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印の国で
時間遡行
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「妹を助けてくれていたようね。」
それがセイから出た最初の意外な一声だった。
「助けたことは無い。ただ彼女には嘘をついていた。」
「嘘は嫌い。」
「でも、見逃してあげないこともないわ。妹の命の恩人だもの。」
「もしかして、同情されてんのか? 遠慮はいらねえぜ。おりあ鬼だからな。」
抉り取られた心臓が回復し始める。
胸がふつふつと泡立つと、心房を作り出し、それはまた規則正しく動き始めた。
彼女は俺に訊いてきた。
「なぜそこまでして、極東に肩入れするの? 」
「そっくりそのまま返すぜ。なぜグランディルに肩入れする? 」
彼女は、腕に抱いている青年を見つめると、答えた。
「カーミラが今も昔も、変わらないでいてくれたからよ。」
「あなたは? 」
そんなことは決まっていた。
「俺がそうしたいと思ったからだ。深い意味はない。間違いかもしれないし、正しい選択かもしれないし、もしかしたら苦渋の選択か、どちらに進んでも結果はあまり変わらないかもしれない。」
「だが言えることは一つだ。無数の選択肢の中で、それが唯一絶対の答えであったとは誰にも分からない。断定は出来ない。」
セイは口元に手を当てると笑い出した。
「お馬鹿さんね。少しは思考するとを覚えた方が良いわ。」
「ああ、俺は馬鹿だ。自分で決断せずに他人に判断を仰いで、結果こんなことになっちまった。」
「後悔するなら自分の言動に責任を持ちたいからな。」
---時空壊---
二回目のピストル自殺。
だが心臓に負荷がかかっているようには思えなかった。
"さっきカーミラが俺の心臓を抉ったからか。"
さっきより世界が鮮明に見える。
燠見の効果に目が慣れ始めている。
俺は真紅の眼で、異様なその六枚天使を視認した。
情報量が多くて目が焼けそうだ。
彼女の周りには見えない光るモノが飛んでいる。
そして首の下、鎖骨の辺り……
---sacred feather---
魔力の歪みを感じて、凛月を構える。
迫り来る羽根を一本一本正確に捌いていく。
そして捌きながら、時計回りに回転し、彼女の注意を引く。
---黒融---
俺は影に同化すると、地面に潜った。
「小賢しいわね。まぁ良いわ。モグラ叩きっていうのも、少しあそんであげましょうか。」
地中から、声でセイの場所を確認する。
暗くてよく見えないが、セイはおそらくさっきと同じ方向を向いているだろう。
俺はわざと彼女の視界に地面を蹴り上げ、隆起させると、彼女がそれに反応して攻撃する。
「クッ、ダミー? 嘘をついたわねぇ!! 」
怒ったセイが、辺り一帯をlonginusで刺しまくっている。
これは愚策だった。
彼女の精神年齢は、おそらく封印される前の八歳程度。
俺の頬に槍が掠め、灰化がはじまる。
「見つけたわ!! そこね!! 」
俺は素早く方向転換し、彼女の後ろ側に回り込む。
そして地面から実体化した。
---雷閃---
俺の小太刀が、彼女の胸に灯っている力の渦を突く。
そして、それが爆発し、彼女の身体が痙攣したかと思うと……
次の瞬間。俺は彼女の正面に戻されていた。
燠見が解けている。時空壊も発動していない。
「全く……お前はハエみたいにうるさくて、ゴキブリみたいに小賢しいわね。虫ケラ。」
俺は震える手でもう一度、銃鬼を握った。
「シュパッ。」
彼女が左腕を下ろすと、俺の右腕が、きれいにおろされる。
「間違いない、さっきのは幻覚ではない。術が強制解除された訳でもない。心臓に違和感が無いからだ。セイは俺の時空壊を読んでいた。未来視をした訳では無い。未来を目視し、そして対処した。」
