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平等社会へ
摩天楼の錬金術師
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槍馬が転送され、ブーイングが止むと、辺りは静まり返った。
静寂からくる緊張感。
両者とも、転送用ボタンを押す者は居ない。
制限時間は原則として定められていないので、俺たちは、相手が先に名乗り出た時点で、カーミラ・セイと他の四人が自主的に名乗り出ようという作戦を考えていた。
理由は簡単で、本堂がどのタイミングで来ても俺と対峙できるように調整するためだ。
平等社会側で、痺れを切らしたように、誰かが転送される。
それは俺のよく知る人物だった。
彼は出てくるや否や、俺たちに向かって怒鳴った。
「おい、出てこいよ臆病者。逃げてんじゃえねえぞ!! 俺と戦えっ!! 」
金川は俺のことを呼んでいる。
観客がざわめき始める。
「おい、本堂ぅぅぅぅぅぅ。奴を転送させろ。」
「俺がこの茶番の見せ物になることを飲んだのは、奴と戦わせるって言う名目のためだろうが。」
「契約を守れねえのなら、このスタジアムごと吹き飛ばすぞ!! 」
金川が両腕を天にかざす。
が、俺はじっと堪えた。
屈辱という感情は存在しない。
臆病者でも、卑怯者でもいい。
今、俺が出れば、本堂とは戦えなくなる。
奴には一発拳をお見舞いしないと気が済まない。
俺は彼など眼中になかった。
金川の手錠が反応する。
「ぐっ。」
「本堂ぅ。」
金川が本堂を睨みつけた時、俺たちの陣営から、一人の少女が転送された。
「ッ 女は引っ込んでろよ。」
碧野双薔、セル帝国の新女王。
彼女は真っ直ぐな目で彼の次の一言を待っている。
「女は弱え。オメエ見たいな弱い人間を見ていると、吐き気がするんだよ。」
「だから僕の国の人々を殺したのかい? 」
怒りは感じない。
だが、優しさも感じなかった。
彼は一瞬、キョトンとすると……
思い出したらしい。
「なんだよ。道端のアリンコ、一匹二匹踏み潰したぐらいで、ムキになりやがってよ。」
彼女から冷たい殺意が漂い始める。
「君には信念も無く、殺された人には罪が無い。ただ愉しむために他者を殺して、その死体を玩ぶ。」
「僕の国の人間だけじゃないよ。メリゴ大陸でも、グランディルでも。」
「身体の一部が変異した遺体が見つかっている。」
彼女の殺意が徐々に尖っていっている。
俺にも分かった。
彼女から鋭い刃物のような気迫を感じる。
「まだ殺しただけなら同情の余地があった。僕だって人のこと言えないから。」
彼は足をコツコツ鳴らし始めると、顔に、少しずつ皺を増やしていく。
そして、爆発したように言葉を放った。
「同情? なに上から目線でモノ言ってんだよアバスレッ。」
_____________________________________バシュッ
一瞬何が起こったのか分からなかった。
金川は一瞬にして肉塊になり、その延長線上には、叢雲の欠片をふり降ろしている碧野双薔の姿がある。
《勝負あり》
勝負は一瞬だった。
観客たちも、徐々に状況を理解して、一人の女が金切り声を上げる。
恐怖は伝染し、コロシアム内は阿鼻叫喚に包まれた。
槍馬の時とは、全く別の反応。
憎悪が一瞬にして恐怖に変わる瞬間だ。
「なんて、恐ろしい。」
「バケモノ。」
「は、早く奴にも手錠をかけろ。あんな奴野放しにするな。」
彼女は息を吸う。
それからまっすぐな目で平等社会人たちを見た。
「出来ればこんなことはしたくなかった。」
さっきまで金川だった肉塊は、粘土のようにこねあがると、元の形に戻った。
「でもね。思想の違う人間に、それを理解してもらうことは難しい。それを僕は自分達の世界で学んだ。」
民衆の声が止む。
「ハッキリ言うよ。君たちは異常だ。」
「僕たちが、平等社会の能力者たちがキミたちに何をしたって言うんだ? 」
民衆の一人が答えた。
「蝠岡も、リベリオンの奴らも、みんな犯罪者だ。能力者は俺たちが抑えておかないと、何を仕出かすか分からない。」
「そうだそうだ。」
「能力者は危険だ。」
彼の言葉に、誰かが同調し始める。
「それは違う!! 」
「僕は見たよ。君たちが能力者に暴力を振るっているのを。」
「枷をされた無害な能力を、多人数でよって集ってリンチしているのを。」
「それが君たちにとっての日常なのかもしれない。」
「だけど、もう一度考えて見てほしい。ホントに悪さをしているのは誰なのか? 」
「それでも能力者が、まだ憎いと言うのなら…… 」
「僕が直接相手になろう。」
辺りが静まり返る。
誰一人として、彼女に戦いを挑む者はいなかった。
そうすると彼女は、金川向けて手を差し出す。
「ッチ 悪者にしやがって。」
首を横に振る。
そして答えた。
「キミも被害者だと僕は思っている。」
「君たちだって枷をかけられることがなければ、こんなことはしない。そうだろ。」
金川はそっぽを向いた。
「ふん。どうだろうな。こんな腐った世界。俺に人並みの権利があろうが無かろうが。」
