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拾弍ノ劔
ハムサ
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坂上との会合が終わった僕は、プラウド兄さんが、台与鬼子に襲われたということを耳に入れると、急いでグランディルに帰ることにした。
道中、セル帝国を通ることになる。
出来れば避けたかったが、北のローランドは瘴気に満ちているし、海路は危険な上に遠回りだ。
空間転移をすれば、奴らに見つかる。
出来るだけそうなる事は避けたかった。
のだが。
「やぁ新皇帝。極東に何をしに行っていた? 」
第五皇帝アスィールだ。
僕が、父の代に結ばれた中立協定を破棄しようとしているのではないかと疑っているのだ。
それにしても皇帝自ら赴いて来るなんて。
不用心にも程がある。
「一緒にお茶でもどうかな? 」
「お断りします。今急いでいますので。兄が台与鬼子に襲われました。貴方も夜道は気をつけて下さい。」
「その心配は無いよ。まだね。」
「それではコレで。」
「待て。」
さっきよりワントーン低い音。
「君の父、シド・ブレイクと私が結んだ中立協定を忘れたかい? 君は極東と手を組むようだが。」
「戦後処理に赴いただけです。」
「それよりも。」
「なぜ貴方は極東に戦争を仕掛けようとしているのですか? 」
「極東の兵器を術者から盗んだり、最近は、魔硝石をたっぷり溜め込んでいるみたいじゃ無いですか? 」
「私の悲願を達成するためだ。ミシマッシュたちもそのために協力してくれていた。」
僕はジゲンキリを構えた。
アスィールはゆっくりと両手を上げる。
「悲しいな。僕は君には敵意が無いはずなんだが、君は僕を恐れている。君もそのことを知れば、僕のことをきっと理解してくれる筈だ。」
ミシマッシュと同じ道、彼らは神様に会うために、僕たちの聖剣を奪おうとしている。
ならなぜミシマッシュや彼らは極東の魔具を回収しようとしている?
神様に会いに行きたいなら、ミシマッシュも彼らも、最初からグランディルを襲えばよかったじゃないか。
「君だけには特別に教えてあげよう。」
「実はね、転界に登る方法はひとつじゃないんだ。」
「この世界には元々二つの神器があった。」
「一つは神に取り上げられてしまったが、極東はね。偶然鍵の部分だけ取り出していたようなんだよ。」
「それと神族の力を使えば、上に上がることが出来る。術式はもう完成した。僕が考えたんだ。間違いないね。」
僕は一歩後ずさった。
「神族って……ここは悪魔の国ですよね。昔、神族と敵対して、グラン帝国を追放されたって。」
「君は父から何も聞かされて居なかったのかい? まぁそれで辻褄が合っちゃうから。」
「天使だって悪魔だってね。味方によっちゃどちらにも見えちゃうもんなんだよ。人間って馬鹿だからさ。」
この人は何を言っているんだ。
「僕はもう帰ります。グランディルに帰らないと。」
「まだ分からないか? セル帝国に協力すれば、僕が君の望みを叶えてあげると言っているんだよ。」
「お断りします。」
「慎二を退けたとしても、七宝の持っている聖剣を奪い返す事は難しいだろう。」
「なぜそれを。」
「私と組めば、契約者を全員倒すだけで済む。」
「……」
「無論、どちらにせよ七宝とは戦うことになるだろうがね。」
セル帝国に協力すれば、ドミニク兄さんは生き返る。
どちらに協力しても、どちらか一方+ミシマッシュと戦うことになる。
でも……でも……
<オイ、ソイツを殺せ。今そこで刺せ。>
脳にドス黒い思念が飛んでくる。
直接話しかけられている見たいだ。
そうだ、
僕は啓示を思い出した。
僕は代行者。神の意志を執行するモノだ。
コイツは危険だ。神様を殺そうとしている。
なら僕のやるべき事は……
「やはり無理か。代行者、やはり一種の精神支配のようなモノが働いているようだ。」
気がつくと僕は、ジゲンキリでアスィールの胸を刺していた。
「ザッ。」
ヤイバが、彼の心臓にスルリと入った。
普段は能力を発動させてばかりだったので、実際に斬ったのは新鮮な手応えであった。
次の瞬間、彼の背中から、大量の闇が放出され、ジゲンキリが肉で押し返される。
彼の身体はものの見事に再生した。
「残念だ。交渉決裂だね。」
両手を上げた彼の後ろから、何かが現れる。
形容し難いバケモノ、が強いて言うのなら、頭に光輪があり、額には白毫。背中には光背、翼が生えていて、右手には槍、左手には錫杖、足元には蓮華が浮かび上がっている。
その姿はまるで……
「セイとレンの神格化を足して二で割ったみたいだ。」
彼女は僕を見下ろすと、嗜虐的な笑みを浮かべる。
「交渉決裂……残念ね。まぁ悪く思わないでちょうだい。」
アスィールが彼女を見上げている。
「ハムサ、手加減をしてくれ。コイツを餌に極東を吊り出す。」
「うっさいわね。王風情が私に指図するなって言ったでしょ。コレだから人間はッ。」
