ。奴がここに来たのは。」
店主はテーブルの下から赤い薬玉を取り出した。
俺がそれに手を出そうとする。
「待ちなさい。触れてはダメよ。」
店主が続ける。
「俺の店も、その経営が厳しくてよ。ついついやっちゃったっていうか。その男も公安の人間だって言うからさ。」
安田がため息をつく。
「呆れたわ。お金欲しさに薬物売買に関わるなんて。」
店主は頭を掻いている。
「公安の人間になんて、逆らえば何されるか分からんだろうよ。俺に断る選択肢なんて無かったぜ。」
「それで、どれぐらいの人間に売りつけたんだ? 」
「ここらの人間、全員がコイツの虜だったぜ。裏社会の娯楽って言えば、酒と賭博ぐらいだったからな。後者は……まぁ忘れてくれ。」
コレで、裏社会の人間が操られていたことには、説明がついた。
前の俺たちに仕事をくれていたマスターの件、ああやって裏社会の人間を脅しては、あちこちでコレを売りつけていたのだろう。
公安の人間を操るには、飲み物にこっそり仕込めば良い。
だが、民衆が襲ってきたことには、説明が付かなかった。
「じゃあ襲ってきた民衆たちは?街中のビルの屋上で能力をばら撒いたとか? 」
「それが出来るなら、いちいちこんな回りくどい事はしないんじゃないかしら? 」
それもそうだ。
屋上から能力をばら撒いて、洗脳が成功するなら、この人たちに自分の能力を詰めたドラックを配る必要もない。
「食品工場とかはどうだ? 」
安田は端末を弄ると……大麻の行動履歴にアクセスした様だ。
「うわぁ。」
彼女のその疑い深さと執念深さに思わず声が漏れてしまう。
「もしかして、俺のデータも取られている? 」
「さぁどうだか? 大麻は以前から怪しい動きがあった。だから私は警戒していたの。」
食品工場は、どの工業地帯からも、スラム街は遠く離れていた。
「さすが食品衛生法、徹底しているな。」
「逆よ。食品工場があるから、インフラがしっかりしているの。裏社会の住民も、廃墟なら国際政府の目を欺けるからここに集まってくるの。」
彼の行動履歴を見ても、食品工場へと辿り着く手掛かりは無かった。
それどころか、工場に出入りする人間すら少ない。
せいぜい、メンテナンスや監視にあたる人たちで、(そこで働く労働力は、先述したように、ほぼロボットなので。)その人物すら、目で数えられるような数だった。
『N/A』
端末が、食品工場の人間と、大麻の関係性を否定している。
この説はどうやら正しくないらしい。
なら、どうやって彼は民衆に毒を盛ったのか……
「とりあえず、彼が裏で麻薬売買をしていたことは、分かったわ。それが重罪と知らずにね。」
「奴を失脚させる材料は揃ったわけだけどよ。どうやってそれを上に提出するんだ? 」
「全部洗脳がかかった周りの人間たちにもみ消されちまうぞ。」
「もちろん、こんなのアレをぶん殴った後、アレをこき下ろすための建前でしか無いわ。」
「じゃあどうするんですか?クライアントさん? 」
「じゃあどうしてキミを雇ったでしょうか?傭兵くん。」
「ああ、力技で乗り込むのか。」
「得意でしょ? ア・ナ・タ。」
「別に能力の種明かしなんて重要なことじゃ無い。」
俺はその問いに待ったをかけた。
「おい、待てよ。んなら大麻は証拠不十分で不起訴になるぞ。洗脳されていた人間たちは、その時のことを覚えていないんだ。ちゃんとやつの手品の種明かしはしておかないと。」
「それも貴方の仕事でしょ? 」
「おい!! ちょっと待てよ。」
俺は彼女の後を追う。
「ありがとう。裁判の時、貴方の店の名前は出さないって約束する。これからもよろしく。」
彼女はそう言って、旧札を店主へ向けてばら撒く。
「毎度アリ。」
階段を登るころ、ようやく彼女に追いついた。
俺が口を開こうとしたその時、
彼女が俺を制した。
「誰かお出迎えみたいね。」
彼女は太ももからサイレントリボルバーを取り出すと、外の電柱へ向けて放った。
鉛玉が風を斬る音と共に、俺のよく知っている男が姿を現す。
「チッ。バレてたのかよ。」
摩天楼の錬金術師、金川練華だ。
「隠蔽するなら殺意は隠しておくべきね。」
俺は、遠慮無しに次元の壁を飛ばして、彼の洗脳を解こうとする。
「ふん? なんの真似だ? 」
彼は洗脳などされていなかった。
「奴は…大麻好大は、お前の仲間、万城千里を捕まえて、モルモットにしようとした男だぞ。」
それを彼は鼻で笑った。
「実際にアイツから千里を奪って、実験動物にしたのはお前の上官の本堂じゃねえのか? 」
彼は解除された自分の手錠を見る。
「お前はどうなんだ、北条、自分を捕まえた男の犬になって、こき使われてよ。」
そう言われると、ぐうの音も出なかった。
「さぁ御宅はもうたくさんだ。俺とお前に、言葉なんぞいらない。」
「必要なのは、この拳だけだろうガァ。」