「この世界は俺にとって狭すぎる。自由になりたかった。」
「アンタ名前は? 」
「僕の名前は碧野双薔。よろしく。」
静寂からくる緊張感。
両者とも、転送用ボタンを押す者は居ない。
制限時間は原則として定められていないので、俺たちは、相手が先に名乗り出た時点で、カーミラ・セイと他の四人が自主的に名乗り出ようという作戦を考えていた。
理由は簡単で、本堂がどのタイミングで来ても俺と対峙できるように調整するためだ。
平等社会側で、痺れを切らしたように、誰かが転送される。
それは俺のよく知る人物だった。
彼は出てくるや否や、俺たちに向かって怒鳴った。
「おい、出てこいよ臆病者。逃げてんじゃえねえぞ!! 俺と戦えっ!! 」
金川は俺のことを呼んでいる。
観客がざわめき始める。
「おい、本堂ぅぅぅぅぅぅ。奴を転送させろ。」
「俺がこの茶番の見せ物になることを飲んだのは、奴と戦わせるって言う名目のためだろうが。」
「契約を守れねえのなら、このスタジアムごと吹き飛ばすぞ!! 」
金川が両腕を天にかざす。
が、俺はじっと堪えた。
屈辱という感情は存在しない。
臆病者でも、卑怯者でもいい。
今、俺が出れば、本堂とは戦えなくなる。
奴には一発拳をお見舞いしないと気が済まない。
俺は彼など眼中になかった。
金川の手錠が反応する。
「ぐっ。」
「本堂ぅ。」
金川が本堂を睨みつけた時、俺たちの陣営から、一人の少女が転送された。
「ッ 女は引っ込んでろよ。」
碧野双薔、セル帝国の新女王。
彼女は真っ直ぐな目で彼の次の一言を待っている。
「女は弱え。オメエ見たいな弱い人間を見ていると、吐き気がするんだよ。」
「だから僕の国の人々を殺したのかい? 」
怒りは感じない。
だが、優しさも感じなかった。
彼は一瞬、キョトンとすると……
思い出したらしい。
「なんだよ。道端のアリンコ、一匹二匹踏み潰したぐらいで、ムキになりやがってよ。」
彼女から冷たい殺意が漂い始める。
「君には信念も無く、殺された人には罪が無い。ただ愉しむために他者を殺して、その死体を玩ぶ。」
「僕の国の人間だけじゃないよ。メリゴ大陸でも、グランディルでも。」
「身体の一部が変異した遺体が見つかっている。」
彼女の殺意が徐々に尖っていっている。
俺にも分かった。
彼女から鋭い刃物のような気迫を感じる。
「まだ殺しただけなら同情の余地があった。僕だって人のこと言えないから。」
彼は足をコツコツ鳴らし始めると、顔に、少しずつ皺を増やしていく。
そして、爆発したように言葉を放った。
「同情? なに上から目線でモノ言ってんだよアバスレッ。」
_____________________________________バシュッ
一瞬何が起こったのか分からなかった。
金川は一瞬にして肉塊になり、その延長線上には、叢雲の欠片をふり降ろしている碧野双薔の姿がある。
《勝負あり》
勝負は一瞬だった。
観客たちも、徐々に状況を理解して、一人の女が金切り声を上げる。
恐怖は伝染し、コロシアム内は阿鼻叫喚に包まれた。
槍馬の時とは、全く別の反応。
憎悪が一瞬にして恐怖に変わる瞬間だ。
「なんて、恐ろしい。」
「バケモノ。」
「は、早く奴にも手錠をかけろ。あんな奴野放しにするな。」
彼女は息を吸う。
それからまっすぐな目で平等社会人たちを見た。
「出来ればこんなことはしたくなかった。」
さっきまで金川だった肉塊は、粘土のようにこねあがると、元の形に戻った。
「でもね。思想の違う人間に、それを理解してもらうことは難しい。それを僕は自分達の世界で学んだ。」
民衆の声が止む。
「ハッキリ言うよ。君たちは異常だ。」
「僕たちが、平等社会の能力者たちがキミたちに何をしたって言うんだ? 」
民衆の一人が答えた。
「蝠岡も、リベリオンの奴らも、みんな犯罪者だ。能力者は俺たちが抑えておかないと、何を仕出かすか分からない。」
「そうだそうだ。」
「能力者は危険だ。」
彼の言葉に、誰かが同調し始める。
「それは違う!! 」
「僕は見たよ。君たちが能力者に暴力を振るっているのを。」
「枷をされた無害な能力を、多人数でよって集ってリンチしているのを。」
「それが君たちにとっての日常なのかもしれない。」
「だけど、もう一度考えて見てほしい。ホントに悪さをしているのは誰なのか? 」
「それでも能力者が、まだ憎いと言うのなら…… 」
「僕が直接相手になろう。」
辺りが静まり返る。
誰一人として、彼女に戦いを挑む者はいなかった。
そうすると彼女は、金川向けて手を差し出す。
「ッチ 悪者にしやがって。」
首を横に振る。
そして答えた。
「キミも被害者だと僕は思っている。」
「君たちだって枷をかけられることがなければ、こんなことはしない。そうだろ。」
金川はそっぽを向いた。
「ふん。どうだろうな。こんな腐った世界。俺に人並みの権利があろうが無かろうが。」
「この世界は俺にとって狭すぎる。自由になりたかった。」
「アンタ名前は? 」
「僕の名前は碧野双薔。よろしく。」
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