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亡霊共
ミシマッシュ
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船は俺の知っている場所よりだいぶ南に舵を切った。
<伊桜里ちゃん。進路が分岐した。凛月ちゃんに例の水をかけてくれる? >
「あいあっさー。」
俺にわけのわからない水がかけられる。
俺は彼女を睨んだ。
「うわー目つき悪いよコイツ。」
進路は、どうやらワーメリゴンの住んでいる場所より、だいぶ南の方らしい。
船を降りると、そこは、カタルゴの中部のように、熱帯雨林が生い茂っており、商人が黒い、小豆を乾燥させたような物を売っている。
「さあさあこっちだよ。私たちのアジトに招待するね。」
極東から運良く増援が来て、助からねえかなと思う反面、自分の父について知りたい自分がいた。
* * *
森を数キロほど歩いた。
俺は慣れっこだが、驚くべきは彼女だ。
汗ひとつかいていない。
環境に慣れているのか、相当な手練れなのか……
急に森が開けて、巨大な木造建築が現れた。
「ついたよワンちゃん。ここが私たちのアジト。」
<「ミシマッシュへようこそ桐生慎二君。」>
俺に直接話しかけて来ていたであろう女が、マホガニーのドアから出てきた。
というか他所の人間からフルネームで呼ばれたのは初めてだ。
その後ろから、無精髭を生やした中年の男が出てきた。
「ただいまマスター。」
男は伊桜里という女に手を挙げてから、俺の方を見た。
「はじめましてだね桐生慎二君。訳あって名乗ることはできない。そうだねみんなは私のことをMと呼んでいるから、君もそう呼ぶと良い。」
MなのかMなのかあるいはM
なのかは分からないが、俺は彼をMと呼ぶことにした。
「Mさん、あったばかりで早々すまないのだが、アンタたちの目的は、俺の父親の秘密は、父さんを殺したのはドミニクじゃないってどういうことだ。」
Mは顔色ひとつ変えずに答えた。
「ひとつづつ順を追って説明しよう。」
「まず我らの目的とは。『この世界の神を殺し、世界を有るべき場所に昇華する』ことだ。」
やべーところに来ちまった。
俺は背中を向けて帰ろうとする。
すると、テレパシーの女が口を開いた。
「私たちは、国から追放された時、同じ夢を見たの。沈む夕焼け、大理石に座る黒服、黒縁の眼鏡男を。」
伊桜里が続ける。
「彼は私たちに言ったわ。『世界の神を倒すべく人間に力を貸せ。さすれば世界に平穏が訪れる』って。」
Mが再び口を開いた。
「転界にのぼることの出来るのは、君を含めて三人。」
「なら他を当たってくれ。俺には関係ない。」
「ああ、最初はセル帝国の悪魔、ハムサに協力していた。」
俺は横の女に凛月を取られたことを思い出した。
「ならなぜ急に俺を頼りはじめた? 」
「彼女が『君の力』を取り戻した途端に、新世界の神になると豪語したからだ。」
「私たちが黒服から啓示を受けたのは、神の首をすれかえるためじゃない。神を倒し、もう誰も憎まなくて良い世界を作るためよ。」
馬鹿げた話だ。誰も憎まなくて良い世界なんて想像も出来ない。
消えた人間は、戻っては来ないのだから。
「俺が神を殺した後、俺が神になるかもしれんぞ。」
「その心配はいらんだろ? 」
優しげのある声、見覚えのある鬼の声だ。
「梓帆手!! 」
遠征の時に、俺たちを助けてくれた鬼だ。
「村人たちは皆、聖に連れ去られてしもうた。彼らを守れなかった絶望に打ちひしがれそうになった時、ワシも彼女たちと同じ夢を見て、ここにたどり着いた。」
「あの時のお主の言葉、まだ忘れておらんぞ。」
そうだ、俺は王にも、神にもなるつもりは無い。だが、もしもう誰も苦しまなくて済むのなら……
「君の父のことだが、君の父親は英雄だった。」
何度も聞いた言葉、だが俺はその先が聞きたかった。
「英雄とは、この世界の遺物を排除するために作られたプログラム。神の使いだ。」
「だけど、あなたの父親は、それを破ってあなたの母親との間に子供をもうけた。そして、天叢雲剣を没収されたわ。」
なるほど、にわかには信じ難い話ではあるが、伊桜里は世界を変えるために、少なくとも二度危険を犯していると思うと、どうやら信憑性は高いようだ。
「そして君の父、慎二郎は聖を殺すことを拒んだ。それが極東への裏切りと見做され、彼は処刑された。」
「処刑? 誰に? 」
「俺の父さんを殺したのはドミニクじゃないのか? 」
「君の父親を殺したのは、七宝剣だ。極長の命令で、そして聖を殺すために、君に復讐心を植え付け、君を台与鬼子として大成させた。」
俺は両膝をついて倒れ込む。
「ハハハ……よく出来た作り話だな。ということは、俺はなんのためにドミニクを……」
「グランディルと極東に、再び戦争を起こすためだ。彼は元々君に隠密など求めていなかった。君が好きに暴れてくれて、さぞ気分が良いだろうよ。」
「なんで……なら俺のこれまでの八年間は、復讐は、死んでいったものに対するせめてもの慰めは……」