俺は息を大きく吸い込んだ。
ここまで来ればもうホラーだろう。
「ホントに、本当にそうか? お天道様に誓えるか? 」
「そのお天道様って奴。懐かしいな。お前さんは、もしかすれば、俺と遠い親戚だったり? 」
間違ってはいない。
俺には東洋人種の血が流れているし、それは彼も同じだろう。
「さぁどうだか。」
「それより、早く、大麻の情報をくれないかしら? 」
店主は落ち着くと、ゆっくりと話し出した。
「一ヶ月ほど前だ。奴がここに来たのは。」
店主はテーブルの下から赤い薬玉を取り出した。
俺がそれに手を出そうとする。
「待ちなさい。触れてはダメよ。」
店主が続ける。
「俺の店も、その経営が厳しくてよ。ついついやっちゃったっていうか。その男も公安の人間だって言うからさ。」
安田がため息をつく。
「呆れたわ。お金欲しさに薬物売買に関わるなんて。」
店主は頭を掻いている。
「公安の人間になんて、逆らえば何されるか分からんだろうよ。俺に断る選択肢なんて無かったぜ。」
「それで、どれぐらいの人間に売りつけたんだ? 」
「ここらの人間、全員がコイツの虜だったぜ。裏社会の娯楽って言えば、酒と賭博ぐらいだったからな。後者は……まぁ忘れてくれ。」
コレで、裏社会の人間が操られていたことには、説明がついた。
前の俺たちに仕事をくれていたマスターの件、ああやって裏社会の人間を脅しては、あちこちでコレを売りつけていたのだろう。
公安の人間を操るには、飲み物にこっそり仕込めば良い。
だが、民衆が襲ってきたことには、説明が付かなかった。
「じゃあ襲ってきた民衆たちは?街中のビルの屋上で能力をばら撒いたとか? 」
「それが出来るなら、いちいちこんな回りくどい事はしないんじゃないかしら? 」
それもそうだ。
屋上から能力をばら撒いて、洗脳が成功するなら、この人たちに自分の能力を詰めたドラックを配る必要もない。
「食品工場とかはどうだ? 」
安田は端末を弄ると……大麻の行動履歴にアクセスした様だ。
「うわぁ。」
彼女のその疑い深さと執念深さに思わず声が漏れてしまう。
「もしかして、俺のデータも取られている? 」
「さぁどうだか? 大麻は以前から怪しい動きがあった。だから私は警戒していたの。」
食品工場は、どの工業地帯からも、スラム街は遠く離れていた。
「さすが食品衛生法、徹底しているな。」
「逆よ。食品工場があるから、インフラがしっかりしているの。裏社会の住民も、廃墟なら国際政府の目を欺けるからここに集まってくるの。」
彼の行動履歴を見ても、食品工場へと辿り着く手掛かりは無かった。
それどころか、工場に出入りする人間すら少ない。
せいぜい、メンテナンスや監視にあたる人たちで、(そこで働く労働力は、先述したように、ほぼロボットなので。)その人物すら、目で数えられるような数だった。
『N/A』
端末が、食品工場の人間と、大麻の関係性を否定している。
この説はどうやら正しくないらしい。
なら、どうやって彼は民衆に毒を盛ったのか……
「とりあえず、彼が裏で麻薬売買をしていたことは、分かったわ。それが重罪と知らずにね。」
「奴を失脚させる材料は揃ったわけだけどよ。どうやってそれを上に提出するんだ? 」
「全部洗脳がかかった周りの人間たちにもみ消されちまうぞ。」
「もちろん、こんなのアレをぶん殴った後、アレをこき下ろすための建前でしか無いわ。」
「じゃあどうするんですか?クライアントさん? 」
「じゃあどうしてキミを雇ったでしょうか?傭兵くん。」
「ああ、力技で乗り込むのか。」
「得意でしょ? ア・ナ・タ。」
「別に能力の種明かしなんて重要なことじゃ無い。」
俺はその問いに待ったをかけた。
「おい、待てよ。んなら大麻は証拠不十分で不起訴になるぞ。洗脳されていた人間たちは、その時のことを覚えていないんだ。ちゃんとやつの手品の種明かしはしておかないと。」
「それも貴方の仕事でしょ? 」
「おい!! ちょっと待てよ。」
俺は彼女の後を追う。
「ありがとう。裁判の時、貴方の店の名前は出さないって約束する。これからもよろしく。」
彼女はそう言って、旧札を店主へ向けてばら撒く。
「毎度アリ。」
階段を登るころ、ようやく彼女に追いついた。
俺が口を開こうとしたその時、
彼女が俺を制した。
「誰かお出迎えみたいね。」
彼女は太ももからサイレントリボルバーを取り出すと、外の電柱へ向けて放った。
鉛玉が風を斬る音と共に、俺のよく知っている男が姿を現す。
「チッ。バレてたのかよ。」
摩天楼の錬金術師、金川練華だ。
「隠蔽するなら殺意は隠しておくべきね。」
俺は、遠慮無しに次元の壁を飛ばして、彼の洗脳を解こうとする。
「ふん? なんの真似だ? 」
彼は洗脳などされていなかった。