「なるほどなぁ。この力を使って、ドミニクを生き返らせたわけか。」
「すごいでしょ。」
「迷惑だぜ。嫌いな野郎の顔を三度も四度も見せられてな。」
彼女はストロボの中から、俺の残影の一体を取り上げると、胸を抉った。
「ガッ。」
口から大量の血が噴き出る。
一瞬何が起こったのか分からなかった。
俺の胸には既に穴が空いている。
「過去に干渉する能力か。」
「やっと分かった見たいね。そうよ。私の能力は過去、現在、未来を操る能力。」
薄々気が付いてはいたが……
相手に能力を明かすことは自殺行為だ。
彼女が俺に能力を明かした理由。
それは彼女が勝利を確信したから。
「私たち、出会い方が違えば、殺し合うことなんてしなくても良かったかもしれないわね。」
「傷の舐め合いか? ごめんだな。『過去』しか見ていないお前とは違う。」
視界が吹き飛ぶ。
俺は顔を吹き飛ばされたことになった。
「残念ね。命乞いが聞きたかったのだけれども。」
---gear reverse---
歯車が歯軋りを起こし、逆回転をする音、俺の身体が元通りに『回復』する。
「レン……また姉の邪魔をするのね。」
「来ていたのは分かってた。私の秒針が歪んで確信したよ。お姉ちゃんだって。」
「で、あなたはこの嘘つきをどうしようって言うのかしら。」
「それは私の幼馴染なの。他に理由はいらないでしょ。お姉ちゃんがカーミラ兄さんのことを大切に思っているのと同じ。」
俺は再生した口で喉を絞り出す。
「美奈、俺にか…ま…う…な。」
「なーに? 聞こえ無いなぁ。come on now? ハイハイ、助けに来ましたよ。」
彼女は俺を切株に寝かせると、セイの方へと振り返った。
「チッ。」
美奈は両手を胸の前で合わせる。
---合掌---
彼女の背中から神々しい光背が現れる。
頭に宝冠、額に白毫、手のひらは河童のように水掻きが付き、地面には蓮の花が浮かび上がる。
「いつ見ても禍々しい姿ね。極東の神様は。」
美奈はその言葉に答えなかった。
---千手観音---
彼女の方から無数の光の手が現れ、セイを襲う。
彼女は飛び立つと、必死にそれを交わしている。
が、しかし、手一つ一つに意志があり、彼女にそれを読むことは難しかった。
手の一本が、セイを掴むと、他の手も纏わりつくように、彼女を覆っていく。
美奈は錫杖を取り出すと、拘束されたせいへと向かう。
彼女が錫杖を振ると、乾いた音と共に、無数の輪がセイを襲った。
---極光---
錫杖の先から、光が放出されて、セイを千手ごと貫いた。
翼をもがれた彼女は、鳥のように地に落ちる。
空間転移したカーミラはそれを両手で受け取った。
「レン。ソイツの見方をするってことは、分かってるよな。」
「私は…カーミラ兄さんとも慎二とも戦いたくない。もちろんお姉ちゃんとも。」
「レン、そこで寝ているクソ野郎は兄さんを殺した畜生だ。守る価値も生きる価値もないよ。」
「兄さんにひとつ言い忘れていたことがあるわ。わたしはレンじゃなくて、美奈よ。グランディルで記憶を無くして、極東の丹楓村で育ち、契約者となった須崎美奈。」
「君はレンだ。帰ることは強制しない。でも君のいるべき場所はグランディルだ。極東にいても食い物にされるだけだぞ。」
そうして彼は俺を一睨みすると、そそくさ帰っていく。
「美奈様!! ご無事ですか? 」
極東軍だ。
立って逃げないと。
「いたぞぉぉぉぉぉぉ。」
そのうちの一人が俺を見つけると、指を刺して叫んだ。
それを美奈が制する。
「それは私の友人です。丁重に扱いなさい。」
「しかし、彼は……これは皇后命令です。」
「「はっ」」
すると彼女はゆっくりと俺の方に来た。
「……皇后だってな…玉の輿じゃねえか。」
彼女は無言頷いた。
「あなたを一度、坂上に送る。」
「でも必ず助けに行くから。それまで待ってて。」