僕はジゲンキリとアルテマを構える。
代行者は神族を滅するために与えられた力。
ならば
僕はアイツを殺すまでだ。
道中、セル帝国を通ることになる。
出来れば避けたかったが、北のローランドは瘴気に満ちているし、海路は危険な上に遠回りだ。
空間転移をすれば、奴らに見つかる。
出来るだけそうなる事は避けたかった。
のだが。
「やぁ新皇帝。極東に何をしに行っていた? 」
第五皇帝アスィールだ。
僕が、父の代に結ばれた中立協定を破棄しようとしているのではないかと疑っているのだ。
それにしても皇帝自ら赴いて来るなんて。
不用心にも程がある。
「一緒にお茶でもどうかな? 」
「お断りします。今急いでいますので。兄が台与鬼子に襲われました。貴方も夜道は気をつけて下さい。」
「その心配は無いよ。まだね。」
「それではコレで。」
「待て。」
さっきよりワントーン低い音。
「君の父、シド・ブレイクと私が結んだ中立協定を忘れたかい? 君は極東と手を組むようだが。」
「戦後処理に赴いただけです。」
「それよりも。」
「なぜ貴方は極東に戦争を仕掛けようとしているのですか? 」
「極東の兵器を術者から盗んだり、最近は、魔硝石をたっぷり溜め込んでいるみたいじゃ無いですか? 」
「私の悲願を達成するためだ。ミシマッシュたちもそのために協力してくれていた。」
僕はジゲンキリを構えた。
アスィールはゆっくりと両手を上げる。
「悲しいな。僕は君には敵意が無いはずなんだが、君は僕を恐れている。君もそのことを知れば、僕のことをきっと理解してくれる筈だ。」
ミシマッシュと同じ道、彼らは神様に会うために、僕たちの聖剣を奪おうとしている。
ならなぜミシマッシュや彼らは極東の魔具を回収しようとしている?
神様に会いに行きたいなら、ミシマッシュも彼らも、最初からグランディルを襲えばよかったじゃないか。
「君だけには特別に教えてあげよう。」
「実はね、転界に登る方法はひとつじゃないんだ。」
「この世界には元々二つの神器があった。」
「一つは神に取り上げられてしまったが、極東はね。偶然鍵の部分だけ取り出していたようなんだよ。」
「それと神族の力を使えば、上に上がることが出来る。術式はもう完成した。僕が考えたんだ。間違いないね。」
僕は一歩後ずさった。
「神族って……ここは悪魔の国ですよね。昔、神族と敵対して、グラン帝国を追放されたって。」
「君は父から何も聞かされて居なかったのかい? まぁそれで辻褄が合っちゃうから。」
「天使だって悪魔だってね。味方によっちゃどちらにも見えちゃうもんなんだよ。人間って馬鹿だからさ。」
この人は何を言っているんだ。
「僕はもう帰ります。グランディルに帰らないと。」
「まだ分からないか? セル帝国に協力すれば、僕が君の望みを叶えてあげると言っているんだよ。」
「お断りします。」
「慎二を退けたとしても、七宝の持っている聖剣を奪い返す事は難しいだろう。」
「なぜそれを。」
「私と組めば、契約者を全員倒すだけで済む。」
「……」
「無論、どちらにせよ七宝とは戦うことになるだろうがね。」
セル帝国に協力すれば、ドミニク兄さんは生き返る。
どちらに協力しても、どちらか一方+ミシマッシュと戦うことになる。
でも……でも……
<オイ、ソイツを殺せ。今そこで刺せ。>
脳にドス黒い思念が飛んでくる。
直接話しかけられている見たいだ。
そうだ、
僕は啓示を思い出した。
僕は代行者。神の意志を執行するモノだ。
コイツは危険だ。神様を殺そうとしている。
なら僕のやるべき事は……
「やはり無理か。代行者、やはり一種の精神支配のようなモノが働いているようだ。」
気がつくと僕は、ジゲンキリでアスィールの胸を刺していた。
「ザッ。」
ヤイバが、彼の心臓にスルリと入った。
普段は能力を発動させてばかりだったので、実際に斬ったのは新鮮な手応えであった。
次の瞬間、彼の背中から、大量の闇が放出され、ジゲンキリが肉で押し返される。
彼の身体はものの見事に再生した。
「残念だ。交渉決裂だね。」
両手を上げた彼の後ろから、何かが現れる。
形容し難いバケモノ、が強いて言うのなら、頭に光輪があり、額には白毫。背中には光背、翼が生えていて、右手には槍、左手には錫杖、足元には蓮華が浮かび上がっている。
その姿はまるで……
「セイとレンの神格化を足して二で割ったみたいだ。」
彼女は僕を見下ろすと、嗜虐的な笑みを浮かべる。
「交渉決裂……残念ね。まぁ悪く思わないでちょうだい。」
アスィールが彼女を見上げている。
「ハムサ、手加減をしてくれ。コイツを餌に極東を吊り出す。」
「うっさいわね。王風情が私に指図するなって言ったでしょ。コレだから人間はッ。」
僕はジゲンキリとアルテマを構える。
代行者は神族を滅するために与えられた力。
ならば
僕はアイツを殺すまでだ。
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