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拾弍ノ劔
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ユグドラシルの上で何かが光るのを見た。
急いで螺旋階段を登る、
登って
登って
登って
いつもより階段が長い気がする。
時空壊を使っていないからか。
早く
早く
早く着いてくれ!!
手遅れになる前に……
俺は屋上のドアを吹き飛ばした。
みんなは……
無事のようだ。
だが、
斥は泣いていた。
伊桜里も泣いていた。
良かった、無事再開できたんだな。
「慎二ぃ!! お前のオヤジが、オヤジがッ。」
「何?と、オヤジがどうした。」
「ミシマッシュのみんなを守るために七宝隊長と…… 」
何か複雑な気持ちになった。
「そうか……」
こういう時はなんて返せば良いのか分からない。
ドミートリィがコチラに走って来る。
腕にアイスグリーンの剣を抱えて。
「アウラ……なぜ!! 」
「へへ、闇の剣をくすまれた仕返しだ。分身して、後ろからそーっとな。」
俺は驚愕した。
みんなも驚愕していた。
そこへ亜星がやって来る。
「慎二ッ。」
「俺は無事だ。」
彼女にアルテマを見せる。
「カーミラに勝ったのね。」
「ああ、なんとかな。」
俺はアルテマとアウラをアルブさんに渡すと、振り返る。
「どこ行くの? 」
亜星が俺を引き止める。
「風呂だ。連戦で疲れた。もう身体が動かねえ。時空壊も使えねえ。」
「そう……」
俺は足を引きずり、伸ばした腱がぶちぶち鳴るのを聴きながら、なんとか浴場へと来た。
そして、ボロボロになった黒ローブを脱ぐと、風呂場へと飛び込む。
速攻湯船に浸かりたいのだが、それをすると大変なことになるし、その気持ちを抑えて、鏡の前に座ると、蛇口をひねる。
「シャー」
暖かいスコールが全身を祝福した。
ああ、シャワーよ永遠なれ。
石鹸を使い、頭肌とツノを洗う。
---オイ慎二!! ---
「どうした鬼影? 仇を殺せなかったのが、そんなに惜しかったのか。」
---んなわけねえだろ。お前との制約、忘れたのか? ---
「そうだったな。まぁそれもそうだけど、正直な話だよ。腹の内。」
「俺はお前でお前は俺。ならさ、ちょっと申し訳ないことをしちゃったんじゃないかって思ってな。」
---ヘッ死にかけの仇なんぞ殺してもなんの得にもならんさ---
---でよう、お前は父のことをどう思ったんだ? ---
「分からないんだ。よく。」
「それに斥たちになんて声を掛ければ良いかも。」
---良かったじゃねえか。お前の父が保身のクズ野郎じゃなくなってさ---
「そうだよな。」
---どうした慎二? ---
「俺はずっと父が全てを救おうとしたから失敗したんだと思ってた。」
「でもそうじゃなかった。俺の父親は誰かを守るために自分が犠牲になっていた。」
「改めて訊くぞ。正しさとはなんなんだ。」
---鬼の俺に聞くな---
---自分を見失うんじゃねえぞ---
---お前は賛美されるために神を殺すんじゃないんだろう? ---
---決めただろう? どんな結末が待っていようとも後悔しないって---
「ああ。」
---心配するな。お前が神を殺したせいで、世界が悪い方向に進んだとしても、その賞賛は全部俺が貰ってやるからよ。鬼神の俺様がなぁ---
「それは困る。」
「俺もお前の共犯者だ。」
---けっ、食えねえ奴だぜ。手柄を全部独り占めする気でいやんの---
「ガラガラ。」
脱衣所のドアが開いた音だ。
---誰か来たぞ---
入ってきたのは斥だった。
「よお慎二……やっぱりお前の鬼もそこにいるんだな。」
「盗み聞きかよ。あまり感心しねえな。」
「聞こえただけだ。聞き耳は立てていない。」
斥の口角が緩む。
「どうだ? 極東のみんなは元気か? 」
「相変わらずだよ。馬田さんがポーカーでイカサマをしたり、麻川と槍馬がフードファイトしていたりな。」
「そうか……元気そうで良かったよ。」
彼は怒った。
「オイオイ、もっと残念そうにしろよな。」
「みんなお前を心配しているぞ。」
俺は思わず聞いてしまった。
「…七宝もか? 」
斥の眉が少しだけ動いた。
俺はそれを身逃さなかった。
「隊長は完璧すぎるんだ。」
俺も見た。アジトにいた時、感情のない冷たい機械のような彼を。
「隊長自身もきっとそういう自分に苦しめられている。」
「泣いていたんだ。慎二郎さんと戦う時。」
人間は完璧に出来ていれば、出来ているほど、精神が壊れてしまう。
彼もその一人なのだろう。
人を躊躇なく殺せるということは、人の心が無いことの裏返しなのだから。
いや、その表現は良くないな。
人の心を有していれば有しているほど、簡単に引き金を引ける自分を責めてしまうものだ。
「ふん、クローン人間にも人の心があるってわけか。少し見直したぜ。」
「隊長も鬼のお前だけには言われたくないと思うぞ。」
「っせえな。」
「黒澄、お前のことを心配していたぞ。」
「やめろよ。ホームシックになったらどうするんだ? 」
「おっ? てっきり痩せ我慢やら、またアイツの悪口を言うのかと思ったぜ。こりゃ相当まいっちまってるな。」
「チッ、しばらく見ないうちにめんどくせえ野郎になってらぁ。」
「そりゃお互い様だろお前。」
それから、お互い、疎遠になっていた間に起きた出来事を話した。
槍馬はどうしているだろうか?
美奈はうまくやれているだろうか?
