上 下
134 / 145
平等社会へ

間話

しおりを挟む
「通信が切れた。何が起こった? テロか? 」
 私のその問いに、一人の部下が答える。
「いえ、その……画面に蝠岡蝙が…… 」
を確認しろ。収容所には? 」
 部下は首を傾げている。
「もう確認しています。万が一のことがあっては行けないので。」
 彼は監視カメラの方をみると、こちらに向けて上目遣いで優雅に手を振っていた。
「液晶がハッキングされたと言うことは…… 」
 私がそう言いかけた時に部下は、液晶のプログラム履歴を開いていた。
「プログラムがハッキングされた形跡はありません。」
「少なくとも、この三ヶ月は。」
 私が最後にプログラムを開いたのはいつかを部下に聞こうとした。
「三年前の液晶メンテの時、業者がプログラムの最適化を行ったようですが……」
大兄弟助は? 奴の状況を画面に映せ。」
 もう一人の部下がメインスクリーンに、ある牢獄の監視カメラを映し出した。
 手足には無数の電極、無数の拘束具。
 そして、頭は機械がスッポリ覆っていて、顔を見ることは出来ない。
 彼はいつもと同じよう人夢を見ていた。
 覚めることない永遠の悪夢を。
「大兄弟助、蝠岡蝙、同時に異常ありません。魔法を使った形跡も。」
「つまり一番現実的なのは…… 」
「はい、三年前のメンテナンスの時に、この映像は既に焼き終わっており、このタイミングで流れるようにプログラムされていたようです。」


       * * *


 俺は唖然として液晶を見上げていた。
 平等社会人も、黒服たちも、そして本堂も。
 ポットのロックが解除され、槍馬たちが中から出てくる。
 彼らは立ち上がり、手をパンパン叩くと、俺たちに加わった。
[こんにちは。221の皆さん。そして平等社会のみんな。]
[この映像が放映される頃には、もう僕は国際政府に捕まっており、皆んなと会うことは出来ないだろう。]
 彼は首を傾げた。
[急にメッセージを残すと言っても、難しいな。]
[さて何から話そうか。]
 彼は手をポンと叩いた。
[私が並行世界、小宇宙をつくった理由。まず、それから話すと良いな。]
 民衆たちがざわめき始める。
[おいおい、批判するのは、私が全部話終わってからにしてくれよ。]
[君たちがまだ生まれる前、人間はみんな不平等だったんだ。]
「僕知ってるぅ。」
 小さい子供が手をあげて叫んだ。
 周りで和やかな笑いが起こる。
[そう、人間は不平等で、無秩序だった。だから面白かったんだ。]
[だから僕はを作ろうと思った。]
[能力者と、無能力者が手を取り合えるユートピアをね。]
[君たち平等社会人は、他の世界に触れて、考えて欲しいんだ。今の社会は本当に正しい世界のあり方なんだって。]
[なーに、強要はしないさ。]
[でも少しでも興味があると言うのなら。]
「ギギィィ。」
 コロシアムの両扉が開き、中から混沌が覗く。
[僕のつくった世界に来てほしいかな。]
 一人の好奇心旺盛な子供が、親元から離れると、扉向けて走り出した。
「コラ、辞めなさい!! 」
 両親は顔を青ざめている。
 それを周りの民衆たちが凝視する。
 それを感じ取った彼らは、逃げるように扉へと駆け込んだ。
 それを見た民衆は一人、また一人と扉の中へと走り出した。
「止まれ~。」
 黒服が彼らを制するが、民衆はもう止まらない。
 彼らは、自らな世界へと飛び込んだ。
 こうなればもう、調停どころじゃなくなるだろう。
「きゃっ。」
 千代だ。
 平等社会人に突き飛ばされて、尻餅をついたのだろう。
「大丈夫か? 」
 すると彼女は頬を膨らませた。
「何か…言うことあるんじゃない? 」
 俺は少し考えた。
「悪い、遅くなった。あと。」
「ちゃんとエスケープ出来なくてごめんなさい。」
「言えたじゃない。」
 彼女は俺の手を取る。
 そして一気に引き上げた。
 勢いで彼女が抱きついてくる。
 暖かい。
「お前こそ、俺に言うことあるんじゃ無いか? 」
「…ムフフ。」
「…ありがと慎二。」
 顔が熱くなる。
 何も考えられなくなる。
 ドクドクと込み上げてくるこの気持ち。
 言葉にできない幸福感で、身体が震えた。
「ヒューヒュー。」
「熱いですなぁ。」
 ふと、周りで仲間が見ていたことを思い出し、俺たちは慌てて離れた。
     
