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侵略者
英雄の末路
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ポツン
ポツン
ポツン
湿っぽい場所だ。
ポツン
ポツン
ポツン
俺が今ここに居るのは。
ポツン
ポツン
ポツン
俺が罪人だからだ。
あの後俺は、地上に降り立ち、エクスカリバーをカーミラに返すと、彼にお願いして、そのまま極東まで「強制送還。」という名目で送ってもらった。
草薙剣の能力を使えば、そんなことは容易かったであろう。
俺がそうしなかったのは、単にそういう気力が俺には残っていなかったからだ。
帰ると、みんながいた。
能力を取られた契約者たちも、今は意識を回復させ、問題なく能力を発現させているらしい。
兵士は指名手配犯の俺を見つけるや否や、俺を拘束し、俺から草薙剣を取り上げた。
まぁ元々これは坂上に渡すつもりだったし、手間が省けたわけだが。
こうして今は、惨めにも豚箱にぶち込まれているというわけだ。
俺は極刑が確定していた。
しかし、美奈たちが手を回してくるたお陰か、俺は今もこうして生きながらえている。
世界はいつも通り回っている。
変わったことなどひとつもなかった。
「本当にこれで良かったのか? 」
返事はない。
銃鬼はもう動かない。
話さない。
呪術を発動することは出来ない。
それは全ての呪術使いが同じだった。
カーミラはセイの力無しでは代行者の力を扱うことが出来なくなったそうだし、ミーチャは分身ができなくなったし、亜星には声が戻った。
一方で、伊桜里は心臓が止まることは無かったし、俺もこの通り生きている。
そして牡丹はというと……いなりが生えてきたらしい。
そして梓帆手はいなくなった。
呪具や亜人だけではない。
ローランド大陸の瘴気が消え去った。
今は低木一本すら生えていないが、いずれ、大地には草木が生い茂ることであろう。
アレから一年が経った。
俺は髭が生えるようになったし、身長も少し伸びた。
そしてなによりも、筋肉のツキが良くなったみたいだ。
これも日々の労働のせいだろう。
「ピピー。」
看守の笛と共に、受刑者たちは一斉に外へと出る。
この前はこっそりいないふりをしてやり過ごそうと思っていた。
が、看守に見つかってしまったため、渋々、刑務所のグラウンドに出る。
賄賂も試みてみた。
ミシマッシュ自体に持っていた外貨が少しだけあったからだ。
が、看守からはまるで相手にされなかった。
極東の金でも反応は同じ。
前からイカツイ兄ちゃんがドリブルで走ってくる。
俺はソレをスルーした。
「六百六十六番、走れ、そんなんじゃボールを取れないぞ。」
"体育の授業じゃねえんだぞ。"
どうやらこれは看守たちの見せ物になっているらしい。
賭博も無し、娯楽も無しのこの世界で、唯一楽しめるのが、俺たちのドロンコ遊びというわけだ。
「ったくよ。賭博するわけでもねえくせに、どうしたってあんなに熱くなれるんだ? 」
グランドの中の人間も、外の人間も、白熱していた。
俺だけが取り残されている。
当然だ。
俺にもう使命はない。
桐生慎二の、この世界での役目はもう終わった。
一生をこの豚箱で過ごすことになるであろう。
だが、コイツらは違った。
軽犯罪者のみが集められているので、重いのもでも三年。
明らかに、坂上の俺に対する嫌がらせだ。
「終わり、点呼を取るぞ。並べ。番号を言え。」
「六百六十六番…行ってよし。」
俺は再び湿った牢の中に押し込まれた。
・
・
・
「起きろ六百六十六番。」
「んだ。仕事まではまだ時間があるでしょ。寝かせて下さいよ。」
「起きろ!! 黒澄様がお呼びだ。」
"黒澄? アイツ一等兵だっただろ? 『様』だなんて。"
というか契約者は全員二等兵止まりだ。
俺も例外ではなかった。
「ペシン。」
俺の頬に衝撃が走る。
「ペシン。」
二回目の攻撃で俺の意識は覚醒した。
「おーい。しんでんのか? 」
「生きている。」
俺は彼女を見た。
かつての面影を残した、まだ幼さの残る女性。
そして胸が少し膨らんでいる。
「見んなバカ。」
俺の頭に小手が飛ぶ。
「任務よ。」
短い一言。
だがこれで全て理解した。
俺は仕事でまたシャバに放り出される。
「もう、女に振り回されるのはごめんだ。他所を当たってくれ。」
彼女は険悪になった。
「へー誰かしらソレは。」
コイツは時々、訳の分からないことで不機嫌になる。
「悪かったな言い方が悪くてよ。もう疲れた。明日も早えんだ。寝かせてくれ。」
俺はウジムシだらけの掛け布団をかぶろうとした。
「コラって寝るな!! 」
俺はもう一度殴られると、舎房衣の奥襟を掴まれ、そのまま引きずり出される。