それが心配になった。
俺は元気にやってるぞ。
急いで螺旋階段を登る、
登って
登って
登って
いつもより階段が長い気がする。
時空壊を使っていないからか。
早く
早く
早く着いてくれ!!
手遅れになる前に……
俺は屋上のドアを吹き飛ばした。
みんなは……
無事のようだ。
だが、
斥は泣いていた。
伊桜里も泣いていた。
良かった、無事再開できたんだな。
「慎二ぃ!! お前のオヤジが、オヤジがッ。」
「何?と、オヤジがどうした。」
「ミシマッシュのみんなを守るために七宝隊長と…… 」
何か複雑な気持ちになった。
「そうか……」
こういう時はなんて返せば良いのか分からない。
ドミートリィがコチラに走って来る。
腕にアイスグリーンの剣を抱えて。
「アウラ……なぜ!! 」
「へへ、闇の剣をくすまれた仕返しだ。分身して、後ろからそーっとな。」
俺は驚愕した。
みんなも驚愕していた。
そこへ亜星がやって来る。
「慎二ッ。」
「俺は無事だ。」
彼女にアルテマを見せる。
「カーミラに勝ったのね。」
「ああ、なんとかな。」
俺はアルテマとアウラをアルブさんに渡すと、振り返る。
「どこ行くの? 」
亜星が俺を引き止める。
「風呂だ。連戦で疲れた。もう身体が動かねえ。時空壊も使えねえ。」
「そう……」
俺は足を引きずり、伸ばした腱がぶちぶち鳴るのを聴きながら、なんとか浴場へと来た。
そして、ボロボロになった黒ローブを脱ぐと、風呂場へと飛び込む。
速攻湯船に浸かりたいのだが、それをすると大変なことになるし、その気持ちを抑えて、鏡の前に座ると、蛇口をひねる。
「シャー」
暖かいスコールが全身を祝福した。
ああ、シャワーよ永遠なれ。
石鹸を使い、頭肌とツノを洗う。
---オイ慎二!! ---
「どうした鬼影? 仇を殺せなかったのが、そんなに惜しかったのか。」
---んなわけねえだろ。お前との制約、忘れたのか? ---
「そうだったな。まぁそれもそうだけど、正直な話だよ。腹の内。」
「俺はお前でお前は俺。ならさ、ちょっと申し訳ないことをしちゃったんじゃないかって思ってな。」
---ヘッ死にかけの仇なんぞ殺してもなんの得にもならんさ---
---でよう、お前は父のことをどう思ったんだ? ---
「分からないんだ。よく。」
「それに斥たちになんて声を掛ければ良いかも。」
---良かったじゃねえか。お前の父が保身のクズ野郎じゃなくなってさ---
「そうだよな。」
---どうした慎二? ---
「俺はずっと父が全てを救おうとしたから失敗したんだと思ってた。」
「でもそうじゃなかった。俺の父親は誰かを守るために自分が犠牲になっていた。」
「改めて訊くぞ。正しさとはなんなんだ。」
---鬼の俺に聞くな---
---自分を見失うんじゃねえぞ---
---お前は賛美されるために神を殺すんじゃないんだろう? ---
---決めただろう? どんな結末が待っていようとも後悔しないって---
「ああ。」
---心配するな。お前が神を殺したせいで、世界が悪い方向に進んだとしても、その賞賛は全部俺が貰ってやるからよ。鬼神の俺様がなぁ---
「それは困る。」
「俺もお前の共犯者だ。」
---けっ、食えねえ奴だぜ。手柄を全部独り占めする気でいやんの---
「ガラガラ。」
脱衣所のドアが開いた音だ。
---誰か来たぞ---
入ってきたのは斥だった。
「よお慎二……やっぱりお前の鬼もそこにいるんだな。」
「盗み聞きかよ。あまり感心しねえな。」
「聞こえただけだ。聞き耳は立てていない。」
斥の口角が緩む。
「どうだ? 極東のみんなは元気か? 」
「相変わらずだよ。馬田さんがポーカーでイカサマをしたり、麻川と槍馬がフードファイトしていたりな。」
「そうか……元気そうで良かったよ。」
彼は怒った。
「オイオイ、もっと残念そうにしろよな。」
「みんなお前を心配しているぞ。」
俺は思わず聞いてしまった。
「…七宝もか? 」
斥の眉が少しだけ動いた。
俺はそれを身逃さなかった。
「隊長は完璧すぎるんだ。」
俺も見た。アジトにいた時、感情のない冷たい機械のような彼を。
「隊長自身もきっとそういう自分に苦しめられている。」
「泣いていたんだ。慎二郎さんと戦う時。」
人間は完璧に出来ていれば、出来ているほど、精神が壊れてしまう。
彼もその一人なのだろう。
人を躊躇なく殺せるということは、人の心が無いことの裏返しなのだから。
いや、その表現は良くないな。
人の心を有していれば有しているほど、簡単に引き金を引ける自分を責めてしまうものだ。
「ふん、クローン人間にも人の心があるってわけか。少し見直したぜ。」
「隊長も鬼のお前だけには言われたくないと思うぞ。」
「っせえな。」
「黒澄、お前のことを心配していたぞ。」
「やめろよ。ホームシックになったらどうするんだ? 」
「おっ? てっきり痩せ我慢やら、またアイツの悪口を言うのかと思ったぜ。こりゃ相当まいっちまってるな。」
「チッ、しばらく見ないうちにめんどくせえ野郎になってらぁ。」
「そりゃお互い様だろお前。」
それから、お互い、疎遠になっていた間に起きた出来事を話した。
槍馬はどうしているだろうか?
美奈はうまくやれているだろうか?
それが心配になった。
俺は元気にやってるぞ。
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