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ローランド大戦

今ある命

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[みんな、準備は良いな。始めるぞ。]
 Mからの通信を元に、皆が一斉に構えた。
 下の開けた平地では、グランディル軍と極東軍が今にも激突せんとしている。
 山岳地帯で伏せる俺たちは、それを高台から俯瞰していた。
「いつでも良い。」
 アスィールは、異空間から真紅の両刃剣を取り出すと、両手でそれを構えた。
 碧野とアスィールでカーミラを含むブレイク兄弟を、俺たち契約者で、極東軍を止める。
[始めてくれ。]
 Mの合図で全員が一斉に走り出した。
 俺は千代を担ぎ上げると、崖から飛び降り、大樹の太技を蹴り、傾斜地を滑るように走る。
 隣では、斥と鏡子が鏡の板をスケボー代わりにして滑っている。
「良かったのか、こっち側に来てよ。」
「なんだ? 慎二。今更すぎんだろうがよ。笑わせんな。」
 俺は幹を潜り抜けながら、彼らと交差し、奴らのいる平原へと向かう。
 目の前の大岩を跳躍で避けて、その次の目の前の大樹を左に回転して避ける。
 そうすると、腰から上あたりまで、大枝が覆っていたので、スライディングで潜り抜けた。
 抜けた先に小川、それをジャンプで避ける。
 次第に山岳が終わりを近づいているのが分かる。
 俺は速度を落とさず、地面を思いっきり蹴り上げて、地上向けて飛び出した。
 やべー、ちょっと飛びすぎたか?
「ふぁぁぁぁぁぁぁ。」
 千代は耐えきれず悲鳴を上げているようだ。
 俺もちょっとやりすぎたと思う。
 地面に足をつけて、その反作用を利用し、一気に疾走する。
 限界まで筋肉を収縮させて、思いっきり地面を蹴り返した。 
 地が歪み、俺は思いっきり前に弾き出される。
 体勢を崩しそうになるが、運動ベクトルに身を任せた。
 その方が、エネルギー効率が良い。
 出来るだけ体力は温存しておきたい。
 アレ父親との戦闘は避けられないだろうから。
 俺たちは、グランディルと極東の間に割って入った。
 両軍に冷たい沈黙が吹く。
 その沈黙を最初に破ったのは、極長だ。
 彼は馬車から顔を出すと、少し太った四肢をテキパキ動かして、何を言い出すかと思いきや、掌でとぼけて見せた。
「やぁ穀潰し君。何しに来たのかね? 」
「坂上極長。戦場に赴かれていたのですね。」
「そりゃぁそうだよ。この戦いはこの世界の未来を左右を決する重要なモノになるだろうからね。」
「それに。軍規違反を犯した君にお灸を据えなければ行けないし。」
「やはり君からは、凛月を取り上げておくべきだっただろうか。」
 そこへ馬田が現れる。
「奴は俺たち契約者が責任を持って処分します。」
 極長はそれを手で払った。
「ちょっと待ちなさい。彼は首を刎ねても死なない。それより彼の弁明を聞こうじゃないか。極東を二度も裏切って、国際犯罪組織に手を貸す理由をね。」
 俺は大きく息を吸い込んでから、極東全員に聞こえるような大きな声で言葉を返す。
「平等社会の難民たちを受け入れてなお、この世界で存続出来る方法を、皇帝のアスィールが思いついた。」
「魔法だ。美奈とセイと、同じ力。それを、俺が起動させれば、永久機関が完成する。」
 その言葉を聞き、極東軍たちは笑い転げた。
 難民軍たちも、極東人たちも、召集された契約者たちも。
 極長が手を叩くと、それが静まる。
 千代が何か言おうとしたが、俺は無言でそれを制した。
「何を言い出すかと思いきや。青臭いね君は。」
「別に、嘲笑してくれて構わない。ただ、この場を引いてくれ。俺はアンタらと戦いたい訳じゃない。」
 彼は深いため息をついた。
 それからゆっくりと話し出す。
「君はユニバース26って知っているかな? 楽園で暮らしているネズミたちは、最後どうなったか? 」
「人間はね、生物はね。争い、殺し合い、沙汰さなければ、進化し続けることは不可能なんだよ。」
「君たちの計画なら、今いる人類は救えるかも知れない。だがね。それではダメなんだ。もし、人間が無限のエネルギーを手に入れ、奪い合うことが無くなれば、人は向上心を失う。そうなってしまえば、最後人類は、自分の部屋から出ることも無くなるだろうよ。その先に何が待っているか? 」


                 「それは滅亡だ。」


「だからね。私たちは争い合わなくてはいけない。たとえ、和解したグランディルの国とはいえね。」
 今度は俺が、笑いを堪え切れず、吹き出してしまった。
「俺のことを青臭いなんていうから、どんな至言が出てくるのかと思いきや。」
「ユニバース26? 」
「そんな身も蓋もねえ話をするあたり、アンタも相当追い詰められているのが分かるよ。」
「身も蓋もない話ではない。草薙の剣に保有されていた、平等社会の過去の記録を調べれば誰でも分かることだ。」
「コミュニズムも、大きな政府も、みんなみんな破綻した。」
 俺は息を大きく吸い込んでから、彼に指を差した。
「青臭いのはアンタの方だろ。」
「先行きの見えない未来のことばっかりにフォーカスがいって、今、この瞬間お前についてきている人間のことが見えていない。」
「これから生まれてくる人間? 人類の未来? そんな物、後から考えれば良いだろう。それよりももっと大切なことがある。」



「明日の命より今日の命だ。」



「先行きが見えない未来の人々を守るよりも、今、この瞬間生きている人間を守ることの方が大切だ。」
「この先人類がどのような末路を辿るとしても。」
「それが俺の使命だから。」
「英雄としての俺の、世界を守るという宿命を背負わされた俺が今すべきこと。」
 馬車から一人の女性が飛び出してくる。
「慎二っ!! 」
 美奈だった。
 彼女は侍女に取り押さえられながら、必死に何かを叫んでいた。
「あの時、ごめんな。お前に記憶が戻った時、寄り添ってやれなくて。やっぱり俺は槍馬みたいに振る舞うのは無理だったんだわ。」
「私のほうこそ。ごめんなさい。私のために、幼馴染を演じてくれて。それで持って、記憶が戻ってから邪険にしてしまって。なんて言えば良いか分からなかったの。」
「慎二!! 世界を救って。図々しいようだけど。貴方のその懐の大きさで、みんなを!! 」
 血相を変えた極長が、手を振る。
 それは合図だ。
 奴が来る。
 俺の最大の敵が。
 彼はどこかサマになっている両刃の神器を担ぐと、俺の前にゆっくり歩み出てきた。
「よお慎二。元気か? 」
「こんな事をしておいて、よく俺に顔を出せたなクソ親父。」
「私の信条は昔から変わらない。掴み取れるものを掴めるだけ掴む。それがお前の母さん、美鬼への贖罪だ。」
「ブッ斬られて、泣いて謝っても許してやんねえからな。」
「ったく。躾がなってないな。どこでそんな言葉を覚えたのか。親の顔が見てみたいぐらいだよ。」
 



 
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