その後もMは色々な世界の秘密を話してくれていたのだろう。
だが俺の耳にその言葉が入ることはなかった。
<伊桜里ちゃん。進路が分岐した。凛月ちゃんに例の水をかけてくれる? >
「あいあっさー。」
俺にわけのわからない水がかけられる。
俺は彼女を睨んだ。
「うわー目つき悪いよコイツ。」
進路は、どうやらワーメリゴンの住んでいる場所より、だいぶ南の方らしい。
船を降りると、そこは、カタルゴの中部のように、熱帯雨林が生い茂っており、商人が黒い、小豆を乾燥させたような物を売っている。
「さあさあこっちだよ。私たちのアジトに招待するね。」
極東から運良く増援が来て、助からねえかなと思う反面、自分の父について知りたい自分がいた。
* * *
森を数キロほど歩いた。
俺は慣れっこだが、驚くべきは彼女だ。
汗ひとつかいていない。
環境に慣れているのか、相当な手練れなのか……
急に森が開けて、巨大な木造建築が現れた。
「ついたよワンちゃん。ここが私たちのアジト。」
<「ミシマッシュへようこそ桐生慎二君。」>
俺に直接話しかけて来ていたであろう女が、マホガニーのドアから出てきた。
というか他所の人間からフルネームで呼ばれたのは初めてだ。
その後ろから、無精髭を生やした中年の男が出てきた。
「ただいまマスター。」
男は伊桜里という女に手を挙げてから、俺の方を見た。
「はじめましてだね桐生慎二君。訳あって名乗ることはできない。そうだねみんなは私のことをMと呼んでいるから、君もそう呼ぶと良い。」
MなのかMなのかあるいはM
なのかは分からないが、俺は彼をMと呼ぶことにした。
「Mさん、あったばかりで早々すまないのだが、アンタたちの目的は、俺の父親の秘密は、父さんを殺したのはドミニクじゃないってどういうことだ。」
Mは顔色ひとつ変えずに答えた。
「ひとつづつ順を追って説明しよう。」
「まず我らの目的とは。『この世界の神を殺し、世界を有るべき場所に昇華する』ことだ。」
やべーところに来ちまった。
俺は背中を向けて帰ろうとする。
すると、テレパシーの女が口を開いた。
「私たちは、国から追放された時、同じ夢を見たの。沈む夕焼け、大理石に座る黒服、黒縁の眼鏡男を。」
伊桜里が続ける。
「彼は私たちに言ったわ。『世界の神を倒すべく人間に力を貸せ。さすれば世界に平穏が訪れる』って。」
Mが再び口を開いた。
「転界にのぼることの出来るのは、君を含めて三人。」
「なら他を当たってくれ。俺には関係ない。」
「ああ、最初はセル帝国の悪魔、ハムサに協力していた。」
俺は横の女に凛月を取られたことを思い出した。
「ならなぜ急に俺を頼りはじめた? 」
「彼女が『君の力』を取り戻した途端に、新世界の神になると豪語したからだ。」
「私たちが黒服から啓示を受けたのは、神の首をすれかえるためじゃない。神を倒し、もう誰も憎まなくて良い世界を作るためよ。」
馬鹿げた話だ。誰も憎まなくて良い世界なんて想像も出来ない。
消えた人間は、戻っては来ないのだから。
「俺が神を殺した後、俺が神になるかもしれんぞ。」
「その心配はいらんだろ? 」
優しげのある声、見覚えのある鬼の声だ。
「梓帆手!! 」
遠征の時に、俺たちを助けてくれた鬼だ。
「村人たちは皆、聖に連れ去られてしもうた。彼らを守れなかった絶望に打ちひしがれそうになった時、ワシも彼女たちと同じ夢を見て、ここにたどり着いた。」
「あの時のお主の言葉、まだ忘れておらんぞ。」
そうだ、俺は王にも、神にもなるつもりは無い。だが、もしもう誰も苦しまなくて済むのなら……
「君の父のことだが、君の父親は英雄だった。」
何度も聞いた言葉、だが俺はその先が聞きたかった。
「英雄とは、この世界の遺物を排除するために作られたプログラム。神の使いだ。」
「だけど、あなたの父親は、それを破ってあなたの母親との間に子供をもうけた。そして、天叢雲剣を没収されたわ。」
なるほど、にわかには信じ難い話ではあるが、伊桜里は世界を変えるために、少なくとも二度危険を犯していると思うと、どうやら信憑性は高いようだ。
「そして君の父、慎二郎は聖を殺すことを拒んだ。それが極東への裏切りと見做され、彼は処刑された。」
「処刑? 誰に? 」
「俺の父さんを殺したのはドミニクじゃないのか? 」
「君の父親を殺したのは、七宝剣だ。極長の命令で、そして聖を殺すために、君に復讐心を植え付け、君を台与鬼子として大成させた。」
俺は両膝をついて倒れ込む。
「ハハハ……よく出来た作り話だな。ということは、俺はなんのためにドミニクを……」
「グランディルと極東に、再び戦争を起こすためだ。彼は元々君に隠密など求めていなかった。君が好きに暴れてくれて、さぞ気分が良いだろうよ。」
「なんで……なら俺のこれまでの八年間は、復讐は、死んでいったものに対するせめてもの慰めは……」
その後もMは色々な世界の秘密を話してくれていたのだろう。
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