意識が遠のいていく。どうやら戦闘が終わり、アドレナリンが切れたらしい。
俺は深い眠りに落ちていった。
それがセイから出た最初の意外な一声だった。
「助けたことは無い。ただ彼女には嘘をついていた。」
「嘘は嫌い。」
「でも、見逃してあげないこともないわ。妹の命の恩人だもの。」
「もしかして、同情されてんのか? 遠慮はいらねえぜ。おりあ鬼だからな。」
抉り取られた心臓が回復し始める。
胸がふつふつと泡立つと、心房を作り出し、それはまた規則正しく動き始めた。
彼女は俺に訊いてきた。
「なぜそこまでして、極東に肩入れするの? 」
「そっくりそのまま返すぜ。なぜグランディルに肩入れする? 」
彼女は、腕に抱いている青年を見つめると、答えた。
「カーミラが今も昔も、変わらないでいてくれたからよ。」
「あなたは? 」
そんなことは決まっていた。
「俺がそうしたいと思ったからだ。深い意味はない。間違いかもしれないし、正しい選択かもしれないし、もしかしたら苦渋の選択か、どちらに進んでも結果はあまり変わらないかもしれない。」
「だが言えることは一つだ。無数の選択肢の中で、それが唯一絶対の答えであったとは誰にも分からない。断定は出来ない。」
セイは口元に手を当てると笑い出した。
「お馬鹿さんね。少しは思考するとを覚えた方が良いわ。」
「ああ、俺は馬鹿だ。自分で決断せずに他人に判断を仰いで、結果こんなことになっちまった。」
「後悔するなら自分の言動に責任を持ちたいからな。」
---時空壊---
二回目のピストル自殺。
だが心臓に負荷がかかっているようには思えなかった。
"さっきカーミラが俺の心臓を抉ったからか。"
さっきより世界が鮮明に見える。
燠見の効果に目が慣れ始めている。
俺は真紅の眼で、異様なその六枚天使を視認した。
情報量が多くて目が焼けそうだ。
彼女の周りには見えない光るモノが飛んでいる。
そして首の下、鎖骨の辺り……
---sacred feather---
魔力の歪みを感じて、凛月を構える。
迫り来る羽根を一本一本正確に捌いていく。
そして捌きながら、時計回りに回転し、彼女の注意を引く。
---黒融---
俺は影に同化すると、地面に潜った。
「小賢しいわね。まぁ良いわ。モグラ叩きっていうのも、少しあそんであげましょうか。」
地中から、声でセイの場所を確認する。
暗くてよく見えないが、セイはおそらくさっきと同じ方向を向いているだろう。
俺はわざと彼女の視界に地面を蹴り上げ、隆起させると、彼女がそれに反応して攻撃する。
「クッ、ダミー? 嘘をついたわねぇ!! 」
怒ったセイが、辺り一帯をlonginusで刺しまくっている。
これは愚策だった。
彼女の精神年齢は、おそらく封印される前の八歳程度。
俺の頬に槍が掠め、灰化がはじまる。
「見つけたわ!! そこね!! 」
俺は素早く方向転換し、彼女の後ろ側に回り込む。
そして地面から実体化した。
---雷閃---
俺の小太刀が、彼女の胸に灯っている力の渦を突く。
そして、それが爆発し、彼女の身体が痙攣したかと思うと……
次の瞬間。俺は彼女の正面に戻されていた。
燠見が解けている。時空壊も発動していない。
「全く……お前はハエみたいにうるさくて、ゴキブリみたいに小賢しいわね。虫ケラ。」
俺は震える手でもう一度、銃鬼を握った。
「シュパッ。」
彼女が左腕を下ろすと、俺の右腕が、きれいにおろされる。
「間違いない、さっきのは幻覚ではない。術が強制解除された訳でもない。心臓に違和感が無いからだ。セイは俺の時空壊を読んでいた。未来視をした訳では無い。未来を目視し、そして対処した。」
「なるほどなぁ。この力を使って、ドミニクを生き返らせたわけか。」
「すごいでしょ。」
「迷惑だぜ。嫌いな野郎の顔を三度も四度も見せられてな。」
彼女はストロボの中から、俺の残影の一体を取り上げると、胸を抉った。
