上 下
144 / 145
ローランド大戦

魔法の核

しおりを挟む
---慎二、なぜこんなことをした---
 俺に思念が流れ込んでくる。
 多分父野者だ。
 俺に埋め込まれている肋骨を通って意識が流れ込んでくる。
「アンタがやらないからだよ。誰もやらないのなら俺がやる。俺にしか出来ないことだからな。」
---……違う。俺にだって出来る。はずなのに---
---俺は何か勘違いをしていたのかも知れない---
「そうかもな。」
 今更もう遅い。
 もう魔法は発動してしまったのだから。
 あとは機関を完成させるだけだ。
「俺の勝ちだ。俺たちの。」
---ああ、俺の負けだ---
---俺は何も犠牲にしてこなかった。何も身を捧げてこなかった。だから何も救えなかった。手を伸ばせば、届く範囲の物に対して手を伸ばそうとしなかった。一人で勝手に諦めて---
---怖かったんだ。自分の手が汚れるのが---
「もういいだろ。そっとしといてくれ。俺は機関を完成させなくてはならない。集中しなくちゃならないんだ。」
---もう何も失いたく無い。美鬼も、七宝も、極東も……---
---まだ手が届くものがある。まだ間に合う---
「何を言っているんだ? 」

---たった一人の家族。お前だけは救い出して見せる!! ---

 淡く白い壁がガラスのように砕け散る。
 中から片刃の光る刀を携えた父が現れた。
「俺は、俺は、お前の代わりがきく唯一の人間だ。」
「邪魔すんなクソ親父!! 」
 正直嬉しかった。
 本当は千代やみんなと何事もない日常を送っていたかった。
 だがしかし、魔法になることに対する期待もあったのだ。
「お前が、英雄? 違うな!! 」
「英雄はこの世界でたった一人。天叢雲剣を携えた桐生慎二郎ただ一人だ!! 」
 天叢雲剣……それがあの剣の名前。
 いや、両刃で無くなったアレは剣というより、刀であった。
 極東みんなの力を感じる。
 そうか……あの武器はみんなの。
 いや、元々父の武器の一部だったのであろう。
 俺は弾き出されて地上に落とされる。
 俺の魂の残量が尽き、意識を失うまで、父は俺にずっと微笑みかけてくれていた。

      * * *

「ああ……そうだな美鬼。」
「まだお前の元には行けそうにない。」
「俺に新しい仕事が出来たんだ。」
 久しぶりのグリップ感覚。
 叢雲に触れたのはいつ以来だろうか。
 あの刃の子供から譲り受けた叢雲のカケラのおかげで、俺の草薙剣は本来の力を取り戻すことが出来た。
「叢雲、俺たち最後の仕事だ。」


     --- ᛁᚾᚠᛁᚾᛁᛏᚤ---


     * * *

「____父さん!! 」
(ガツン)
 俺は勢いよく飛び上がると、何かと頭をぶつけた。
「ったく。急に起き上がらないで!! 」
 俺は千代の膝の上で介抱されていたらしい。
「ノコノコと帰ってきて。何か言うこと無いのかしら。」
 俺は言葉に詰まった。
 あんなにカッコつけてたのにこのザマだからよ。
「ごめん。それからありがとな。」
 俺たちは空を見上げた。
 そうすると、静かに屹立していた光柱は急に凄まじい音を立てて、歯車を出現させ、天に向かって伸び始める。
 遅れて巨大な樹木が出現し、光の柱を突き破った。
 大樹は、地に根を張ると、世界各地に向けてそれを伸ばしていく……
「コレは……グランディルの地脈か? 」
 間違いない。
 地脈からは蜜が溢れ出し、大地からは花が咲き始める。
 蜜の元へと、動物が群がり、それを舐め始める。
 両軍からも、耐えきれず木の根を齧り始める者まで出てきた。
「すごい。コレがアスィールさんの考えた魔法? 」
「永遠に尽きることのないエネルギー。この世に存在しない代物。永久機関だ。」
 アスィールが碧野に支えられて、こちらにやってくる。
 よく見ると、碧野双薔は、腰の短剣を持っていなかった。
「短剣はね。返したよ。君のお父様に。元々慎二郎さんのものだったんでしょ。」
 伊桜里も、ミーチャも、鏡子も、斥も、美奈も極東のみんなまでもが、その聳え立つ巨大な木を見上げていた。
「カチャ。」
 銃のセーフティーが下される音。
 俺は近くに転がっていた(おそらく父がここまで運んできてくれたのだろう。)凛月を素早く拾い上げる。
「慎二君。君がなぜ私に銃を向けられているか分かっているかね。」
 極長だ。
「もう後がないことぐらい知ってたさ。でもな。そう易々と捕まってやれないかな。」
 俺は千代を抱き抱えた。
「慎二…… 」
 彼女が不安そうな顔をしている。
 当然だ。
 俺は二度許された。
 それでも俺は極東を裏切ったのだから。
 また俺はあの薄暗い牢屋にぶち込まれて、もう日の目を見ることは無くなるだろう。
「桐生慎二!! 魔法所持の容疑で連行する。」
 極東軍ではない。
 手を挙げながら、後ろに目をやると……
 公安のバッチ。
 多分平等社会からこちらに来た人間だ。
 もしや……
 本堂が平等社会に帰るほんの少し前、彼は俺に一通の封書をよこした。
 俺は怯える彼女に向けて小声で話した。
「千代、俺の後ろポケットをとって、中身を開いてくれ。」
 彼女には一役買ってもらうしかない。
「分かった…… 」
 彼女は、怯えて、俺に捕まるふりをしながら、隠れて手紙の封を解いた。
 こうすれば、俺にも魔法が宿るはずだ。
 大丈夫。魔法の仕組みは、ついさっき
 今なら俺にも出来るはずだ。
 光る玉が、俺たちの頭上に浮かび上がり……
「人攫いだ!!奴を捕まえてくれぇ!! 」
 そこに千代のお父さんがやって来る。
 後でちゃんと説明します。
 今は目を瞑っていてください。
 玉は千代の胸に吸い込まれていった。
「「へっ?」」
 魔法は俺ではなく、千代を選んだ。
「慎二!!しっかり捕まっていてね!! 」
 

