上 下
82 / 145
拾弍ノ劔

舌の回る国王だ。

しおりを挟む
 俺は謝った。
「先に謝っておく。俺は仲間を助けるためにお前を傷つけねばならない。」
 なぜ謝ったか。
 それは誰かを守るためには誰かを傷つけてなければならない事を知ったからだ。
 なぜ誰かを傷つけねばならないか。
 それは自分にそれだけの力が無いからだ。
 俺は自分の能力を過信していた。
 慢心していた。
 だから失敗した。
 美鬼が死んだ。
 慎二はあんな風になってしまった。
 息子に悲しい思いをさせてしまった。
 だから決めた。
 俺は極東を取るために全てを切り捨てる。
 それが英雄のあるべき姿。
 目的のためにひたすら他者を傷つける存在。
 それが英雄だ。
---能力反転リバース---
 ハムサの身体から彼らの能力が元あるべきところに帰る。
 彼女は慌ててそれを掴もうとする。
「私の!! 私の能力たちが!! 」
「お前のじゃ無いだろう? それは俺が友人に託した物だ。」
「七宝刃……なるほど、あの時の娘さんか……お前、身体を喰ったな。」
「ふん人聞が悪いわね。アスィールとの契約よ。彼女の人格もちゃんとある。それが契約だからね。アイツとの。」
 俺は疾走し、彼女の喉笛に凛月を突きつける。
 首から血が垂れている。
 少しして、彼女はようやく身の危険を感じ取ったようで、「ヒッ。」という小さな悲鳴をあげた。
 そこに男の影がひとつ。
---雷刃ライジン---
 俺の魔具が反応し、喉仏に自身の刃が突きつけられる。
「お前、コイツとも契約していたのか。」
 魔具から焦る声が聞こえる。
---違うの慎二郎!! コレはね---
「もう良い。お前は鼻から信用していないからな。」
---慎二郎……---
「これはこれは英雄様。」
 アスィールが律儀に挨拶をする。
「失礼いたしました。別に極東を刺激するつもりは無かったのですが。」
 目に余る軍備拡張を行っておきながら……
「グランディル帝国は我がセル帝国と中立条約を結んでいたもので……それで、ちょっと釜をかけたくなってみた。それだけです。」
「貴方たちに危害を加える意図はありませんでした。」
「今ここで引き下がれというのか? 」
「ええ、英雄殿も、無益な争いはお好きでは無いでしょう? 」
「……ああ、分かった。」
「カーミラ殿下はお返しします。」
 そう言って彼は異空間からポットを取り出す。
 俺は急いでポットを開けた。
 中の人間が、首を押さえて息を吹き返す。
 おそらく真空状態で長時間監禁されていたと考えられる。
 セイという神族が慌ててこちらにやって来る。
「カーミラ!! 」
彼女は少年に抱きついた。
「ありがとうございます。あの……貴方は? 」
「俺は桐生慎二郎だ。それ以外に語ることはない。」
「君はブレイク家の末子だと聞く。どうだ? 長男のドミニク君は元気かね? 」
 彼は大変難しい顔をした。
 何か悪いことを言ったのかもしれない。
「兄は、台与鬼子に殺されました。それも、蘇生が不可能なぐらい徹底的に。」
"息子が? 我が息子がそんなことを。"
 なぜ。
 遠くで白のノロシが上がる。
 俺は考える間も無く、そこへ向けて走った。
 そこには、上半身と下半身を真っ二つにされた男の死体が。
 美奈ちゃんがこちらに走ってきて「ブレイブ兄さん。」と叫ぶと、時間遡行の魔法を使い、生き返らせる。
 彼は起き上がると、「一本取られましたなぁ。」
 と一言だけ放ち、腰の辺りを探った。
「どうやら私も彼に聖剣を奪われたようですね。」
 彼とは誰だ。
 そこにセイがやって来る。
「台与鬼子は私たちから聖剣を奪ってる回っているんです。」
「なんだって!! 」
 息子が何をしようとしているのか検討もつかなかった。
 だが、これは許される行為ではない。
 息子を信じたいと思う反面、正しく導いてやらねばという感情も湧き上がった。
 それよりも、奴はドミニクを……
 足跡が残っている。
 俺はその足跡を辿り疾走した。
 砂の海に、一つの人影が現れ始める。
 息子だった。
 満身創痍の体で彼は何かを目指していた。
 そして、何もない空間から扉を出現させる。
「待て!! 」
 動揺を隠すために強い口調になってしまう。
 槍馬もこちらまで走ってきた。
「慎二!! 俺はまだお前が何をしようとしているのか分からない。」
「だが、これだけは言える。お前は人の道を外れている。帰ってこい。極東に。」
 息子はゆっくり振り返った。
「今更父親ヅラかよ。それに、アンタも俺も人じゃないだろ。」
「なぜそれを……」
 隣で槍馬が叫んだ。
「慎二、なぜ、なぜ極東を出ていってしまったんだ? 」
 息子は振り返り、出現したドアをくぐろうとしている。
「なぜ? 元々アソコに俺の居場所なんて無かったじゃないか。」
「お前を助けるために美奈がどれだけ苦労をしていたと思っているんだ? 急に居なくなって。」
「……槍馬。ずっと嫌いだったよお前のそういうところが。」
 俺は息子を叱ろうとした。
 が槍馬がそれを制する。
「慎二ぃぃぃぃぃ。」
 彼は疾走すると、息子の服の袖を掴む。
 息子の服にはもう、襟など無いのだから。
「お前がそんなこと言う訳ねえだろ。なぁ極長に何か言われたんだろ? そうだろ? 」
 俺も息子に訊いた。
「なぜなんだ? 極長に何を言われたんだ? 」
「だから父親ヅラすんなって言ってんだろうがぁ。」
 息子は槍馬に電撃を放つと扉をバタンと閉めた。
 俺は、息子がいた場所を探る。
 俺のせいだ。
 俺があの子をちゃんと見てやってやれなかったから。
 自分の罪から逃げてあの子を遠ざけていたからだ。
 ちゃんと生きていることを伝えてやっておけば、こんなことにはならなかったかもしれない。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...