神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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拾弍ノ劔

神話再び

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 僕は首のタグを使い、未来を予測する。
 神から貰った限りなく近い未来を予測する能力。
 バタフライ効果。
 起こりうる世界は枝葉のように無限に存在する。
 それゆえ、ここから遠ければ遠くなるほどその輪郭は薄く、淡く広がっていく。
「ぐっ。」
「どうした? 人間? 未来視それが本来のお前の能力だろ? 」
。」
 いや、その表現には誤謬があるかも知れない。
 彼女以外の全ての事象も、物理現象も見えている。
 だが僕の目は、彼女を見ることを拒んでいる。
 可視光線は彼女に吸い込まれている。
 ゆえに彼女のいる場所には巨大な虚空が出来上がっている。
 だが……
 三百六十度、全方位に黒い塊が浮かび上がる。
 それは青い絵の具の中に落とされた修正液、溶液の中の試験紙だ。
 直接見ていなければ、脳に負荷がかかることは少ない。
---確認の槍カシウス---
 セイのロンギヌスに似た攻撃。
 僕は大きく跳躍し、攻撃を避ける。
「流石代行者様というところかしら。人間の中でもタイプかも。」
「ホルマリン漬……「ダメだ。」
 アスィールは彼女の言葉を遮ったようだ。
 僕は目の前の追尾して来る槍を捌くのに精一杯だった。
 空中なので、力の使い方が難しい。
 固定されていないので、ムーブメントを計算するのが難しい。
「彼は我々の架け橋。必ず生捕にしろ。さもなくば、お前は神になれない。」
「ッ。人間如きが私に指図しやがって、顔が良いから手を貸してやったけど、飛んだ計算違いだったようね。」
「私は決して困っちゃいない。お前が裏切れば、台与鬼子を引き入れるまでだ。」
「生意気ねッ。王の分際でぇ。」
 溢れんばかりの虚空。
 視界が深い闇に染まり、脳が割れそうになる。
 僕は慌てて未来視を切ると、一目散に逃げ出した。
"これはヤバいのが来る。辺り一体の未来がまるで見えなかった。"
 空間ごと干渉するつもりだ。
---雷神砲ライジンホウ---
 彼女の錫杖から、高エネルギー体が放出される。
---dimension fortress障壁---
 次元を斬り、ここでは無いどこかに、高エネルギーを放出させる。
 どこかで星が一つ消えたかも知れない。
 だが、それに気がついた時にはもう、ジゲンキリが発動していた。
 考える暇すら無かった。
 咄嗟に思いついた方法がそれだけだったのだ。
「お前はッ。お前らの国民がどうなってもよかったのか? 」
 ハムサに言葉をぶつける。
「うっせえんだよ。虫ケラ一匹二匹死んだぐらいで。それが世界にどう影響を及ぼすっていうのよ。」
「現に!! オマエ!! 雷神砲から人間を守るために、ここではない関係のない生物を犠牲にしたのよ。結局オマエは自分が一番可愛いのよ。目の前の人間を見殺しにしたくないがために、第三者をの。」
「お前は支配者としての、強大な力を持つものとしての自覚が足りないわ。」
 アスィールが彼女を宥める。
「おい、ハムサ。彼はまだ十八だ。辞めてくれ。三百越えのババアがたかが二十年生きただけの若造に説教なんて……ハタから見ていて恥ずかしいよ。」
「顔だけが取り柄のくせにデカい口叩くんじゃねえぞ。」
        「……この面食いめ。」
 彼女は錫杖を振る。
「あームカつくなぁどいつもコイツも。神の私に向かって御託を並べやがって。」
 彼女は光の速さで移動すると、僕に槍を突き立てて来る。
---雷閃ー百連突きライセン・ヒャクレンツキ---
 僕はアルテマを使い、空中に岩石を浮かべると、吸血牙の空間転移で後ろに逃げる。
 僕の後を、迸る一閃の流星が追いかける。
 下からカシウスが飛んでくる。
 意図的に空中へと押し上げられている。
 空中戦で動きが鈍くなることがバレている。
 空間転移だけでは捌ききれない。
 そうだ。
 脳の処理速度を上げなければ。
 どうやって?
 彼みたいに心臓を弄ることは出来ない。
 時間を引き伸ばす。
 どうやって?
 重力、重力を使って時間を引き伸ばす。
 練り上げろ、イメージを。
 体内時計時計を弄り回すイメージ。
 僕は聖剣に導かれ、アルテマを左手に突き刺した。
 時間が止まる。
 そこに気だるい小さな少女が現れた。
「おはよう。ドミニクは……そうか悪気は無いよ。ただ。眠かった。だから寝てただけ。君が新しい代行者? 僕のご主人様? あー適当にやってて。ドミニクの時もそうだったからさ。なんでって? 別に。君が望むなら。」

