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拾弍ノ劔

父親

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「オリジナル? なんだそれは? 」
 俺は満身創痍の身体で裏斬を構えた。
---俺だ、来たぞ。決して背を向けるな---
「俺だ。」
 その言葉が何を意味しているのかしばらくの間分からなかった。
 北から砂煙を上げてこちらに何かが迫って来ている。
 それは一瞬で俺の前に出てくると、チャクラム、それに鎖で繋がれた小太刀を構えた。
「なんでアンタが、俺の凛月を。」
「コレはお前のじゃない。もともと俺の魔具だった。」
 俺は必死に彼女へ呼びかけた。
「オイ、凛月!! どういうことだ!! 」
---……---
 彼女は何も答えない。
「それは俺が友人に譲ったモノだ。なぜお前が持っている。」
 俺が今持っているモノ。さっき手に入れたトライドランのことではないだろう。
「アンタは生身の人間に、こんなものを贈っていたのか。ソイツがどうなるかぐらい分かっていただろう? なぁ!! 」
 男は凛月を構える。
「ああ、知っていたとも。糾弾するないくらでもすれば良い。」
「俺を捕まえに来たんだな。」
「違う。」
「俺の息子は死んだ。列車事故にて死んだことになっている。」
「彼を捕まえて肋骨を返してくれるなら、息子に似た、お前との身の保証は約束しようと。坂上にそう言われた。」
 坂上は、上手い話を餌に、俺を極東に連れ戻そうとしている。
 あとは洗脳するなり、処刑するなり、彼の掌で踊らされるだけだ。
 それを一番知っているのはこの男ではないのか?
「本気で? 本気であの男の言葉を信じているのか? 散々奴に騙されて来たアンタが。」
 男の目から涙が溢れる。
「分かってくれ慎二。もう俺にはお前しか残っていない。美鬼も死んでしまった。俺が優柔不断だったからだ。最初から割り切っておけばよかった。グランディルの人々を切り捨てておけば、美鬼も、お前も、こんなことになるはずは無かったんだ。」
 死んだはずの父親との再会。
 が、今目の前にいるのは、父親でもなく、英雄でもなく、ただの腰抜けだ。
「オイ、さっきから黙っていて!! なんとか言ったらどうなんだ凛月!! 俺はお前にも話しかけている。全部知ってたんだろ? 父さんが生きていたということも。」
---……---
 凛月は何も答えない。もしかしたら俺の声が聞こえていないのかも知れない。
 そうだ。俺と奴はもう契約者と魔具の関係ではない。
 今は敵同士だ。
「慎二、俺はどこで間違えたんだろうか? なぜこんな形で再会しなければならなかったのか? 」
「俺に聞くな!! クソ親父!! 」
 俺は銃鬼で脳天をぶち抜くと、父親に斬りかかった。
 上段からの振りかぶり、
 手首を掴まれ、攻撃が止まる。
"なんだ、今のは……動きが見えなかった。"
 親父がそのまま俺を持ち上げ、振り回すので、視界がグラングランと揺れる。
 投げ飛ばされた。
 素早く天の地を理解すると、態勢を立て直す。それよりも早く、何かがこちらに走ってくる。
 ここは砂漠だ。常人が、なんの身体強化も使っていない生身の人間ができる芸道では無い。
 それより、俺は今、心拍数を極限にまで上げているのだぞ。
 俺は身体を回転させながら、凛月の迎撃を交わした。
 背後の岩肌に気付き、それを交わすと、雷斬で斬り裂き、奴への牽制に使おうとした。
 慎二郎が一瞬光ったかと思うと、岩の破片は、砂のように砕け散った。
 彼はまだ止まらない。
 自分で投げ飛ばしたモノに、敏捷力で追いつこうとしている。
 オセアニア大陸の南側は……ここより地盤がしっかりした乾燥帯だ!! 
 砂漠で能力を十二分に発揮できないから、俺をそこまで追いやるつもりか!!
 なら俺もされるがままではいけない。
 身体を捻り出し、なんとか方向転換する。
 オセアニア大陸は横に長い。
 南、もしくは北に逃げない限り、この砂漠は永遠と続いている。
 俺は地に足をつけると、背を向けず、バックステップで奴から距離を取る。
 慎二郎は凛月を鞭のように振るい、俺に攻撃してくる。
 絡みついてくるような嫌な攻撃だ。
 まるで小太刀が生きているようである。
 ついに彼が俺に追いつく。
 太刀筋が見えないので、ほぼ勘でその攻撃を避けていた。
 というか、それが普通なのだ。
 相手の動きを読むこと。
 俺は身体強化ができることを良いことに、そのタスクを怠っていた。
 そのツケが今自分に回って来ている。
 一度でも触られたら終わりだ。
 そんな恐怖が俺を襲っている。
 それから、百か百十、俺の雷斬が音を立てて砕け散る。
 そして裏斬は彼の小太刀によって弾き飛ばされた。
 俺はダメ元で銃鬼を取り出そうとする。
 終わるのか、俺はッ
「ユグドラシル!! 」
 バックドアが……開いたのだろう。
 俺は気がつくとユグドラシルの根で倒れていた。
 牡丹が俺を助けてくれたのだろう。
 ドアが凹んでいる。
 ドンッ ドンッ という大きな金属音と共に、扉が軋み始める。
 俺はその光景に恐怖すら感じた。
 ユグドラシルの座標が切り替わり、バックドアが切断される。
 それと同時に、軋んでいたドアは静かになった。
 俺は息を荒げている牡丹を見た。
「すまん。迷惑かけちまったみたいだ。」
 彼女は力無く笑った。
「良かったよ慎二が無事で。」
 そこにMがやって来た。
「君の父親はどうやら生きていたようだな。」
 
「良かった。」

「良かねえ。コレでまた問題が増えた。今は牡丹が上手くやってくれたが、次はもう無い。」
 そこに亜星と伊桜里がやって来る。
 俺は影の中からセルリアンブルーの光沢を放つ三叉の剣を取り出した。
「トライドラン、無事取ってこれたのね。」
 あまり良い気はしない。
 コレは俺の武器じゃないし、これには俺じゃない奴の魂が宿っている。
「どうしたの、あまり嬉しそうじゃないけど。」
「この剣は、全部終わったら奴らに返す。」
「すまん。休ませてくれ。色々なことがありすぎた。」
「剣はアルブさん持っていくネ。」
「ああ。」
 そう言って俺は自室を目指した。
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