「ガッ。」
口から大量の血が噴き出る。
一瞬何が起こったのか分からなかった。
俺の胸には既に穴が空いている。
「過去に干渉する能力か。」
「やっと分かった見たいね。そうよ。私の能力は過去、現在、未来を操る能力。」
薄々気が付いてはいたが……
相手に能力を明かすことは自殺行為だ。
彼女が俺に能力を明かした理由。
それは彼女が勝利を確信したから。
「私たち、出会い方が違えば、殺し合うことなんてしなくても良かったかもしれないわね。」
「傷の舐め合いか? ごめんだな。『過去』しか見ていないお前とは違う。」
視界が吹き飛ぶ。
俺は顔を吹き飛ばされたことになった。
「残念ね。命乞いが聞きたかったのだけれども。」
---gear reverse---
歯車が歯軋りを起こし、逆回転をする音、俺の身体が元通りに『回復』する。
「レン……また姉の邪魔をするのね。」
「来ていたのは分かってた。私の秒針が歪んで確信したよ。お姉ちゃんだって。」
「で、あなたはこの嘘つきをどうしようって言うのかしら。」
「それは私の幼馴染なの。他に理由はいらないでしょ。お姉ちゃんがカーミラ兄さんのことを大切に思っているのと同じ。」
俺は再生した口で喉を絞り出す。
「美奈、俺にか…ま…う…な。」
「なーに? 聞こえ無いなぁ。come on now? ハイハイ、助けに来ましたよ。」
彼女は俺を切株に寝かせると、セイの方へと振り返った。
「チッ。」
美奈は両手を胸の前で合わせる。
---合掌---
彼女の背中から神々しい光背が現れる。
頭に宝冠、額に白毫、手のひらは河童のように水掻きが付き、地面には蓮の花が浮かび上がる。
「いつ見ても禍々しい姿ね。極東の神様は。」
美奈はその言葉に答えなかった。
---千手観音---
彼女の方から無数の光の手が現れ、セイを襲う。
彼女は飛び立つと、必死にそれを交わしている。
が、しかし、手一つ一つに意志があり、彼女にそれを読むことは難しかった。
手の一本が、セイを掴むと、他の手も纏わりつくように、彼女を覆っていく。
美奈は錫杖を取り出すと、拘束されたせいへと向かう。
彼女が錫杖を振ると、乾いた音と共に、無数の輪がセイを襲った。
---極光---
錫杖の先から、光が放出されて、セイを千手ごと貫いた。
翼をもがれた彼女は、鳥のように地に落ちる。
空間転移したカーミラはそれを両手で受け取った。
「レン。ソイツの見方をするってことは、分かってるよな。」
「私は…カーミラ兄さんとも慎二とも戦いたくない。もちろんお姉ちゃんとも。」
「レン、そこで寝ているクソ野郎は兄さんを殺した畜生だ。守る価値も生きる価値もないよ。」
「兄さんにひとつ言い忘れていたことがあるわ。わたしはレンじゃなくて、美奈よ。グランディルで記憶を無くして、極東の丹楓村で育ち、契約者となった須崎美奈。」
「君はレンだ。帰ることは強制しない。でも君のいるべき場所はグランディルだ。極東にいても食い物にされるだけだぞ。」
そうして彼は俺を一睨みすると、そそくさ帰っていく。
「美奈様!! ご無事ですか? 」
極東軍だ。
立って逃げないと。
「いたぞぉぉぉぉぉぉ。」
そのうちの一人が俺を見つけると、指を刺して叫んだ。
それを美奈が制する。
「それは私の友人です。丁重に扱いなさい。」
「しかし、彼は……これは皇后命令です。」
「「はっ」」
すると彼女はゆっくりと俺の方に来た。
「……皇后だってな…玉の輿じゃねえか。」
彼女は無言頷いた。
「あなたを一度、坂上に送る。」
「でも必ず助けに行くから。それまで待ってて。」
意識が遠のいていく。どうやら戦闘が終わり、アドレナリンが切れたらしい。
俺は深い眠りに落ちていった。
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