       ・
       ・
       ・


 数ヶ月後。
 暴動は収まり、平等社会は元の世界に戻されることになった。
 しかし、俺たちとの取り決めで、ビザを発行できた物だけが、いわゆる観光という名目で、我々の世界の人間と交流する。
 というガス抜き行為が行われるようになる。
 というものの、文化の違いや、法律の違いなど、そこから生じる価値観の違いによる平等社会との摩擦など、問題はまだまだ山積みだ。
 俺も官職として働くことになった。
 どうやら人手不足らしい。
「桐生君。君という奴は…….」
「どうして資料の止め方一つを理解できないのかね? それに誤字脱字。これじゃ民衆の笑い者だよ。クドクドクドクド。」
 また上司の本堂の説教が始まった。
 俺に、この職務は向いていないらしい。
 ガタ。
 誰かが部屋のドアを開けたらしい。
 三十分による説教と、山積みになっている付箋と資料の山に顎を預けながら、伸びている俺の肩を誰かが叩いた。
「お前にこの仕事は向いていないみたいだな。」
 槍馬だ。
「ああ、どうやら白兵戦以外は、からっきしらしい。この先やっていけるか心配だ。」
 彼は笑った。
「おい槍馬、何がおかしいんだよ。」
「いやいやごめんごめん。お前がそうやって伸びているウチは……」


「世界は平和なんだなぁって。」

「……」
 ふとパソコンのモニターを見た。
 パソコンとは、平等社会人が発明した、液晶のついた演算機だ。
 俺は仕事中にも関わらず掲示板を開いていた。
「おい、またお前仕事をサボって。」
 あの事件のあと、掲示板では可笑しな陰謀論が蔓延していた。
『極東・セル・グランディルの要求を、平等社会人が、オイそれと飲んだのは、可笑しい。』やら『実は侵略戦争は起こっていて、それをカーミラたちがやっつけた。』やら『皇后の美奈と双薔が、平等社会人を籠絡した。」とかいう不名誉な物まで様々だ。


285 フリー名損 1174/6/1    10:54:38
どうやら、極東で機密文書が見つかったそうじゃ無いか。

286 フリー名損 1174/6/1    10:55:43
>>285
だからそれはデマだって。

287 フリー名損 1174/6/1    10:57:56
それにしては良くできた文章だったよな。
ちゃんとクソガキ天子と、美奈タソの朱印もあった。

288 フリー名損 1174/6/1    11:00:01
んなもん今の時代いくらでも捏造できんだろ。

289 フリー名損 1174/6/1    11:00:02
>>285
頭にちゃんとアルミ箔巻いとけよ甘芋。
トップバリューのは無しな。

290 フリー名損 1174/6/1    11:01:12
ちくわ大明神

291 フリー名損 1174/6/1     11:01:13
>>290
おい誰だ今の?

292 フリー名損 1174/6/1     11:01:14
>>290
無駄にレス消費させるのやめろやゴミ

293 フリー名損 1174/6/1     11:01:15
>>290
嵐として通報しておきました。

294 みんなの⭐︎ヒーロー鬼神⭐︎ 1174/6/1     11:05:13
みんなが気づかないのも無理ないな。
だって、平等社会人は俺がまとめて懲らしめちまったから。

295 フリー名損 1174/6/1     11:06:14
>>294
久しぶりに本物が来たな。

296 フリー名損 1174/6/1     11:06:15
>>294
市ね

297 フリー名損 1174/6/1     11:06:16
>>294
はいはい、ガキは掲示板なんてやってないでお勉強しまちょうね。

298 フリー名損 1174/6/1     11:06:17
>>294
やばコイツ、コテコテやん。

299 フリー名損 1174/6/1     11:06:18
>>294
kwsk

300 フリー名損 1174/6/1     11:06:19
おっしゃあ300ゲットォ。



「おい慎二、辞めとけよ。このPCは、極長が直接サーバーを管理しているだぞ。」
「サーバー?? なんじゃそりゃ。」
<桐生慎二窓際社員、今すぐ至急、迅速に局長室に来る様に。>
 ひとまず俺の冒険は終わり。
 次の出番が来るまで、一休みすることにするよ。

                つづく


 
 


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...