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侵略者

聞きたいことはたくさんあるが

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 メリゴ大陸から無事帰還した俺と黒澄は、極長室で報告を行っていた。
「そうか、犯人は特定したが逃げられた。」
「詠唱は? どんな術式だったのかね? 」
「そっち方面は君の方が詳しいだろ? 」
 俺は苦虫を噛んだ時のような顔で答える。
「悪い、見えなかった。」
「やはり、術式の残留がない時点で薄々気が付いてはいたが。」
 極長の反応を見て、俺は出来る限りの表現で、彼に情報を引き出そうとした。
「なんか、こういう表現は悪くないんだけど、最近アニメでやっているサイキック少女キサラギちゃんと近かった と思う。」
 極長は眉を顰める。
 黒澄も顰めた。
「術式を発動しているって言うより、息を吐くように能力を発現させているんだ。そのアニメの言葉を借りるなら。」
「超能力……か。」
「しかしそんなことが本当に? 術式を使用せずに能力を使うなど聞いたことが無いぞ。神族だって術を発動させるのに古代語を使っている。無詠唱というのなら、一体どういう原理で? そりゃキミ、強いイメージさえアレば、言葉に発さなくても発現させられるかもしれない。だが、術式の跡が残らないのは異常だ。」
「極長……」
 黒澄が挙手する。
「なんだね? 」
 彼女はゆっくり口を開いた。
「すみません、私、テロリストに会ってきました。」
 極長は腕を組んで険しい顔をした。
 そして彼女に問う。
「ソレで彼らはなんだって? 」
「彼らは外の人間らしいです。慎二が倒した神たちと同じ…… 」
「よく出来た小説じゃないか。」
 ここで俺は話を切り出した。
「アンタももう招かれざる客の本拠地を知っているんじゃないか? 」
「何を根拠に? 」
「根拠なんて無いさ。だが、ミシマッシュは奴らの巣穴を炙り出した。」
「俺たちは今からそこに行く。」
 極長はソレを否定した。
「ならない。それだけは。」
「なぜ? いつまでもこんなイタチごっこを繰り返すつもりか? 領土内に入ってきた奴らを仕留めるなんて無理だ。俺は先の戦闘で分かった。奴を生捕にすることは不可能だって。」
 彼は渋い顔をした。
「私だって出来るならそうしたい。しかし、コレは私たちだけの問題では無い。」
 黒澄が口を開く。
「セル帝国の極東進軍の件ですね。」
「そうだ。彼らと私たちの溝は、国家間だけでなく、民衆にまで行き届いている。」
「我々が下手に動けば、情報局が黙ってはいないだろう。」
「我々だけなら良い。向こうだって、極東の軍人が自分の国に入ってくるなんてあまり良い気分では無いはずだ。」
「それでも、奴らに一矢報いるべきだ。」
「慎二君落ち着きたまえ。今動けば大変なことになる。」
 不意に扉が開いて、秘書が飛び入ってくる。
「なんだね? いまは取り込み中だ。入ってくる時はノックをしろと、くどくどくどくどくどくど。」
「アスィール様からです。」
「なに? 国王直々に? ソレを早く言いなさい!! 」
 流石に極長の額にも汗が滲んでいた。
「ええ、あ、はい、ええっ? 」
 彼は深呼吸してから答えた。
「どうやらセル帝国に人を寄越して欲しいらしい。」
「どういう了見だ? 」
「どうやら皇帝カーミラが緊急首脳会談を開くらしい。」
「こんな時に自分の領土を開けろっていうのか? 」
「こんな時だからだ。」
「美奈や天子たちにはもう連絡が。」
「安心したまえ、極東には契約者がいる。」
「まざか向こうから招き入れてくれるとはなぁ。」
「慎二くん、千代くん? 無休で済まないが、もう出れるか? 」
 俺と黒澄はお互いに顔を見合わせると、コクリと頷いた。
 俺たちは極長室を後にする。
 そして彼女に問いかけた。
「おい、黒澄、ポータルは向こうだぞ。」
 俺はメリゴ大陸へと渡った外京の方を指差した。
「極東はセル帝国にポータルを置いていないわ。」
 理由はだいたい分かった。
「陰気くせえ野郎どもだな。」
「国防を気にしているのは本部だけじゃ無いわ。」
「みんながみんな、お互いを疑っている。」
「私も。」
「黒澄…… 」
 そうしていると彼女は急に振り返ると、俺に指を刺した。
「後、黒澄っていうのやめて。なんか余所余所しいじゃん。」
 俺は腕を組んで考えた。
「ええ?じゃあ黒ちゃん? 」
「なに? ソレ誰の芸名よ。」
「じゃあか? 」
「ち・が・う。」
「もういい!! 」
 彼女は不機嫌になってまたズカズカ歩き出した。
「待ってくれ千代!! 」
「ふーん。やれば出来るじゃない。」
 なんだか懐かしい感じがする。
 俺と千代はしばらくの間疎遠になっていたから、名前で呼ぶのを自然と躊躇ってしまっていたが。
「慎二、いこ? 」
 彼女が手を差し出してくるのでソレを握る。
 俺たちは畿内環状線へと急いだ。

      * * *

 モノポール車は、蒸気機関車より静かでずっと早い。
 だがその沈黙はあまり心地よいものでは無かった。
「なんでアナタがいるのかしら。」
 私服の美奈を見るのは久しぶりだ。
「行き先が同じなら別にいいでしょ? 」
「それに護衛が槍馬だけじゃ心配だって近衛の人たちが。」
「それはそうと、わざわざ冠外してまで一般車両に乗るこたぁねえだろ。」
「槍馬は仕事柄で話すことがあるんだけど、慎二は助けて貰ってから全然話できていなかったし。」
「あのなぁ。」
 確かに、彼女を連れ出してからの俺は、任務に付きっきりだったし、彼女は天子と結婚して職務に勤しんでいた。
 積もる話が無いわけでは無いのも事実だ。
 一杯話をした。
 横で冷たい視線を感じながら。
 俺たちは本当に幼馴染であるような。そんな気がした。
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