     * * *


 ワープ先は、花園の中だ。
 ここはどこか分からない。
 だが、俺たちの世界ではない気がした。
 おそらく平等社会でもない。
「慎二、私たち助かったのね。」
「それよりお前!! 」
 多分、本堂が俺によこしたのは、第三魔法放浪者トラベラーだ。
「なんで俺じゃなくて、お前なんだ? 」
「そりゃー慎二ってバカだから。私の方が頭良いでしょ。」
「直球的だなぁ。」
 俺は寝転んだ。
 ここからは沈む夕日を見ることが出来る。
 疲れた。
 しばらく眠りたい。
「ほら、何してるの? 」
 彼女が俺の足を引っ張る。
「ちょっと休ませてくれよ。」
「早くしないと、この世界に置いていくわよ。」
「それは困る。もしかして、魔法は元々千代に譲るためのものだったのでは? そう考えてしまう。」


      * * *


 俺たちが蝠岡の世界を旅して回って一ヶ月ほど後、彼から手紙が届いた。


   

    真魔法使いを探せ。


              天才科学者


 それだけ、そう一言書いてあるだけだ。
 俺たちの長い長い旅が始まった。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

我々が守る価値はその人類にはあるのか?

あろえみかん
SF
あらすじ:十日前から日常がぐにゃりと歪み始める。足元から伸び上がるこの物質は何なのか、わからないままに夏の日は過ぎていく。六日前、謎の物質が発する声でフルヂルフィは自分の記憶を取り戻す。彼は記憶を消去した上で地球の生命体に潜入し、様々なデータを採集していたのだった。それらのデータで地球と人類の複製がラボで行われる。美しい星に住む人類はその存在意義を守る事ができるのか。それは守るものなのか、守られるものなのか。遠い遠い場所の話と思っていれば、それは既に自分の体で起こっている事なのかもしれない、そんな可能性のお話。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

ーUNIVERSEー

≈アオバ≈
SF
リミワール星という星の敗戦国で生きながらえてきた主人公のラザーは、生きるため、そして幸せという意味を知るために宇宙組織フラワーに入り、そこで出来た仲間と共に宇宙の平和をかけて戦うSFストーリー。 毎週火曜日投稿中!

終末の乙女

ハコニワ
SF
※この作品はフィクションです。登場人物が死にます。苦手なかたはご遠慮を……。 「この世をどう変えたい?」  ある日突然矢部恵玲奈の前に人ならざるもの使いが空から落ちてきた。それは、宇宙を支配できる力がある寄生虫。  四人の乙女たちは選ばれた。寄生虫とリンクをすると能力が与えられる。世界の乙女となるため、四人の乙女たちの新たな道が開く。  ただただ鬱で、あるのは孤独。希望も救いもない幸薄の少女たちの話。

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

オー、ブラザーズ!

ぞぞ
SF
海が消え、砂漠化が進んだ世界。 人々は戦いに備えて巨大な戦車で移動生活をしていた。 巨大戦車で働く戦車砲掃除兵の子どもたちは、ろくに食事も与えられずに重労働をさせられる者が大半だった。 十四歳で掃除兵として働きに出たジョンは、一年後、親友のデレクと共に革命を起こすべく仲間を集め始める。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

処理中です...