  「私の力、貸してやるよ。」

---Gravity Timezグラビティ・タイムズ---
 時間がゆっくりと動き始める。
 彼女の攻撃に無理矢理ジゲンキリを割り込ませると、攻撃を強制終了させる。
 そして、肘で彼女を吹き飛ばす。
 重い腕を思いっきり振り切ると、溜まったベクトルが彼女の腹部にクリーンヒットする。
 吸血牙の能力を使い、彼女の近くに再びワープすると、今度は回し蹴り、移動してからアルテマで斬り裂き、ジゲンキリで突く。
 彼女が母なる大地へ接吻する前に、アルテマの力を解放する。
---rock stoicロック・ストイック---
 地面から巨大な岩の柱が出来上がる。
 それがハムサの胸を貫いた。
「自惚れるなよ。」
 世界にヒビが入り、世界が割れる。
 同じ次元に立ったハムサが僕の腹に槍を突き刺してきた。
 身体の灰化が始まる。
 僕は慌ててそれを引き抜くと、彼女と距離を取ろうとした。
---虚空ー雷嵐ホロウテンペスト---
 雷見に纏い、高速で移動する彼女が僕を追っている。
 僕はセル帝国から十二分に距離が取れたことを確認すると、最後の大技を放った。
---void erasureトル・ツメ---
 僕とハムサの間の空間が切り抜かれる。
---release spaceマテリアル・グランド・バースト---
 空間内に、詰め込めるだけの大地を詰め込んだ。
 そしてそれを近距離でハムサに浴びせる。
---風神雷神砲双極・神風---
 彼女の錫杖と槍から雷と嵐がそれぞれ放出される。
 

_    _     _   _   _  _ _ ________気がつくと僕は宇宙に飛ばされていた。

 息ができない。
 意識が遠のく。
 息をすると肺が凍りそうだ。
 ハムサが僕に手を伸ばしている。
 戦わなきゃ。
 戦え!!
 戦……


      * * *

「私は生捕にしろと言ったが、仮死状態にしろとは言ってない。真空ジップなんて酷いじゃないか。動物愛護団体に訴えるぞ。」
 ハムサはため息をついた。
「こうでもしなきゃコイツを捕らえられないわ。でもどうせコイツ、数時間すれば生き返るんでしょ。定期的に殺してないと危ないわよコイツ。」
「国から距離を取らずに、至近距離でアレをやっていれば、私を殺せたでしょうに。甘い男ねコイツは。」
 アスィールは意地悪く笑った。
「それも彼なりの答えじゃないか。君に対する。」
「私、分かんないわよ。人の痛みとか。」
 アスィールも答えた。
「私もそうだ。痛みを知らぬ者に、人の痛みを分かち合うことは出来ない。」
「それ故に今回の代行者は……」
「王に向いてないわコイツは。精神的にも人格的にも。」
「僕は好きだぞ。青臭い思想が無くなれば、多少はいい支配者になるんじゃないか? 」
「ふん、気持ち悪い。馴れ合いなら他所でやってくれるかしら。」

 
 
 
 
 

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