「奴は…大麻好大は、お前の仲間、万城千里を捕まえて、モルモットにしようとした男だぞ。」
それを彼は鼻で笑った。
「実際にアイツから千里を奪って、実験動物にしたのはお前の上官の本堂じゃねえのか? 」
彼は解除された自分の手錠を見る。
「お前はどうなんだ、北条、自分を捕まえた男の犬になって、こき使われてよ。」
そう言われると、ぐうの音も出なかった。
「さぁ御宅はもうたくさんだ。俺とお前に、言葉なんぞいらない。」
「必要なのは、この拳だけだろうガァ。」
俺は息を大きく吸い込んだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
アカネ・パラドックス
雲黒斎草菜
SF
超絶美人なのに男を虫ケラのようにあしらう社長秘書『玲子』。その虫けらよりもひどい扱いを受ける『裕輔』と『田吾』。そんな連中を率いるのはドケチでハゲ散らかした、社長の『芸津』。どこにでもいそうなごく普通の会社員たちが銀河を救う使命を背負わされたのは、一人のアンドロイド少女と出会ったのが始まりでした。
『アカネ・パラドックス』では時系列を複雑に絡めた四次元的ストーリーとなっております。途中まで読み進むと、必ず初めに戻って読み返さざるを得ない状況に陥ります。果たしてエンディングまでたどり着きますでしょうか――。
人類レヴォリューション
p-man
SF
精神病とは本当に人間にとって害なのか?
大学生活を送っていた3人の日本人の前に、突然現れたアナナキと呼ばれる謎の生物。
なんでも人間を創った神様だという。
地球にやってくるという災厄。
宇宙人(クリーチャー)から地球を守る為に戦って欲しいと言われ、人間の秘めたる力を解放される。
最早人間とは呼べなくなるほどの身体能力と"気魄"なる摩訶不思議な特殊能力を得た主人公達が繰り広げるSFファンタジー!!
※精神病に関する描写あり
後宮見習いパン職人は、新風を起こす〜九十九(つくも)たちと作る未来のパンを〜
櫛田こころ
キャラ文芸
人間であれば、誰もが憑く『九十九(つくも)』が存在していない街の少女・黄恋花(こう れんか)。いつも哀れな扱いをされている彼女は、九十九がいない代わりに『先読み』という特殊な能力を持っていた。夢を通じて、先の未来の……何故か饅頭に似た『麺麭(パン)』を作っている光景を見る。そして起きたら、見様見真似で作れる特技もあった。
両親を病などで失い、同じように九十九のいない祖母と仲良く麺麭を食べる日々が続いてきたが。隻眼の武官が来訪してきたことで、祖母が人間ではないことを見抜かれた。
『お前は恋花の九十九ではないか?』
見抜かれた九十九が本性を現し、恋花に真実を告げたことで……恋花の生活ががらりと変わることとなった。
再び君に出会うために 番外編
naomikoryo
SF
あれから数年が経ち、無事に結ばれた太一と貴子のお話になります。
もう、あの記憶を持たない二人の間に生まれた双子の子や、主人公以外の人のお話が出てきます。
気になるその後を書き始めた番外編です。
楽しくお読み頂けたら嬉しいです。(^^)
銀河太平記
武者走走九郎or大橋むつお
SF
いまから二百年の未来。
前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。
その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。
折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。
火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。
Live or Die?
阿弥陀乃トンマージ
SF
人類が本格的に地球から宇宙に進出するようになってから、すっかり星間飛行も宇宙旅行も当たり前になった時代……。地球に住む1人の青年、タスマ=ドラキンが大きな夢を抱いて、宇宙に飛び出そうとしていた!……密航で。
タスマが潜り込んだ船には何故か三人組の女の子たちの姿が……可愛らしい女の子たちかと思えば、この女の子たち、どうやら一癖も二癖もあるようで……?
銀河をまたにかけた新感覚一大スペクタクル、ここに開演!
地球防衛チームテレストリアルガードの都合!? 5章
のどか
SF
これはあるアニメを見てたとき、「このアニメ、もし0話(前日譚)があったらどんな話になるんだろう」と思った瞬間にできた話です。
そのアニメのタイトルですが・・・ う~ん、どのアニメかは書かないでおきます。ま、私みたいに毎日深夜に放送されてるアニメを見てる人ならすぐにわかると思いますが・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる