上 下
101 / 145
侵略者

再会

しおりを挟む
 俺が黒澄に引っ張られ連れて行かれた場所は、もちろん極長室である。
 そこで坂上は俺たちが入ってくることに気がつくや否や、黒澄に「ご苦労。」と一言だけ言った。
「はい、極長、連れてきましたよ。」
「それじゃあ本題に入ろうか。」
「まて。」
 俺は彼の言葉を遮った。
「アンタは俺が殺した坂上か? 」
 「全部私だよ。坂上。」
「それじゃあ改めて始めるね。」
 何事もなかったかのように話が始まる。
 俺はそこで話を続けるのを諦めた。
 クローンの件、父が生きていた件、極東が人工的に呪具を開発し、牡丹などを実験台にしていた件、彼に聞きたいことは色々あったが。
「極東、メリゴ大陸支部から報告があった。どうやらそこでグランディル人の不審死が見つかったらしい。」
 不審死、俺は引っかかるものがあって、思わず問い返してしまった。
「極東じゃ、最近は魔力探知機ってのが開発されて、能力者による殺人なら、その能力が、どの系統のものかぐらいは分かるんだろ? 」
 この世界から呪術は消えた。
 ならば、その能力というものは、グランディルの神聖魔術か、セルの悪魔術、極東の未知術ぐらいである。
「なぜ、豚箱に入っていた君がソレを知っているかは置いておいて、まぁ。そうなんだ。魔力探知機が機能していない。つまり、異能の力ではないことが分かったんだよ。」
「死因は? 大まかには分かっているんだろう? 」
 どうやら極長はお手上げのようである。
「それがねぇ。」
 彼が俺に映し絵を見せた。
「なんだこれは!! 」
 まず目に入ったのは、あべこべに捩じ込まれた黄金だ。
 その上に首が乗っていることに気がつき、その黄金は、恐らく首の身体を模して作られたものか、あるいは……
「首斬り以蔵か? 晒し首? いや、違うな。コレは快楽殺人鬼の類だろ。あまりにも…… 」
「凝った装飾だろ。ソレに晒し首じゃないよコレ。黄金の体も併せて、このあべこべに曲がった身体の部分も併せて全部死体なんだ。」
 少しの間、俺は彼の言っている言葉の意味が理解できなかった。
「接着剤でくっつけたって言うのは? 」
「3D放射線レンズで検死したところ、身体は神経単位で繋がっていてね。もっと驚くところが、内臓や排泄物まで全部黄金に変えられていたところなんだよ。」
 黒澄が我慢出来ずに吐きそうになっていたところで俺が止めた。
「もういい、大体分かったからな。」
 ションもない案件なら牢屋で寝とくべきだったが、気が変わった。
「とりあえず、メリゴ大陸に行けば良いんだろ? 」
「お? やる気になってくれたかな? 」
「今回の件ね。他の契約者に頼もうと思ったんだけど、彼らも執務で忙しくてね、とても現場に赴けるほどでは無いんだよ。」
 それはグランディルも同じだろう。
 だから暇人の俺が選ばれた訳だ。
「働ける人間を養っておくほどの余裕は無いって訳だ。」
「魔具は? 」
 銃鬼も鬼影もいなくなってしまった。
 今の俺は一般人にも等しい。
 その未知の力に対抗するためには、それ相応の力が必要だった。
「まぁまぁ、久しぶりの再会だ。積もる話もあるだろうしさ。」
「明日、またここに来るといい。明日までは自由時間。はい、解散。」
 出来れば夜に出発したかった。
 昼に出発すれば、向こうではまた夜に活動することになる。
 また俺の体内時計が狂うのだ。
 そこで俺は黒澄に連れられた。
 彼女のサラサラした黒髪がたなびく。
 俺は彼女に聞きたいことが沢山あった。
 ちょうどいい機会だったと思う。
 が、先に質問してきたのは彼女だ。
「どうして、いなくなっちゃったの? 」
「極東が信用できなくなったからだ。」
「慎二のお父さん、培養液に入れられていて、もうすぐ回復するって。」
「……しぶとい奴だ。」
 今度は俺が質問した。
「家には戻れたんだな。」
 彼女は父親に権力闘争を危惧されて、ここにぶち込まれた。
 が、今は彼女が家の家紋をつけていることを俺は見逃さず、すかさず聞いてしまう。
「ええ、次期当主には妹よりも私の方がふさわしいってことが証明されたらしいから。」
「勝手な奴らだ。」
「でも、良かったじゃねえか。認めて貰えたんだろ? 家の人間に。」
 彼女は首を振った。
「うんうん、なんだか面倒臭いことばかり、周りの人たちは他所他所しくなるし、職務は忙しいし。その……お……」
「お、それより家の仕事をほったらかして、こんなところウロウロしてて良いのかよ。」
「…ほったらかしてきた。」
「は? 」
「全部妹に任して極東まで帰ってきちゃいました。」
「あのなぁ。」
 俺がため息をつくと、彼女が少しだけ不機嫌になる。
 俺は『また拳が飛んでくるのでは』と思い、身構えた。
 しかし、彼女から返ってきたのは、少女のような笑顔だった。
「私が極東を案内してあげる。」
 光が漏れる繁華街の方を指差す。
「腹が減った。美味い店は……」
「もう、食べることばっかり!! 」
 俺たちは朱雀門を抜けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

夫婦喧嘩で最強モード!

長谷川凸蔵
ファンタジー
 片田舎の村の、そのまたさらに山奥で、最強の剣士である父と、最強の魔術師である母と狩猟採集の生活をしながら、週に一日だけ学校に通うリック。  狂気とも言える環境に身を置き、世界最高峰の力を容赦なく繰り出す両親に対抗していくうちに、リックは類い稀なる体力、魔力、そして特殊なマジックアイテムの作成能力と、気が付けば世界でもトップクラスの実力を身に付けていた。  村の学校の卒業も迫ったある日、幼馴染みの女の子が留学のために帝国の首都へと旅立つことに。  卒業後にこれといった予定もなかったリックは、護衛として同行を買って出て、兼ねてから興味のあった帝都へと旅に出る。  道中多少のトラブルを経て帝都に着いたリック達。そこには懐かしい出会い、新たな友人、自らの出生の秘密、そして激しい戦いが待っていた!    これは世界の在り方を正しく「解析」するものほど、その力を行使できる世界「フラスコ大陸」で、誰よりもその能力を高めた男の物語。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

Hey, My Butler !

上杉 裕泉 (Yusen Uesugi)
SF
日々の業務に疲れた社会人 義堂みずきは遂に待ちに待った最新美容機械「あなただけの執事」を購入する。特殊な装置を首に巻き自分の身体の発する声に少しずつ耳を傾け始めるみずき。ともに生活をする中で彼女と「彼女だけの執事」の関係は少しずつ変化していく。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...