上 下
92 / 145
転界を目指す者たち

変わっちまったな お前は

しおりを挟む
 溢れんばかりの光が衝突し、そのエネルギーは周囲のあらゆる建造物を飲み込んだ。
 極東の一般人は全員避難しているはずなので、ここに埋まっているのは契約者ばかりだろう?
 たぶん。
 数メートル先に、神格化を解かれたハムサの器がある。
 器はもう人格を食われたから、そうではないか。
 分からない。
 だが、どっちにしろだ。
 あの光を受けて、生身の人間が生きていられるはずがない。
 たとえ五体満足で存在してようと。
 俺はまた人を殺した。
 殺して、殺して、殺し回って。
 だが、俺にどんな天罰が降り掛かろうとそれは問題ではない。
 俺にそれを拒む権利なんて無いだろう。
「おい、待てよ!! 」
 瓦礫の下から、一人の青年が出てくる。
 間違いない。
 俺の腐れ縁坂田槍馬だ。
「なんの真似だ。」
 彼が俺の目の前に立ち塞がる。
「お前を止めにきた。」
「辞めておけ。今のお前じゃ俺には勝てない。」
 そういうと、槍馬は高笑いを始めた。
「ハハハハハ、『今のお前じゃ俺には勝てない。」って。」
 それから彼は哀れみのこもった目で俺を見た。
「お前、随分見ないうちに、面白くない奴になっちまったな。」
 俺は彼を押し退けた。
「言いたいことはそれだけか? 行くぞ。俺は転界に行かなくてはならない。」
 世界が反転する。
 能力では無かった。
 単に俺が投げ飛ばされただけだ。
「行かせねえよ。」
「邪魔をするのなら、お前といえども容赦はしないぞ。」
 彼は投げ飛ばされた俺を見て笑った。
「お前が俺と? やり合おうってのか? 俺に喧嘩で一度も勝ったことの無いお前が? 」
「生身の人間如きに本気を出すほど俺も馬鹿じゃ無い。負けてやっていたのさ。」
 拳が飛んでくる。
 軽かった。
 彼は本気で俺を殴ったんだと思う。
 昔の俺なら怯んでいた。
 俺は変わってしまった。
 痛みに慣れてしまったばかりに、人の痛みを忘れてしまったのかもしれない。
 だから平然と人を殺せるのだ。
 いや、その表現は語弊があるのかもしれない。
 元々俺に人の心なんて無かった。
 たとえ消滅したとしても死ぬことは無かった。
 腕をもがれても首を飛ばされても、脚を斬り飛ばされても、俺が死ぬことは無かった。
 最初から俺には人の痛みを理解する心すら無かったのかもしれない。
「おい、なんとか言ったらどうなんだ!! 」
 槍馬は何かを言っていた。
 だがなんて言っているかは聞いていなかった。
「なんで無視するんだよ。なんで勝手にいなくなるんだよ。俺はお前を救おうと思っていた。言っただろ? 美奈がお前を恩赦させようとしてくれていたんだ。後、もう少し我慢してくれてい___」
「俺のことは忘れろ。ありがとう。感謝している。幼い頃から、弱い俺を助けてくれたのはお前だ。そして今も。今までもずっと。俺のことを考えてくれて。」
「だけどな。もう俺に縛られる必要もない。」
 槍馬に胸ぐらを掴まれた。
「おい、なんだよそれ。」
「離せ。俺に構うな!! 」
「最初に……最初に俺を救ってくれたのはお前だろうが慎二!! 」
「得美士に村を襲われた時、お前が村を救った。」
「アレは鬼影が勝手にやったことだ。俺は関係ない。」
「違う。お前は、俺たちを救ってくれた。そう、俺だけじゃない。村のみんなを。」
 俺は諦めて彼を振り払うと、バックドア向けて歩き出した。
「どうやら、言葉じゃお前を止められないみたいだな。」
 彼がこちらに走ってくる。
 俺は振り返ると、彼にボディーブローをかました。
「ウッ。」
 彼は気絶し、俺に倒れかかってくる。
 俺はそれを担ぎ上げると、瓦礫や、ガラスなどを掻き分け、そこに彼を寝かせる。
「慎二ッ!! 」 
 黒澄の声だ。
 俺の心が揺れる。
「なんだ、生きていたのか。もう死んだかと思ったぞ。」
 それを押し退けて、鏡子が顔を出す。
「斥は? まだアイツは生きているか? 」
 俺は大声で手を振りかえす。
「安心しろ。ビンビンしてるからよ。ちょっくら行ってくるわ。」
 黒澄はドシドシ歩いてくると、俺にビンタした。
「どいつもコイツも、俺を殴りたがるな? サディストしかいねえのか、ここには。」
「当たり前でしょ。」
「ねえ、全部終わったら帰ってきて。絶対。」
「それ、絶対死んじゃう流れでしょ。」
「馬鹿。」
 もう一発殴られた。
「分かったよ。全部終わったら帰ってくる。絶対にな。」
 俺は嘘をついた。
 もう極東に帰ることはないだろう。
 全部終わったら、この剣をグランディルに返す。
 そこで処刑されて俺の生涯は終わりだ。
 バックドアの前で、斥が立っていた。
「どうした? 挨拶しなくて良いのか? 」
「ああ、それより!! 」
「伊桜里たちを早く援護しないと。」
「そうだ。ひとまずクーデターを抑えないと。」
「全部終わった後は残党狩りで、警備が厳しくなる。」
「優勢なのはどっちだ? 」
「ミーチャたちが援護してくれているから、なんとかグランディル側が均整を保ている。けどいつまで続くか。」
「お前もミーチャか。」
「み、みんながそう呼ぶからよ。」
「行くぞ。」
 俺は動揺する彼を引き連れて、グランディル帝国につながる根へと向かった。
 

