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侵略者

城下町にて

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 やっと奴らの尻尾を掴んだ。
 術式の痕跡を残さずに、異能の力を使う奴らの尻尾を。
 僕は路地裏に逃げる人影を追う。
 角を曲がり、再び大通りに出る。
 地面の煉瓦を蹴り上げて、正体不明の存在に向けて神器を向けたとき。
「助けて下さいアネキー。」
 赤黒い煉瓦の屋根に腕を組んで仁王だちする人影が一つ。
 半袖の白いシャツ、ジャージは肩にかかっているだけで、腕を通していない。
 短髪だが胸に膨らみがある。
「女? 」
 風でジャージがたなびく。
「よっと。」
 彼女はジャージを放り投げると、屋根から飛び降りた。
 そして僕の数メートル先に落下すると、
"能力者か? "
 だが彼女の術式はまるで見えなかった。
 コレが無詠唱というやつか。
 いや、 
 遅れて彼女のジャージが何事も無かったかのように肩に収まる。
「私の部下たちを可愛がってくれたみたいじゃ無いか。テメェどこ中だ? 」
 で僕のことを知らない人間などいないはず。
 というのは買い被りすぎだろうか?
 僕は神器を鞘にしまうと、高らかに宣言した。
「僕はグランディル帝国、第二皇帝、カーミラ・ブレイク。殺人、強盗、死体損壊、問い詰めるべき罪はまだまだある。」
「チッ。」
 彼女は地面に唾を吐き捨てた。
「やなこと思い出しちまったよ。」
「テメェは風紀委員長か? っての。」
「権力に従うことしか出来ない犬の分際で私に指図しやがって。」
「ああ、その法とかいう奴もクソだよ。まるで自分達が正義あって、当然のように私たちの存在を否定してくる。」
 僕は深呼吸して答えた。
「君たちの権利を侵害するつもりはない。ただ、この世界の人々に危害を与えるのはやめてくれないか? 」
 彼女はその言葉を鼻で笑った。
「この世界じゃ力が全てだ。」
「……のはずなんだ。」
 僕は再び鞘から神器を抜いた。
「なら……悲しいけど、僕も暴力に訴えてざる負えない。」
「この意味が分かるよね。」
 彼女は自虐的な笑みを浮かべると、指を鳴らし始めた。
「へー。無個性な馬鹿どもよりは話が分かるじゃねえか。」
「ならこっちも容赦はいらねえよ……」
 勘だ。
 僕は勘で神器を構え、彼女の拳が来ることを悟った。
「な!! 」
 衝撃で上半身が浮き上がる。
 なんとかソレを堪えると、二本の脚で、ガッチリ衝撃を受け止めた。
 神聖魔具で未来を予測する。
 座標転移が出来ないことがもどかしい。
 彼女の攻撃は容赦なくやってくる。
 本気で僕を殺そうとしているのだ。
 ついにその均衡が崩れた。
「ハハハハハ、終わりだッ。私に説教するなんて、百年はええんだよ!! 」
「カーミラ!! 」
 セイだ。
 屋根から現れた彼女は飛び降りると、僕と同化し、同時に神器が光始める。
 コレでエクスカリバーの力が使える!!
 僕は風圧で彼女を吹き飛ばした。
 そして重力の檻に彼女を閉じ込めようとする。
---prison of gravityプリズン・オブ・グラビティ---
 この檻の中なら、立つことすらままならないはず。
「テメェは言葉が分かるから、手加減してやるつもりだったが……」
"嘘…だろ。"
 彼女はその檻の中で立ち上がると、
「ウリァァッ。」
 檻をぶち壊した。
 神器が効かない?
 神族すら下したこの剣を?
 術式も使わずに?
 彼女を見失う。
 右? 下? 上? 前?
 アングルを次々と切り替えて、彼女の場所を探す。
 そして正面に現れた彼女の踵を剣で受け止める。
【天眼流】
【弐の拳】
翡翠カワセミ
 剣の反動が全身にひびく。
「グアっ。」
 振動で脳が揺れた。
 意識を失いかける。
 が、ぐっと踏ん張った。
 衝撃で煉瓦にクレーターが出来ている。
 とんでも無い威力だ。
 バックステップで下がると、剣に力を込めた。
 今度は手加減せず、殺しに行くつもりで能力解放をする。
 恐れからか、無意識に剣を強く握っていた。
---absolute solアブソルート・ソル---
 黄金から母なる太陽エネルギーが放出される。
【参の拳】
風車カザグルマ
 彼女はあろうことか、その膨大なエネルギを拳で受け止めた。
 術式は謎の力に散らされ、消え去る。
 彼女が僕との距離を一気に詰めてくる。
"引きつけて戦うか。"
 僕の固有神聖魔術は、未来に可能性がアレばあるほど、未来が霞んでしまう。
 だが、接近戦に持ち込まれている今でも、僕の周りには、数十人の彼女の影があった。
"これじゃ手数が足りない。"
---セパレーター---
 エクスカリバーが五つに分裂する。
---Gravity Timezグラビティ・タイムズ---
 世界が引き伸ばされる。
 相対性理論を味方につけて、やっと僕は彼女と同じ場所に立つことが出来た。
 彼女の攻撃に対して、代わる代わる剣を手に取ると、その剣で応戦する。
 そして、手数で彼女を追い詰めていった。
---sword of prisonブレイブ・ダンス---
 五本の剣がほぼ同時に複数の斬撃を放つ。
 回避不能の対象の周り360度から斬撃を放つ大技。
 剣を振り払い、後ろを振り返ると……
 そこに彼女はいなかった。
 熱くなって彼女のことに集中していたが、どうやら彼女の狙いは、部下が安全なところに逃げるまで、僕を引きつけておくことだったらしい。
「やられた。」
 僕はセイにお願いした。
「ごめん、セイ、今すぐ首脳会談を開きたい。アイシャにその旨を報告してくれ。」
「うん、私も今思った。コレはグランディルじゃなくて世界の危機だわ。」
「他の地域でも同じようなことが起きているはず。」
 僕は元に戻った剣を杖代わりにして立ち上がると、城に急いだ。
 


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