神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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聖の国

極秘任務

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 断頭台から連れ出された俺が、次に連れて行かれたのは極長室だった。
 俺が彼の部屋に入ったのは初めてだ。
 だが執務室にあるのは酒酒酒、壁は酒棚で埋め尽くされており、ディスクワークの横にはボトルサーバーがある。
"仕事場に酒があるなんて。"
 逆に隠し扉でもあるのではないかと疑ってしまう。
「君に新たな任務を___」
「お断りします。」
「なんだ? 僕はまだ何も言っていないじゃないか。それに君は罪人だ、君に拒否権は無い。」
 極長は俺の意思など無視して勝手に話し始めた。
「カタルゴ大陸に送り込んでいた極東の隠密部隊と連絡が取れなくなった。」
「君に状況を見に行って欲しいんだ、というか、もう原因は分かっている。君も薄々気がついているだろ? 」
 見当がついた。
「セイ・ボイドだな。」
「でもよ、それで俺が派遣されれば『グランディル領にスパイを送り込んでいましたよ~』って言ってるもんだろ。大丈夫なのか? 」
(ゴホン)
「だ・か・ら君を派遣するんじゃ無いか。存在するはずのない人間。ファントムだよ。いやぁカッコいいね。」
 俺は存在しない人間、それすなわち、向こうに行けば、なんの援助も得られなくなるということだ。
 最悪、俺は口封じに殺されることとなる。
「お、そんな怖い顔するなよ。安心して、危なくなったら極東に頼っていいからね。なーに兵士の十や二十が死ぬだけだよ。」
「隠密ですか? 」
 すると極長はプププと笑った。
「自分のことをよく分かっているじゃないか。君が戦闘面以外で、なんの役にも立たないポンコツだって事は周知の事実だからね。」
「とりあえず、目立つ行為はしないで、コレは存在しない人間の君にか頼めない事案なんだから。」
 目立つなというのは分かったが……
「そう言いますけど、この角とかどーするんですか? 普通の人間にツノなんて生えてないですよね。」
「それについては僕に任せたたまえ。」
     
     * * *

「例田さん、そこのメジャーとって。」
「はい千代ちゃん。」
「あーやっぱり慎二にリボンは似合わないわね。」
「コラ変幻さん。それじゃ吟遊詩人じゃなくてコメディアンじゃない。」
「えーどっちも同じモノじゃないですか。」
「ダメダメ、こういう強面には似合わない。」
 灰弩が俺に、羽のついたとんがりハットを被せる。
「は~い。コレで角はうまく隠せました~。」
「隠せましたじゃないでしょう!! 」
 俺は思わず上官にキレる。
「なんなんですかコレは。なんの罰ゲームですか? 」
 加賀谷木がキレた。
「ムキー!! なに、その態度!! せっかくこっちが服をコーデしてあげてるのに。」
「ネー。」
「「「ネー」」」
"なにこれ、うっざ。"
 緑のロープに緑のとんがり帽子。
 スナ0キンじゃねえか!!
 腰の凛月は、させられている。
---イェーイ慎二!! 私もおめかししてもらったよ---
 彼女は子供のようにはしゃいでいた。
"まっ、凛月が楽しんでいるなら良いか。"
 そこに黒澄がやって来る。
「ホラ、これ。」
 彼女がぶっきらぼうな口調でネックレスを投げて来る。
「なんだコレは。」
「早くつけろ。そんでうせろ。」
---おい慎二、腹減った。前言ってた牛鍋ってのを俺に食わせろ---
 鬼影だ。
---そりゃええの。なぁ坊、さぁ牛極にいくぞ---
 ゴスロリ姿の銃鬼が出てくる。
 そういえば、セル帝国からグランディル、連行させるまでなにも食ってなかった。途中で携帯用食料は尽きてしまったし、自分がなにも食っていないということを認識した瞬間に腹が鳴る。
「ああ、仕事の前に腹ごしらえだ。」
「「「ダメ」」」
「服に臭いがついちゃうでしょ。」
「割下で汚れちゃう。」
「吟遊詩人が牛鍋の匂いさせてたらバレるでしょ。」
 「ごめんな鬼影、牛鍋は今度にしよう。今はレーションで我慢してくれ。」
---女は敵に回さない方が良いな---

    * * *

 俺は再び極長室へと戻った。
「……いやダメだろ。目立つじゃんこんなカッコ。隠密じゃねえじゃん。」
 極長が俺を宥める。
「まぁまぁ、人を隠すなら人の中って言うでしょ。極東じゃ目立つけど、カタルゴの方なら良いカモフラージュになるって、いやほんと。」
 ほんとかなぁ。
「どーなっても知らねえからな。」
「せいぜい、兵士を殺さなくていいように頑張りたまえ。」
 俺は本題に切り出した。
「今回の隠密は暗殺か? 情報収集か? 」
「ハハハハ、君に神族を暗殺? 無理無理。」
「隠密の安否を確認して欲しい。取り返せないのなら。」
 彼は右手で自分の首をチョンパする。
「俺に同胞を殺せと。」
「いや仕方ないじゃないか、極東の未来のためだよ。」
「死体を含めて全部。」
 そうだ、セイ・ボイドが死体から情報を得る術式を持っていないとは限らない。
「噂によれば、領土のカタルゴを唆して、グランディルに宣戦布告しようとしているみたいだ。あ、そうそう、コレも見てくれ。」
 極長から差し出されていたのは、
「ドミニクッ。死んだはずじゃ。」
「ちゃんと生きてるじゃん。ホントトドメ刺したの? 」
 俺の輪廻界雷は確かに奴の顎へ届いた。
 頸を跳ね飛ばしたのだ。代行者の息子とはいえ、生きていられるはずがない。
「コレが死体もちゃんと回収してねって言った理由。分かった? 」
「分かりました。」
 俺は振り返り、極長室を後にする。
「頼むよ~極東の命運は君にかかってるからさぁ。」



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