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

さようなら竜生、こんにちは人生

永島ひろあき
ファンタジー
 最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。  竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。  竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。  辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。  かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。 ※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。  このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。 ※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。 ※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

お兄ちゃんのいない宇宙には住めません!~男装ブラコン少女の宇宙冒険記~

黴男
SF
お兄ちゃんの事が大・大・大好きな少女、黒川流歌’(くろかわるか)は、ある日突然、自分のやっていたゲームの船と共に見知らぬ宇宙へ放り出されてしまう! だけど大丈夫!船はお兄ちゃんがくれた最強の船、「アドアステラ」! 『苦難を乗り越え星々へ』の名の通り、お兄ちゃんがくれた船を守って、必ずお兄ちゃんに会って見せるんだから! 最強無敵のお兄ちゃんに会うために、流歌はカルと名を変えて、お兄ちゃんの脳内エミュレーターを起動する。 そんなブラコン男装少女が、異世界宇宙を舞う物語! ※小説家になろう/カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

彷徨う屍

半道海豚
ホラー
春休みは、まもなく終わり。関東の桜は散ったが、東北はいまが盛り。気候変動の中で、いろいろな疫病が人々を苦しめている。それでも、日々の生活はいつもと同じだった。その瞬間までは。4人の高校生は旅先で、ゾンビと遭遇してしまう。周囲の人々が逃げ惑う。4人の高校生はホテルから逃げ出し、人気のない山中に向かうことにしたのだが……。

アシュターからの伝言

あーす。
SF
プレアデス星人アシュターに依頼を受けたアースルーリンドの面々が、地球に降り立つお話。 なんだけど、まだ出せない情報が含まれてるためと、パーラーにこっそり、メモ投稿してたのにパーラーが使えないので、それまで現実レベルで、聞いたり見たりした事のメモを書いています。 テレパシー、ビジョン等、現実に即した事柄を書き留め、どこまで合ってるかの検証となります。 その他、王様の耳はロバの耳。 そこらで言えない事をこっそりと。 あくまで小説枠なのに、検閲が入るとか理解不能。 なので届くべき人に届けばそれでいいお話。 にして置きます。 分かる人には分かる。 響く人には響く。 何かの気づきになれば幸いです。

処理中です...