「痛い痛い。喉閉まってるから。死んしまう。本当に今度こそ。」
俺の悲鳴が、牢全体に響き渡った。
ポツン
ポツン
湿っぽい場所だ。
ポツン
ポツン
ポツン
俺が今ここに居るのは。
ポツン
ポツン
ポツン
俺が罪人だからだ。
あの後俺は、地上に降り立ち、エクスカリバーをカーミラに返すと、彼にお願いして、そのまま極東まで「強制送還。」という名目で送ってもらった。
草薙剣の能力を使えば、そんなことは容易かったであろう。
俺がそうしなかったのは、単にそういう気力が俺には残っていなかったからだ。
帰ると、みんながいた。
能力を取られた契約者たちも、今は意識を回復させ、問題なく能力を発現させているらしい。
兵士は指名手配犯の俺を見つけるや否や、俺を拘束し、俺から草薙剣を取り上げた。
まぁ元々これは坂上に渡すつもりだったし、手間が省けたわけだが。
こうして今は、惨めにも豚箱にぶち込まれているというわけだ。
俺は極刑が確定していた。
しかし、美奈たちが手を回してくるたお陰か、俺は今もこうして生きながらえている。
世界はいつも通り回っている。
変わったことなどひとつもなかった。
「本当にこれで良かったのか? 」
返事はない。
銃鬼はもう動かない。
話さない。
呪術を発動することは出来ない。
それは全ての呪術使いが同じだった。
カーミラはセイの力無しでは代行者の力を扱うことが出来なくなったそうだし、ミーチャは分身ができなくなったし、亜星には声が戻った。
一方で、伊桜里は心臓が止まることは無かったし、俺もこの通り生きている。
そして牡丹はというと……いなりが生えてきたらしい。
そして梓帆手はいなくなった。
呪具や亜人だけではない。
ローランド大陸の瘴気が消え去った。
今は低木一本すら生えていないが、いずれ、大地には草木が生い茂ることであろう。
アレから一年が経った。
俺は髭が生えるようになったし、身長も少し伸びた。
そしてなによりも、筋肉のツキが良くなったみたいだ。
これも日々の労働のせいだろう。
「ピピー。」
看守の笛と共に、受刑者たちは一斉に外へと出る。
この前はこっそりいないふりをしてやり過ごそうと思っていた。
が、看守に見つかってしまったため、渋々、刑務所のグラウンドに出る。
賄賂も試みてみた。
ミシマッシュ自体に持っていた外貨が少しだけあったからだ。
が、看守からはまるで相手にされなかった。
極東の金でも反応は同じ。
前からイカツイ兄ちゃんがドリブルで走ってくる。
俺はソレをスルーした。
「六百六十六番、走れ、そんなんじゃボールを取れないぞ。」
"体育の授業じゃねえんだぞ。"
どうやらこれは看守たちの見せ物になっているらしい。
賭博も無し、娯楽も無しのこの世界で、唯一楽しめるのが、俺たちのドロンコ遊びというわけだ。
「ったくよ。賭博するわけでもねえくせに、どうしたってあんなに熱くなれるんだ? 」
グランドの中の人間も、外の人間も、白熱していた。
俺だけが取り残されている。
当然だ。
俺にもう使命はない。
桐生慎二の、この世界での役目はもう終わった。
一生をこの豚箱で過ごすことになるであろう。
だが、コイツらは違った。
軽犯罪者のみが集められているので、重いのもでも三年。
明らかに、坂上の俺に対する嫌がらせだ。
「終わり、点呼を取るぞ。並べ。番号を言え。」
「六百六十六番…行ってよし。」
俺は再び湿った牢の中に押し込まれた。
・
・
・
「起きろ六百六十六番。」
「んだ。仕事まではまだ時間があるでしょ。寝かせて下さいよ。」
「起きろ!! 黒澄様がお呼びだ。」
"黒澄? アイツ一等兵だっただろ? 『様』だなんて。"
というか契約者は全員二等兵止まりだ。
俺も例外ではなかった。
「ペシン。」
俺の頬に衝撃が走る。
「ペシン。」
二回目の攻撃で俺の意識は覚醒した。
「おーい。しんでんのか? 」
「生きている。」
俺は彼女を見た。
かつての面影を残した、まだ幼さの残る女性。
そして胸が少し膨らんでいる。
「見んなバカ。」
俺の頭に小手が飛ぶ。
「任務よ。」
短い一言。
だがこれで全て理解した。
俺は仕事でまたシャバに放り出される。
「もう、女に振り回されるのはごめんだ。他所を当たってくれ。」
彼女は険悪になった。
「へー誰かしらソレは。」
コイツは時々、訳の分からないことで不機嫌になる。
「悪かったな言い方が悪くてよ。もう疲れた。明日も早えんだ。寝かせてくれ。」
俺はウジムシだらけの掛け布団をかぶろうとした。
「コラって寝るな!! 」
俺はもう一度殴られると、舎房衣の奥襟を掴まれ、そのまま引きずり出される。
「痛い痛い。喉閉まってるから。死んしまう。本当に今度こそ。」
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